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心理学研究 第92巻 第5号(2021年12月)
ページ | 321-326 |
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種類 | 巻頭言 |
タイトル | 新型コロナウイルス感染症と心理学 |
著者 | 山田 祐樹 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#editorial |
マスク着用・手洗い行動
ページ | 327-331 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | 新型コロナウィルス拡大期における手洗い行動の規定因 |
著者 | 中谷内 一也・尾崎 拓・柴田 侑秀・横井 良典 |
要約 | 手洗いは感染症リスクを抑えるための最も有効な対策のひとつである。しかしながら,新型コロナウイルス拡大期において人々が手を洗った実際の理由ははっきり分かっているわけではない。本研究では4つの規定因を検討したが,うち2つは感染リスク削減の効果性認知に関するもの,もう2つは他の動機づけ要因であった。全国をカバーする調査の結果,人々が手を洗うのは,他者が手を洗っているのをみてそれに同調しようとするため,手を洗うと不安が和らぐため,であることが示唆された。一方,自分の感染リスク削減の効果性認知はほとんど手洗い行動を説明しなかった。同調や不安の緩和が手洗い行動の分散の大きな部分を説明したといえる。本研究の結果は,公衆衛生の政策立案者が新型コロナウイルスに立ち向かおうとする場合,人々の社会的な動機づけを考慮すべきであることを示すものであった。 |
キーワード | 新型コロナウイルス感染症,手洗い,リスク認知,不安の緩和,同調 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20314 |
ページ | 332-338 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | 人々がマスクを着用する理由とは――国内研究の追試とリサーチクエスチョンの検証―― |
著者 | 榊原 良太・大薗 博記 |
要約 | マスク着用は, 新型コロナウイルス の感染を防ぐための簡単で効果的な方法である。日本では,2つの研究によって人々がマスクを着用する理由について検討されているが,両者の知見は一致していない。そこで本研究では,項目表現の違いと問題点に着目し,マスク着用とその理由の関連を再検証した。その結果,2つの研究の結果はいずれも再現され,項目表現の問題もほとんど生じていないことが示された。また,自分や他者への感染予防という理由,他者がマスクを着けていることへの同調が,マスク着用へとつながることが明らかとなった。両者の結果の不一致は,項目表現の違いに起因することが主張され,また今後のいかなる研究が行われるべきかについて議論が行われた。 |
キーワード | COVID-19,マスク着用,ダブルバーレル質問,社会的望ましさ |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20323 |
ページ | 339-349 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 社交不安・特性不安・感染脆弱意識が衛生マスク着用頻度に及ぼす影響 |
著者 | 宮崎 由樹・鎌谷 美希・河原 純一郎 |
要約 | 本研究の目的は,日本人の衛生マスク(マスク)着用頻度に関わる心理的要因を検討することであった。具体的には,社交不安(他者に見られる不安・対人交流不安),特性不安,および感染脆弱意識(易感染性・感染嫌悪)がマスク着用頻度に及ぼす影響を検討した。またその関係が,COVID-19の流行や季節に応じて変化するかどうかを検証するために2018年8月から2020年12月の期間の夏季・冬季でオンライン調査を繰り返した(N = 6,742)。その結果,COVID-19の流行前は,他者に見られる不安,易感染性(ただし,冬季のみ),および感染嫌悪がマスク着用頻度に影響した。しかし,その関係はCOVID-19の感染拡大とともに変容し,他者に見られる不安や易感染性との関係が認められなくなった。これらの結果の変容には,マスク着用率の上昇,日本人のマスク着用理由が変化したこと,および感染拡大とともにCOVID-19へのリスク認知が高まったことが関係していると考えられる。 |
キーワード | マスク,社交不安,特性不安,感染脆弱意識,COVID-19 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20063 |
ページ | 350-359 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | COVID-19流行が黒色衛生マスク着用者への顕在的・潜在的態度に及ぼす影響 |
著者 | 鎌谷 美希・伊藤 資浩・宮崎 由樹・河原 純一郎 |
