心理学の歴史

みてみて実感! 心理学史 -第1回-

サトウタツヤ
立命館大学文学部心理学科助教授。

今回から,日本に限定せずに時期も第二次世界大戦後までを含めて心理学史を扱います。

ミルグラムの電気ショック実験

写真はイェール大学のスタンレー・ミルグラム(1933~84)の電気ショック実験で使用された「擬似電気ショック発生器」です。これはアイヒマン実験とも通称されているもので,権威(者)による命令が個人を従属させ,殺人のような重大な結果をもたらしかねないことをシミュレーションしたものとして有名です。

この実験が開始されたのは1961年,ナチスドイツのアイヒマンの裁判が始まった1年後でした。虐殺の責任を問われた彼は命令に従っただけだ,と主張していました。本当にそのようなことは起こり得るのだろうか? というのがこの実験の大きな興味でした。  そして,この実験に使われた「擬似電気ショック発生器」の実物がアクロン大学の心理学史アーカイブに現存しています。ただし実際に電気ショックが発生できるわけではありません。

写真ではわかりにくいですが,一直線に30個のスイッチが並んでいます。それぞれのスイッチにはボルト数が書かれています。いちばん左端は15V。そして,15Vずつ増加していき,いちばん右端は450Vでした。このボルト数は人体にどのような意味をもたらすのか,ということについては,言葉で説明がなされていました。左端は「Slight Shock」で「Very Strong Shock」や「Danger: Severe Shock」を経て右端は「XXX」となっていました。「XXX」は致死をも暗示しています。

実験は大まかにいうと以下のようなものです。「体罰と学習効果の測定」で80名が被験者として参加し,隣室にいる生徒役の回答が間違うたびにより強い電気ショックを与えることを要求されます。もちろん,生徒役に電気は流れていないので苦しんでいるふりをしているだけです。うめき声がやがて絶叫となっても被験者は実験者が「大丈夫です」と言うのにこたえて強くし続けました。最終的に65%の参加者が命の危険がある450Vのショックを与えることになりました。ミルグラムはこの実験をさまざまな状況で行いましたが,61~66%の範囲の人たちが致死の電気ショックを与えたということがわかっています(Blass,1999)。

この実験結果の意義づけは難しいものがあります。しかし,ジンバルドの監獄実験の知見などとあわせて,権威や役割が容易に深刻な暴力的行為につながることを示し,人間観の再構築に大きな影響を与えたといえるでしょう。また,被験者の苦痛という点から,社会心理学分野において実験倫理に関する問題提起がなされた,という点でも画期をなす実験の1つでした。

文献

Blass, T. 1999 The Milgram paradigm after 35 years: Some things we now know about obedience to authority. Journal of Applied Social Psychology, 25, 955-978.
ミルグラムS. 岸田 秀(訳) 1995 服従の心理―アイヒマン実験― 改訂版新装 河出書房新社
(Milgram, S. 1974 Obedience to Authority. New York: Harper & Row.)

心理学ワールド第26号掲載
(2004年7月15日刊行)