心理学の歴史

みてみて実感! 心理学史 -第6回-

サトウタツヤ
立命館大学文学部心理学科助教授。

ケーラーのアメリカでの写真,彼の右にいるのは日本人のように見えますが……。どうなんでしょうか?

ゲシュタルト心理学者ケーラーのチンパンジー実験

ゲシュタルト心理学は,ドイツ・ベルリン大学のヴェルトハイマー(Wertheimer,M.)を中心にして20世紀初頭の心理学に新しい動向を切りひらいた心理学です。ヴェルトハイマーは視知覚を中心に説をつくりました。それに対して,仲間の一人であるケーラー(Ko¨hler,W.)は学習心理学の領域を扱い,それまでの学習理論における連合主義的な考えに異を唱えました。ケーラーはアフリカの北西・カナリア諸島(テネリフェ島)の類人猿研究所で類人猿の研究に取り組みました。そして,チンパンジーがそれまで試みたことのない方法で天井から吊り下がった目標物(バナナ)をとることを観察し,洞察の重要性を説きました。試行錯誤による学習ではなく,場所全体を見わたしその場の力を重視する学習理論をつくったのです。この研究は『類人猿の智慧(恵)試験』(Ko¨hler,1921)として出版されました。ではなぜ,ケーラーはそのような島でわざわざチンパンジーの研究をしたのでしょうか。このことについてレイ(Ley, R.,1990)は,ケーラーが第1次世界大戦中の英国艦船の動きを偵察するスパイの役割をしていたのではないかという説を述べています。ただし,文書的証拠などの確証はまだないようです。

なお,第1次世界大戦のドイツにナチスが台頭すると,大学にもユダヤ人追放の波が押し寄せました。ヴェルトハイマーやレヴィン(Lewin,K.)はアメリカに亡命します。ケーラー自身はユダヤ人ではなかったのですが,ベルリン大学の助手を解任されたのを機に1935年にアメリカに亡命しました。新聞記事(図2)はそのときのことを伝えたものです。また,最後の写真(図3)はアメリカでのものです。

文献

Bringmann,W.G., Lu¨ck,H.E., Miller,R., &Early,C.E,(Eds.)(1993).A pictorial history of psychology. Chicago:Quintessence.
Ko¨hler, W.(1921).Intelli-genzpru¨fungen an Menschenaffen. 2nd ed. Berlin : Springer.

(ケーラーW. 宮 孝一(訳)(1962).類人猿の智慧試験 岩波書店)
Ley, R.(1990).A Whisper of Espionage. Garden City N.Y.
高砂美樹(2003).20世紀の3大潮流とその批判 サトウタツヤ・高砂 流れを読む心理学史 有斐閣 第2章

心理学ワールド第31号掲載
(2005年10月15日刊行)