要約 | COVID-19の流行前におこなわれた研究では,衛生マスクはその着用者の魅力にネガティブな影響を与えることが報告されている。その中でも特に,白色のマスク着用者と比較して黒色のマスク着用者に対して,顕在的・潜在的に否定的な態度が生じることが報告されている。本研究では,衛生マスクの日常的な使用を含む,COVID-19流行に伴った社会的行動の変化が,黒色の衛生マスク着用者に対する顕在的・潜在的態度を変容させる可能性があるかどうかを検討した。そのために,黒色または白色の衛生マスクを着用した男性への顕在的(研究1)・潜在的態度(研究3)とその顔の魅力評定を測定した(研究2)。その結果,黒色の衛生マスク着用者に対する顕在的態度は肯定的または中立的な方向へ変容した。また,魅力の低い顔における顕在的な魅力評定値は,衛生マスクの色にかかわらず,流行後に上昇する傾向がみられた。しかしながら,そのような魅力評定値の上昇は,魅力が中程度な顔と高い顔においては得られなかった。そして,潜在連合テストによって測定された潜在的な態度には,流行前との変化がなかった。これらの結果は,COVID-19の流行という社会的な出来事が,黒色の衛生マスク着用者に対する否定的な顕在的態度を減少させたことを示唆している。 |
キーワード | 衛生マスク,COVID-19,魅力,顕在的態度,潜在的態度 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20046 |
ページ | 360-366 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | 新型コロナウイルス感染者に対するステレオタイプと行動免疫システム活性化の個人差との関連 |
著者 | 山本 真菜・岡 隆 |
要約 | 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大下において,感染者やその家族,濃厚接触者,医療従事者に対する偏見や差別が問題となっている。本研究では,新型コロナウイルス感染者に対するステレオタイプ的認知を調査し,行動免疫システム活性化の個人差との関連を検討した。その結果,まず,新型コロナウイルス感染者に対するステレオタイプとして社会性の低さと活動性の高さが示された。次に,感染脆弱意識がステレオタイプ的認知に与える影響を検討した結果,感染嫌悪が強いほど感染予防行動の欠如を強く知覚し,新型コロナウイルス感染者の社会性を低く知覚し,自分自身の感染予防行動を高く知覚することが示された。新型コロナウイルス感染者に対するステレオタイプの内容とそのステレオタイプに影響を与える要因について考察した。 |
キーワード | ステレオタイプ,感染脆弱意識,行動免疫システム |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20334 |
生活変化
ページ | 367-373 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | 新型コロナウイルス感染拡大状況における遠隔授業環境や経済的負担感と大学生の精神的健康の関連 |
著者 | 飯田 昭人・水野 君平・入江 智也・川﨑 直樹・斉藤 美香・西村 貴之 |
要約 | 本研究はCOVID-19発生後に大学生を対象にして,遠隔授業環境および経済的負担感と精神的健康の関連性を検討した。2波パネル調査の1時点目に回答した北海道の短期大学生,大学生,大学院生909名が調査協力者であった。調査時期は2020年7-9月であった。精神的健康の指標としてはK6とGAD-7を用いた。分析の結果,COVID-19発生後に生じた経済的負担感とオンデマンド型の授業に対する負担感が高い学生はK6(13点)とGAD-7(10点)のカットオフ値を超える確率が高いことが明らかとなった。また,ライブ型授業の履修コマ数は抑うつの低さを予測した。考察では,遠隔授業の特徴を取り上げ,なぜ精神的健康と関連したのかと授業の負担感を低減させる方法を議論した。また,経済的負担感が精神的健康に関連したことを受け,大学生への経済的支援の重要性を指摘した。 |
キーワード | 新型コロナウイルス感染症,精神的健康,遠隔授業,経済的負担感 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20339 |
ページ | 374-383 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | コロナ禍に入学した大学一年生とオンライン授業――心身状態とひきこもり願望―― |
著者 | 内田 知宏・黒澤 泰 |
要約 | 本研究では,COVID-19によって全面オンライン授業下となった大学一年生における身体的健康,精神的健康を定量的に明らかにすることを試みた。Visual Display Terminal 症候群チェック項目の結果からは,主に目,肩,首,頭などに身体的負荷がかかっていることが示されていた。また,精神的健康を示すK6では先行研究よりも高い数値が得られ,大学一年生における精神的健康の不調が示された。したがって,オンライン授業を実施する大学教員は,授業の質や学習機会の確保だけではなく,学生の心身の疲労度にも配慮をしながら授業運営をしていくことが求められると言える。一方,ひきこもり願望が高い大学生はオンライン授業を望む度合いが高いという相関も示された。つまり,既存の対面中心の授業に困難を感じていた学生にとって,オンライン授業が対応策の一つになりうることも示唆された。 |
