刊行物のご案内
心理学研究 第92巻 第6号(2022年2月)
ページ | 511-521 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 顔と眼――視線手がかり効果における反応競合説に対する批判的検討―― |
著者 | 小山 貴士・大久保 街亜 |
要約 | これまで,視線手がかり効果は自動的な注意シフトによって引き起こされると考えられてきた。しかしながら,視線方向とターゲット位置の反応競合によって視線手がかり効果が引き起こされると説明することもできる。本研究では視線手がかりパラダイムを用い,これら2つの説明のどちらが妥当なのか検討を行った。Green et al. (2013) によれば,反応競合が生ずるには,視線手がかりとターゲットの提示に時間的な重なりが必要だと考えられている。その時間的重なりがほとんどなかったにもかかわらず視線手がかり効果が生じ,SOA が 100 ms のときに手がかり効果は最大になった(実験1)。また,反応競合を支持する研究で用いられた眼手がかりは,逆予測的手がかりを用いたとき,不一致条件で早くなり,手がかり効果が逆転した。一方,顔手がかりでは手がかり効果の逆転は観察されなかった(実験2)。これらの結果は視線手がかり効果が反応競合では説明できないことを示唆する。加えて,視線手がかり効果における手がかり刺激の顔らしさの重要性が示された。 |
キーワード | 注意シフト,視線方向,手がかり効果 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-6#20011 |
ページ | 522-531 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 幼児・児童の喜びによる泣き場面での他者感情推測 |
著者 | 髙橋 実里・中道 圭人 |
要約 | 本研究は,他者が嬉し泣きしている場面において,子どもたちが他者のポジティブ感情を推測できるかを検討した。年長児―小学3年生(N = 121, 5―9歳児)を対象に,主人公が嬉し泣きする短い物語を提示し,主人公がなぜ泣いているのか,どのような感情なのかを尋ねた。その結果,5歳児よりも8―9歳児は,主人公のポジティブ感情を推測し,嬉しいから泣いたと判断した。一方,5歳児では「泣いているから悲しい」や「なぜ泣くのかわからない」という回答が多くなり,泣きから最も想定されるネガティブ感情を推測した。これらの結果は,8―9歳頃から子どもたちはポジティブ感情が泣きを引き起こす可能性があることを理解し始めることを示唆している。 |
キーワード | 感情推測,手がかり統合,幼児,児童,泣き |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-6#20032 |
ページ | 532-542 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 象徴的障害者偏見尺度日本語版(SAS-J) の作成 |
著者 | 清水 佑輔・ターン 有加里ジェシカ・橋本 剛明・唐沢 かおり |
要約 | 障害者は,一般に健常者から差別的態度を向けられており,これはしばしば障害者の基本的権利を侵害し,精神的健康の悪化につながっている。象徴的障害者偏見は,障害者に対する差別的態度の重要な形態の1つであり,障害者支援政策への反対につながると考えられている。このような象徴的障害者偏見の程度は,Friedman & Awsumb (2019) の象徴的障害者偏見尺度 (SAS) によって測定でき,この尺度は,個人主義,差別が存在することへの理解のなさ,障害者への共感のなさ,過度の要求という4つの下位概念からなる。障害者に対する人々の態度を理解するために,この尺度は有用であるにもかかわらず,日本語版のものは存在しない。よって本研究では,象徴的障害者偏見尺度日本語版 (SAS-J) を作成し,その信頼性と妥当性を検討する。調査の結果,SAS-Jは原版と異なり,個人主義,現状の理解のなさという2つの下位概念で構成された。原版との差異,SAS-Jの信頼性と妥当性,および今後の象徴的障害者偏見に関する研究の方向性について考察した。 |
キーワード | 象徴的障害者偏見,障害者,公正世界信念,公正感受性,援助規範意識 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-6#20208 |
ページ | 543-553 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 人は困難な目標にどう対処すべきか?――困難な目標への対処方略尺度を作成して―― |
著者 | 外山 美樹・長峯 聖人 |
