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表彰

国際賞受賞者

令和6年(第19回国際賞授賞者)

選考経過

国際賞選考委員会は,第1回選考委員会(メール会議)において,本年度もこれまでと同様に推薦を受け付けることを決定し,2023年11月中旬に学会ホームページで公募を開始した。その結果,2024年1月9日の締切までに特別賞1件,奨励賞14件(他薦12件,自薦2件)の応募があった。2月19日に第2回選考委員会を開催し,「国際賞選考規則」および「国際賞審査手続きに関する申し合わせ」に基づき審査を開始した。第3回選考委員会は4月19日であった。特別賞の申請内容を精査した結果,亀田 達也氏が優れた国際的な研究業績により特別賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。奨励賞については,選考規則において「国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者」に授与することが定められている。今回は,各委員が分担して,候補者の論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容評価等に基づき「総合評価」を行い,その上で,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に合議した結果,藤原 健氏,羽倉 信宏氏,橋本 博文氏,小林 恵氏,山本 哲也氏を受賞者とすることが決定した。


特別賞 亀田 達也 明治学院大学教授
授賞理由:亀田 達也氏は,社会心理学の伝統的な研究テーマを適応論的視点から再検討し,生理指標計測に計算論的モデリングによる解析を組み合わせるなど,従来の社会心理学研究の流れをさらに発展させるパイオニア的役割を果たしてきた。Nature Reviews Psychology 創刊号にレビュー論文の寄稿を求められるなど,亀田氏の研究は国際的に高く認知され評価されている。Psychological Review 誌など7つの国際学術誌の編集委員を務めた経験を持ち,University of Colorado,Northwestern University,Max Planck Institute,Stanford Universityといった海外の研究拠点に滞在し国際的研究ネットワークを構築している。教育者としても多くの優れた研究者を育成し,亀田氏の研究室の出身者は国内外で広く活躍している。こうした国際的な活躍は国際賞特別賞を授与するにふさわしいものと評価された。


奨励賞 藤原 健 國立中正大學 業績リスト 業績紹介
授賞理由:藤原 健氏は,社会心理学の対人コミュニケーションの研究分野において非言語行動に焦点を当て,話者間の動作の同期が初対面における対人関係の形成に重要な役割を果たすことを明らかにしている。特に,非言語同期の研究手法を開発し,それをヒト―アバター間の相互作用の解析に応用するなど,独創的な研究を推進してきた。さらに,複数の海外研究機関に滞在し共同研究を行い,その成果を国際誌に筆頭著者として発表するなど,国際的な研究活動を展開している。藤原氏の業績は,台湾の大学への就職,国内外の複数の研究賞の受賞,台湾政府からの研究助成金の獲得,および Journal of Nonverbal Behavior の Associate Editor を務めるなど多岐に渡り,その国際的な貢献が高く評価されている。これらの研究業績と国際的な活動は,海外を目指す次世代の研究者に対しても大きな影響を与えると評価され,国際賞奨励賞の受賞にふさわしいと判断された。
羽倉 信宏 情報通信研究機構脳情報通信融合研究センター 業績リスト 業績紹介
授賞理由:羽倉 信宏氏は身体運動と知覚の分野で,不確実性が運動学習に与える影響や,運動と知覚の相互作用を明らかにしてきた。これまでに,この研究分野で国際的に広く認知されるインパクトの高い研究業績を積み重ね,研究を発展,深化させてきた。取り組んでいる研究テーマに関して世界の中で学ぶべきキーパーソンと連携して共著論文を出版し,メデイアにも取り上げられ,大きな反響を引き起こしてきた。また,海外の研究所の招待講演や国内外学会における活動を通して,国際的に活躍してきた。以上の業績と国際的な活躍は,日本心理学会国際賞奨励賞にふさわしい。
橋本 博文 大阪公立大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:橋本 博文氏は,適応論的視点から,心の文化差や人間の利他性に関する研究に取り組んできている。特に,東アジアにおける相互協調性の様相を再検討し,相互協調性には,調和の追求に加えて排除の回避という2つの側面があることを示した研究や,心の文化差を,個々人の選好の反映ではなく,他者からの評価予測に基づいた適応戦略として捉えることの有用性を示した研究など,影響力もあり,独創的な研究を行ってきている。これらの研究への国際的な評価は高く,数多く引用されているのに加え,相互協調性の2側面を示した論文はアジア社会心理学会から三隅賞を受賞した。また橋本氏は,Scientific Reports の編集委員に加え,Asian Journal of Social Psychology の Associate Editor を務めるなど,心理学の発展のために国際的な貢献してきている。こうした国際的な活躍から,国際賞奨励賞の受賞にふさわしいと判断した。
小林 恵 新潟大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由: 小林 恵氏は,これまで主として,近赤外分光法を用いた乳幼児の顔認知発達に関連する研究を行ってきた。代表的業績として,成人において確立されていた神経順応パラダイムを乳児に応用し,同一顔刺激の反復提示による脳血流反応の減衰を世界で初めて報告した研究がある。小林氏はこの手法を発展させ,顔領域における人物情報処理の発達過程を明らかにした。さらに,顔経験の偏りに起因する知覚狭小化の通文化性とその神経基盤を明らかにした研究はDevelopmental Science誌に掲載され,表紙に選出されている。また,アメリカ・テキサス大学との研究では,乳児の動的な顔と身体の脳内処理とその発達変化を明らかにし,NeuroImage 誌に掲載された。近年は,注意欠如・多動症や神経性やせ症などの研究にも参画している。このように国際共同研究を進めながら,着実に業績を積み重ねてきた功績は,日本心理学会国際賞奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した。
山本 哲也 徳島大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由: 山本 哲也氏は,臨床心理学的問題意識に立脚して,脳機能イメージング計測手法,自然言語処理等の情報学的手法,大規模オンライン質問紙調査などの多彩な方法を用い,人々の心理的適応やメンタルヘルスに関する論文を精力的に発表してきた。なかでもCOVID-19 禍におけるメンタルヘルスに関する研究では,タイムリーに国際研究グループを組織して11本の論文を国際学術雑誌に発表した。そのうち山本氏が筆頭著者の論文は,我が国のCOVID-19 禍の基礎的データと位置づけられている。また,山本氏はそれ以外にも心の適応やメンタルヘルスに関する種々の研究テーマで,米国,ドイツ,イタリア,メキシコなど様々な海外の研究機関と協働して多くの研究成果をあげ,国際会議における招待講演もおこなっている。以上の研究業績と国際的ネットワーク構築の実績は,国際賞奨励賞にふさわしい。

 

令和5年(第18回国際賞授賞者)

選考経過

国際賞選考委員会は,第1回選考委員会(メール会議)において,本年度もこれまでと同様に推薦を受け付けることを決定し,2022年11月中旬に学会ホームページで公募を開始した。その結果,2023年1月10日の締切までに特別賞1件,奨励賞9件(他薦7件,自薦2件)の応募があった。2月13日に第2回選考委員会を開催し,国際賞選考委員会から推薦された2件(いずれも功労賞)を加えて,「国際賞選考規則」および「国際賞審査手続きに関する申し合わせ」に基づき審査を開始した。第3回選考委員会は4月17日であった。特別賞および功労賞の申請内容を精査した結果,西田 眞也氏が優れた国際的な研究業績により特別賞に,また,坂田 省吾氏,松見 淳子氏が日本の心理学の国際化への貢献から功労賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。奨励賞については,選考規則において「国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者」に授与することが定められている。今回は,各委員が分担して,候補者の論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容評価等に基づき「総合評価」を行い,その上で,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に合議した結果,畑野 快氏,柳澤 邦昭氏を受賞者とすることが決定した。


特別賞 西田 眞也 京都大学教授
授賞理由:西田 眞也氏は,知覚心理学において国際的に特段に優れた業績をあげ,同分野に多大な貢献をしてきた。同氏はこれまでに100編以上の論文を発表し,論文の総引用数は7,000件を超える。論文で発表された成果は運動視のメカニズム,視覚のサブモダリティ間の交互作用,複数の感覚モダリティ間の交互作用など多岐にわたる。例えば,1999年には運動残効を用いて空間パターンの位置の表象が動きによって更新されうること,2007年には画像の輝度ヒストグラムの偏りを用いて表面の光沢のような質感を知覚しうることをそれぞれNatureに発表している。2017年にはEuropean Conference on Visual Perception においてRank Prize Lecturer として講演をしている。またVision Science SocietyにおいてDirectorとして活躍しており, 国際的な科学雑誌であるJournal of Vision, Vision Research, Multisensory Researchにおいて編集委員を務めた経験をもつ。こうした国際的な活躍は国際賞特別賞を授与するにふさわしいものと評価された。

功労賞 松見 淳子 関西学院大学名誉教授
授賞理由:松見 淳子氏は,米国のホフストラ大学で長く教鞭を執られた後,2000年からは関西学院大学に活動拠点を移し,文化とメンタルヘルス,および精神病理学における比較文化研究において数々の業績を残すと同時に,米国と日本で多くの臨床家と研究者を育成されてきた。その間,世界行動療法認知療法会議(World Congress of Cognitive and Behavioral Therapies: WCCBT)では,世界会議アジア代表として長年国際交流に尽力されるとともに,2004年に神戸大会において運営委員とプログラム委員を兼任された。さらに,WCCBTにおいては,2007年と2010年大会でもプログラム委員を務められ,日本と世界の架け橋となる活躍をされた。さらに,国際比較文化心理学会(International Association for Cross-Cultural Psychology: IACCP)でも学会執行部委員として東アジア地域代表を務められた。その他にも,Journal of Cross-Cultural PsychologyのAssociate Editorを24年務められたのをはじめとして,数多くの国際誌のAssociate EditorやConsulting Editorを歴任された。以上のように,日本とアジアの顔として長年活躍された松見氏の功績は,国際賞功労賞の授与にまさに相応しいものである。

功労賞 坂田 省吾 広島大学特任教授
授賞理由: 坂田 省吾氏は,生理心理学,学習心理学,比較心理学を基盤として,時間を測定している脳内機構の解明に長年にわたって取り組んできた。その国際的な研究業績の発出や国際組織での活躍により,日本のプレゼンス向上に大きく貢献してこられた.加えて,坂田氏は日本心理学会,日本生理心理学会,日本動物心理学会,日本行動科学学会などの国内学会において編集委員,理事や理事長等様々な役職を務められ心理学分野全体の発展に尽力された。また,国際比較心理学会(International Society for Comparative Psychology)の2010年大会(アジアで初めて開催された当該学会の大会であった)を石田 雅人大会委員長とともに大会副委員長として運営すると, 2010年から2016年に至るまで,Elect-President-Post Presidentとしてそれぞれ2年間計6年間,同学会をけん引された。これら坂田氏の国際的な研究業績,国内外の学会におけるリーダーシップは,本学会の国際賞功労賞にふさわしい。


奨励賞 畑野 快 大阪公立大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:畑野 快氏は,青年期後期・成人期初期におけるアイデンティティの発達と心理的健康との相互関連メカニズムの解明をメインテーマに国際学術誌と著書を発表している。畑野氏の研究のユニークな点は,長期的縦断データや日記を使用した経験サンプリングデータを使用し,青年期後期と成人期初期のアイデンティティの変化を多角的に分析していることにある。これらの研究では,18歳以降に日本の若者のアイデンティティと精神的健康に関する問題が顕著になる可能性を示唆しており,これまで明らかにされてこなかったアイデンティティ発達の多様性と青年期後期以降の精神的健康のリスクを解明している。これらの知見の重要性は,畑野氏の論文が多数引用されていることからも明らかである。また畑野氏は,国際誌の論文の査読も多く経験しており,国際的な研究活動も積極的に行って成果を出していることが高く評価される。以上の業績と国際的なプレゼンスは,国際賞奨励賞の受賞にふさわしいと判断した。
柳澤 邦昭 神戸大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:柳澤 邦昭氏は,fMRIやNIRSなどの神経科学的手法を取り入れ,社会的孤立や死の脅威に対する反応の個人差と,その神経基盤を明らかにしてきた。例えば,死に関連する言葉を提示された際の脳活動が自尊心の高低によって違うことから,自尊心が死の脅威の抑制に関わることを示唆した研究や,社会的に孤立した際の脳活動が,幼少期の社会経済的地位によって異なることを示した研究など,理論的にも,社会的にも意義の大きく,独創的な研究を行っている。柳澤氏の研究への国際的な評価は高く,実験心理学,社会神経科学,実験社会心理学の各分野を代表する主要な国際誌に筆頭著者として論文を発表している。また,海外研究助成機関のグラント審査や,Biological PsychologyのConsulting Editorを務めるなど,心理学の発展に貢献するための国際的な活動にも幅広く従事している。柳澤氏は社会神経科学の将来を担っていく研究者であり,国際賞奨励賞にふさわしい。

 

令和4年(第17回国際賞授賞者)

選考経過

国際賞選考委員会は,第1 回選考委員会(メール会議)において,本年度もこれまでと同様に推薦を受け付けることを決定し,2021年11月中旬に学会ホームページで公募を開始した。その結果,2022年1月11日の締切までに奨励賞に9 件(他薦5件,自薦4件)の応募があった。2月8日に第2回選考委員会を開催し,国際賞選考委員会から推薦された3件(いずれも功労賞)を加えて,「国際賞選考規則」および「国際賞審査手続きに関する申し合わせ」に基づき審査を開始した。第3 回選考委員会は4月3日であった。国際賞選考委員会から新たに推薦された1件(特別賞)を加え,特別賞および功労賞の申請内容を精査した結果,大嶋(高根)百合子氏が優れた国際的な研究業績により特別賞に,また,三浦 佳世氏,積山 薫氏,渡邊 正孝氏が日本の心理学の国際化への貢献から功労賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。奨励賞については,選考規則において「国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者」に授与することが定められている。今回は,各委員が分担して,候補者の論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容評価等に基づき「総合評価」を行い,その上で,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に合議した結果,日髙 聡太氏,本間 元康氏,荻原 祐二氏,末木 新氏,温 文氏を受賞者とすることが決定した。


特別賞 大嶋(高根)百合子 McGill大学名誉教授
授賞理由:大嶋(高根)百合子氏はカナダのMcGill大学で長く教鞭をとられ,現在はMcGill大学名誉教授として,また,Victoria大学でも研究を続けておられる。初期の言語発達のメカニズムや社会的相互作用などの環境要因の解明に向けて研究を進めてこられ,研究テーマは,人称代名詞,多義語,名詞から派生した語,動詞から派生した語等の多様な語彙の獲得や,言語に伴うジェスチャー,意味表象に係るモデリングやネットワーク分析など,多岐にわたる。大人が子どもに向けて行う働きかけだけでなく,別の子どもに向けて行う働きかけ,すなわち「また聞き(overheard speech)」が人称代名詞の獲得に果たす役割に注目された極めて独自性の高い研究や,バイリンガルを対象とした言語間比較など,多くの研究を積み重ねてこられた。発達途上にある子どもの,そして周囲の人たちの発話やインタラクションといった,ノイズも多い大量の資料を丁寧に分析され,言語発達のメカニズムの解明や言語的入力,社会的相互作用の影響について光を当ててこられたこと,その過程でインターナショナルに,多くの学生,院生を育成されてきたことは心理学,とくに言語発達の領域における国際的な発展に大きく貢献するものである。

功労賞 三浦 佳世 九州大学名誉教授
授賞理由:三浦 佳世氏は,知覚心理学・認知心理学を基盤として,「感性」の認知メカニズム解明に長年にわたって取り組み,感性表現や芸術に関する心理学の新たな研究領域を切り開いてきた。とりわけ,自身の研究の推進にとどまらず,さまざまな国際シンポジウムやワークショップの企画,学術雑誌での特集号企画などを通じて,当該研究領域の可能性を日本から海外に向けて広く発信してこられた。その例として,2006─2010年の3度にわたるInternational Workshop on Kanseiの主催,2016 年に横浜で開催された国際心理学会での招待シンポジウム企画,Japanese Psychological Research における特集号(“Kansei as mental activity: Comprehensive perception, intuitive judgment and the basis of creativity”)の企画・編集などを挙げることができる。また,2009─2011年には日本心理学会国際委員会委員長を務められ,韓国心理学会および中国心理学会と交流協定を締結したことに加え,日本心理学会と韓国心理学会のそれぞれにおいて,両学会の合同シンポジウムの企画・開催に尽力された。このように,三浦氏の国際的な功績は顕著であり,国際賞功労賞を授与するにふさわしい。

