心理学 Q & A

心理学ふしぎふしぎ

Q5.迷信はどうしてできるのですか?

迷信はどうやって生まれるのですか? 科学が発展すると迷信はなくなりますか? また,迷信をなくす方法はありますか?

A.小野浩一

「迷信」を辞書で調べると「道理に合わない言い伝えなどをかたくなに信じること」と書いてあります。「黒猫が前を横切ると悪いことが起こる」「ウサギの尻尾を身につけていると幸運が舞い込む」など,多くの場合迷信は「~すると悪いことが起こる」「~すると良いことが起こる」のように人間の行動とその結果との関係を表しています。これらのうち客観的にみてその関係の根拠が希薄な場合に迷信と呼ばれます。

迷信のうちのあるものは個人や集団の偶然的な経験からスタートすることがあります。最初に何かをしたらうまくいった,あるいは災厄を避けることができたということがきっかけとなるのです。たとえば,空腹のハトを実験箱に入れて,その行動にかかわりなく15秒ごとに餌を出すようにすると,餌が出る直前に頭を上げたり,実験箱の中をひと回りするといった特異な行動があらわれます。1948年にこの現象を観察したスキナー(Skinner, B. F.)はハトはあたかも「その行動が餌出現の原因である」かのように振る舞ったとして,これは人間の迷信と同じメカニズムで形成されたものだと考えました。つまり,迷信的な行動はオペラント条件づけによって形成されうるということです。

オペラント条件づけの原理は,行動に好ましい結果が伴うときその行動は増加し,嫌悪的な結果が伴うときは減少するというものです。実験では普通,キーつつきやレバー押しなどの特定の行動に「好ましいもの(たとえば餌)」を提示あるいは除去するという形で行動の変化を調べますが,スキナーの実験例のように,実験者が予定していない行動にたまたま良い結果が提示された場合でも,その行動は増加してしまいます。迷信的な行動はこのように,オペラント条件づけの原理によって発生するので,科学が発展してもなかなか消滅しません。

人間はさまざまな形で迷信的な行動を示すことが実験によって明らかになっています。たとえば,4つのボタンのうち左から3番目のボタンを押すことによってのみコインが得られるような場面では,多くの人はほかのボタンを何度も押してから最後に3番目のボタンを押します(コンカレント迷信)。そのとき,コインの提示とは関係なくたまたま近くでランプが点滅していると,ランプが点いているときだけボタンを押したりします(感覚的迷信)。そのほか,行動と行動との間に間隔を空けなければならないような状況では,その間に特有の儀式的行動があらわれることがあります。人間ではありませんが,筆者の実験室の1羽のハトは翼を広げて実験箱内をひと回りしてからキーをつつくという行動(スケジュール誘発性迷信行動:写真参照)を発達させました。

迷信行動を消失させるには,行動しないでみる,ほかの行動をしてみるのように行動に変化をもたせることが重要なのですが,ただそれが結構難しいのです。たとえば,毎朝自分が「東の空に向かって礼拝しているから夜が明ける」と信じている人に,「一日やめてみたらどうですか」と勧めても,「世界人類のためにそれはできない」と断られるでしょう。

おの こういち
駒澤大学文学部教授。
専門は,実験的行動分析学。
主な著書は,『ことばと行動』(共著,ブレーン出版)など。

心理学ワールド第28号掲載
(2005年1月15日刊行)