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【小特集】

CRAFTを応用したネット依存とゲーム依存への対応

境 泉洋
宮崎大学教育学部 准教授

境 泉洋(さかい もとひろ)

Profile─境 泉洋
2005年早稲田大学博士(人間科学)。臨床心理士,公認心理師。2018年より現職。専門は臨床心理学。著書に『CRAFTひきこもりの家族支援ワークブック』(共著,金剛出版),『地域におけるひきこもり支援ガイドブック』(編著,金剛出版)など。

CRAFTに基づく依存症の理解

CRAFTは,依存症の家族を対象としたプログラムです。正式名称は,コミュニティ強化と家族訓練(Community Reinforcement and Family Training:CRAFT)と訳されています。

CRAFTの中でも重要な概念がコミュニティ強化です。コミュニティ強化とは,周りとの関係を豊かにすることを意味します。コミュニティ強化をするために家族と取り組むのがCRAFTプログラムになります。

コミュニティ強化の観点から考えると,依存症は周りとの関係が貧困なときに起こるとされています。関係が貧困であるが故に,依存対象にのめり込んでいくのです。依存が起こりやすい状況は,コミュニティが弱化された状態ということができます。コミュニティが弱化された状態では,図1のような悪循環が生じてしまいます。

図1 コミュニティ弱化の悪循環
図1 コミュニティ弱化の悪循環
図2 コミュニティ強化の良循環
図2 コミュニティ強化の良循環

CRAFTでは,家族と協力してコミュニティを強化することによって,依存対象よりも優先すべき健全な行動を増やしていきます。健全な行動が周囲から認められることで,それが定着していきます。そうなると,依存対象に固執する必要はなくなっていきます。コミュニティが強化された状態であれば,図2のような良循環が生じます。

CRAFTの中で,特に注意すべきこととして,家族の気持ちのゆとりがあります。依存症の問題においては,依存症者以上に家族が困難を抱えて,気持ちのゆとりを失ってしまいます。気持ちのゆとりを失った家族は,どうしても依存症者を責めるような関わり方をしてしまいます。責められることによって家族との関係が貧困になり,依存対象への固執が強まっていきます。そのため,家族が気持ちにゆとりを持って,依存症者を責めるような関わりをしないことが重要になります。

ルールに沿ってネット,ゲームを制限する

ネット,ゲームは,それ自体が悪いわけではありません。そのため,ネット,ゲームの依存においては,そのやり方のルールを設定することになります。ルールを設定する上で重要なことに,依存症者と一緒に決めると言う点があります。家族が一方的にルールを決めてしまうと,依存症者が納得しないことがあります。納得できないルールを押しつけることによって,家族関係が悪化し,コミュニティが弱化された状態を作り出してしまうことがあります。コミュニティ弱化にならないためにも,一緒にルールを決めることが重要となります。

また,ルールを破られないことも重要です。例えば,ゲームの時間を1日1時間にすることを一緒に決めていても,家族の見ていないところでゲームができるような状態では意味がありません。一緒に決めたことですから,ルール変更の話し合いをするまでは徹底することが重要です。

ルールを破られないためには,家族がネット,ゲームに詳しくなっておくことが有効です。最近のゲーム機では,時間設定や使用時間が厳密に管理できるシステムが組み込まれています。例えば,1時間たったらアラームが鳴るようにしたり,1時間以上はゲームができない設定したりすることも可能です。また,1日のネット,ゲームの使用時間の記録を毎日付けておくことも効果的です。

ネット,ゲーム以外の健全な行動を増やす

依存行動を制限するだけでは,依存症は改善されません。依存対象に固執しなくてもよくなるように,健全な行動を増やす必要があります。健全な行動を増やす上で踏まえておきたいのが,依存行動の意味です。ネット,ゲームに依存する意味としては,興奮を体験している,ゲームをしていないと退屈,ネットを見ないと不安を感じるというものなどがあります。こうした依存行動の意味を理解することが重要です。

依存行動の意味を理解するためにCRAFTで行うのが機能分析というものです。機能分析では,主に4つの観点について考えていきます。①ネット,ゲームをやっている状況(場所,時間,人など),②ネット,ゲームをやる前の気持ち(退屈,不安など),③ネット,ゲームをやっているときの気持ち(興奮,すっきりなど),④ネット,ゲームをやり続けることによってもたらされる影響(睡眠時間の減少,宿題ができないなど)です。

機能分析によって,依存行動の意味を理解し,それぞれに応じた健全な行動を増やしていくことが効果的です。例えば,興奮体験を得るために依存行動をしている人には,興奮できる健全な行動を増やすことが効果的です。退屈しのぎで依存行動をしている人には健全な退屈しのぎを,不安を感じる人には健全な不安解消法を増やしていくことになります。

図3 健全な退屈しのぎの方法
図3 健全な退屈しのぎの方法

図3は,ある中学生と一緒に考えた健全な退屈しのぎの方法です。選択肢は多い方がよいので,ブレインストーミングを行うことで,多様なアイデアが出てきます。こうして考えた健全な行動を依存症者が行っていたら,それを後押しすることがより効果を高めます。健全な行動をしていたら話を聴く,褒める,一緒に楽しむなどすることで,その行動が定着し,ネットやゲームだけに依存しなくてもよくなっていきます。

基本はコミュニティ強化

依存行動を制限し,健全な行動を増やす上で必須となるのがコミュニティ強化です。周囲との関係を豊かにするのがコミュニティ強化であることはすでに述べましたが,この場合の周囲とはまずは家族です。コミュニティ強化の最初は,家族関係を豊かにすることになります。

家族関係が悪化していると,依存行動の制限も健全な行動を増やすこともうまくいきません。家族は依存症者を責めてしまいがちですが,そうすることで家族関係が悪化すると依存症の改善はますます困難になります。そのため,家庭内でのコミュニティ強化が最も大事で最もやりやすい対応になります。

家庭外での関係も豊かであると健全な行動を増やすのが容易になります。例えば,興奮体験を得るためにゲーム,ネットをしている人に,外での遊びで興奮を体験してもらえるようになったり,不安を感じる人に家族以外に話を聞いてもらうことで安心してもらえるようになったりします。

ネット,ゲームとはうまくつきあう

ネット,ゲームは,我々の生活を豊かにしてくれるものでもあります。依存の対象として忌み嫌うのではなく,うまくつきあっていく対象です。依存症者は,ネット,ゲームに対する固執が強くなっています。固執をゆるめることで,うまくつきあえるようにしていく必要があります。

CRAFTでは,ネット,ゲームを制限し,それ以外の健全な行動を増やしていきますが,その基本はコミュニティ強化です。ネット,ゲームをうまくつきあっていく対象と捉え,必要以上に依存症者を責めたりせずに,豊かな関係の中で対応していくことが効果的です。

新型コロナウイルスの蔓延下において,ネット,ゲーム依存はますます増加すると考えられます。しかし,ゲームは退屈な自粛生活を豊かにしてくれる有効なツールでもあります。誰もがネット,ゲームに依存しかねないときだからこそ,コミュニティ強化の発想でネット,ゲームとうまくつきあっていきたいものです。

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