功労賞 積山 薫 京都大学
授賞理由: 積山 薫氏は,国際的な研究業績の発出や国際組織での活躍により,世界の心理学分野においての日本のプレゼンス向上に大きく貢献してこられた。まず,初期の研究テーマでは,身体イメージや視聴覚音声知覚に関わる研究成果を多く国際誌に発表し,逆さメガネへの適応過程を定量的に示した研究はNature に掲載された。マガーク効果の言語文化的差異はCOVID-19流行下におけるマスク着用頻度の根拠として注目され国内外のメディアに取り上げられた。また,視聴覚音声処理会議(Auditory-Visual Speech Processing: AVSP)において1998年より理事等の役職を務められ,2010年には大会長として箱根で大会を開催された。さらに,ICP2016においては,総務委員やアブストラクト審査委員を務められ,招待講演を行うとともに,招待シンポジウムを企画した。これら積山氏の国際的な研究業績,国際組織や国際会議における活動,そしてそれらが国内外の心理学分野に与えてきた影響は,まさに本学会の国際賞功労賞にふさわしい。

功労賞 渡邊 正孝 (公財)東京都医学総合研究所客員研究員
授賞理由: 渡邊 正孝氏は,霊長類における前頭連合野の役割に関する研究で国際的にこの分野を牽引し,Nature, Neuron, Journal of Neuroscience, Cerebral Cortex など多数の国際誌へ研究を発表されてきた。世界中の前頭連合野の研究者が一堂に会し,10年ごとに開催されたRotman Research Institute Conference, The Frontal Lobes に招待されたほか,北米,ヨーロッパの大学,研究機関,および学会において招待講演を数多く行ってきた。研究の発展のみならず,日本の心理学会の国際化にも寄与されてきた。横浜で開催されたInternational Conference of Psychology(ICP)2016では,組織委員会事務局長として日本での会議開催に向けて尽力され,大会の成功に大きく貢献された。さらに日本動物心理学会の理事長時代には,ICP2016に向けた取り組 みの一環として英語で学会発表を行うよう働きかけ,実現した。現在もなお英語発表は継続しており,同学会の国際化に大きく寄与されてきた。加えて,国際学術誌では,Behavioral Brain Research やFrontiers in Neuroscience のEditorial Board member として携わってこられた。以上のように,渡邊氏の多方面にわたる国際的功績は,国際賞功労賞の受賞に相応しい。

奨励賞 日髙 聡太 立教大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:日髙 聡太氏は,各感覚様相に属する情報の処理様式,それらの相互作用について広く研究を展開してきた。心理物理学的手法を軸にすえつつ,各テーマにあわせ丁寧に実験場面を設定し実験をおこなっているのが印象的である。その業績も2008 年に最初の論文を発表して以降計44報(第一著者としては24報)におよび,日髙氏の高い生産性は評価に値する。また,2009年刊行の論文を筆頭に(65回の被引用),比較的コンスタントに引用されており,それぞれのトピックにおいて後続の研究にインパクトを与えていることが読み取れる。今後,感覚間相互作用の現象理解から感覚刺激処理機序の統合的な理解へと発展することがのぞまれる。日髙氏は当該研究領域をけん引する若手研究者として,より一層の活躍が期待できる。
本間 元康 昭和大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:本間 元康氏は,認知心理学の背景を生かして医学研究に従事し,パーキンソン病の時間知覚,多感覚統合,自己身体知覚ほか,多岐にわたるテーマの研究に取り組んでいる。英語論文を47本(うち筆頭18本)発表しており,国際的に評価の高い雑誌に論文を掲載している。とても緻密に研究計画が立てられており,例えば,パーキンソン病の時間認知トレーニングの効果について検討した研究では,統制群と比較検討されているほか,前提条件となるパーキンソン病の時間認知障害をしっかり確認していること,訓練の順序効果も統制しトレーニング課題以外の課題への効果(転移)もしっかり検討していることなど,堅実な手法で進めている。Frontiers in Aging Neuroscience のReviewEditor を務める等の活動もしており,今後のさらなる国際的な活躍が期待される。総合的に見た国際的な業績や活動は,本学会の国際賞奨励賞にふさわしい。
荻原 祐二 東京理科大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:荻原 祐二氏は文化心理学領域で活躍し,国際誌に数多くの論文を発表されている。特に,文化の変容という点に着目し,日本文化が個人主義化していく過程と心理的影響等について,鋭い視点から研究を行ってこられた。キャリアの早い段階から数多くの受賞歴があり,申請時までに総じて8つの賞を国際学会・国際誌から授与されている。日本から世界に向けて積極的に発信し,国際的にインパクトのある貢献をすることを強く意識され,国内外のプロジェクト活動に積極的に参加されてきた。これからの日本の心理学界の国際化に向けた若きリーダーとして,今後の活躍がますます期待される。こうした荻原氏の業績および研究姿勢は,日本の心理学の国際化をより一層促進させるという国際賞の趣旨とまさに合致したものであり,奨励賞の受賞にふさわしい。
末木 新 和光大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由: 末木 新氏は,自殺の危険因子の特定と自殺予防に関わる研究に一貫して取り組んでいる。英語論文・著書を24本(うち筆頭20 本)発表しており,論文の総引用数も645回(審査時点,Google Scholar 調べ)であり,末木氏が第一著者の論文では,2015年にJournalof Affective Disorders に掲載された論文の被引用回数がすでに115回にのぼる。WHO の国際会議でも研究が取り上げられるなど,国際的なプレゼンスも十分といえる。また,研究と自殺予防の実践活動をシームレスにつなげており,社会貢献という点も高く評価できる。コロナ禍において,日本では減少傾向にあった自殺率が上昇に転じており,自殺の予防介入に関わる実践的かつ科学的な論文の発表は大変重要である。国内だけでなく国際的にも大変重要な分野における研究を続けており,今後の更なる国際的な活躍が期待できる。本学会国際賞奨励賞にふさわしい研究者である。
温 文 東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター 業績リスト 業績紹介
授賞理由: 温 文氏はsense of agency およびsense of control をテーマに心理学実験と脳機能イメージング法を組み合わせて研究している。2008年に修士号を取得してから33 編の論文を国際科学誌に発表しており,筆頭著者としての論文数は26編に及ぶ。H-index や論文掲載誌のインパクトファクターも過去の受賞者に比べて遜色ない(H-index = 12,Scopus 調べ)。自分の動作中に生じる刺激処理が抑制されるのではなく促進されうることや,新奇で曖昧な環境における運動主体感を感じるモデルを提唱するなど,sense of control が知覚に与える影響やその機 序を明らかにしつつある。これまでの成果に基づいた総説をNature Reviews Psychology に出版しており,今後のさらなる活躍が期待できる。以上により,温氏の研究業績は国際賞奨励賞の受賞にふさわしいと判断し た。

 

令和3年(第16回国際賞授賞者)

選考経過

国際賞選考委員会は,第1回選考委員会(メール会議)において,本年度もこれまでと同様に推薦を受け付けることを決定し,2020年11月中旬に学会ホームページで公募を開始した。その結果,2021年1月12日の締切までに奨励賞に9件(他薦5件,自薦4件)の応募があった。2月10日に第2回選考委員会を開催し,国際賞選考委員会から推薦された4件(特別賞1件,功労賞件3件)を加えて,「国際賞選考規則」および「国際賞審査手続きに関する申し合わせ」に基づき審査を開始した。第3回選考委員会は4月1日であった。特別賞および功労賞の申請内容を精査した結果,安藤 清志氏,子安 増生氏,野口 京子氏が日本の心理学の国際化への貢献から功労賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。奨励賞については,選考規則において「国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者」に授与することが定められている。今回は,各委員が分担して,候補者の論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容評価等に基づき「総合評価」を行い,その上で,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に合議した結果,有賀 敦紀氏,新谷 優氏,奥村 優子氏,大塚 由美子氏を受賞者とすることが決定した。なお,特別賞については,候補者逝去のため,本年度は受賞者なしとした。


功労賞 安藤 清志 元東洋大学教授
授賞理由:安藤 清志氏は,社会心理学を専門分野とされ,対人関係の中の自己表現・説得の過程・喪失の心理等のトピックを中心とした研究に精力的に取り組んでこられた。さらに,その深い知識と幅広い人脈を生かして,日本の心理学界の国際化を力強く推進された。日本心理学会に関連する顕著な国際的貢献としては,International Congress of Psychology(ICP)2016Yokohama の運営に常務理事として貢献されたこと,また国際委員会の活動として「留学生ネットワーク」を設立し,その発展のために尽くしたことが挙げられる。さらに,東洋大学21 世紀ヒューマン・インタラクション・リサーチ・センター(HIRC21)を設立し,韓国の2 大学と協定を締結するなど,海外との研究交流に熱意を注がれた。加えて,社会行動研究会を主宰し,活動の一環としてチャルディーニ氏の名著「影響力の武器─なぜ,人は動かされるのか─」(原題:Influence: Science and Practice)を翻訳して出版した。これにより,海外の優れた研究成果を国内の研究者に知らしめるのみならず,一般にも広く認知されるに至った。こうした多方面にわたる功績は,国際賞功労賞の授与にまさに相応しいものである。

功労賞 子安 増生 京都大学 名誉教授
授賞理由:子安 増生氏は,国内の心理学の国際化を促進させることに加え,世界において日本の心理学のプレゼンスを向上させてきた。具体的には,子安氏は,文部科学省グローバルCOE プログラムのプロジェクトリーダーを務め,国外の複数の大学との間に国際ネットワークを確立し,共同での企画や教育研究事業を実施した。さらに,この事業を英国心理学会発達部門と日本発達心理学会の交流事業として発展させ,キーノートスピーカーをお互いに派遣する事業が定着した。また,国際学術誌Psychologia 誌に長年携わり,国際的な地位を確立した。子安氏は,Psychologia の編集長を6年間務め,インパクトファクターのある英文雑誌としてそれに相応しい査読体制を整え,外国からの多くの投稿を得るなど同学術誌の国際的なプレゼンスの向上に大きな寄与をしてきた。以上のように,子安氏の多大な国際的貢献は本学会国際賞功労賞にふさわしい。

功労賞 野口 京子 文化学園大学 名誉教授
授賞理由:野口 京子氏は,日本及び世界の健康心理学分野における研究教育の発展と国際化を牽引してきたことに加え,世界の心理学分野における日本のプレゼンス向上に大きく貢献してきた。まず,野口氏は,英語で書かれた書籍を多く日本語に翻訳して発出することで,世界と日本をつなぎ,多くの知見の導入と発展に貢献してきた。さらに,Asian Society of Health Psychology(アジア健康心理学会)事務局長及び会長,InternationalSociety for Health Psychology and Research(国際健康心理学会)副会長及び理事,InternationalAssociation of Applied Psychology(国際応用心理学会議)理事,ICP2016(国際心理学会議)会場委員長と,国際学会において重要な役割を務めてきた。日本の心理学を世界に開き,世界における日本の心理学のプレゼンスの向上に大きく貢献したのみならず,専門領域に加えて心理学領域全般で国際的に活躍し,日本と世界の心理学を牽引される姿は,多くの国内外の心理学者を勇気づけ励まし,そして,日本が世界に開かれていることを示した。これらの野口氏の日本と世界における国際的な活動と業績,そして,それが日本の心理学分野に与えてきた多大なる影響は,本学会の国際賞功労賞にふさわしい。

奨励賞 有賀 敦紀 広島大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:有賀 敦紀氏は,視覚的注意に関する領域において精力的に研究を進めてきた。特に,人間の認知過程における時間特性の解明に関する有賀氏の貢献は大きい。その一例として,ヴィジランスの低下を説明する「馴化モデル」の提案が挙げられる。このモデルは,半世紀以上もの長きにわたり主流であると考えられてきた「資源モデル」に代わるものとして提案されたものであるが,今日では主要なモデルの1 つと考えられており,当該研究領域で大きな影響力を持っている。また,最近では,視覚的注意の領域にとどまらず,消費者行動の背景にある認知過程に関する研究も展開してきており,有賀氏の守備範囲の広さがうかがえる。これらの研究は,比較的最近開始されたテーマであるにもかかわらず,既に国際的な評価も高く,今後さらなる発展が期待される。以上より,有賀氏は本学会国際賞奨励賞にふさわしく,我が国の心理学を牽引していく研究者の一人と考えられる。
新谷 優 法政大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:新谷 優氏は,思いやり目標や甘え,自尊心等々の社会心理学の幅広いテーマについて,時には実験的手法,また時には調査手法と目的に応じて様々な研究法を用い研究を行われている。またテーマは様々であるが,人と他者との関係の中でのウェルビーイングというところが共通しており,広い視野を持ちながらも一貫した目的で研究を続けられており,また利用されている研究手法も様々であるが,確実に諸手法を自分のものとして研究されていることが高く評価できる。国内研究機関に所属後の海外雑誌単著論文も存在し,所属学部に大学院がなく大学院生と共同研究ができない中でも,ネットワークを形成しながら研究活動をしっかりと続けられ,また国際誌での編集委員を含む国内外の諸学会等で活躍をされている。Psychological Science,Journal of Research in Personality,Personalityand Individual Difference,Journal of Cross-CulturalPsychology など著名雑誌に掲載された優れた研究業績はもちろんのこと,これらの活動は国際賞奨励賞受賞に値し,今後の活躍が期待される。
奥村 優子 NTT コミュニケーション科学基礎研究所 業績リスト 業績紹介
授賞理由:奥村 優子氏は,乳幼児における社会的認知の発達,特に発達早期の社会的学習および道徳性に関するテーマを中心として精力的に研究を行っている。乳児の視線追従行動と言語発達との関連に焦点を当てた一連の研究では,工夫を凝らした実験的手法に独創性が認められる。具体的には,乳児の視線追従能力と物体認識能力とを区別した検討,エージェントがヒトの場合とロボットの場合との比較等を,工夫された実験デザインで実施している。また,ナチュラルペダゴジー理論を扱った直近の研究では,送り手が乳児に送るシグナルの効果に関する精緻な検討に基づき,学習理論をめぐる対立的な議論を決着へと導く有力な知見を示している。これまでの研究成果は14 編の国際学術論文として刊行され,うちCognition 誌に掲載された3編を含む6 編が,奥村氏を筆頭著者とするものである。総じて,奥村氏は独創性と堅実さを兼ね備えた魅力的な研究を着実に進展させており,国際舞台での今後の一層の活躍が大いに期待できる。
大塚 由美子 愛媛大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:大塚 由美子氏は乳児の視知覚の発達や成人の顔や視線方向知覚に関する研究を精力的に行っている。国内はもとより,イタリアやアメリカ,イギリス,オーストラリアなど様々な国の研究者と幅広く共同研究を行っている。その成果は筆頭著者としての18 編を含む45 編の論文掲載として結実している。これらは国際的な専門誌であるNeuroImage,Child Development,Journal of Experimental Psychology: Human Perceptionand Performance といった脳科学,発達心理学,知覚・認知心理学の一流学術誌などに掲載されている。多様な研究手法と分析方法を駆使して海外の研究者とともに,心理物理の実験を中心とした堅実な研究の積み重ねが十分ある。加えて,この分野を力強く牽引する立場として,今後一層の活躍が期待できる。こうした点から国際賞奨励賞を授与するにふさわしいと判断した。

 

令和2年(第15回国際賞授賞者)

選考経過

国際賞選考委員会は,第1回委員会(メール会議)において本年度もこれまでと同様に推薦を受け付けることを決定し,2019年11月中旬に学会ホームページで公募を開始した。その結果,2020年1月14日の締切までに国際賞特別賞に1件,同功労賞に2件,奨励賞に12件(他薦7件,自薦5件)の応募があった。「国際賞選考規則」および「国際賞審査手続きに関する申し合わせ」に基づき,2月21日に第2回選考委員会を開催,特別賞および功労賞の申請内容を確認するとともに,奨励賞については,応募が昨年に引き続き数が多かったため,各委員が2,3件を担当して評価することを決定した。第3回選考委員会(4月4日)においては,特別賞および功労賞の申請内容を精査した結果,苧阪 満里子氏が優れた国際的な研究業績により特別賞に,また,古賀 一男氏と仲 真紀子氏が日本の心理学の国際化への貢献から功労賞に該当すると判断され,授賞が決定した。奨励賞については,選考規則において「国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者」に授与することが定められている。今回は,各委員が候補者の論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容評価等に基づいて「総合評価」を行った結果を基礎に,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に審査を行った結果,鹿子木 康弘氏,野内 類氏,髙橋 康介氏,楊 嘉楽氏を受賞者とすることが決定された。


