心理学 Q & A

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Q8.なぜ方向オンチの人とそうでない人がいるのでしょうか?

私はとても方向オンチです。はじめてのお店に出かけるときよく迷ってしまいます。逆に,はじめての場所のはずなのに,「きっとこっちの方向だ」と自信をもって歩き始めて,まったく迷わないという人がいます。なぜこのように方向オンチの人とそうでない人がいるのでしょうか。また女の人に方向オンチが多いというのは本当でしょうか。

A.新垣紀子

生得的な要因による説から,社会的ラベリングにすぎないという説まで多様な考え方があります。
(1)空間能力説:向きの異なる2つの物体の絵を見て異同の判断をする課題には個人差があることが知られています。街の中の移動をするときにはイメージ操作が必要で,道順を覚える能力とも相関があることから,この課題で測れるような空間能力の高低が方向オンチかどうかに関係するというのです。この種の空間能力は生得的な能力だと考える人もいます。
(2)知識の違い説:最寄り駅から自宅までの道筋を考えるとき地図のような俯瞰図的なイメージを思い浮かべる人と,「郵便局を右に曲がって…」のように移動中の自分の視点でルートを順に思い浮かべる人がいます。前者で使われる知識をサーベイマップ的知識,後者をルートマップ的知識といいます。移動時にサーベイマップ的な形で情報をもてる人のほうが迷いにくいという報告があります。
(3)問題解決方略説:全体を見渡せる地図から道順を覚えるときに,道路名や配置を中心に学習する人は,道路上に何のお店があるかを中心に覚える人より早く覚え,実際の移動中に道順を学習するときには,建物などのランドマークに着目する人のほうが,道を歩いている人など固定的でないものに注目する人より迷いにくい傾向があります。移動に役立つ情報を覚えるという問題解決方略の有無が差を生んでいるという考えです。
(4)社会的ラベリング説:道に迷うから方向オンチなのではなく,自分に方向オンチというラベルづけをした結果その能力が低下するという考えです。たとえば,女性に方向オンチという自己意識をもつ人が多いことが知られています。自分はオンチだからと移動時に人に頼ることを続けていれば,移動能力は低下してしまうでしょう。

方向オンチかどうかは上のすべての要因が絡み合っているものと考えられます。基礎的な空間能力には確かに個人差がありますが,それだけで方向オンチかどうかが決まるとは思えません。なぜなら街の中には,標識や地図,ほかの情報もあり,私たちはそれらを利用しながら移動しているからです。その情報をうまく使うためには,経験や学習も必要でしょう。街の中での移動能力は,基礎的な能力の違いだけではなく,経験した知識をどのように蓄積しているか,それらをどのように利用しているかによって総合的に決まると考えられます。

文献

キムラ D. 野島久雄・三宅真季子・鈴木眞理子(訳) 2002 女の能力,男の能力―性差について科学者が答える― 新曜社
松井孝雄 2004 空間認知 日本児童研究所(編)
児童心理学の進歩43 金子書房
新垣紀子・野島久雄 2001 方向オンチの科学 講談社ブルーバックス

しんがき のりこ
成城大学社会イノベーション学部助教授。
専門は,認知科学。
主な著書は,『方向オンチの科学』(講談社)など。

心理学ワールド第29号掲載
(2005年4月15日刊行)