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悪質商法にひっかかるのはなぜ?
新聞やテレビで,「○○商法の被害拡大」「××商法の業者摘発」といったニュースをよく目にします。こういった悪質商法は昔からあるそうですが,なぜ,いつまでたっても同じような悪質商法の被害が後を絶たないのでしょうか。だまされやすい被害者の側に何か問題があるのでしょうか。それとも,だます業者に特別な勧誘のテクニックがあるのでしょうか。
A.中谷内一也
悪質商法の被害者に性格検査への回答を求め,一定の性格傾向があるのかどうかを調べた研究というのは,おそらく多くはないでしょう。ただ,悪質商法はターゲットを絞ってアプローチをしてきますので,特定の属性をもつ人が狙われやすいということはあります。たとえば,不幸はすべて悪行を犯した祖先の因縁のせいであるとして,高額な印鑑や壺を売りつける霊感商法では,身内の突然の死といった不幸な経歴をもち,本人の裁量で動かせるお金をもった高齢者が狙われやすいようです。公的資格が必ず取れると偽って,資格取得講座に登録させる資格商法では,かつて資格取得にチャレンジしながら挫折した人がターゲットにされます。
しかし,そういった個人差要因よりも,注目すべきは悪質業者の巧みな勧誘テクニックです。たとえば,街頭で若い女性に声をかけ,事務所に連れていき,最終的には数十万円のエステサロンの会員契約をさせるキャッチセールスをみてみましょう。声をかけるキャッチャーはいきなり事務所に誘ったり,エステを売り込んだりしません。まずは,「アンケートへの協力をお願いします」と気軽な雰囲気で声を掛けてきます。それに応じてしまうと,次は商品を差し上げるので,と事務所へ案内され,それについていくと,エステの説明を聞かされ,最後に数十万円の契約が要求されるのです。これは,小さな要求をのませてから要求を上げるフットインザドアと呼ばれる古典的な勧誘テクニックです。また,事務所で説得を担当するエステティシャンは,通常料金なら50万円,などと高い金額を示しておいて,「私の施術料を削って割引きしてあげるから」「私が保証人になってローン払いにしてあげるから」と負担を引き受ける形で譲歩し,契約を迫ります。これはドアインザフェイスという勧誘テクニックです。さらに,割引はキャンペーン期間の今月限り,などと自由を制限されることへの反発,すなわちリアクタンスも利用します。ほとんどの悪質商法で,このように複数の説得テクニックが使われているのです。1つ1つでさえ,高い効果が実証されている説得テクニックが束になって迫ってくるのですから,何も知らない消費者が逃れるのは容易ではないでしょう。
文献
中谷内一也(2000).悪質商法におけるコミュニケーションと消費者行動 竹村和久(編)消費行動の社会心理学 北大路書房 pp.108-117.
なかやち かずや
帝塚山大学心理福祉学部教授。
専門は,社会心理学,リスク心理学。
主な著書は,『リスクのモノサシ』(日本放送出版協会),『消費者理解のための心理学』(分担執筆,福村出版)など。
心理学ワールド第41号掲載
(2008年4月15日刊行)