特別賞 苧阪 満里子 大阪大学 名誉教授/(国研)情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 主任研究員
授賞理由:苧阪 満里子氏はワーキングメモリ(作動記憶,作業記憶)のはたらきとその神経基盤についての研究で国際的にこの分野を牽引してきた。特に実行系機能に関してワーキングメモリの個人差を生む神経基盤を調べる研究を多数発表した。リーディングスパンテストを1992 年に本邦で初めて開発した。ワーキングメモリは前頭前野の活動で維持されていること,注意の制御がワーキングメモリの個人差を生じさせていることを世界に先駆けて報告した。認知機能の加齢衰退にはワーキングメモリ機能維持が重要であること,ワーキングメモリの個人差が安静時ネットワークに依存することも発見した。個人差の知見は多数引用されており,国際的に高い評価を受けている。このように苧阪氏が精力的に研究を続けるようすは後進を強く勇気づける。苧阪氏は複数の国際誌や学会の編集委員や各種委員として尽力された。こうした幅広い活躍は国際賞特別賞を授与するにふさわしいものと評価された。

功労賞 古賀 一男 元名古屋大学・環境医学研究所宇宙医学実験センター
授賞理由:1992年,宇宙開発事業団(現JAXA)がNASAのスペースシャトル・エンデバー号を利用して日米共同実験(ふわっと’92)を実施したが,その際,12の生命科学実験の一つとして「宇宙空間における視覚安定性の研究」が採択された。古賀 一男氏はこのプロジェクトの代表者を務め,全体的な計画の設定や実験の準備,現地指示などあらゆる局面で多大な貢献をされた。そこで得られた成果は,宇宙科学に対する心理学からの貴重な貢献として国際的に高く評価されており,日本の心理学の歴史に大きな足跡を残したといえる。また,古賀氏は,二度にわたる日本・スイス実験心理学研究者合同セミナーの企画立案および運営を通じて両国の心理学研究者交流の活発化に尽力されたほか,欧州眼球運動学会の学会誌 Journal of Eye Movement Research の副編集長や第13回大会の主催大会委員として同学会の活動に大きく貢献してきた。選考委員会においては,以上をもって国際賞功労賞を授与するに相応しい業績であると評価された。

功労賞 仲 真紀子 立命館大学
授賞理由: 仲 真紀子氏は,国内の心理学の国際化を促進させるのみならず,世界において日本の心理学のプレゼンスを向上させ,国際的に心理学研究の発展に寄与されてきた。まず,横浜で開催されたInternational Congress of Psychology (ICP) 2016において,Emerging Psychologists Program Committeeの委員長を務め,国内外の若手育成に大きく貢献され,その記念事業は,現在では本学会の国際活動の柱のひとつとなっている。そして,East Asian Association for Psychology and Law第12回大会(大会委員長)とSociety for Applied Research in Memory and Cognition第13回大会(実行委員)の日本開催に大きく寄与し,国際的な研究交流を促進されてきた。さらに,専門とされる法と心理学の分野では,国内組織のみならず,国連アジア極東犯罪防止研修所や環太平洋諸国において司法面接の講義や研修を行い,弱者の人権擁護に尽くされてきた。加えて,日本心理学会の国際担当常務理事,International Union of Psychological Scienceの代議員,国際誌の編集委員等を歴任され,また,国際的な研究業績を多く上げられており,仲氏の多大なる国際的貢献は本学会国際賞功労賞にふさわしい。

奨励賞 鹿子木 康弘 追手門学院大学 ※所属は応募時のもの 業績リスト 業績紹介
授賞理由:鹿子木 康弘氏は,これまで乳幼児における他者理解や道徳性の問題など社会的認知の発達に関する研究を幅広くおこなってきており,こうした研究の成果が第1著者論文4編を含む23編の国際誌論文として結実している。その一部は認知科学や発達心理学のトップジャーナルに掲載されている一方で,国際的評価が高い科学総合誌に掲載されているものもあり,専門領域を越えて強い関心を集めてきたことがうかがえる。また,ほとんどの論文は日本人研究者との共著となっており,鹿子木氏が日本人研究者の国際的な研究活動を推進する大きな力となっていることが推察される。今後,日本の心理学界を牽引しさらにその国際性を高めることに資する人材であり,奨励賞を授与するに相応しいと判断された。
野内 類 東北大学加齢医学研究所 業績リスト 業績紹介
授賞理由:野内氏は,高齢者の認知機能や精神的健康に関する研究に取り組んできており,研究対象者が健康な高齢者・肺がん高齢者患者・若年者と広いという点や,心理学の研究実践における透明化が叫ばれる中で事前登録を行ったうえで研究を実施する点,心理学と医学の境界領域において突出した成果を挙げている点において,高く評価することができる。この10年間の外国語による筆頭論文が20本,分担112本,合わせて132本あり,チームで執筆した論文も少なくないものの,最も引用されている論文は300回(Google Scholar調べ)を越えるなどハイインパクトの論文を執筆しており,若手・中堅の研究者の中では存在感を放っている。論文執筆のみならず,多様な国々との共同研究,海外の教育機関等での講演,国際誌の編集や査読にも積極的に関わっており,国際的なリーダーシップをとっていくことが期待される。
髙橋 康介 中京大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:髙橋 康介氏は,これまで認知科学や知覚に関する研究で多くの成果をあげており,それらは英語論文32編(第1著者19編)として海外の主要雑誌に掲載されている。とくに知覚に関しては,錯視図形とその生起メカニズムを扱った論文4編が海外の専門誌に掲載されており,考案された錯視図形(「曲がり盲」など)は国内外の錯視コンテストで度々受賞するなど高い評価を受けている。この他にも認知科学領域における研究はもとより,アフリカにおいてフィールド実験を試みるなど,積極的な姿勢で多数の優れた業績をあげている。以上,全体的に見て髙橋氏の研究業績は国際賞奨励賞授与に相応しいものと評価された。髙橋氏がこれまで研究で示してきた関心の広さと国際性は日本の心理学界全体の活性化に資するものであり,今後のさらなる活躍が期待される。
楊 嘉楽 中央大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由: 楊 嘉楽氏は,乳児における質感知覚と色知覚に関する発達研究に取り組み,知覚恒常性を獲得する前段階の乳児の知覚に関して,成人の意識に上らない視角や照明による画像変化に気がつける“pre-constancy vision”の概念を提案した。また,発達初期の乳児が成人より変化に富んだ世界を知覚することを世界で初めて明らかにした。さらに,言語獲得以前の乳児において「カテゴリカルな色」の神経表現が後側頭領域に存在し,色カテゴリの認知システムが言語システムとは独立であることを初めて証明した。インパクトファクターの高いトップレベルのジャーナルを含む国際誌に発表した論文が12件(そのうち筆頭著者論文が10件)ある点も評価できる。さらには,業績のみならずキャリアの国際性においても群を抜いており,今後の活躍に期待が寄せられる中堅研究者である。

 

平成31年(第14回国際賞授賞者)

選考経過

例年と同様,2018年11月中旬に学会ホームページで公示,公募を開始した。その結果,2019年1月15日の締切日までに,特別賞・功労賞に2 件,奨励賞に13件(他薦10件,自薦3件)の応募があった。選考委員会では,「国際賞選考規則」および「国際賞審査手続きに関する申し合わせ」に基づき,国際賞選考委員会から推薦された1件(特別賞)を加えて,2 月に書類審査,4 月に合議による審査を行った。その結果,推薦を受けた室伏 靖子氏が,業績・経歴の質・量ともに特別賞にふさわしい高いレベルであることが確認され,授賞が決定した。 また,太田 信夫氏と長谷川 壽一氏が,日本の心理学の国際化への貢献などから功労賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。 奨励賞は,前記規則に「国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者」に授与することが定められている。今回は,応募が13件と例年より多かったため,委員が分担して各候補者の論文数および掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容評価等に基づいて「総合評価」を行った。その上で,全体会議において年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に審査を行った結果,荒川 礼行氏,平井 真洋氏,伊村 知子氏,小野 史典氏,吉江 路子氏の5氏が奨励賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。なお,奨励賞授賞者に関しては,主要業績をホームページにて公開する。


特別賞 室伏 靖子
授賞理由:室伏 靖子氏の重要な功績は,チンパンジーの研究を通じて「比較認知科学」という心理学の新しい分野を開拓し,それを世界に発信したことにある。彼女は,アメリカのデルタ類人猿研究センターに客員研究員として留学し,1967年に帰国した後,京都大学霊長類研究所において心理学研究部門の設立に尽力した。当時,大型類人猿における言語研究が注目され,世界中で行われていた。室伏氏は「チンパンジーの人工言語獲得とその脳機構」の課題名でいち早くこの研究に着手した。その研究手法は,(1)視覚的言語を使用,(2)コンピュータを使用した自動制御実験,(3)人とサルに共通で使用できる実験装置を用いるという点でわが国独自のものであり,学習心理学と知覚心理学の融合という点でも画期的なものであった。この研究は,「アイ・プロジェクト」と呼ばれ,室伏氏はその筆頭となって研究チームを率い,国内外の優秀な研究者を集め,世界に誇る数々の業績を挙げてきた。また,心理学分野だけを取ってみても,認知心理学から生理心理学,社会心理学,発達心理学など多彩な研究者が学際的な研究を展開できるシステムを整え,それぞれの分野で世界的成果を収めている。最後に,室伏氏の活躍によって,わが国における女性研究者の地位向上と活躍の場が広がったことも付記したい。

功労賞 太田 信夫 筑波大学 名誉教授/東京福祉大学 教授
授賞理由:太田 信夫氏は日本における記憶研究の第一人者であり,日本認知心理学会理事長,日本心理学諸学会連合常務理事,心理学検定局長などを歴任するなど日本の心理学界の発展に寄与されてきた。その間,Tsukuba International Conference on Memory (TIC)の開催に尽力し,第1回(1998年)から第10回(2012年)に至るまで,企画運営の中心的役割を果たされた。特に,この国際会議においては,第一線で活躍されている海外の研究者を毎回12名ほど招いて講演が行われた他,招待者と参加者が積極的に議論する場が用意され,日本人研究者にとって得がたい経験をする機会となった。加えて,この会議の成果は7冊の英文書籍として刊行された。このように,太田氏の熱意と豊かな国際的ネットワークによって実現した同国際会議の継続的開催は,確実な成果を残すと同時に,日本の心理学の発展と国際的展開の大きな礎の一つとなっており,国際賞功労賞を授与するに相応しいと判断された。

功労賞 長谷川 壽一 (独行)大学改革支援・学位授与機構
授賞理由:長谷川 壽一氏は,進化的視点からの人間行動理解の推進に大きな役割を果たしてきた,心理学界における中枢的研究者である。長年にわたる国際的・学際的活動で培った知識と経験を駆使して,Human Behavior and Evolution Society第20回大会(2008年,京都大学)ではオーガナイザーとして,また,第31回国際心理学会議(2016年,パシフィコ横浜)では副会長・事務局長として,これらの大会の成功に多大の貢献をした。さらに,海外の主要雑誌の編集委員を務める傍ら,21世紀COEプログラム「心とことば―進化認知科学的展開」拠点リーダー,および新学術領域「共感性の進化・神経基盤」領域代表として30名を超える海外研究者を受け入れ,数十を数える国際セミナー,ワークショップ,シンポジウムの開催を実現した。このように,長谷川氏が地理的・学問的境界を超えた卓越した研究活動を通じて日本の心理学界の国際化に貢献してきたことは,国際賞功労賞を授与するに相応しいものと評価された。

奨励賞 荒川 礼行 University of Maryland Baltimore 業績リスト 業績紹介
授賞理由:荒川 礼行氏は,ラットの匂いに関する行動を中心に比較心理学研究を行っている。ラットが示す揮発性(親和性)社会信号に対する行動や,異なる条件下での社会的接近行動,新奇個体間と親和的個体における匂い信号への反応の違い,嗅覚によるコミュニケーションなどを,社会的選好検査,馴化脱馴化検査,身体捜査検査等を用いて検討している。特に,自閉症の動物モデルとされるラットの嗅覚行動の特異性や,嗅覚行動に影響を及ぼす条件を明らかにするなど,動物とヒトとを橋渡ししようとする研究は,日本において比較心理学の研究が行われている機関が減少しつつあるなか,特に重要である。荒川氏は学術振興会特別研究員の後,ビンガムトン大学,コンコルディアカレッジ,ケース・ウエスタン・リザーブ大学等を経て独自の研究分野を切り開き,多数の業績を挙げ,日本の比較心理学のプレゼンスを高め,領域をリードする活動を積み重ねてきた。本学会の国際賞奨励賞にふさわしい研究者である。
平井 真洋 自治医科大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:平井 真洋氏の主要な研究テーマは,「定型・非定型発達児を対象とした社会的認知発達における重要な他者の動き,身体,顔知覚などの発達機序」であり,その研究手法も実験心理学的手法のみに限らず,脳波,モーションキャプチャーなど非常に幅が広い。研究業績としては,国際誌に多数の論文を発表しているだけでなく,以下のとおり,質的にも高い水準の研究を行っている。たとえば,研究成果が実験心理学や発達心理学におけるトップジャーナルであるPsychological Science,Developmental Scienceなどに掲載されていることが挙げられる。また,2008年のThe 16th International Conference on BiomagnetismにおけるYoung Investigator Awardの受賞をはじめ,複数の受賞歴があることが挙げられる。さらに,海外の多くの研究者との共同研究を積極的に行い,論文の発表のみならず,国際共同研究に関する研究費を獲得していることから,国際的貢献は顕著である。以上の理由により,国際賞奨励賞を授賞する者として相応しいと判断した。
伊村 知子 日本女子大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:伊村 知子氏は,これまで比較認知発達の視点から,特にヒトの視覚認知とその発達過程の特徴に関して優れた研究成果をあげてきた。奥行知覚において,2次元から3次元を復元する際の制約条件がヒトの乳児では生後4―6ヵ月までに獲得されること,チンパンジーにも類似の制約条件とその発達過程が存在することを明らかにするなど,ヒトとチンパンジーに共通の認知発達とその進化的基盤を示してきた。関連する領域におけるものも含めて,これらの研究成果は知覚心理学,動物心理学,発達心理学などの分野の主要国際誌に掲載されている。学会発表に対する受賞も含め,これらの研究業績は国際的にも優れたものと評価できる。全体的に,伊村氏の研究関心の広さと国際性は,日本の心理学界全体の国際性を高める上でも貴重であり,後のさらなる活躍が期待される。
小野 史典 山口大学 業績リスト 業績紹介
授賞理由:小野 史典氏の一連の研究は,人間の時空間認識に影響を与える潜在的・顕在的なプロセスの解明をテーマとしている。特に,刺激の不変性,提示のタイミング,接近・後退などの運動軌跡,主観的大きさなど,様々な視覚刺激の特性がどのように我々の時間知覚の精度に影響を与えるかに関して精力的に研究を行ってきた。これらの研究の成果は, Psychological Science, Journal of Experimental Psychology などに第一著者として発表されており,主に潜在的な時空間知覚のメカニズム解明に資する貴重な知見を提供している。さらには,古典的な実験手法をアレンジしたり,時間知覚課題と幾何学的錯視を組み合わせたりするなど,創意工夫によって従来の知見とは異なる現象を見出している。このことは,研究手法において新たな切り口をもたらしたと言える。以上のことから,小野氏は国際賞奨励賞に相応しく,今後のさらなる活躍が期待できる。
吉江 路子 (国研)産業技術総合研究所 業績リスト 業績紹介
授賞理由:吉江 路子氏の主要な研究テーマは,質問紙法から脳機能イメージングに至るまで幅広い研究手法を用いた「感情が運動の知覚や制御に与える影響やその脳内機構の解明」に関するものである。吉江氏は,これまでの奨励賞授賞者と比較しても,まったく遜色のない本数の論文を国際誌に発表しているのみならず,非常に高い評価を国際的に受けている研究業績を挙げていることが着目に値する。具体的には,インパクトファクターの高い複数の雑誌(例:Current Biology)に第一著者として論文を発表していること,2016年にScientific Reportsに発表した論文がNature Japanに取り上げられたり,多数の海外メディアによって報道されたりしていること,2008年のEuropean Society for the Cognitive Sciences of Musicにおける Young Researcher Awardの受賞をはじめ,複数の受賞歴があることなどである。以上を総合して,今後,ますます国際的に活躍していくことが期待されることから,国際賞奨励賞を授賞する者として相応しいと判断した。

 

平成30年(第13回国際賞授賞者)

選考経過

昨年(2017年)の11月に公募し,今回は,特別賞・功労賞に2名の推薦があった。奨励賞については他薦7名,自薦2名の応募があった。選考委員会では,2月に書類審査,4月に合議による審査を行った。その結果,推薦を受けた渡邊 武郎氏が,業績・経歴の質・量ともに特別賞にふさわしい高いレベルであることが確認され,授賞が決定した。また,桑野 園子氏が,国際的な活動内容,日本の心理学の国際化への貢献などから,功労賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。奨励賞は,国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者に授与するものであるが,論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容に加えて,研究環境についても配慮した。候補者はいずれも,それぞれの専門性を発揮し,目覚ましい活躍をされている方々であったが,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に審査した結果,榊 美知子氏,土居 裕和氏,宮本 百合氏,山田 祐樹氏の4氏が,将来の発展が期待される研究者として奨励賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。