キーワード | オンライン授業,身体的健康,精神的健康,大学一年生,ひきこもり願望 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20076 |
ページ | 384-389 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | コロナ禍の非対面授業における学生の主体的な学修態度――非対面授業との適合との関連―― |
著者 | 永井 暁行 |
要約 | 日本でもCOVID-19の影響を受け,2020年度前期は多くの大学・短期大学で非対面の授業に切り替えることになった。そこで,本研究は非対面授業下における主体的な学修態度について探索的に検討した。本研究では2020年度前期にあたる6月下旬および8月中旬の2回に亘る調査を行った。489名の大学生・短大生が2回の調査に協力した。調査は主体的な学修態度と非対面授業が自分に合うか(非対面授業との適合)を主な項目とした。調査の結果,主体的な学修態度と非対面授業との適合は6月下旬から8月中旬にかけて,平均的にはほとんど変化しなかった。加えて主体的な学修態度の変化についての資料を得るため,多母集団同時分析によって非対面授業との適合の関連を検討した。その結果,1年生では主体的な学修態度と非対面授業との適合について関連が見られた。これらの結果から特に1年生において,非対面授業の影響を検討する必要があることが議論された。 |
キーワード | COVID-19, 非対面授業, オンライン授業, 主体的な学修態度 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20322 |
ページ | 390-396 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | コロナ禍での大学生におけるアタッチメントと孤独感や精神的健康との経時的な相互関係 |
著者 | 中尾 達馬 |
要約 | 本研究の目的は,交差遅延効果モデルと同時効果モデルを用いて,COVID-19 によるキャンパスでの活動制限下において,大学生のアタッチメントと孤独感や精神的健康との間には,どのような経時的な相互関係があるのか,を明らかにすることであった。2020年前学期の初回の授業(5月前半)と最終回の授業(7月末や8月はじめ)においてweb調査を実施した。2回の調査の間隔は約3ヵ月であった。2回の調査両方に回答をした150名を対象に分析を行った結果,(a) AICやBICという点において,交差遅延効果モデルは,同時効果モデルに比べてデータへの適合が良く,(b) アタッチメント不安は,3ヵ月後の精神的健康に対して負の交差遅延効果を持つこと,(b) 孤独感は,3ヵ月後のアタッチメント回避に対して正の交差遅延効果を持つこと,が示された。本研究の学術的貢献は,今までに得られていた知見を,コロナ禍という潜在的にアタッチメントに関連すると考えられる脅威事態における経時的な相互関係へと拡張し,コロナ禍において,アタッチメントが孤独感や精神的健康に対して影響を与えるのか,あるいはその逆であるのかを明らかにした点にある。 |
キーワード | アタッチメント,孤独感,精神的健康,交差遅延効果モデル,COVID-19 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20320 |
ページ | 397-407 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 外出規制が孤独感・不安・抑うつに及ぼす影響――日本在住者を対象とした縦断的研究―― |
著者 | 杉山 翔吾・廣康 衣里紗 まり・野村 圭史・林 正道・四本 裕子 |
要約 | 2020年に発生したCOVID-19の大規模な流行は人々の健康を脅かすのみならず,生活様式の大幅な変化も引きおこしている。Time Social Distancing(TSD)は,COVID-19感染拡大に伴う外出規制が人の時間感覚や心理状態に及ぼす影響を調べるために始まった国際共同研究である。本研究はTSDの中でも日本在住者のデータに着目し,孤独感,不安,睡眠の状態が外出規制下においてどのように変化したのか,およびそれらの変化に年齢による差異が存在したのかについて,20代から60代の参加者108名を対象に,3セッションにわたって反復的に測定された縦断データを解析した。セッション1は外出規制期間中に,セッション2は外出規制解除から10日後に,セッション3は外出規制解除から4ヵ月後にそれぞれ実施された。潜在曲線モデルの結果,孤独感は実験を通じて徐々に上昇していたのに対し,不安・抑うつは減少していることが示唆された。睡眠の質とクロノタイプに経時的な変化は認められなかった。また,年齢が高くなるほど孤独感や不安・抑うつは減少しており,わずかながら朝型になる傾向も確認された。年齢が睡眠の質に及ぼす影響は認められなかった。加えて,自己回帰クロスラグモデルの結果,クロノタイプと他の3変数の間の相互作用は小さいこと,および孤独感や睡眠の質の変動は不安の変動より時間的に先行している可能性が示唆された。 |
