心理学の歴史

みてみて実感! 心理学史 -番外編-

長田佳久 おさだよしひさ
立教大学アミューズメント・リサーチセンター(RARC)心理プロジェクト代表。

増田知尋 ますだともひろ
立教大学アミューズメント・リサーチセンター(RARC)心理プロジェクト研究員(PD)。

古典的実験機器の保存及び情報収集について

これまで,「みてみて実感!心理学史」を愛読されてきた方々は,学問を学び,研究を発展させていくうえでその歴史を知ることがどれほど大切か,すでにお気付きのことと思います。今回は研究の歴史の中で用いられてきた装置に関する紹介をしたいと思いこのコーナーにお邪魔させていただきました。

私たちが心理学の研究に関する知識を身につける方法は色々な種類がありますが,どの分野でも,説明されている事柄の実践あるいは体験が知識を身につけるうえで確実な方法ではないでしょうか。言葉や文章による説明や文章を熟読し,理解することはもちろん避けて通ることはできませんが,「百聞は一見にしかず」,直接の経験とその記述による理解を超えることはごくまれであると思います。何かを思い浮かべ他人に伝えるときには言葉による表記だけではなく,自分と同じ経験を相手に伝えるために図や模型を用いることは大変重要です。

心理学も例外ではなく,今なお研究が進められている多くの現象は,文章による解説だけよりも,その現象を直接体験することが何よりの理解と知的好奇心を引き起こすことでしょう。これらの現象は,現在のコンピュータによる再現では不十分で,実際に目の前で装置の動きを観察したときに,私たちに生き生きとした経験と驚きをもたらしてくれるものも多々あります。

実験装置も例外ではなく,装置の仕組みや創意工夫,心理学史の先人たちがどのような要因を必要とし,実験を繰り返したのか理解できます。研究に対する考え方の源流を知ることができる古典的な実験装置・機器は,文献などの史料と同様に,研究を進めていくうえでとても重要なものです。

今回,私たちが保管している装置の中から,研究に必要不可欠な装置の1つ,時間計測器を紹介いたします。図1は,昭和26年製の"ペンドラムクロノスコープ"です。この装置は,もともとは19世紀末に振り子の等時性を利用して開発された機器です。最小で0.001秒の時間を測定できます。図2は通称"ヴントのハンマー"と呼ばれる装置です。電磁石の回路の一部が水銀を用いたリレー回路になっていて,安定した時間の制御を行うことが可能でした(図3)。

当時から,どれほど時間の統制が重要視されてきたのかおわかりになると思います。

しかしながら残念なことに,このような心理学研究を支えてきた古典的な実験機器は,その大きさと,操作可能な知識をもった研究者の減少に伴い,これらを保有している諸研究機関での保管状況は必ずしも恵まれているとはいえない状況です。さらに追い打ちをかけるように,現在,コンピュータの発展による保存メディアの移行に伴い,これら資料がその価値を見いだされず廃棄される可能性が危惧されています。

保存及び情報収集に関するお願い

このたび,私たちが日本全国の主要都市の研究者の方々と共同で申請していました科学研究補助費「実験心理学における古典的実験機器のアーカイブ化とその活用」が採択されました。この研究活動では,日本国内に現存する心理学の古典的実験機器や史料の保管状況の把握と保護を行っていく予定です。みなさんの周囲に心理学に関する実験機器がありましたら,どのような機器あるいは資料であるのかということとその保存状態を教えていただければ嬉しく思います。また,もし施設の都合によりそのような機器が破棄されるおそれのある場合,私たちにご一報ください。その機器の保存について最良な方法を検討し,アーカイブ化されることなく破棄に至るという最悪の状況だけは避けられるようにしたいと思います。

文献

Allport, G. W.(1954). The historical background of modern social psychology. In G. Lindzey(Ed.), Handbook of social psychology. Vol. 1. Reading, MA: Addison-Wesley. pp.3-56.
Danziger, K.(2000). Making social psychology experimental: A conceptual history, 1930-1970. Journal of the History of the Behavioral Sciences, 36, 329-347.
Triplett, N.(1898). The dynamogenic factors in pacemaking and competition. American Journal of Psychology, 9, 507-533.
http://psychclassics.yorku.ca/Triplett/

心理学ワールド第38号掲載
(2007年7月15日刊行)