特別賞 渡邊 武郎 ブラウン大学終身栄誉上級教授
授賞理由:渡邊 武郎氏は世界的に権威のある知覚心理学者である。渡邊氏が出した121編の論文の中で,3編のNatureへの論文,2編のScienceへ論文を含めて,36編がいわゆるハイインパクト専門誌であり,これは世界の心理学者で数人しか達成していない快挙である。彼の心理学への大きな貢献のひとつは,知覚学習の分野において画期的な研究を行い,これにより,現在に至る10数年間における知覚学習を知覚心理学の根幹の研究分野にしたことである。彼は,それまで 意図的な注意が必要であると考えられていた知覚学習が,実際は,閾値下の刺激を受動的に提示するだけで起こることを示した。また,2009年には,動物の学習においては極めて重要であるにもかかわらず,ヒトの知覚研究において顧みられなかった報酬の効果が,知覚学習に決定的な役割をすることを発見した。この研究は,人間の知覚研究においてシステマティックに報酬の役割を示した初めての論文と考えられており,その後多くの研究者が,報酬の知覚過程全般に及ぼす効果について研究するようになった。2011年には,渡邊氏が主導してdecoded fMRI Neurofeedback という手法を開発した。この手法は,実験参加者がその目的を知ることなく,実験者が目指した脳活動パターンを実験参加者の脳に誘導発生させるものである。渡邊氏はまた知覚学習における睡眠の効果についても研究し,2016年に出した論文は社会的影響力を示すaltmetric scoreで,同年出されたすべての(心理学を含んだ)生物学系の論文の中で4位,すべての科学論文のうち27位になった。渡邊氏の研究成果は,ニューヨーク・タイムズ,Times, BBC,ルモンド,フランクフルター アルゲマイネ,朝日新聞,読売新聞,毎日新聞,サイエンティフィックアメリカンをはじめ世界中の新聞や科学雑誌に数多く取り上げられてきている。

功労賞 桑野 園子 大阪大学名誉教授
授賞理由:桑野 園子氏は,長きにわたり日本の心理学の国際的プレゼンス向上に貢献してこられた。過去から遡れば,そのご功績の第1は,音楽認知国際会議の礎を築かれた,ということである。この会議は1989年に初めて京都で開催され,その後今日まで重要な国際会議として世界各地で開催されている。第2は,2004年にIUPsyS(国際心理科学連合)の理事に就任され,以降日本心理学会と国々のつながりを作り支えてくださった。周知のとおりIUPsySは世界各国の心理学会が所属する連合で,国際心理学会議(ICP:International Congress of Psychology)の母体でもある。第3に, ICP2016Yokohamaの副大会長としてICPの成功に粘り強く尽力された。ICPの日本開催が決定したのは2010年であるが,桑野氏はIUPsySの理事であられた当時から10年弱の期間,日本での会議開催に向けて尽力された。この他,国際組織や国際会議・組織委員会の委員,国際会議における日本代表など,そのお仕事ぶりは,まさに国際賞功労賞にふさわしい。

奨励賞 土居 裕和 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 講師 業績リスト 業績紹介
授賞理由:社会的認知の過程を,創意に満ちた実験と多様な指標を使って明らかにしてきた土居 裕和氏の一連の研究は,基礎心理学の方法論を軸にした上で,他分野との協働,研究テーマの発展という意味でも,高く評価できる。何よりも研究テーマの設定が優れている。心理学と神経科学の連携研究は日本でも蓄積されているが,それに内分泌系のメカニズムの解析を加えて総合的な分析を行う点に独創性がある。研究手法として,fMRI,ERP,fNIRS,視線追跡などを,研究テーマに応じて自在に活用している点に,研究者としての高い力量がうかがえる。これらの研究は,行動内分泌学,行動経済学,発達生理心理学,発達障害学などへの発展が期待できるものである。国際誌に掲載した第1著者の論文が27編あり,国際学会で若手研究者賞を授与されており,今後も,ヒトの心的メカニズムの生物学的背景・発達的基盤を多様な観点から次々と明らかになることが期待される。
宮本 百合 ウィスコンシン大学マディソン校 教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:宮本 百合氏は,幅広い視点から,北米人と日本人を中心とした比較研究を基盤に,文化心理学的研究に精力的に取り組んでいる。その研究は文化比較という取り組みにおいて,社会学的知見を取り入れた理論的な枠組みの構築,日本人における両価的な感情システムの存在が感情の抑制や感情経験に与える影響,さらには身体的な健康に与える免疫系の働きなど,感情における文化的影響の問題について多面的な側面から取り組んでおり,その研究内容はいずれも興味深く示唆に富む新しい分野を開拓しているといえる。数多くの論文が高く評価されており,米国の多くの心理学会においても学会賞を受賞している。5つの英文雑誌の編集委員を務めるなど積極的に活躍されており,この領域において国際的に活躍する貴重な日本人の研究者であり,国際賞に十分値する研究者である。これから研究者としても円熟期になり,さらなる飛躍を期待したい。
榊 美知子 University of Reading, Senior Research Fellow 業績リスト 業績紹介
授賞理由:榊 美知子氏は,感情の記憶に及ぼす影響に関する研究に取り組み,これまでに国際的に評価の高いジャーナルに精力的に発表してこられた。例えば,感情が逆行性健忘を生むのか,記憶の促進をもたらすのかについて,トップダウン注意の有無に着目した研究,気分一致効果と気分不一致効果の相反する特徴を,自己意識の構造から解明する研究,さらにfMRIによって,脳活動の感情制御ネットワークをふまえ記憶との関連をとらえる研究など,臨床的,社会的にも意義深く,独創的である。榊氏の研究への国際的な評価はきわめて高く,すでに海外の2つの大学でfaculty positionを経験し,Emotion誌のconsulting editorを歴任するなど,海外を拠点とする目覚ましい活躍ぶりは,本学会国際賞奨励賞にふさわしい。今後国際的なリーダーシップをとっていかれる研究者である。
山田 祐樹 九州大学 准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:山田 祐樹氏の研究テーマは,知覚から社会的認知まで非常に幅が広く,「再現性問題」といった心理学における最近のトレンドについてもテーマとして扱っている。山田氏は,国際誌に多数の論文を発表しているだけでなく,以下に挙げるとおり,質的にも高い水準の研究を行っている。例えば,2013年にScientific Reports誌に掲載された論文がネイチャー・ジャパンの注目論文に取り上げられたり,2014年にFrontiers in Psychology誌に掲載された論文が多数の海外メディアに取り上げられたりするなど,社会的インパクトの強い研究を行っていることが挙げられる。また,Japanese Psychological Research誌に2013年に掲載された論文の引用回数が60回を超えていること(Google Scholar調べ)は特筆すべき点である。最後に,Frontiers in Psychology誌のゲストエディターを務めたり,国内外の多くの研究者との幅広いネットワークを形成しつつ新たな提言を行ったりするなど,国際的貢献は顕著であり,将来的な期待も大きい。以上の理由により,国際賞奨励賞を受賞する者として相応しいと判断した。

 

平成29年(第12回国際賞授賞者)

選考経過

昨年(2016年)の11月に公募し,今回は,特別賞・功労賞に2名の推薦があった。奨励賞については他薦7名の応募があった。選考委員会では,2月に書類審査,4月に合議による審査を行った。その結果,推薦を受けた渡邉 茂氏が,業績・経歴の質・量ともに特別賞にふさわしい高いレベルであることが確認され,授賞が決定した。
また,繁桝 算男氏が,第31回国際心理学会議(ICP2016)をはじめとする国際的な活動内容,日本の心理学の国際化への貢献などから,功労賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。
奨励賞は,国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者に授与するものであるが,論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容に加えて,研究環境についても配慮した。候補者はいずれも,それぞれの専門性を発揮し,目覚ましい活躍をされている方々であったが,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に審査した結果,宇佐美 慧氏,狩野 文浩氏,守谷 順氏の3氏が,将来の発展が期待される研究者として奨励賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。

 

特別賞 渡邉 茂 慶應義塾大学名誉教授
授賞理由:渡邉茂氏の研究領域は動物(主に鳥類)の比較認知科学,比較認知神経科学,および行動薬理の領域と多岐にわたり,200を越える多数の論文を海外に発表されてきた。それら研究成果の海外テレビ番組での紹介,世界各国の大学と連携(海外拠点)し,研究,教育,研究成果の公表,21世紀COEプログラム,グローバルCOEプログラムでの国際交流など積極的に日本の心理学研究を世界へ発信されてきた。それに加え,欧文書籍の編集や章の担当,多くの学術誌の編集者,国際学会のシンポジストなど,幅広い国際的研究,教育活動を行われている。また,このような活動がヨーロッパを中心に行われており,さらには,南米,フィリピンでも研究・教育に携わってこられたことは特筆に値する。渡邉氏のこれらの活動・業績から,日本心理学会国際賞特別賞の主旨である国際的に特段に優れた研究業績をあげ日本の心理学の発展に寄与した心理学者を十分に満たすと判断し,授賞を決定した。
  • 1970 年 慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻修士課程入学
  • 1975 年 慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻博士課程修了
  • 1979 年 文学博士
  • 1973 年 慶應義塾大学文学部助手
  • 1981 年 慶應義塾大学文学部助教授
  • 1989 年 慶應義塾大学文学部教授
  • 2014 年 慶應義塾大学名誉教授,現在にいたる

功労賞 繁桝 算男 東京大学名誉教授/慶應義塾大学訪問教授
授賞理由:繁桝 算男氏は2010年に開催された国際心理科学連合総会にて,第31回国際心理学会議(ICP)招致に向けた演説を行い,圧倒的多数の投票で2016年のICP横浜開催が決定した。繁桝氏は組織委員会を組織し,委員長として,前回以来,実に44年ぶりのICP日本開催に向けて準備を進められた。国際心理科学連合の会長を始めとする各国理事との緊密な信頼関係,ICP2012,ICAP2014でのプロモーション活動,その他広報活動などを通して,ICP2016への機運を大いに高めた。結果,ICP2016は8,000名超の参加者,約8,000件の発表を数え,大会運営についても極めて高い賛辞を得た。ICP史上最大規模であった大会の成功はひとえに繁桝氏のリーダーシップに負っている。また繁桝氏は,2度にわたる国際計量心理学会の日本開催で重要な役割を果たされ,2016年の国際ベイズ統計分析会議でも実行委員会副委員長として活躍された。国際的な人脈も広く,我国の計量心理学の国際化に大きく貢献された。このような理由により,国際賞功労賞受賞者として相応しいと判断した。
  • 1968 年 東京大学教育学部心理学科卒
  • 1970 年 東京大学大学院教育学研究科修士課程修了
  • 1974 年 アイオワ大学大学院修了(Ph.D)
  • 1977 年 東北大学助教授
  • 1990 年 東京工業大学教授
  • 1996 年 東京大学総合文化研究科教授
  • 2009 年 東京大学名誉教授,帝京大学教授
  • 2017 年 慶應義塾大学訪問教授

奨励賞 宇佐美 慧 東京大学高大接続研究開発センター 業績リスト 業績紹介
授賞理由:宇佐美 慧氏の専門は心理統計の理論と応用である。しかし,心理学に留まらず,教育学・医学・疫学・保健学など多方面の海外の研究者と精力的に共同研究を行い,めざましい功績を挙げ,その成果を評価の高い国際誌に発表している。単に基礎理論を様々な分野に応用しているだけでなく,理論開拓の面でも継続的に研究を行い,筆頭著者として国際誌に成果を出している点は注目に値する。特に,縦断データ分析やテスト理論を中心とした心理統計学の分野で,国際誌に多くの論文を掲載しており,必要なサンプルサイズの推計方法,変数間の因果関係の探索に関わるモデル選択といった縦断研究における実践性の高い研究成果は国内外で高い評価を得ている。30代前半で,国際性に富む研究業績を,日本にいながら堅実に積み重ねていることも評価できる点であり,奨励賞にふさわしい人物と言える
狩野 文浩 京都大学理学研究科野生動物研究センター 業績リスト 業績紹介
授賞理由:狩野 文浩氏は,心理学と生物学を架橋する研究で,国際的に活躍する研究者である。類人猿の視知覚,情動,認知などの様々な心的機能を,多彩な定量評価方法を用いて次々と明らかにしてきた。例えば,2016年のScience誌に掲載された論文は,類人猿においても,「誤信念理解」という高次の機能があることを明らかにしたインパクトの高いものである。ボノボ,チンパンジー,オランウータンと常に接し,対象への深い理解のもと,その行動特徴を十分把握した上で,創造的な実験場面を設定し,これまでの研究で蓄積されたアイトラッキング技法を駆使し得られた成果である。また,サーモ・イメージングを用いて,チンパンジーの自律神経系の活動を解析し,情動を評価するなど,研究がカバーする範囲は多岐にわたる。狩野氏の一連の研究は,それぞれの「種」の心的機能を明らかにする中で,ヒトの種としての特異性を,逆方向から照射する業績でもある。
守谷 順 関西大学社会学部 業績リスト 業績紹介
授賞理由:守谷 順氏の主たる研究テーマは,不安傾向の高い健常者を中心に,認知機能の特徴をとらえるもので,一貫して不安症状の発症原因の解明に従事している。不安・うつ傾向者の注意バイアスの高さについて,注意機能に焦点を当て,とくにorienting(空間的注意)機能が低下している可能性があることを確かめた。また,変化検出課題を用いて社交不安傾向者の視覚的ワーキングメモリ容量を測定し,社交不安傾向が強いほどその容量が多いことを示した。一連の研究をJournal of Experimental Psychology誌をはじめとする国際学術誌に論文18本(うち10本が筆頭著者)を掲載している。この分野で国際学術誌に継続して発表する高い資質を有している。綿密な実験手法による不安・うつの発症メカニズムの解明は,臨床心理学の基盤を作るものであり,ベルギーのGhent大学をはじめとする国際共同研究にも積極的で,守谷氏の今後の活躍が期待される。

平成28年(第11回国際賞授賞者)

選考経過

2015 年の11 月に公募し,今回は,特別賞・功労賞に2 名の推薦があった。奨励賞については,自薦2 名,他薦3 名,計5 名の応募があった。2 月,3 月の2 回に渡る委員会での審査を行い,特別賞は国際賞選考委員会委員推薦を受けた,下條信輔氏が,業績・経歴の質・量ともに特別賞にふさわしい高いレベルであることが確認され,授賞とした。また,内田伸子氏が,国際的な活動内容,日本の心理学の国際化への貢献などから,功労賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。奨励賞は,国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者に授与するものであるが,論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容に加えて,研究環境についても配慮した。候補者はいずれも,それぞれの専門性を発揮し目覚ましい活躍をされている方々であったが,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に審査した結果,石井敬子氏,内田由紀子氏,宮田裕光氏の3 氏が奨励賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。国際賞の授賞式は,日本心理学会会員集会(2016年11 月5 日)で行われた。受賞者は日本心理学会第81 回大会(久留米)において記念講演を行う予定である。

 

特別賞 下條 信輔 カリフォルニア工科大学 生物学部・生物工学部・教授
授賞理由:下條信輔氏は紛れもなく世界を代表する心理学者である。「おもしろいこと」を常に追求し,既存の枠に捕らわれない斬新な切り口で,人間の本質に迫る研究手法は,国内外の多くの人をワクワクした気持ちにさせてきた。人の心の不思議や心理学の面白さを科学的に伝えることに関して,下條氏の右に出る者はいないと言える。知覚心理学を基礎として,無意識の過程(潜在脳機能)が,どのように人を突き動かすかを主な研究テーマに据え,多くの業績を一流誌に発表し,世界的な影響を与え続けている。過去に東京大学の助教授を辞し,カリフォルニア工科大学の准教授に就任されたとき,日本にとって大きな損失になるかと思われた。しかし,下條氏の活動に国境など意味はなく,頻繁に日本とアメリカを行き来して,日本に新風を送り続けてきた。下條氏の著作,講演,博物館の展示は人の潜在脳機能に訴え,多くの人を心理学の世界へと引き込み続けている。
  • 1978 年 東京大学文学部心理学科卒業
  • 1980 年 東京大学大学院文学研究科修士課程修了
  • 1985 年 マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了Ph.D
  • 1986 ─1987 名古屋大学/スミス・ケトルウェル研究所研究員
  • 1989 ─1997 東京大学教養学部助教授
  • 1997 ─1998 カリフォルニア工科大学准教授
  • 1998 ─2010 カリフォルニア工科大学教授
  • 2010 ─現在 カリフォルニア工科大学Gertrude Baltimore 冠教授

