心理学とは

みてみて実感! 心理学史 -第2回-

サトウタツヤ
立命館大学文学部心理学科助教授。

今回は心理学の父とも称されるヴントについて,その活躍をみてみます。

再評価されるヴント

『心理学ワールド』26号の渡辺茂先生の原稿を読んでびっくり。ヴントの夢を…という記述がありました。今回はそのヴント(Wundt, W.)を取り上げます。いわゆる近代心理学が成立した年として1879年があげられることが多いのですが,それはヴントがライプツィヒ大学で公式ゼミナールを始めた年でした(従来は心理学実験室設立といわれていましたが,心理学史の研究が進んだ結果,改められています)。

心理学史のマスターナラティブ(支配的な語り)は以下のようなものです。
「フェヒナー(Fechner, G. T.)の精神物理学を前史としてヴントによって近代心理学が成立し,その後に行動主義・精神分析・ゲシュタルト心理学という三大批判潮流があらわれた。第二次世界大戦後になると心理学の中心がアメリカに移ったこともあり,行動主義・精神分析が隆盛を極める。しかし,これらの科学主義を批判した第三の心理学として人間性心理学が登場,また,認知心理学も行動主義の研究対象の狭さを批判して新しい潮流を作っている」。

これはだれが作った物語なのかといえば,ハーバード大学のボーリング(Boring, E. G.)です。ボーリングはその師・ティチナー(Titchener, E. B.)およびその先生にあたるヴントの心理学を重視する心理学史を書き上げたのでした。ボーリングの歴史はそもそも「実験心理学史」というタイトルなので実験重視という特徴があります。しかし,偉人史的であり,また内部史的だという批判を受け始めています。偉人史というのは学問の進展をだれか偉い人の尽力によるものに帰着させる歴史の叙法,内部史というのは,学問の進展を学範(ディシプリン)内部の学説の発展のみに帰着し,社会との関連をあまり重視しない歴史の叙述法です。

さて,ヴントは記念碑にすぎず,乗り越えられてしまった存在なのでしょうか? 近年の心理学史研究はヴントの再評価を進めています。1.ヴントは同時代の人たちとは異なり,心理学の体系化に力を尽くした,また,多くの教え子を育てた。実験心理学だけでなく,産業心理学・個人差心理学など広い範囲の分野に進んだ人も多かった。また,臨床心理学のウィトマー(Witmer, L.)もいる。2.ヴントの意識心理学は意識が要素であることを重視したのではなく,統覚(アパーセプション)というプロセスを重視した。3.意識の実験研究だけなくVolkerpsychologieを構想していた。このVolkerpsychologieはこれまであまり理解されてきませんでしたが,高次の心理プロセスを歴史的・文化的・発生的に検討しようとする壮大なプログラムであることが理解されその結果,文化心理学と訳されることが多くなってきています。

文献

Boring, E. G. 1929 A history of experimental psychology. New York: Century. (2nd. ed. 1950).
渡辺 茂 2004 心の解明に向けての統合的方法論構築―ヴントの見果てぬ夢― 心理学ワールド,26,23.

心理学ワールド第27号掲載
(2004年10月15日刊行)