キーワード | COVID-19,孤独感,不安,睡眠 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20081 |
ページ | 408-416 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 親の認知した臨時休業中の小学生の生活習慣の変化とストレス反応との関連 |
著者 | 髙坂 康雅 |
要約 | 本研究の目的は,COVID-19の感染拡大防止のために行われた小学校の臨時休業期間における小学生の生活習慣の変化とストレス反応との関連を検討することであった。小学生の子どもをもつ親637名を対象者として,臨時休業期間中の生活習慣の変化と臨時休業期間中のストレス反応などに関する調査を実施し,510名を分析対象者とした。分散分析の結果,「不規則な睡眠」,「食習慣の乱れ」,「ゲーム・スマホ利用の増加」で有意差がみられたが,効果量は小さかった。また,相関を算出したところ,「食習慣の乱れ」はすべてのストレス反応と関連し,また6つの生活習慣の変化が無気力と関連していた。 |
キーワード | 生活習慣の変化,ストレス反応,小学生,COVID-19 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20040 |
ページ | 417-427 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 乳幼児の父親におけるパンデミックによる働き方の変化と家庭と仕事への影響 |
著者 | 平井 美佳・渡邊 寛 |
要約 | 本研究は,乳幼児を子育て中の正規雇用で働く父親606名を対象として2020年8月に調査を行い,新型コロナウイルス感染症の流行による働き方の変化が家庭や仕事への関わりにどのような影響を与えたかついて検討した。その結果,(a) 在宅勤務が増えたのは一部の限られた条件(デスクワーク,高学歴,高収入,など)の男性たちであり,(b) 在宅勤務への変化があった男性の方が「家族する」程度が増え,(c) 働き方の変化があった男性,また,妻も働いている男性の方が夫婦および仕事の調整を行っており,さらに,(d) 在宅勤務が増えたことにより「家族する」程度が増えたことが,家庭および仕事の満足度,ひいては生活・人生満足度を高めたことが示唆された。本研究の結果から,男性の家庭関与には働き方の変更やそのための環境の整備が必要であることを論じた。 |
キーワード | 新型コロナウイルス感染症,父親,乳幼児,家庭と仕事,自己と他者の調整 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20061 |
臨床
ページ | 428-434 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | コロナ禍における統合失調症者を対象とした触れない動作法の試み |
著者 | 上倉 安代・大川 一郎・益子 洋人 |
要約 | 動作法では,通常,クライエントに触れて援助を行うが,コロナ禍では,身体接触を用いる援助は望ましくない。よって,非接触で安心・安全に行える動作法の活用が期待される。本研究では,外来通院中の統合失調症者に対する触れない動作法およびセルフケア法としての適用の可能性とその効果について検討した。精神科デイケアに通所中の統合失調症者8名に対して,非接触での動作法プログラムを7回実施した後,自宅で動作法を実施する自主実施期間を2―3週間設けた。その結果,心身の融和感尺度短縮版の心身における自己存在感が向上し,効果量が大であった (d = 0.83)。また,主体性感覚,心身の調和感,精神的健康度,第三者評価が向上し,不機嫌・怒りが低減し,いずれも効果量が小であった (それぞれ,d = 0.49, d = 0.21, d = 0.39, d =0.29, d = 0.23)。よって,自粛期間中でありながら,触れない動作法の実施により,心身の状態が安定する可能性が示された。本研究は,コロナ禍において,外来通院中の統合失調症者に対する触れない動作法の施行に関する一資料となるであろう。 |
キーワード | コロナ禍,統合失調症,外来通院患者,触れない動作法,セルフケア |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#21306 |
ページ | 435-441 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | キャンパスエイド活動における遠隔心理支援の試み |
著者 | 國見 充展・岩﨑 眞和・荻津 智絵・川端 珠美・櫻井 由美子 |