功労賞 内田 伸子 十文字学園理事・十文字学園女子大学特任教授
お茶の水女子大学名誉教授
授賞理由:内田伸子氏は,言語(語り,読み書き),思考(推論,想像性),育児,教育,虐待等に関する発達研究により日本の発達心理学の地平を広げ,高みを極め,その成果を広くアジア圏や第三世界に伝え,幼児教育の質の向上に貢献した。とりわけ以下の業績は重要である。第一に,COE やGCOE プログラムの拠点リーダーとして日韓中越蒙国際比較縦断研究を推進し,グローバルな視点で子どもの発達や幼児教育を調査し評価したこと,第二に,文部科学省等の委託を受け中西部アフリカの幼児教育体制構築を進め,教育施設の普及や識字率改善に貢献したこと,第三に,幼児の生活に深く関わるテレビ番組,プログラム,玩具等の作成,評価に携わり,韓中台越米等の研究者と国際的視点から形成評価システムを開発するなど,発達に資する文化財構築に貢献したこと,第四に,韓中台越蒙等の研究者を多数育成し,当該国の幼児教育や研究の向上に貢献したこと,である。このように日本の心理学を牽引し日本の心理学をもって世界の幼児教育に貢献した。
  • 1970 年 お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修了学術博士(1989 年)
  • 1976 年 お茶の水女子大学文教育学部専任講師
  • 1980 年 お茶の水女子大学教育学部助教授
  • 1990 年 お茶の水女子大学教育学部教授
  • 1998 年 お茶の水女子大学大学院人間文化研究科教授
  • 2002 年 お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター長
  • 2004 年 お茶の水女子大学文教育学部長
  • 2005 年 お茶の水女子大学理事・副学長
  • 2009 年 お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授お茶の水女子大学客員教授・名誉教授
  • 2012 年 筑波大学常勤監事
  • 2014 年 筑波大学客員教授
    十文字学園理事・十文字学園女子大学特任教授

奨励賞 石井 敬子 神戸大学大学院人文学研究科・准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:石井敬子氏は,斬新かつ多様な研究手法を用いて文化と認識の問題に取り組んできた。大学院進学後現在まで約15 年間,一貫して文化と認識のテーマを掘り下げ続けている。一貫したテーマに取り組む一方,神経科学や進化心理学の理論・研究手法を取り入れる柔軟性・積極性をもち,常に意欲的に最先端を切り開いてきた。研究成果はJournal of Personality and Social Psychology,Psychological Science など世界トップレベルの学術誌に掲載され,一連の優れた研究活動は,第11 回日本学術振興会賞(2014)の授与に至っている。石井氏の研究は,北米・ヨーロッパの研究者との共同研究に基づくもので,精力的活動が高く評価され,2011 年アジア社会心理学会The Michael Harris Bond Award を受賞している。さらに,国内外の学術コミュニティへの貢献も特筆に値する。2013 年から Asian Journal of Social Psychology のAssociate Editor,2016 年名古屋開催のThe 23rd Congress of the International Association for Cross Cultural Psychology 副プログラム委員長を務めている。以上,国際的研究活動と成果,国際レベルでの学術コミュニティへの貢献の点から,石井氏が国際賞奨励賞の授賞にふさわしい研究者であると判断された。
内田 由紀子 京都大学 こころの未来研究センター 特定准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:内田由紀子氏は,社会心理学,文化心理学の立場から,自己,文化,幸福をキーワードとした実証研究を行ってきた。近年では,日本において他者との関係や地域におけるつながりがなぜ,どのように人々の幸福を支えているのか,そのメカニズムを検証すると同時に,新たな幸福度指標の提案を行っている。これらの成果は,外国語による論文および著書52 編にまとめられている。内田氏の特徴は,筆頭著者としての論文および著書が16 件あるだけでなく,共著者としての論文および著書が35 件あり,国内外の幅広い共同研究のネットワークを有していることを示唆している。また,幸福という視点から,日本や海外の行政関連の仕事にも従事しており,研究と実践とのかけ橋にも貢献している。以上の点から,内田氏を国際賞奨励賞の授賞にふさわしい研究者と判断した。
宮田 裕光 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:宮田裕光氏は,鳥類やヒト幼児を対象とした比較認知科学的研究,およびヒト成人の認知制御や熟達を対象とした認知神経科学的研究で,いずれも一線の研究を進めてきた。初期の研究成果の中核をなすのは,コンピュータのタッチモニタ上で標的刺激を目標刺激の位置まで運ぶという,独自に開発したナビゲーション課題を用いたものであり,ハトの先読みや反応修正,効率的な経路選択について多数の新知見を得た。また,そうした能力がヒト幼児および成人にも共有されていることを示した。近年は,ヒト特有の認知熟達のあり方として,伝統芸能や瞑想などのメンタルトレーニングに着目した研究で成果を挙げている。一連の研究成果は,一流国際誌に原著論文として多数出版されている。着眼点の独自性や研究対象の幅広さに加え,用いてきた研究手法も多様かつ独創性の高いものである。以上より,国際賞奨励賞受賞者として相応しい研究者と判断された。

平成27年(第10回国際賞授賞者)

選考経過

昨年(2014年)の11月に公募し,今回は,特別賞・功労賞に3名の推薦があった。また,奨励賞に自薦1名,他薦6名,計7名の応募があった。2月,3月の2回に渡る委員会で審査を行い,特別賞は国際賞選考委員会委員推薦を受けた,北山 忍氏が,業績・経歴の質・量ともに特別賞にふさわしい高いレベルであることが確認され,授賞とした。
また,春木 豊氏,苧阪 直行氏が,国際的な活動内容,日本の心理学の国際化への貢献などから,功労賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。
奨励賞は,国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者に授与するものであるが,論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容に加えて,研究環境についても配慮した。候補者はいずれもそれぞれの専門性を発揮し,目覚ましい活躍をされている方々であったが,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に審査した結果,阿部修士氏,北田 亮氏,山本 真也氏の3名が奨励賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。
国際賞の授賞式は,日本心理学会第79回大会(名古屋大学)会員集会(2015年9月21日)で行われた。また,受賞者は同大会において記念講演を行った。

 

特別賞 北山 忍 ミシガン大学心理学部・教授
授賞理由:北山 忍氏は,心の理解に“文化”が不可欠であるという“文化心理学”の理論を打ち立て,その実証研究を推進しつつ,日米両国において文化心理学の確立において中心的な役割を果たしてきた。北山氏の研究は文化と自己を始め,感情,対人関係,認知,注意,メンタルヘルスなど多岐にわたり,現在では新たな学問分野である文化神経科学を切り拓き,その牽引役を担っている。こうした北山氏の業績の影響力は心理学のみならず,社会科学,さらには神経科学などの自然科学領域にも及んでいる。出版論文の総被引用数は3万件を超えており(学術論文約110件,書籍約50冊ある),北山氏が国際的場面で心理学の発展に及ぼしたインパクトは極めて大きい。特にMarkus & Kitayama (1991)の文化と自己についての論考は,出版後ほぼ四半世紀経た現在も自己の文化差に関する代表的研究として,心理学を越えた多くの分野で広く言及されている。北山氏はまた,日本における心理学研究の成果及びその重要性を国際的場面において世界に広く発信するのみでなく,日米両国において若手研究者の育成に力を尽くし,現在世界各国で第一線の研究者として活発な研究活動を進めつつある多くの優秀な研究者を輩出している。研究成果の国際的な影響力の大きさと同時に,日本における心理学研究成果の重要性を世界に示した点で北山氏の貢献は大きく,日本心理学会国際賞特別賞にふさわしいといえる。
  • 1979年 京都大学文学部卒業
  • 1981年 京都大学大学院文学研究科修士課程修了
  • 1987年 ミシガン大学心理学部 Ph.D.
  • 1988年―1993年 オレゴン大学心理学部助教授
  • 1993年―2003年 京都大学総合人間学部助教授
  • 2003年― ミシガン大学心理学部教授
    (2011年―ロバート・B・ザイアンス特別称号教授)

功労賞 春木 豊 早稲田大学 名誉教授
授賞理由:春木 豊氏の専門の学問領域は,基礎と応用の行動科学としての心理学のdisciplineそのものである。基礎的領域としては,ラットの情動性条件づけをテーマとした動物心理学や人間の社会的学習にかかわる学習心理学であり,基礎と応用の橋渡し的領域として,パーソナリティと感情,健康の関連性を扱った健康心理学,仏教思想に基づく心と身体の心理学,実践領域としては,姿勢や呼吸のセルフコントロール,バイオフィードバック実践等の分野で優れた業績を上げた。社会的学習では,A. Banduraが社会的認知学習理論を提唱する10年以上も前に社会的学習に関する論文を発表していたことから,春木氏の諸研究はBanduraに高く評価され,日本文化に即した学習理論として世界的に著名な文化心理学者などからも広く引用され,日本の心理学と欧米の心理学間の懸け橋として,我が国の国際化に貢献した。さらに特筆すべきことは,近年,マインドフルネスという古くて新しい心理療法が臨床心理学の理論と実践を包括するケアの技法として,我が国では一大ブームを引き起こしているが,中国の伝統医学と心理学を統合する独創的で革新的なアプローチを試みていた春木氏がこの火付け役であるといえる。1990年から2000年にかけて,春木氏が日本やカナダ,中国,オランダなどで,今を時めくJ. Kabat-ZinnやM.J. Mahoney,J.D. Teasdaleなどの欧米やアジア諸国の第一線で活躍する研究者と一緒に数々の国際会議(たとえば,Eastern Approaches to Health and Healing,Comparative and Psychological Study on Meditation,Body over Mind, Mind over Bodyなど)を企画したり,開催,運営にあたったりしたことで,これら東洋の叡智と思想,技法が世界で注目され,その評価のために再び日本に逆輸入されたと考える。春木氏のこれまでの国際的な研究交流活動は,このように日本の心理学者の活動領域の拡大に大いに貢献し,日本心理学会の国際関係強化や会員との交流の場の普及に努めた。また,1997年に中国医学研究院と学術交流協定を締結し,2002年の中日共同伝統医学研究センターの開設にも尽力するなど国境を越えた心理学の発展に多大な貢献を果たした。世界最大の科学団体である,The World Academy of Art and ScienceのFellowにも選出されたり,国際的な専門学会の会長を務めたりするなど,数多くの国際的な活動や経験に基づき,東西の心理学を包摂する独創的な身体心理学,健康心理学,臨床心理学の普及に長い間労を惜しむことなく努めておられる。
  • 1961年 早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻 &nbsp博士課程満期退学
  • 1962年 早稲田大学文学部 助手
    講師,助教授を経て
  • 1974年 早稲田大学文学部 教授
  • 1979年 文学博士(早稲田大学)
  • 1987年 早稲田大学人間科学部 教授
  • 2002年 Universidad de Flores Honorary Professor
  • 2003年 早稲田大学 名誉教授
苧阪 直行 京都大学 名誉教授
授賞理由:苧阪 直行氏は,認知心理学において,日本のワーキングメモリ研究を立ち上げ,牽引してきた第一人者である。苧阪氏は,ワーキングメモリ,意識,視知覚を中心とする実験心理学の諸領域で得られた成果を脳のはたらきと結び付ける,融合的研究領域を切り開いてきた。特に,ワーキングメモリにおける実行系と関連機能の解明,fMRI(機能的磁気共鳴画像法),MEG(脳磁図),TMS(経頭蓋磁気刺戟),tDCS(経頭蓋直流刺激)を用いたワーキングメモリの脳内メカニズムの解明は,実証的にも,理論的にも,心と脳への新たなアプローチとして重要である。 周辺視研究や運動視,読みの眼球運動,日本文化に独自な擬音語・擬態語の感覚の脳内表現等に見られる高次意識の指向性,クオリアの研究,さらには自己や他者の社会脳の脳内表現の研究まで,先端的な脳科学的手法を導入して展開された苧阪氏の業績は,国内外の主要な雑誌に掲載された多数の論文,著書として,日本の心理学研究のプレゼンスを高め,また,後輩の育成,後続の研究を支えてきた。 また,個人としての活動のみならず,日本ワーキングメモリ学会の創設や,国際ワーキングメモリ学会(International Conference on Working Memory),物体認知の国際会議(International Conference on Object Recognition),国際色彩学会(Association International de la Couleur-AIC97)の開催,それにもとづく本の出版など,惜しみない努力をもって,この領域の発展を支えている。苧阪氏に授与された功労賞は,この多く長きにわたる貢献を讃え,顕彰するものである。
  • 1976年 京都大学大学院文学研究科博士課程実験心理専攻修了
  • 1977年 追手門学院大学専任講師(―1981)
  • 1979年 文学博士(京都大学)
  • 1981年 追手門学院大学助教授(―1987)
  • 1987年 京都大学文学部助教授(―1994)
  • 1994年 京都大学大学院文学研究科教授(―2010)
  • 2005年 日本学術会議第21期会員(―2011)
  • 2010年 京都大学名誉教授
  • 2010年 京都大学特任教授(―2012)
  • 2012年 日本学士院会員(第1分科・認知心理学・認知科学)

奨励賞 阿部 修士 京都大学 こころの未来研究センター 業績リスト 業績紹介
授賞理由:阿部修士氏は,ヒトの正直さ・不正直さの心理メカニズムとその神経基盤の解明を主要な研究テーマとして研究を進めてきている。健常実験参加者を対象とした脳機能画像法による研究と,脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究を並行して進めることで,非常に強固なエビデンスを世界に先駆けて発信してきた。国際誌に発表した論文は若い研究者であるにもかかわらず多くあり,これらは,神経科学や神経心理学関係の比較的水準の高い国際誌に掲載されている。一貫して,ヒトが嘘をつくプロセスについて関心を持っており,その背景にある神経基盤について脳機能画像によって検討してきている。また,パーキンソン病を対象にした脳画像研究を行ったこともあり,おかれた環境も手伝って,心理学の中では新しい領域での成果をあげていると考えられる。心理学者の中ではfMRIを使用できるめぐまれた環境の中でこれまで研究を行っているが,それに見合った成果を十分に出していると考えられる。阿部氏の研究は国際的にも広く認知されている成果があり,海外のメデイアでもインタビュー記事が掲載されるなど,ヒトの嘘の神経基盤の研究を国際レベルで牽引している。国際誌の論文の査読を多く経験していることも,世界的にこの領域の研究者から高く評価されている証と考えられる。また,海外の研究者と共同研究を進めるなど,海外の研究者との交流も積極的に行って成果を出していることは高く評価できる。
北田 亮 自然科学研究機構生理学研究所 業績リスト 業績紹介
授賞理由:触覚に関する心理学的研究は,視覚や聴覚に比べて遅れており,従来,ハンドブックなどでも末梢の感覚受容器の説明に終始しがちであった。これに対して北田 亮氏は,触覚による認知の神経基盤を研究する端緒を開き,心理物理学的手法とfMRIを用いた一連の研究によって,物体の認識に関わる脳内メカニズムを解明してきた。まず,物体の粗さのような素材的属性と方位のような空間的属性が,脳内で分散的に処理される可能性を示した。分散処理された属性は統合されて物体の認識に至ると考えられるが,この過程において,専ら視覚に関わるとされていた大脳の腹側視覚経路が関与することを明らかにした。また触覚によって顔や身体部位が認識できることを発見し,生まれつき目の見えない人でも顔や手による動作の理解が可能であること,この動作の理解に関わる脳内ネットワークが,視覚経験に関係なく発達することを示した。これらの研究成果は,“脳で触覚入力はどのように処理されるのか”という知覚心理学の問題に光を当てただけでなく,“顔や身体部位の認識に視覚経験はどの程度必要なのか”という発達心理学の問題を理解する上で重要な知見をもたらした。これらの知見の重要性は,触覚という狭い分野にもかかわらず,同氏の論文が多数引用されていることからも明らかである。以上のことから,国際賞奨励賞の授賞にふさわしい研究者と判断した。
山本 真也 神戸大学大学院 国際文化学研究科 業績リスト 業績紹介
授賞理由:山本真也氏はこれまで,チンパンジー属2種(チンパンジーとボノボ)にヒトを加えたヒト科3種の比較研究を通し“人間とはなにか”の解明に取り組み,チンパンジーとボノボを本来の野生環境と実験室の双方で研究するという,他の追随を許さない研究スタイルを確立している。その結果,“要求に応じるチンパンジー,自発的に助けるヒト”という事実をたくみに実証している。チンパンジーは利他的に他者を助け,しかも相手の状況に合わせて柔軟に適切な手助け行動をとることができるが,援助対象者からの要請がない限り自発的に援助行動を示すことがないという事実である。この知見は,チンパンジー属とヒトの差異は認知能力よりもむしろ自発性にあることを示唆しており,ヒトの協力行動の進化について考える上での重要な情報を提供している。また山本氏は,食物分配場面でボノボは他者に寛容でチンパンジー非寛容だという,チンパンジー属の中での顕著な違いを発見しており,社会的知性と道具的知性,さらにはその相互作用を進化的視点から解明するという従来の日本の霊長類研究の蓄積を活かしつつ,日本発の新しい心理学的国際貢献を進めている。その研究成果は,社会心理学・発達心理学・進化心理学・行動経済学・神経生理学・生態学・人類学など幅広い分野に影響を与えている。また山本氏の研究成果は,国内外のメディアにおいても数多く取り上げられている。

