心理学の歴史

みてみて実感! 心理学史 -第10回-

サトウタツヤ
立命館大学文学部教授。

最近のデジカメの解像度にはびっくり。拡大すると図2の文章がすべて読めるので,資料価値も十分。ホントに勉強になりました。

オーストラリア 旧メルボルン刑務所の骨相学関連資料

2006年7月,国際行動発達学会(略称:ISSBD)出席のためオーストラリアのメルボルンに行ってきました。さて海外に出かけると,その場所でしか見れないものがあり,それは当然見ておきたいと思うものです。メルボルンには19世紀の監獄が残っており,京都大学の子安増生先生,『心理学ワールド』編集委員でもある山梨大学の尾見康博先生,そのほかのみなさんと監獄見学に行くことになりました。日本では滅多にない組み合わせでエクスカーション(視察)に出かけるのも海外学会の醍醐味といえるでしょう。

なぜ監獄が心理学史と関係するのでしょうか。それは,当時の監獄が犯罪人研究の実践の場でもあったからです。この刑務所では当時の所長が骨相学的興味をもち,処刑後の犯罪者のデスマスクを保存し研究していたのです(図1)。

今回訪れた旧メルボルン刑務所(Old Melbourne Gaol)ができた1864年は日本で考えると明治維新前夜。心理学史で考えるとフェヒナー(Fechner, G. T.)の『精神物理学要綱』(1860)が発行された直後であり,実験心理学成立前夜というころでした。前回紹介したカント(Kant, I.)のいうところの科学的心理学を成立させる努力がなされていたころです。フェヒナーの努力とはまったく異なる対象と方法で心の問題を客観的に扱おうとしていたのが骨相学でした。骨相学は18世紀末ごろにガル(Gall, F. J.)によって体系化されました。その基本的仮説は,人間の性質は頭蓋の形や隆起にあらわれるというものでした。犯罪者のデスマスクを集めたのは,犯罪者に特有な頭蓋の形や隆起がありはしないかと考えていたからです。

図2は骨相学の祖ガルの弟子にして共同研究者にあたるシュプルツハイム(Spurzheim, J. C.)の学説を図示したものです。頭蓋を7つの領域に区切り,それぞれ「Perceptives;Refrectives;Self Perfecting;Moral;Aspiring;Animal;Domestic」を司るとしていました。それぞれの領域はさらに細分化されており全部で35の部分があるとされていました。

骨相学の仮説はその後の研究によって否定されてしまいましたが,人間の性質を客観的指標によってとらえようとする姿勢はまさに実証的心理学に向かう1つの道筋を示していたといえるでしょう。

なお,この旧メルボルン刑務所はNPOであるオーストラリア・ナショナル・トラストによって保存・運営されています。日本心理学会も80周年を迎え,100周年へのカウントダウンが始まります。史資料保存の取り組みが加速されることを願いたいものです。

心理学ワールド第35号掲載
(2006年10月15日刊行)