要約 | 茨城県は独自に,大学院生等による多部制高等学校への心理的支援としてキャンパスエイド(CA)活動を行っている。本研究では,Computer-Mediated Communication を利用した遠隔CAの試行を通して,現実的な運用の可能性の模索と実施上の問題点の検出を試みた。仮説として,(a) 必要条件を満たしたインフラの整備は可能,しかし(b) 対面でのCAと同質の心理的支援は困難であると考えた。その結果,遠隔CAの実施期間,通信上,安全上,倫理上のトラブルは報告されず,設計思想に基づいたインフラの整備は達成された。また,学生スタッフの報告書および,そのテキストマイニング解析の結果から,通信上の不安定さ,発話衝突,視線の不一致,自己像が提示されることの抵抗感,視界がモニタサイズに限定されること,会話が利用者側のPCの数に制限されること,の6つの問題点が検出され,遠隔CAの方法的発展のうえでの課題が明確になった。以上のように両仮説は支持されたが,遠隔CAが対面での心理支援と同質ではなかったとしても,利用者にとって,「CA室に行けば話を聞いてもらえる」という選択肢の提供は有意味であると結論づけた。 |
キーワード | キャンパスエイド,遠隔心理支援,テキストマイニング,Computer-Mediated Communication (CMC) |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20325 |
ページ | 442-451 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 我が国における看護師の新型コロナウイルス感染症への感染恐怖の規定要因 |
著者 | 小岩 広平・若島 孔文・浅井 継悟・高木 源・吉井 初美 |
要約 | 本研究では,新型コロナウイルス感染症に対する看護師の感染恐怖を問題とし,(a) 看護師の個人的要因,(b) 看護師の労働状況,(c) 看護師が選択する対処行動の3つの要因が,どの程度感染恐怖に影響を与えているのかを明らかにすることを目的とした。東北地方で働く看護師152名を対象にWeb調査を行った。階層的重回帰分析の結果,高齢者の同居および小規模の病院での勤務,長時間の夜間帯での勤務が感染恐怖に正の影響を与えていることが示された。また,対処行動として「不安からの逃避」を行うことが,感染恐怖につながることが示唆された。これらの結果から,自身が感染源となる恐れが看護師の感染恐怖を強めることや,身体的な疲労の蓄積が感染恐怖に結びつく可能性が推察された。さらに,回避的な対処が感染恐怖と関連していることや,組織的なサポートによって看護師の感染恐怖を低減できる可能性が示唆された。 |
キーワード | 新型コロナウイルスへの感染恐怖,看護師,労働環境,対処行動 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20048 |
データ,ツール,意見
ページ | 452-462 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | COVID-19禍の日本社会と心理──2020年3月下旬実施調査に基づく検討── |
著者 | 山縣 芽生・寺口 司・三浦 麻子 |
要約 | 本研究の目的は,2020年1月以来の深刻な新型コロナウイルス感染症流行禍における日本人の認知,行動,態度,生活実態を広範な観点からリアルタイムで調査し,そのデータを公開することである。本研究では,感染症と闘う社会のありのままの姿を捉えるため,2020年3月下旬に日本人612名のデータを用いて探索的に変数間の関係性を検討した。その結果,感染予防行動と外国人への排斥的な態度は,感染禍特有の認知的反応や感染忌避に関わる個人差と関連していることが明らかとなった。COVID-19に直接関わる変数では,性差は見られた一方で,世代や居住地域による差異は見られなかった。本研究は,感染禍特有の社会病理への解決や公衆衛生の管理,生活改善に向き合う社会やそれに貢献しようとするあらゆる学術研究あるいは社会実践にとって重要な基礎資料となりうるだろう。 |
キーワード | COVID-19,行動免疫システム,感染忌避,排斥的態度,感染予防行動 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20222 |
ページ | 463-472 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 再生テストに基づく記憶現象のオンライン実験による再現 |
著者 | 小林 正法 |
要約 | 本邦において心理学実験のオンラインでの実施(オンライン実験)は一般的になりつつある。オンライン実験は,COVID-19流行下での心理学研究においても有用な手法だと考えられ,これまでの研究によって,いくつかの代表的な心理現象がオンライン実験においても再現されている。しかしながら,オンライン実験では,自由再生や手がかりといった再生テストの実施は困難である。なぜなら,オンライン実験ではキーボード入力時にInput Method Editor(IME)が備える予測変換機能が影響するためである。近年,この問題の解決に繋がると期待される,IMEを介さずに日本語入力を可能とする手法が開発されたものの,この手法が再生テストを用いたオンライン実験の実施の際に有効かどうかは未だ不明である。したがって,本研究では,オンライン実験でこの手法を用いた再生テストを行い,虚記憶(虚再生)と検索誘導性忘却といった記憶現象が再現できるかどうかを検討した。実験の結果,虚再生,検索誘導性忘却ともに生起が確認された。本研究から,オンライン実験において,IMEの予測変換機能の影響を受けずに再生テストを実施できることが明らかになった。 |