平成26年(第9回国際賞授賞者)

特別賞 松沢 哲郎 京都大学霊長類研究所
授賞理由:松沢哲郎氏は,これまで,チンパンジーのこころに関する研究を約40年弱にわたって推進してきた。人間の認知機能とチンパンジーの認知機能を比較し,私たち人間のこころの進化を解き明かし,“人間とは何か”という問いに答えるべく“比較認知科学”という極めてユニークな学問領域を創出し,その推進役として現在も精力的に研究をすすめている。氏は,対象となるチンパンジーをより深く理解するために,実験参加個体の名前を冠した“アイ・プロジェクト”として有名な,実験室での認知実験研究だけでなく,アフリカの野生チンパンジーの生息地に自ら積極的に赴き,そこに暮らすチンパンジーたちの行動をつぶさに観察し,実験室とフィールド,1個体から社会までを視野に入れたスケールの大きな研究スタイルを確立した。現在では,このようなアプローチを当たり前のものとして受け止め,実験室と野外を軽やかに往来する若い研究者を数多く育ててきた。
このような,きわめてユニークなアプローチの中から,チンパンジーにおけるシンボルの利用や数の理解,人間とは異なる優れた記憶能力の発見,野外実験を駆使した道具使用行動の詳細な研究など,霊長類学,比較認知科学,ひいては心理学に多大な影響をもたらす成果を次々と見出してきた。
また,氏は,対象となるチンパンジーの福祉や保全に積極的にかかわってきたことでもパイオニアであるといえる。SAGA(アジア・アフリカの大型類人猿を支援する集い)という,研究者・飼育関係者・保全関係者によるコンソーシアムを組織し,動物福祉的な観点から,日本でのチンパンジーの侵襲的な医学実験の停止に尽力し,2012年には日本から医学実験施設に暮らすチンパンジーが0になった。また,アフリカ,ギニアにおいても分断しているチンパンジー生息地を植林によって接続しようという“緑の回廊”プロジェクトを推進して
いる。さらに現在,国際霊長類学会会長としても精力的に活動をされている。 このようなたぐいまれなる業績に対して,2004年には紫綬褒章,そして2013年には文化功労者を受賞している。
さらに,2009年には,京都大学霊長類研究所において国際共同先端研究センターを設立し,その初代センター長になり,2014年からは日本学術振興会の博士課程教育リーディングプログラム“京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンスリーディング大学院”のコーディネータとして国際的な人材育成を推進している。また,日本学術会議会員,最先端研究基盤支援事業“心の先端研究のための連携拠点構築”の代表者として,本領域の国際化と日本全体を視野に入れた研究基盤の確立にも尽力されている。
氏の活動は心理学のみならず広く日本の学術の国際化に多大な貢献をもたらしてきたといえるだろう。

功労賞 大野 僩 York University (Toronto, Canada)
Distinguished Research Emeritus Professor
授賞理由:Hiroshi Ono(大野僩)氏は中学まで京都で過ごし,その後渡米して心理学の研究者となった。現在はヨーク大学に在籍しカナダ国籍であるが,ポスドク研究員や在外研究員等として多くの日本人を受け入れるなど,日本人研究者の国際化に多大な貢献をしてこられた。また,客員として日本の多数の大学・研究所に滞在されている。専門は知覚心理学で,視覚による奥行き知覚に関する幅広い研究に携わり,特に,動きによる奥行き構造の知覚(運動視差)や視方向の知覚に関する心理物理学的研究の第一人者として知られている。心理物理学の教育にも注力し,数々のビデオやコンピュータ教材を発表している。また,工学,眼光学などとの共同研究も積極的に行い,心理学の学際的なプレゼンスを高めてきた。
その厳しさとおおらかさを兼ね備えた人柄は世界で広く親しまれている。親しい友人の多くは今や各国で重要な地位についており,後進の日本人に直接紹介する形のみならず,日本人研究者全般の印象形成という点でも私たちが広く世界で受け入れられる素地を作っていただいた。
日本でいう名誉教授の職につかれた今も,研究・社交の両面でまだまだ現役として活躍し,日本の若手育成にも労を惜しまず取り組む先生の貢献をここに称え,感謝したい。
  • 1960年 Dartmouth College(米) 卒業(B.A.)
  • 1965年 Stanford University (米) 修了 (Ph.D.)
  • 1965年 University of Hawaii (米) Assistant Professor
  • 1968年 York University (加) Assistant Professor
  • 1977年 York University Professor
  • 2004年 York University Distinguished Research Professor Emeritus (-現在)

奨励賞 足立 幾磨 京都大学霊長類研究所 業績リスト 業績紹介
授賞理由:足立幾磨氏は,精緻な実験心理学的手法に基づく動物の知覚実験で,世界的に高い評価を受けている。氏の研究のユニークさは,単に動物の知覚の現象的記述にとどまらず,常に進化の観点から実験結果が考察されている点にある。アカゲザルのサッチャー錯視,チンパンジーの共感覚的知覚を,ともに世界で初めて明らかにした研究などは,霊長類における知覚の進化を考えるうえで,世界的に大きな反響を呼ぶことになった。系統発生的な比較にとどまらず,知覚経験が視覚の発達にどのような影響を与えるかについて,チンパンジーを使って行った一連の個体発生的研究も,心理学のトップジャーナルに掲載されている。最近では,知覚の枠を超えて,言語や社会性の進化に研究の対象を広げ,世界的にも次世代の比較認知科学を牽引する研究者として,大いに期待されている。
出馬 圭世 California Institute of Technology 玉川大学 脳科学研究所 業績リスト 業績紹介
授賞理由:出馬圭世氏は,国際標準の心理学を神経科学に導入し,主に脳機能イメージング法を用いて,心理学および神経科学の進展に,世界的な著しい貢献をした。具体的には,社会的報酬の脳内基盤を世界で初めて明らかにした(Izuma et al.,2008)のを皮切りに,社会的報酬を期待した行動の効用の脳内表現を解明(Izuma et al., Journal of Cognitive Neuroscience, 2010),社会心理学上の最大テーマの一つである認知的不協和の脳内基盤を解明,(Izuma et al., Proceedings of the National Academy of Sciences, USA, 2010),そしてバランス理論に基づき,他者に対する態度が認知的に変容する神経基盤を解明した(Izuma & Adolphs, 2013)。これら一連の卓越した業績は,人間の高度な意思決定の脳内メカニズムについての理解を,短期間のうちに画期的に進展させた。また,自閉症者が他者からの良い評判を得ようという動機づけが低いことを行動実験によって明確に示した業績(Izuma et al., 2011)は,臨床医学的応用や,非定型発達者を理解し受け入れる社会制度の設計にも貢献することが期待できる成果である。出馬氏は,心理学と神経科学とを橋渡しする,学術的ならびに社会的に重要な新分野を国際的に牽引するリーダーの一人として,今後も一層の活躍が期待される。
森口 佑介 上越教育大学大学院学校教育研究科 業績リスト 業績紹介
授賞理由:森口氏の研究テーマは実行機能の発達である。実行機能とは行動を制御し目標志向的行動を実現する能力で,現在,発達心理学では最も注目を集める認知機構のひとつであり,非常に多数の研究がなされているが,ほとんどの研究においてその検討はストループ課題のような特定の問題場面について行われてきた。一方,森口氏は他者の行動を模倣するといった社会的場面において検討し,日本とカナダの幼児ではこの場面における実行機能の働きに相違があることを示すなど,実行機能を広く社会性の発達や自己観の文化的相違という文脈に位置づけたところに,氏の研究の特色があり,独創的な成果として評価される。近赤外分光法(NIRS)を用いて,幼児には困難とされる脳活動の計測を行い,前頭葉の成熟との関連性を探るなど,認知神経科学的手法を取り入れた先駆的研究も手がけている。その成果はPNASやDevelopmental Scienceなどの一流の国際学術誌や国際学会で多数発表されており,いずれも高い評価を受けている。また,国際雑誌において“実行機能の発達”の特集号のGuest editorをつとめたり,2014 年のイギリス心理学会の発達セクションに基調講演者として招待されるなど,研究成果を国際的に発信するだけでなく,海外研究者との国際共同プロジェクトでも,主導的役割を果たしている。こうした研究業績を,日本にいながら堅実に積み重ねている点はおおいに評価できるものである。

選考経過

昨年(2013年)の11月に公募し,今回は,特別賞に4名の推薦があった。また,奨励賞に自薦5名,他薦9名,計14名の応募があった。2月,3月の2回に渡る委員会での審査を行い,特別賞は国際賞選考委員会委員推薦を受けた,松沢 哲郎氏が,業績・経歴の質・量ともに特別賞にふさわしい高いレベルであることが確認され,授賞した。
また,大野 僩氏が,海外において日本の若手研究者の育成に多大な貢献があり,功労賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。
奨励賞は,国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者に授与するものであるが,論文数,掲載誌の評価,代表的な国際誌掲載論文の内容に加えて,研究環境についても配慮した。候補者はいずれもそれぞれの専門性を発揮し,目覚ましい活躍をされている方々であったが,年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に審査した結果,足立 幾磨氏,出馬 圭世氏,森口 佑介氏の3氏が奨励賞にふさわしいと判断され,授賞が決定した。
国際賞の授賞式は,日本心理学会第78回大会会員集会(2014年9月9日)で行った。また,受賞者は同大会(同志社大学)において記念講演を行った。

平成25年(第8回国際賞授賞者)

特別賞 今田 寛 関西学院大学 名誉教授
授賞理由:今田 寛氏の研究テーマは多岐にわたるが,主たる功績は学習と動機づけの心理過程をヒトと動物の適応的・非適応的行動の実験を通じて明らかにしたことである。嫌悪刺激の回避学習など異常行動に関して今田氏が発表した諸論文は国際的に高く評価されており,とりわけ情動反応の学習に関する理論構築は特筆に値する。それらの研究はJournal of Comparative and Physiological Psychology, Integrative Physiological and Behavioral Science, Psychological Bulletin, Animal Learning & Behaviorなど多くの雑誌に掲載された。今田氏は,基礎研究と臨床実践を結びつけるための“科学者―実践家モデル”を初めて日本に紹介し,大学・大学院における心理学教育のあるべき姿を検討し,活発な啓発活動を推進した。また,日本の心理学研究を海外に紹介して心理学の国際化に大きく寄与した。今田氏は,国際心理科学連合(IUPsyS)の日本代表評議員を14年間務め,そのうち8年間は理事として世界の心理学の研究と教育の発展ならびに国際協力体制の構築に努め,日本の心理学者を代表する存在として活躍した。2016年に日本で開催が決定している国際心理学会議(ICP)については,招致委員会のAdvisory Board委員として積極的に活動を行って,招致成功に大いに貢献した。社団法人日本心理学会では,名誉会員に推戴され,2007年には国際賞(功労賞)が贈られている。2011年に瑞宝重光章を受章した。
高根 芳雄 University of Victoria
授賞理由:高根芳雄氏は1970年代以降今日に至るまで,心理学的計量的方法論に関する多数の国際的業績をあげているが,なかでも多次元尺度法の一つとして,現在世界中の多くのプログラムで採用されている最尤法によるALSCALが著名である。高根氏はさらに1987年に,現在広く使われているIRTと因子分析の関連を明らかにした。その他,多変量解析の方法の拡張として制約付き主成分分析,冗長分析の拡張,ニューラルネットワークによる知織の表現法等数々の論文を国際誌に発表してきた。その後心理測定における行列的方法(斜交射影と直交射影)に関心が広がり,内外の雑誌に多くの論文を掲載している。日本行動計量学会からは,それらの功績により1986年に第1回功績賞を受賞している。また,論文審査委員としても,Psychometrika誌(1984年―2009年),Behaviormetrika誌(1980年―現在)で活躍している。1936年にサーストンにより設立された心理測定学会において,高根氏は1986年に日本人として初めて会長(第51代)に選出され,翌年マッギル大学で心理測定学会を開催した。このように,高根氏の心理学における国際貢献はきわめて著しいものがある。
山岸 俊男 玉川大学 脳科学研究所
授賞理由:山岸俊男氏は,心理学的アプローチに社会学的アプローチを融合した手法による,人間の向社会性の研究,信頼の研究,心の文化差の研究などを通して,新しい社会心理学研究のあり方,視点を世界に呈示してきた。また,手法,視点の新しさばかりでなく,実験に基づくその普遍的科学性は,社会心理学そのものの重要性を周辺分野に再認識させる結果となった。
それらの成果は,20に及ぶ著書や200を超える学術論文に結実している。著作について驚くべきは,その数だけでなく,引用件数にあり,総被引用数は7,700を超える。Yamagishi, T. ,& Yamagishi, M. (1994). Trust and commitment in the United States and Japan . Motivation and Emotion. は,引用件数が1,000に迫る勢いである。このことは,山岸氏の仕事がいかに世界の多くの研究者に影響を及ぼしているかを物語っている。
山岸氏の研究が与えた影響は,心理学,社会心理学にとどまらない。氏の研究の中心には,人間社会における利他性についての心理,社会的基盤に関するニッチ構築アプローチがあるが,このアプローチの独創性と意義は,2009年にノーベル経済学賞を受賞したエリノア・オストロムのノーベル賞授与公式理由書の中で,“オストロムの研究に先立つ山岸の研究を顕著な例外とする”と認められており,このことは氏の研究が経済学,政治学分野にも大きな影響を与えたことを示している。
山岸氏は,国内外の数々の学会の理事を務めるとともに,Journal of Personality and Social Psychology(アメリカ心理学会機関紙)を始めとする多くの国際誌の編集委員も歴任している。
これらの幅広い活動にたいして,2004年紫綬褒章が授与された。

奨励賞 河邉 隆寛 日本電信電話株式会社 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 業績リスト 業績紹介
授賞理由:河邉 隆寛氏は,ヒトの視知覚に関する心理物理学的研究を幅広く行ってきた。発表論文の数がきわめて多く内容も多彩で,ここで研究の概要を簡単に紹介することは困難であるが,各研究は堅実な心理物理学的方法論に基づいており,その数ゆえに散逸的にも感じる研究テーマにも徐々に統一的な思想がうかがえるようになってきた。マンガで用いられる動きを表現する線(モーションライン)が動きの知覚に実際に影響する効果を実証した一連の研究を始め,動きや変化を伴う視覚表現がポストディクティブ,つまり時間軸に逆行する後付けの解釈として形成される過程の解明が一つの軸をなすように思われる。数多くの共同研究および単著の論文からは,本人の希有な独創性と実行力がたしかに見て取れる。主に自らの才覚によって質量ともにこれだけの論文を有力国際誌に発表してきたという事実は,本人の国際的な能力を如実に示すものであろう。現職において海外での発表や国際交流の機会が増えており,今後は能力を活かした一層幅広い国際的な活躍が期待できる。まさに奨励賞にふさわしい,将来が嘱望される人材といえよう。
実藤 和佳子 九州大学高等研究院 業績リスト 業績紹介
授賞理由:従来,乳幼児期の社会的認知に関しては,きわめて早期段階から子どもが“ヒト”刺激に対して特異な選好性を示すことが着目されてきたが,授賞者は加えて“like me”,すなわち自身と類同的特徴を有する対象に子どもがさらに特別な関心を向けることに刮目し,それに関する独創的な研究を実に精力的に展開してきている。また,そうした傾向の相対的弱さが自閉症児に存在している可能性を明らかにし,さらに,他者を模倣することが乏しい自閉症児が他者から模倣された場合には他者に徐々に注目するようになり,延いては他者との相互作用や他者理解が促進され得るという興味深い結果を導いている。こうした一連の研究成果は,世界的にきわめて高く評価されており,そのことは授賞者が27歳の折(2008年)に,World Association for Infant Mental HealthよりNew Investigator Awardを得ていることや,若くして既にResearch in Autism Spectrum Disorder誌の編集委員を務めていることなどからも明らかである。授賞者の基本的関心は,社会的認知発達の基礎的研究が今後,進むべき方向性の一つを確かに予示するものであると同時に,自閉症スペクトラムなどの初期兆候の究明や自閉症児に対する発達支援などに対しても豊かな臨床実践的示唆を有するものと言え,授賞者が,今後,この領域における若き国際的リーダーの一人として,さらなる飛躍を遂げることが大いに期待されるところである。
村山 航 Department of Psychology, University of California 業績リスト 業績紹介
授賞理由:村山 航氏は,教育,学習の心理学,特に動機づけの活性化について教育心理学,社会心理学の観点から国際的な研究に取り組まれている。具体的には,数学学力縦断調査から,IQではなく,内発的動機づけ・有能感・深い処理の戦略が学業成績の伸びを予想することを示し,学校や家庭学習の見直しを示唆した研究。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて,アンダーマイニング現象の脳内メカニズムを初めて明らかにし,神経経済学へもインパクトを与えた研究。外的報酬が記憶の固定を促進するとの年来の知見に対して,トリビア課題を導入し,内発的におもしろい課題に対して,報酬金は無駄になることを示し,生態学的妥当性の高い実験パラダイムの重要性を示した研究。他の人に勝ちたい(遂行接近目標)と他の人に負けたくない(遂行回避目標)の心理プロセスの異同を,因子分析,双生児データの行動遺伝学的分析などを通じて,両概念が計量心理学的にクリアに弁別できることを示し,全米教育学会のシンポジウムに結びついた研究。競争原理の導入とパフォーマンスに関する100年来のテーマをメタ分析し,ほとんど関係がないことを“競争対比プロセスモデル”で説明し,更に,メタ共分散構造分析で直接的に検証し,そのマルチメソッドアプローチが高く評価されたなど,研究手法の多様さ,学際性,問題設定の確かさと学会や社会からの高い注目度,学校場面や学習場面への適用について,今後の活躍が期待できる。

