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心理学ってなんだろう

女性は失恋しても立ち直りが早いのはなぜ?

失恋はとてもつらい出来事です。できることなら早く立ち直って,普段通りの生活を送ったり,新しい友だちを作ったりしたいものです。よく女性のほうが,失恋しても立ち直るのが早いといわれますが,失恋に対する反応は男性と女性とでは異なるのでしょうか。



A.栗林克匡

失恋後の諸反応について調べた研究を松井(1993)は紹介しています。それによれば,失恋後に経験した反応として,「何かにつけて相手のことを思い出すことがあった」「悲しかった」「相手をなかなか忘れられなかった」「その人とは,友だちでいようと思った」「相手との出会いを避けようとした」などが上位を占めています。これらの反応のうち,男性が女性よりも経験しやすい反応は「相手をなかなか忘れられなかった」「強く反省した」「別れたことを悔やんだ」「酒をよく飲むようになった」で,逆に女性のほうが男性よりも経験しやすい反応は「相手に幻滅した」「よくデートした場所を避けた」「相手がいなくなってうれしかった」でした。男性は未練がましく後悔をしやすいこと,そして女性は関係の解消を肯定的にとらえていることがうかがえる結果となっています。この研究では,別れの主導者(自分から,相手から,両方など)についても調べています。すると,女性の約4割が自分から別れを切り出したという回答が得られており,これは男性の約2割に比べるとかなり多いことがわかります。これらのことから,恋愛関係の解消についての主導権は女性がもちやすく,そのことに関連して失恋後の反応も男性に比べると,関係を整理して清々したと思いやすいことが考えられます。


また失恋のようなネガティブなイベントを経験するとストレスがかかります。ストレスへの対処には,感情に焦点を当てる対処と問題そのものに焦点を当てる対処があります。その両方に関わる具体的対処の1つに自己開示を挙げることができます。自己開示とは,特定の他者に自分自身の情報を言語的に伝達する行為をさします。失恋に関していえば,失恋の事実関係について話したり,そのことに伴う自分の気持ちを打ち明けたりといったことです。自己開示にはストレス緩和に関係する感情浄化という機能があります。ペネベーカー(Pennebaker, J. W., 1997)によると,自分の過去のつらい経験を他者に打ち明けた人のほうが打ち明けない人よりも健康で良好な適応が促進されるようです。また自己開示すると,それを聞いた相手から感想や助言を得る機会が増します。この自己開示の性差については,一般的に女性のほうが男性よりもよく行われることがわかっています。女性はつらい失恋のストレスに関連する話題を誰かに打ち明けることで,自らのネガティブな感情を浄化し,かつ失恋がもたらす諸問題を解決するためのアドバイスを開示相手から得る機会をもちやすいといえるでしょう。



文献

松井 豊(1993). 恋ごころの科学 サイエンス社
Pennebaker, J. W.(1997). Opening up:The healing power of expressing emotions. New York:Guilford Press.
(ペネベーカー, J. W. 余語真夫(監訳)(2000). オープニングアップ─秘密の告白と心身の健康─ 北大路書房)


くりばやし よしまさ
北星学園大学社会福祉学部准教授。
専門は,社会心理学。
主な著書は,『対人関係の社会心理学』(分担執筆,福村出版)『社会心理学─臨床心理学との接点─』(分担執筆,八千代出版)など。


心理学ワールド第40号掲載
(2008年1月15日刊行)