心理学 Q & A

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Q19.携帯電話で話しながら車を運転すると危険なのはなぜ?

私の自動車運転経験は長く,運転には自信があります。会話することは子どものころからしていることですし,携帯電話もずっと前から使っていて,使い慣れています。それなのにどうして自動車を運転しているときに同時に携帯電話で話すと運転がおぼつかなくなり,危険になるといわれるのでしょうか。同乗者と会話するときはそれほど問題を感じないのですが……。

A.河原純一郎

会話や自動車の運転のように,それぞれが慣れていて簡単にできることでも,これらを同時に実行しようとするとうまくできなくなる?このことは私たちの注意する能力の限界を示していると考えられています。

模擬運転装置を使った実験から,運転中に携帯電話で通話すると見落としが増えたり,ブレーキを踏むのが遅れることがわかっています。また,運転中に通話することで事故のリスクは約4倍になるという報告もあります(McEvoy et al.,2005)。こうした問題は,片手が電話でふさがるせいで起こるのではなさそうです。なぜならば,ハンズフリー式電話でも同程度の影響がみられるためです。また,単に聞いたりしゃべったりするせいでもありません。ラジオを聞いたり,音声をオウム返しに繰り返すことはほとんど妨げにならないのです。

むしろこの問題は,注意を運転と電話の内容に交互に切り替えるせいで発生します。慣れているとはいえ,運転と通話はどちらも道路状況や会話内容に注意し,記憶を使ったりして,次にどう反応するかを能動的に決めなければなりません。このような作業をするときは,私たちの脳内で起こる情報処理の中枢部分を使います。認知心理学ではここを中央実行系と呼んでおり,心的作業は一度に1つしかできないという特性をもつと考えられています。したがって,同時に2つの作業をしようとしても,一方の作業が終わるまで,もう一方の作業の開始ができず,待たされてしまいます。この遅れは私たちの情報処理能力の限界を反映しており,心理的不応期と呼ばれています。このせいでいったん会話の内容に引き離された注意はすぐには運転場面に戻らず,見落としが増えたり,ブレーキが遅れるのでしょう。

同乗者は道路状況がわかるため,危険そうな場面では一時的に会話を控えることができます。一方,携帯電話で話す場合は,相手は状況にかかわらず話し続けてしまいます。これが同乗者との会話と,携帯電話での通話の大きな違いを生んでいると思われます。

現在は通話のために使用しながらの運転だけでなく,電話の表示画面を注視することも道路交通法で禁止されています。携帯電話の使用が関わる交通事故があとを絶たないため,平成16年11月から違反の罰則が厳しくなりました。通話も運転もそれぞれが慣れたことなので,同時にできるだろうと,私たちは自分の注意能力を買いかぶる傾向にあります。自動車も携帯電話も便利な道具ですが,残念ながら私たちの認知機構はこれらを同時に使いこなせるほど万能ではないようです。

文献

McEvoy, S. P., Stevenson, M. R., McCartt, A. T., Woodward, M., Haworth,C., Palamara, P., & Cercarelli, R.(2005). Role of mobile phones in motor vehicle crashes resulting in hospital attendance: A case-crossover study. British Medical Journal, 331, 428-430.

かわはら じゅんいちろう
産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門主任研究員。
専門は,知覚・認知心理学。
主な著書は,『新編感覚・知覚ハンドブック増補版』(分担執筆,誠信書房)など。

心理学ワールド第35号掲載
(2006年10月15日刊行)