選考経過

2013年11月に公募し,今回は,特別賞に3名の推薦があった。また,奨励賞に自薦1名,他薦4名,計5名の応募があった。2月,3月委員会での審査の結果,特別賞の授賞者は業績・経歴の質・量ともに相応しいと認められた,国際賞選考委員会委員推薦の今田 寛,高根芳雄,山岸俊男各氏と決定した。

奨励賞は,国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者に授与するものであるが,論文数,掲載誌の客観的評価および応募時に添付を求めた代表的な論文の内容について審査をおこなった。候補者はそれぞれ専門分野で活躍している方であり,年齢,研究領域,当該研究成果の評価を考慮し慎重に審査した結果,河邉 隆寛,実藤 和佳子,村山 航各氏を授賞者と決定した。

国際賞の授賞式は,日本心理学会第77回大会会員集会(2013年9月18日)で行った。また,受賞者は同大会(札幌コンベンションセンター)において記念講演を行った。

平成24年(第7回国際賞授賞者)

特別賞 東 洋 東京大学
授賞理由:東 洋氏は,日本の教育心理学,発達心理学,教育工学,文化心理学の多岐にわたり,多大な功績がある。幅広い国際的人脈を背景に,日本の心理学を国際的水準に高めるため,国際的活動をされるだけではなく,国際学会に積極的に貢献した。日本で初めて東京で開催した第20回国際心理学会議(ICP1972)では事務局長,続く国際行動発達学会第9回大会(ISSBD)で大会委員長を務め,その功績により2007年度に国際賞功労賞を受賞した。日本の心理学界への貢献の最たるものは,国際共同研究の積極的かつ継続的な推進である。1970年から10年に及ぶ日米の幼児教育に関する共同研究(米国責任者:R.D.Hess教授)では,日本代表として気鋭の発達研究者をまとめ,それまでの海外研究者主導作業の形を排し,全ての点で協議した“共同体制”を行った最初の国際的研究として,先導的業績を残した。この共同研究により,初めて,子育て研究の欧米文化中心的バイアスの存在を指摘し,相対化を迫れたことは,心理学の歴史に刻まれるものである。その後,道徳判断や日常生活スクリプトの研究など次々と精力的に国際比較研究を展開し,優れた業績を上げた。また,幾多の後進を育成した。1987年に開催された国際行動発達学会第9回大会(ISSBD)を端緒とし隣接諸領域の統合化,“発達科学”化の気運を高めた。さらに日本発達心理学会を創設し学際的共同研究を進めることになった点も,今日の心理学の国際化に脈々とつながる大きな貢献である。

功労賞 福原 眞知子 常磐大学
授賞理由:福原眞知子氏の,専門の学問領域は,カウンセリング心理学,臨床心理学であり,実践領域としては,カウンセリング,心理療法,サイコエデュケーション等の研鑚を重ね,心理教育,カウンセリング実践の分野で優れた業績をあげた。特に国際応用心理学会(IAAP)に関しては,1994-2010年の間,理事を務められ,日本心理学会とIAAPの間の懸け橋として,日本心理学会の国際化に貢献した。また,早くから国際心理学者会議(ICP)のメンバーとして,日本の心理学者の活動領域の拡大に貢献した。その他,Elizabeth Nair(IAAP理事),David Ho(元ICP会長),D.C.Spielberger (IAAP元会長,APA元会長),また,昨年には,J.Prieto (IAAP理事,IUPsyS理事)を招聘し,日本心理学会の会員との交流の場を提供し,日本の国際関係強化や交流の拡大などに大きな貢献を果たした。さらに,1985年に,共同研究者であるA.E.Iveyが創始したマイクロカウンセリングの日本での継承・発展を目的に日本マイクロカウンセリング研究会(2008年より学会)を創設,数回にわたりIvey夫妻を招聘し,日本におけるマイクロカウンセリング,マイクロカウンセリング技法,技法を適用しての発達カウンセリング・心理療法などの普及につとめた。また,本学会国際委員会委員も務め,多くの国際的な活動や経験に基づき,大きな貢献を果たした。このように,福原眞知子氏は,国内はもとより,国際的な学術交流に,公的にも私的にも労を惜しまず貢献している。

奨励賞 中田 光紀 米国疾病予防センター・国立労働安全衛生研究所 業績リスト 業績紹介
授賞理由:最近の研究は,産業・組織心理学領域の臨床的研究であり,勤労者の心身疲労やストレスと細胞免疫の関係,睡眠と抑うつとの関係などを扱っている。複数の免疫指標と職業性ストレス指標,“精神的・物理的報酬の不均衡”,さらに職務満足感との関係を調査した研究であり,特定の免疫指標がストレス要因と有意な相関関係にあることを明らかにしている。日本の産業・組織心理学領域では見られないアプローチである。中田氏は,精神神経免疫学を主とする医学・生理学分野へのよりコミットした研究を展開しているが,職務満足感など心理学分野での重要な変数も扱っている。IFの高い国際誌に採択された論文・著書は67篇あり,その大半が筆頭著者である。大型国際プロジェクトを動かせる能力をアメリカの研究センターで発揮しており研究統括者としての手腕を高く評価できる。このような研究テーマ,研究アプローチに基づく研究は少ないので,後進の研究者に新たな視点を提供し,当該領域の研究の活性化に寄与するところ大である。
明和 政子 京都大学教育学研究科 業績リスト 業績紹介
授賞理由:チンパンジー,ヒトの胎児および幼児などを対象とした認知の進化・発達について興味深い研究が多い。国際的に高い水準の研究を展開できる能力はこれらの業績によく示されている。京大霊長類研究所において松沢哲郎氏を中心にして継続的に行われているヒトとチンパンジーの認知に関する比較研究の一翼を担う若手の研究者で,そのチームの研究の蓄積を背景に,優れた研究成果を国際的な場で発表し続けてきている。他者の行為認知・模倣やそれを通じた意図理解について,巧妙な実験を用いてヒトとチンパンジーを比較し,その進化までをも見通してひろく議論している点であり,人間理解の独自で重要な視点を提供している。その切れ味は鋭く,ロボティクスや脳科学など
結城 雅樹 北海道大学文学研究科 業績リスト 業績紹介
授賞理由:北米と東アジアの集団行動の質的違いをシステマティックなモデルから指摘した世界初の論文,見知らぬ他者に対する信頼の文化差を検証した初めての論文,文化心理学と神経生理学の知見から従来見過ごされてきた文化差の初の指摘など,従来の常識を打ち破る研究が多く,国際的な反響を得ている。(1)氏が文化心理学の領域で,新しい研究手法も取り入れながら,成果を蓄積し,精力的に国際学会で発表していること,(2)自分達の研究のみならず,国際的舞台での著書の執筆担当などでも活躍されていること,(3)研究のまとめとしては,適応過程を文化と進化の視点から,社会生態学的な環境適応方略として理論構築を試みている。また,“関係流動性”という視点から対人関係を理解する枠組みを構築すべく精力的に研究をおこなっており,その研究成果は国際的に広く注目されている。こうした研究業績を基礎として,アジア社会心理学会の活動の中で日本人として重要な役割を担ってきたことも評価に値する。このことは,アジアを中心とした社会心理学者,文化心理学者のネツトワークの中で,氏が重要な地位にあることを示しており,日本の心理学の発展に寄与している。文化普遍性を説明する人間の関係性をダイナミックに予測し,説明することに挑む研究者であると高く評価できる。
渡辺 はま 東京大学教育学研究科 業績リスト 業績紹介
授賞理由:近年は,乳児の運動制御や感覚能力の発達に関して,行動および近赤外分光法による脳活動を指標としてデータをていねいに積み重ねており,この積み重ねで生後3か月の間に起きる大きな発達的変化について,一般性の高い理論が構築されることが期待される。心理学の基礎を背景に,行動的な手法と脳科学の手法を駆使できる国際的な研究者として,授賞に値する。脳科学の最先端の領域に,いい意味で,伝統的な心理学の発想と方法論を保持しつつ切り込んでいるところにあり,得てして知見の先駆性だけの競い合いになりがちな脳科学の分野において,少なくとも,長期的な意味で心理学の理論的発展におそらく資するであろう考究がしっかりとなされている。また,元来,主に成人の記憶研究において確かな実績を残してきたということからしても,幅広い心理学的視野を有していることが窺え,今後は,現在の乳児の知覚・運動という主テーマを超えた国際的活躍も大いに期待し得る。

選考経過

昨年(2011年)の11月に公募し,今回は,特別賞1名,功労賞1名の推薦があった。また,奨励賞に自薦5名,他薦3名,計8名(昨年と同数)の応募があった。2月,3月の2回に渡る委員会での審査を行い,特別賞は国際賞選考委員会委員推薦を受けた,東 洋氏が,業績・経歴の質・量ともに特別賞にふさわしい高いレベルであることが確認され,授賞した。
功労賞の福原 眞知子氏は国際会議の運営,国際的学会活動および日本の心理学界の国際化への貢献度などを,これまでの授賞者の貢献度等とも勘案したうえで,慎重に審議した結果,授賞を決定した。

奨励賞には,国際的に優れた業績を持つ中堅・若手心理学者に授与するものであるが,論文数,掲載誌の客観的評価に加えて,応募時に添付を求めた代表的な国際誌掲載論文の内容についても審査を行った。候補者はいずれもそれぞれの専門性を発揮し,目覚ましい活躍をされている方々であった。年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に審査した結果,中田 光紀,明和 政子,結城 雅樹,渡辺 はまの4氏が授賞にふさわしいと判断され,授賞を決定した。

国際賞の授賞式は,日本心理学会第76回大会会員集会(2012年9月10日)で行った。また,受賞者には同大会(専修大学 川崎市)での記念講演を依頼し,講演が行われた。

平成23年(第6回国際賞授賞者)

奨励賞 蘆田 宏 京都大学准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:蘆田 宏氏は,運動視の領域で心理物理学およびfMRIによる卓越した研究を行い,その成果は評価の高い国際誌に数多く掲載されている。注目すべきは,そうした論文の多くが,海外の様々な大学の著名な研究者との共同研究であり,研究を介した地道かつ深い交流が,彼個人の研究成果として結実しているだけでなく,日本の知覚研究を海外に知らしめることにもつながっている点である。その延長上に,国際的専門誌Perceptionの編集業務もあるのだろう。さらに,日本国内においても,海外の研究者を招いての国際ワークショップやセミナーをしばしば主催し,国内の研究者に海外研究者との交流の場を提供してきた。日本を代表する知覚研究者としてはもちろん,国際交流の実践家としても,国際賞奨励賞に相応しいと判断した。
佐藤 弥 京都大学特定准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:佐藤 弥氏は,顔,特に表情や視線処理にまつわる対人相互作用に関して,実験心理学的・脳科学的な検討を行い,評価の高い国際誌に次々とその成果を発表してきた。公刊された英文の原著論文の数は,30代後半の若手心理学者の中で,群を抜いて多い。方法的にも,認知心理学的手法に加えて,fMRI,MEG,EEG,筋電等の多彩なアプローチを用いており,またその研究対象は,健常成人に加えて,脳損傷患者,広汎性発達障害者,非行少年,統合失調症患者など,広範囲にわたっている。基礎研究から応用的な研究までをカバーするこうした視野の広さも,氏の研究の特色である。その圧倒的な発信力で日本の心理学の国際化に大きな貢献をした佐藤氏は,わが国を代表する若手認知心理学者として,国際賞奨励賞にふさわしいと判断した。
島津 明人 東京大学准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:島津 明人氏は,早稲田大学文学部心理学専修を卒業され,現在,東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の准教授として勤務している。
島津氏の研究は,労働者の精神的健康に関するものである。この領域での研究は,これまで主として公衆衛生学の研究者が行ってきたが,島津氏は,心理学の立場から,心理学の方法論をもって,このテーマに一貫して取り組んでこられた。こうした基礎的な調査研究の土台の上に,ワーク・ストレスを改善して,労働者のWell-beingの向上をめざす研究を行ってきた。その成果は,国際誌の論文 27 編(うち第1著者としての論文が16編),英語著書2編などとして発表されている。本委員会では,研究成果を積極的に発表している点はもちろんのこと,産業保健心理学という新たな分野をわが国に定着させ,その実践を育てるために多方面から貢献している点が高く評価され,国際賞奨励賞にふさわしいと判断した。

選考経過

特別賞については,国際賞選考委員会内部で推薦し,議論したうえで決定することになっているが,今回は,過去2年間に続き,該当者なしとの結論に至った。

功労賞に自薦1名,奨励賞に自薦5名他薦3名計8名の応募があった。功労賞については,応募者の国際的な活動内容,日本の心理学ワールドへの貢献度などを,これまでの授賞者の貢献度等とも勘案したうえで,審査を重ねたが,授賞を見送りとなった。

奨励賞については,論文数,掲載誌の客観的評価に加えて,応募時に添付を求めた4-5編の代表的国際誌掲載論文の内容についても審査を行った。候補者はいずれもそれぞれの専門性を発揮し,目覚ましい活躍をされている方々であった。年齢,研究領域,当該研究成果の専門領域等での評価なども考慮して慎重に審査した結果,蘆田 宏氏,佐藤 弥氏,島津 明人氏の3氏の研究業績が授賞にふさわしいと判断した。

国際賞の授賞式は,日本心理学会第75回大会会員集会(2011年9月14日)で行った。また,授賞者には同大会(日本大学)での記念講演を依頼し,講演が行われた。

平成22年(第5回国際賞授賞者)

功労賞 坂野 雄二 北海道医療大学教授 業績リスト
授賞理由:坂野雄二氏は,日本の行動療法・認知行動療法のパイオニアのひとりである。国際行動医学会の理事を2001年から7年間にわたり,また世界行動療法認知療法会議のアジア代表を1995年から10年以上にわたり務めた。この間,2004年に世界行動療法認知療法会議をアジア地区として初めて神戸に誘致することに成功し,科学プログラム委員長として大会を成功に導いた。また,2008年の国際行動医学会大会では,準備委員会委員長を務め,大会を牽引した。海外の臨床心理学者との広いネットワークを利用して,数多くの国際臨床ワークショップを開催し,我が国の認知行動療法の普及に大きな功績を残した。坂野氏は我が国の臨床心理学の科学化,国際化,現代化を通じて,基礎心理学と臨床心理学を結びつけることに,大きな貢献を果たしたといえる。よって,国際賞功労賞を授与するにふさわしいと判断された。

