心理学の歴史

みてみて実感! 心理学史 -第7回-

サトウタツヤ
立命館大学文学部心理学科助教授。

前回のケーラーのアメリカでの写真,彼の右にいたのは故小保内虎夫先生と判明しました。金子隆芳先生,松田隆夫先生をはじめとして何人かの方々から情報をいただきました。ありがとうございました。

ウィリアム・シュテルン その業績と法心理学

私が学生だったころ(すでに20年前……),私の中ではシュテルン(Stern,W.)=人格心理学者という連合が成立していました。当時使っていた心理学辞典などを見ても,シュテルンの業績は人格についての理論的研究が主でした。
また,発達における輻輳説,一語文という概念,知能指数(IQ)という指標(計算式)などを提唱した人としても知られていました。ところが,彼にはもう1つ大きな研究領域がありました。それは法心理学の領域です。

シュテルンは1871年生まれ。ベルリンのフリードリヒ・ヴィルヘルム大学でエビングハウス(Ebbinghaus,H.)に師事しました。その後,ブレスラウ大学での研究(1897~)を経てハンブルグ大学教授(1916~)となりますが,ナチス政権との関係で1934年にドイツを離れ,アメリカ・デューク大学教授となり不遇のまま1938年に死去しました。

彼の実験を1つ紹介しましょう。彼は自身の心理学演習時間を利用して上演実験という形で,証言の確かさについて検討しました。授業中に,見知らぬ男(T)が入ってきて教員(シュテルン)に封筒を渡し,5分ほど書架で調べ物をして出て行くという小さな出来事を仕組んだのです(Stern, 1904;図1)。そして,出席していた学生は8日後の授業で,この出来事の報告をするよう求められました。その結果,自主的報告の4分の1,質問への回答の約半数が誤答であるとされました。シュテルンは,とくに人物描写については,その人物について注意を向けて観察したのでなければ,ほとんど信用してはいけないと結論しました。

シュテルンは"Zeitschrift für angewandte Psychologie(証言心理学雑誌)"という学術誌を創刊しましたが,これは心理学史上最初の応用領域の心理学雑誌であると認められています。

文献

サトウタツヤ(2003).心理学と社会 サトウタツヤ・高砂美樹 流れを読む心理学史 有斐閣 第3章
Stern,C.,& Stern,W.(1909).Erinnerung, Aussage und L¨uge in der ersten Kindheit. Lamiell, J. T.(1999)(Translator). Recollection, testimony and lying in early childhood. Washington, D. C.: American Psychological Association.
Stern, W.(1904).Wirklichkeitsversuche, Beitr¨age zur Psychologie der Aussage, 2, 1~31. Translation by U. Neisser. In U. Neisser(Ed.),(1982), Memory observed: Remembering in natural context. U. ナイサー(編) 富田達彦(訳)(1988)『観察された記憶 : 自然文脈での想起(上)』(誠信書房)の第9論文に収録。

心理学ワールド第32号掲載
(2006年1月15日刊行)