心理学の歴史

みてみて実感! 心理学史 -第4回-

サトウタツヤ
立命館大学文学部心理学科助教授。

臨床心理学ブームの中,心理臨床だけでなく臨床教育学とか臨床哲学,臨床政治学などという語もみられます。ウィトマーはどういうつもりでclinicalな心理学をめざしたのでしょうか?

ウィトマーが「clinical」に込めた思い

前々回はヴント(Wundt, W.),前回はビネ(Binet, A.),を取り上げましたが,今回は少し時代をくだって,ウィトマー(Witmer, L. 1867~1956)について取り上げます。

ウィトマーは1867年アメリカのフィラデルフィアに生まれました。ペンシルバニア大学の大学院でキャテル(Cattell, J. M.)の指導を受けていましたが,その後ドイツのヴントのもとで実験心理学を学び博士号を取得しました(1892年)。帰国してペンシルバニア大学に戻り研究を続けていましたが,関心が移り1896年には同大学に世界初の「psychological clinic(心理学的クリニック)」を創設しました。そして大学院生の訓練システムも整えていきました。さらに,1907年には"Psychological Clinic"という雑誌を創刊するに至ります。彼は主として学校で勉強に適応できていない子どもたちに関心を寄せていました。読字障害などです。

では彼は「clinicalな心理学」にどのような意味を込めていたのでしょうか。"Psychological Clinic"の創刊号に自ら執筆した論文(Witmer, 1907)をみてみましょう。彼は「clinical」という語を臨床医学から借りたものであるとしたうえで,医学において「clinical」は,単に場所を示す言葉ではなく,それ以前の哲学的・説教的な医学から脱却するときの方法を示していたと述べています。医学においても患者さんの状態を顧みないで診察治療をしていた時期があったのであり,それを打破するための「clinical」概念だったのです。心理学においても「clinical」が重要だということを彼は以下のように述べています。

「臨床心理学は,哲学的思索に由来する心理学的・教育学的原理への異議申し立てであり,実験室の結果を教室の子どもたちに直接に適用しようとする心理学への異議申し立てである」(Witmer, 1907;サトウ,2003)。

このようにみてみると,臨床という日本語の意味はちょっと狭いと思われます。「clinical」が「ベッドサイドに臨む=臨床」という訳でよいのは医学だけなのかもしれません。医学における方法としてのclinicalが心理学に転用されたとき,それは臨場とか臨人とかそうした訳語がふさわしいのではないでしょうか。

写真はウィトマー本人と1915年ごろと推定されるクリニックの内部です。サマースクールでモンテッソーリ教育の講習会をしているときのようすです。

文献

サトウタツヤ 2003 心理学と社会:心理学領域の拡大 サトウタツヤ・高砂美樹 流れを読む心理学史―世界と日本の心理学― 第3章 有斐閣
Witmer, L. 1907 Clinical Psychology. Psychological Clinic,1, 1-9.
ペンシルバニア大学アーカイブ
http://www.archives.upenn.edu/home/archives.html

心理学ワールド第29号掲載
(2005年4月15日刊行)