奨励賞 平田 聡 林原生物化学研究所類人猿研究センター 主席研究員 業績リスト 業績紹介
授賞理由:平田氏は,飼育下チンパンジーの社会的知性に関して,国際的に注目され,数多く引用される重要な研究を次々に発表してきた。中でも,食物の隠し場所を知っている個体と,その個体がそれを知っていることを知っている個体の間の虚々実々の駆け引きや,道具の使用方法を熟練者から社会的に学ぶ際の的確な情報希求行動,他個体との協力行動に見られる誘いかけなどの詳細を明らかにしたことは大きな貢献である。実験心理学の統制された研究手法を動物の実生活に巧みに取り込み,具体的場面で発揮される彼らの高度な知性と柔軟な行動調整能力を明らかにしてきた点は独創的であり,奨励賞を授与するにふさわしい若手研究者であると判断される。
増田 貴彦 アルバータ大学 assistant professor 業績リスト 業績紹介
授賞理由::増田氏は,文化心理学の領域で国際的に注目を集める気鋭の研究者である。研究面での主な貢献は,“分析的認知”“包括的認知”という認知の文化的特徴を,注意をはじめとする知覚過程に着目しながら実証的に示したことにある。その成果は,他者の態度や感情の推論といった社会心理学的な過程だけでなく,視覚画像の処理といった基礎的な心理過程も,文化的基盤と深い相互関連性を持っていることを示し,心理学の幅広い分野にとって重要な知見をもたらした。これらの研究は一流の国際誌に公刊されて多くの引用を受けている他,海外の教科書にも紹介されるなどの反響を呼んでおり,本賞の授賞にふさわしいと評価された。
齋木 潤 京都大学教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:齋木氏は,視覚認知,なかでも物体表象や視覚性ワーキングメモリに関する認知心理学の領域で,評価の高い国際誌に次々と論文を発表してきた。いずれも,深い知識に基づく緻密かつ重厚な,質の高いものである。方法論的にも,実験心理学に限らず,計算論的モデリングや,機能的脳イメージングを組み合わせて複数の視点から検証を行っており,幅広い領域での成果も特徴と言える。また,数多くの国際学会での発表や講演を通し,あるいは英語による著書により,日本の心理学の国際化に寄与しており,日本を代表する認知心理学者として,国際賞奨励賞にふさわしいと判断した。
齊藤 智 京都大学准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:齊藤氏は,記憶モデル研究に従事し,その成果は実験心理と記憶に特化した,質の高い雑誌に数々の質の高い論文として発表している。主な成果は,短期記憶(short-term memory)と作動記憶 (working memory)のモデルの検証にかかわるものである。言語性短期記憶に関する研究では,言語産出と短期記憶に共通するメカニズムを独自のパラダイムで検討するとともに,両者を支えるタイミング制御機構の存在を行動データで証明することに成功している。作動記憶研究の重要なテーマの一つである作動記憶スパン (working memory span)に関しては,スパン課題が何を測定しているかについて検討する中で,作動記憶内で起こる忘却のメカニズムを特定し,新たな理論的枠組みの提案に成功している。これらの成果の多くは,齊藤氏が主導的に実施してきた国際的な共同研究の成果に基づいたものであり,海外の共同研究者のネットワークを通じ,国際的にも高く評価されている。以上のことから,国際賞奨励賞の受賞にふさわしいと判断した。

選考経過

特別賞は国際賞選考委員会内部で推薦し,審議した上で決定することになっているが,今回は,昨年度に引き続き,該当者なしということで見送りとなった。

功労賞には他薦が1件あり,国際的学会活動ならびにその我が国の心理学の国際化への貢献を慎重に評価した結果,推薦された坂野 雄二氏は,授賞にふさわしいと判断した。

奨励賞については,自薦,他薦,1名のキャリーオーバーの候補者を含めて11件の応募があった。論文数,掲載誌の客観的評価に加え,応募時に添付を求めた4-5編の代表的国際誌掲載論文の内容についても審査をおこなった。年齢,研究領域をも考慮に入れた上で,慎重に審査した結果,平田 聡氏,増田 貴彦氏,齋木 潤氏,齊藤 智氏の4氏の業績が,授賞にふさわしいと判断した。なお,本年度は,キャリーオーバー制度を適用しなかった。

国際賞の授賞式は日本心理学会大会会員集会で行った。また,授賞者には大会での記念講演を依頼し,2010年第74回大会(大阪大学)で,講演が行われた。

平成21年(第4回国際賞授賞者)

奨励賞 河原 純一郎 産業技術総合研究所主任研究員 業績リスト 業績紹介
授賞理由:河原氏は,視覚的注意に関する認知心理学的研究で,卓越した国際的業績を挙げている。中でも注意の瞬き現象に関する理論的・実証的研究は瞠目に値し,この現象が生じる原因について,既存の説を覆す斬新なモデルの構築とその実証を行ったこと,これにより,謎であった注意の瞬きの逸失現象を説明しかつ実証したこと,注意が空間的に分割できることを明快に示したこと等は,とりわけ大きな成果である。成果は一流国際誌に次々と公表されており,国際共同研究を主導して世界的にも大きな注目を浴びている。その業績は質量ともに抜きん出ており,国際賞奨励賞の授賞にふさわしいと判断した。
坂本 真士 日本大学教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:坂本氏は,臨床心理学・臨床社会心理学の領域において,評価の高い国際誌に次々に高質な論文を発表してきた。抑うつ尺度に関する基礎的研究,自己注目と抑うつとの関係に関する実証的・理論的研究,反すう型・気晴らし型という反応スタイルと抑うつとの関連性などの研究で優れた業績を挙げており,論文の被引用回数も多い。本邦の臨床心理学領域のリーダーとして,その国際化に大きな貢献をなしてきたと認められる。それに加え,近年では地域の自殺予防活動への実践的取り組み等も行っている。以上のことから,坂本氏は国際賞奨励賞の授賞にふさわしいと判断した。
月浦 崇 東北大学准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:月浦氏は,健常者を対象とした機能的磁気共鳴画像(fMRI)と,脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究という異なったアプローチから,エピソード記憶や,顔と名前の連合記憶を担う脳内メカニズムの解明をおこなってきた。独創的な実験デザインにより,海馬がエピソード記憶の再構成に関与すること,笑顔の顔と名前の連合が,報酬処理に関係する前頭眼窩皮質と海馬の活動に関連すること等を明らかにし,評価の高い国際誌に次々と成果を公表している。方法論的にも的確な,基礎と臨床をつなぐ研究であり,国際賞奨励賞の授賞にふさわしいと判断した。
筒井 健一郎 東北大学准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:筒井氏は,視知覚および高次認知機能に関する生理心理学的研究を行ってきた。主たる研究テーマは立体視機能で,頭頂連合野後部に,両眼視差ときめの勾配という異なった奥行き手がかりに共通するニューロン活動を見いだしたことは,これらの手がかりを統合する神経活動の発見として,とりわけ大きな成果である。また近年では意思決定やその際に働く情動,さらにはそれと性格特性の関係などを前頭葉の活性化から検討するという新しい展開を見せている。これらの成果はいずれも一流の国際誌に掲載されており,国際賞奨励賞を授与するにふさわしいと判断した。

選考経過

特別賞は国際賞選考委員会内部で推薦し,審議した上で決定することになっているが,今回は,昨年度に引き続き,該当者なしということで見送りとなった。

功労賞には応募がなかった。

奨励賞については,自薦,他薦,2名のキャリーオーバーの候補者を含めて8件の応募があった。論文数,掲載誌の客観的評価に加え,応募時に添付を求めた5篇の代表的国際誌掲載論文の内容についても審査を行った。主著論文を中心に評価を行ったが,対応著者(corresponding author)にも配慮した。年齢,研究領域をも考慮に入れた上で,慎重に審査した結果,河原 純一郎氏,坂本 真士氏,月浦 崇氏,筒井 健一郎氏の4氏の業績が,授賞に相応しいと判断した。また,1名の方をキャリーオーバー制により,来年度の奨励賞の審査対象者とすることに決定した。

国際賞の授賞式は日本心理学会大会で行った。また,奨励賞の授賞者には,大会での記念講演を依頼し,2009年第73回大会(立命館大学)で,講演が行われた。

平成20年(第3回国際賞授賞者)

功労賞 祐宗 省三 広島大学名誉教授
授賞理由:祐宗先生は国際心理学者協会(The International Council of Psychologists, ICP)の活動を通じて,日本の心理学の国際化に努力されました。1999年には先生の功績が認められて,ICPの元会長との連名で「祐宗・ベイン研究奨励賞」が創設されました。この賞は若手研究者の育成のための賞で,これまでに日本人を含む世界の若手研究者7名に授賞しております。心理学の発展に貢献された祐宗氏の功績をたたえ,日本心理学会国際賞功労賞を授与します。

奨励賞 星野 崇宏 産業技術総合研究所主任研究員 業績リスト 業績紹介
授賞理由:星野氏の研究テーマは計量心理学で,従来よく利用されている因子分析,共分散構造分析などと異なり,共変量と従属変数間の回帰関数を仮定しない傾向スコアを用いた「傾向スコアによる重み付きM推定法」を提案しています。この方法により,共分散構造分析モデルや項目反応理論などでの潜在変数上の因果効果が解析可能となりました。また,顔の表情に基づく情動の評価やその知見に基づくパーキンソン病患者の脳損傷部位の推定など,幅の広い研究も行っています。星野氏は32歳ですが,多くの論文をレベルの高い雑誌に発表されており,国際賞奨励賞の授賞に相応しいと判断しました。
今水 寛 ATR研究室長 業績リスト 業績紹介
授賞理由:今水氏はヒトを対象とした行動実験とfMRIを使った実験に基づいて,川人氏の小脳学習モデルを高次学習モデルへと発展させました。学習する領域を小脳のみならず,大脳と小脳の連関,そして前頭葉や頭頂葉も含む脳全体のネットワークへと広げられました。ヒトは複数の感覚と運動の関係を同時に学習し,学習したことを素早く切り替える能力があります。今水氏は心理学の大学院時代に始まる感覚運動学習を基礎にして,このヒトの高次脳機能の解明をされました。多くのすぐれた論文を発表されており,国際賞奨励賞の授賞に相応しいと判断しました。
松井 三枝 富山大学准教授 業績リスト 業績紹介
授賞理由:松井氏は統合失調症患者の認知機能障害に関心を持ち,その臨床研究に携わってきました。1990年代には統合失調症の眼球運動を検討し,その成果を国際誌に発表されました。その後,心理学者として,認知機能障害を検討するための神経心理学的検査の開発と検討,および障害のメカニズムを記憶や社会的知識の構造より理解することに取り組んでおられます。最近は脳画像による知見との関連も検討されておられます。これらの研究は,多くの国際誌に発表されております。臨床現場での心理学者の研究活動には多くの困難があると思われますが,松井氏は心理学を背景に統合失調研究グループで重要な役割を果たしておられます。以上の理由で,国際賞奨励賞に相応しい判断しました。

選考経過

特別賞は国際賞選考委員会内部で推薦し,審議した上で決定することになっているが,今回は該当者なしということで見送りとなった。

功労賞は2氏の応募があったが,祐宗省三(広島大学名誉教授)が国際心理学者協会(The International Council of Psychologists, ICP)などの活動により,国際交流等に顕著な貢献があり,授賞にふさわしいと結論された。

奨励賞については,自薦,他薦を含めて7件の応募があった。論文数,掲載誌の客観的評価に加え,応募時に主な論文の別刷の添付を求め,それらの論文内容についても審査を行った。また,業績が量的に少ない若手の研究者等についても配慮し,量のみの評価にならないよう考慮した。さらに,研究領域も考慮した。その結果,星野崇宏,今水寛,松井三枝の3氏の業績が授賞に相応しいと判断された。また,2名の方をキャリーオーバー制により,来年度の賞の審査対象者とすることとした。

国際賞の表彰式は日本心理学会大会で行い,特別賞,奨励賞の授賞者には大会で記念講演を依頼することになっている。2008年の北海道大学の第72回大会では2007年, 2008年の授賞者の講演が行われた。

平成19年(第2回国際賞授賞者)

特別賞 大山 正 元東京大学教授,日本大学教授
授賞理由:大山氏は視知覚を中心とする実験心理学,心理学研究法,心理学史の専門家であり,多数のすぐれた成果をあげられている。1952年から2007年に出版された130編の論文の中で,英文論文が67編を占めており,それらの論文はInternational Journal of Psychology, Perception, Psychological Research, Vision Research, Psychological Bulletin, Psychologia, American Journal of Psychology, Perception & Psychophysics, Psychological Research, Empirical Studies of Arts など多くの海外の学術誌に掲載され,海外に研究を発信してこられた。また,Japanese Psychological Research に掲載された論文も多く,2007年49巻では錯視についての特集号を編集されている。1990年京都で開催された国際応用心理学会議では実行委員会副委員長を務められ,会議の成功に大きな貢献を果たされた。さらに2007年10月開催される予定の国際心理物理学会議でも,Recent attempts and versatile applications of multi-dimensional psychophysicsという特別セッションを行場教授とともにオーガナイズされるなど現在も広く国際的に活躍されている。

功労賞 曻地三郎 社会福祉法人しいのみ学園理事長・園長
授賞理由:
  • • 1970 韓国の障害児教育と心理学教育の推進
  • • 2002 中国の障害児教育と心理学教育の推進
  • • その他 コロンビア大学,ハワイ大学,中国長春大学,華東師範大学,ユネスコ本部幼児教育指導部で日本的な臨床心理学研究の紹介と普及
東 洋 東京大学名誉教授・清泉女学院大学教授
授賞理由:
  • • 1972 第20回国際心理学会議組織委員・幹事・事務局長
  • • 1974 国際心理科学連合記念基金運営委員会副委員長
  • • 1980-1988 国際心理科学連合理事
  • • 1988-1992 国際心理科学連合理事・副会長
  • • 1984 国際行動発達学会副会長
  • • 1990 国際応用心理学会議国際心理学会連絡委員長
  • • 1999 日本心理学会国際委員会設置
今田 寛 広島女学院大学学長
授賞理由:
  • • 1990 国際応用心理学会議国際交流委員長
  • • 1990 国際心理科学連合日本代表代議員
  • • 1992-2004 国際心理科学連合理事
  • • 1996 国際心理学会議シンポジウムオーガナイザ

奨励賞 今井むつみ 慶應義塾大学環境情報学部 教授 業績一覧
千住 淳 ロンドン大学バークベックカレッジ心理学科リサーチフェロー 業績一覧
本吉 勇 日本電信電話株式会社 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 研究主任 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 連携講座准教授 業績一覧

選考経過

特別賞は国際賞選考委員会内部で推薦し,審議した上で決定することになっているが,今回は元東京大学・日本大学教授大山正氏が推薦され,業績,経歴等を検討した結果,質・量ともに特別賞にふさわしい高いレベルであることが確認された。

功労賞はしょう地三郎,東洋,今田寛の3氏の推薦があり,いずれも国際会議,国際交流等に顕著な貢献があり,授賞にふさわしいと結論された。

奨励賞については,自薦,他薦を含めて7件の応募があった。論文数,掲載誌の客観的評価だけでなく,応募時に主な論文の別刷の添付を求め,それらの論文内容についても審査を行った。また,業績が量的に少ない若手の研究者等についても配慮し,量のみの評価にならないよう考慮した。さらに,キャリーオーバー制度を設け,今回の授賞対象にはならなかったが優れた業績のある応募者については,本人の了解を得た上,来年度の賞の審査対象とすることとした。

国際賞の表彰式は日本心理学会大会で行い,奨励賞の授賞者には大会で小講演を依頼することとし,2007年の大会では2006年の授賞者の小講演が行われる予定である。

平成18年(第1回国際賞授賞者)

特別賞 印東太郎 カリフォルニア大学アーヴァイン校,慶應義塾大学名誉教授
授賞理由:先生は日本における数理心理学の草分けで,視空間,色彩空間,記憶など多くの領域で,理論的な数理モデルを構成し,それをデータに当てはめてその検証を行い,優れた成果を挙げられた。それらの研究は,Psychological Review, Journal of Experimental Psychology, Journal of Mathematical Psychology, Perception and Psychophysics, Proceedings of the National Academy of Science, Color Research and Applicationなど多くの雑誌に掲載された。また,数多くの論文をJapanese Psychological Researchに発表し,その価値を高めた。

功労賞 本明 寛 日本健康心理学会理事長,早稲田大学名誉教授
授賞理由:
  • • 1990国際応用心理学会議の開催と運営
  • • 1993国際健康心理学会議の開催と運営
  • • 2000アジア健康心理学会議の設立
成瀬悟策 吉備国際大学教授,九州大学名誉教授
授賞理由:
  • • 1987国際イメージ学会第3回大会の開催と運営
  • • 1987第1回アジア催眠学会議の開催と運営

奨励賞 亀田達也 北海道大学教授 業績一覧
村上郁也 東京大学助教授 業績一覧
西田眞也 NTTコミュニケーション科学基礎研究所主幹研究員 業績一覧
渡邊克巳 東京大学助教授 業績一覧