要約 | 本研究の目的は,「目標の水準の調整」,「目標達成方略の調整」,「目標の内容の調整」,「目標断念」ならびに「目標継続」の5つ下位尺度から成る困難な目標への対処方略尺度を作成し,目標達成が難しくなった時の対処方略と well-being の関連を検討することであった。調査対象者は大学生であった。本研究の結果より,本尺度は信頼性(内的一貫性と時間的安定性)ならびに妥当性(構造的側面の証拠と外的な側面の証拠)を備えていることが示された。続いて,目標達成が困難になった時に用いる対処方略が well-being に及ぼす影響を検討した結果,総じて目標断念は well-being を阻害し,目標の内容の調整は well-being を促進することが示された。また,目標の水準の調整と目標達成方略の調整とでは,関連するwell-beingの側面が異なることが示された。最後に,目標継続は心理的 well-being と関連する一方で,抑うつとも関連していた。最後に,今後の展望について指摘された。 |
キーワード | 困難な目標,対処方略,目標の調整,well-being,大学生 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-6#20220 |
ページ | 554-563 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 教師記入式実行機能行動評定尺度の小学生に対する信頼性及び妥当性の検証 |
著者 | 永谷 文代・松嵜 順子・諏訪 絵里子・上西 裕之・谷池 雅子・毛利 育子 |
要約 | 本研究では,日常の行動から実行機能の多面的評価が可能な Behavior Rating Inventory of Executive Function teacher form (BRIEF-T) の日本語版について信頼性と妥当性を検討した。一般群(小学生の男女児643名)と臨床群(ASD か ADHD もしくはその併存と診断された小学生の男児64名)を対象とした。確認的因子分析の結果,原版と同様の2因子構造を有していることが示された。さらに,十分な内的整合性や再検査信頼性,併存的妥当性が確認された。また,一般群男女児,臨床群男児の中学年・高学年については,原版に準じた実行機能障害のカットオフ値が適切であることが示された。これらの結果から日本人児童の実行機能障害のスクリーニングに使用できることが示唆された。 |
キーワード | BRIEF,実行機能,教師,小学校,質問紙 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-6#20226 |
ページ | 564-570 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | 学習者のエンゲージメントにおける制御適合の効果 |
著者 | 湯 立・外山 美樹・長峯 聖人・海沼 亮・三和 秀平・相川 充 |
要約 | 制御適合理論(Higgins, 2000, 2008)では,目標追求の仕方が個人の目標志向性と合致する際に,人々は制御適合を経験するとされている。本研究の目的は,制御適合の観点から,制御焦点とエンゲージメントとの関連を検討することであった。具体的には,個人差要因としての制御焦点(促進焦点,防止焦点)と困難な学習場面における動機づけ調整方略との適合により,エンゲージメント(感情的・認知的・行動的エンゲージメント)が高まるという仮説を立てて,大学生(N = 304)を対象に検討を行った。研究の結果,防止焦点の傾向が高い個人に比べ,促進焦点の傾向が高い個人は,自己効力感高揚方略を多く使用する場合,感情的・行動的エンゲージメントが高かった。この結果は,制御適合理論を部分的に支持した。本研究の結果は,動機づけ理論の観点から考察された。 |
キーワード | 制御適合,制御焦点,動機づけ調整方略,エンゲージメント |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-6#20326 |
ページ | 571-577 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | 機能の知識の活性化は基本カテゴリのアクセスを経由するか――反応時間に着目した検討―― |
著者 | 太田 直斗・北神 慎司・厳島 行雄 |
要約 | 基本カテゴリよりも広範なカテゴリ(例:ペン)は,上位カテゴリ(例:文具)と呼ばれる。そして,オブジェクトの機能を反映した広範なカテゴリ(たとえば,書くもの)は,上位カテゴリよりも速く認識される。しかし,これまでの研究は機能カテゴリの活性化の過程を明らかにしてこなかった。そこで本研究では,機能カテゴリの活性化過程を明らかにするために,刺激提示時間とカテゴリレベルを操作したカテゴリ判断課題を実施した。反応時間分析の結果,上位カテゴリに対しての機能カテゴリの優位性が確認された。しかし,提示時間とカテゴリ条件の間には相互作用は見られず,刺激の処理に要した時間はカテゴリの活性化に影響を与えなかった。このことは,人工オブジェクトに関する知識は並列して活性化していることを示唆しており,広範なカテゴリへのアクセスは必ずしも基本カテゴリの活性化を介して行われる必要はないことを示唆している。 |
キーワード | カテゴリ化,視覚的オブジェクト認知,機能 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal92-6#20337 |