キーワード | 記憶,オンライン実験,虚記憶,検索誘導性忘却,再現 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20213 |
ページ | 473-481 |
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種類 | 展望論文 |
タイトル | COVID-19の感染拡大および終息に与える関係流動性の影響――社会生態学的視点からの考察―― |
著者 | 鬼頭 美江・前田 友吾 |
要約 | 日本における人口10万人あたりのCOVID-19の感染者数は,他国に比べて相対的に少ない。感染者数との関連が考えられる要因のうち,本稿では社会生態学的要因である関係流動性に着目し,関係流動性が低いことによって日本における初期の感染拡大が抑制された一方で,関係流動性が低いがゆえの日本人の行動傾向によって,今後の終息が遅れる可能性があると予測する。日本のような低関係流動性社会では,対人関係の組み換えが起きにくく,潜在的な感染者と接触する機会が制限されており,集団内の調和を維持するために自発的に相互監視体制を形成している。このような行動は,日本におけるCOVID-19の感染拡大を抑制すると考えられる。一方,低関係流動性社会における調和維持を重視する傾向により,感染者が特定されることを恐れ,特定を回避するためにPCR検査を回避したり,感染経路の特定に協力しなかったりと,感染終息を遅らせる行動を引き起こす可能性がある。日本が低関係流動性社会であるがゆえに生じる日本人の心理過程と行動により,COVID-19の感染拡大および終息に対して,相反する予測について考察した。 |
キーワード | 関係流動性,COVID-19,社会生態学的アプローチ |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20404 |
ページ | 482-494 |
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種類 | 展望論文 |
タイトル | 深層防護とリスクコミュニケーション――大規模感染症に対する社会心理学からの貢献―― |
著者 | 木下 冨雄 |
要約 | 2020年初頭に突然発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の爆発的流行は,経済や社会,市民生活や文化,あるいは人の心にまで,大きくかつ多面的な影響を与えている。そのため,この問題への適切な対応のためには,これまで議論が重ねられてきた医学だけではなく,自然科学分野や人文・社会科学も含めた密接な協力体制の構築が必須である。本論文は,COVID-19によって引き起こされた諸問題について,深層防御とリスクコミュニケーションの2つに注目して,いずれも学際性を内在させている社会心理学とリスク学の観点から論じる。 |
キーワード | COVID-19,深層防護,リスクコミュニケーション |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20403 |
ページ | 495-503 |
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種類 | 展望論文 |
タイトル | コロナ禍での心理学者の果たすべき役割とは何か?――人々の声を聴いて行動を起こす必要性―― |
著者 | 三田地 真実 |
要約 | 本稿は,「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下で,心理学者は何をなすべきか」という問いに対して,心理学の背景を持ちつつ一般人に近い視点から考察したものである。日本心理学会による記事「家庭内における暴力に立ち向かおう」に示される4つの「心理学者ができること」がその問いへの答えだと考えられる。しかし,この記事内容を,コロナ禍で心理的ストレスを抱えた一般市民を支援するための行動指針として多くの心理学者が認識するには,今の公開方法は不十分ではないだろうか。行動の原理や研究的視点が十分とはいえない政策が一般市民の混乱を引き起こしている可能性が考えられるため,心理学者による関連情報の発信が求められているはずである。さらに本稿では,これから心理学者が果たせる役割を,個人レベル,学会レベル,社会に向けた発信という3つの観点から提案する。その実現には,個人の実践や意見を迅速に集約できる「場」を設定することが必要である。そして,心理学者は社会の声を聴き,自分の専門家としての人生をかける覚悟を持って広く社会問題に挑むことが重要である。 |
キーワード | 新型コロナウイルス感染症,心理学者の役割,人々の声,行動分析学,ワークショップ |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-5#20406 |