心理学の歴史

みてみて実感! 心理学史 -第5回-

サトウタツヤ
立命館大学文学部心理学科助教授。

『Japanese Psychological Research』第47巻第2号(2005)で心理学史の特集号を編集しました。ぜひお読みください。また,海外の方にご紹介ください。

ハーバード大学の心理学実験,ミュンスターバーグ,日本人

心理学史家にとって新しい資料との出合いほど楽しいものはありません。

1994年にハーバード大学の視覚科学研究室を訪問した際,ハーバード大学二代目教授としてドイツから招聘されたミュンスターバーグとその学生たちが撮影された写真を見ることができました。

するとそこに日本人の姿が!大発見か!そのときの私たちはハーバード大学に留学していたある日本人のことを思い起こし,きっとここに写っているのは「中島泰蔵先生の若き日の姿だ!」などと思っていたのでした。ところが,2004年秋に再度訪問してみたところ……。

今回はハーバード大学の図書館で同じ写真を見ることができました。西川泰夫放送大学教授,高砂美樹東京国際大学教授と一緒です。そうしたところ,写真を撮った年が書いてありました。1893年。

「中島泰蔵って留学してたのいつだっけ?」

「確か1906年くらいじゃない?」

「じゃ,このときアメリカにいないはず?」

「それじゃ,ここに写っている日本人はだれ?」

などという会話がなされ(たはず), 「じゃあ,調べちゃおう!」ということになりました。年代というのは歴史嫌いの人にはやっかいなものですが,事実確定をしようとするときには非常に重要な情報なのです。写真が撮られた年にアメリカにいないのであれば,この人物は中島泰蔵であるはずがありません。

3人いるのでその場で資料あさり。図書館には学生年鑑のようなものがあったので,その時代の学生名を網羅的に調べ,日本人名を探しました。すると「N.KOZAKI」という日本人らしい名前が見つかりました。しかし,コザキといわれても,小崎弘道なら知ってるけど(だれも知らないか?),どこのだれかわかりません。

「日本で調べてもらうしかない!」というわけで,荒川歩・立命館大学人間科学研究所研究支援員にメール。小崎成章という人物ではないかと推定できました。基本的には神学を勉強していた人でした。年代という情報,豊富な資料とそれを調べる人手,日本からの情報,と好条件が揃ったおかげで今度こそ,この写真の真相が明らかになったようです。

ハーバード大学における初期の心理学実験の雰囲気を伝えるこの写真は心理学史では有名なものです。同大学には心理学史上の巨人,ウィリアム・ジェームズがいましたが,彼はその関心を哲学に移しており,ミュンスターバーグは実験心理学の未来を託されていました。現在ではあまり名を聞くことのないミュンスターバーグですが,当時は心理学の応用にも力を入れるなど,精力的な活動をしていました。

そこに留学した日本人の姿が今も私たちに当時の実験の姿をしのばせてくれています。

文献

Nichols, H.(1893, October). The psychological laboratory at Har-vard. McClure's Magazine, 399-409.
西川泰夫・高砂美樹・佐藤達哉(2004). 海外学術調査 心理学史・心理論,6,56-62.

心理学ワールド第30号掲載
(2005年7月15日刊行)