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【第15回】
サトウタツヤ
これまで,ナチスドイツの影響を逃れて北米大陸のアメリカに亡命したユダヤ人心理学者については知られていましたが,南米大陸に逃れた心理学者についてはあまり知られていませんでした。今回はそうした心理学者について扱います。
ペルー (その2)
前回の「ペルー(その1)」では1920年代までのペルーの心理学事情を描いた(サトウ,2022)ので,今回は実験心理学を中心にした事情を描いてみましょう。
19世紀のペルーの心理学は哲学的な心理学が主流で,実証的心理学を批判したデウストゥア(Alejandro Deustua)によるスピリチュアリズム的な哲学が勢いをもっていました(Stucchi–Portocarrero, 2019)。彼は政治家でもあり,一時期,ペルーの首相も務めました。
ペルーに実証主義的な心理学を紹介したのはブルメンフェルド(Walter Blumenfeld)です。彼は,ドイツでベルリン大学の哲学科においてカール・シュトゥンプの指導を受け「視覚空間における見かけの大きさ」の研究で博士号を得ました。同時期に同大学で活躍したウェルトハイマーやケーラーなどゲシュタルト心理学者達とも関係を深めました。その後ドレスデン工科大学教授を務めるほどの優れた研究者でした。彼はナチスドイツが政権を掌握しユダヤ人に対する非人道的政策を打ち出したという情勢をうけて,1935年にスペインから移り住みました。ペルーにおいて彼は国立サンマルコス大学の人文学部に合流し,科学的,実験的,量的心理学をペルーに紹介し実験的な心理学の重要性を根づかせました(Rodríguez, 2018)。この大学は16世紀に設立された南米大陸最古の大学です。
また,ブルメンフェルドはアメリカのターマンが開発した集団式知能検査を6000人の子どもたちに行いました。後に発刊した『学習の心理学』ではスキナーの行動分析を紹介するだけではなく,ゲシュタルト心理学の学習観(ケーラーによるチンパンジーの洞察学習)などについても紹介を行いました。
ブルメンフェルドを引き継いだのがボンディ(Augusto Salazar Bondy)やエンシナス(José Antonio Encinas)です。エンシナスはサンマルコス大学総長として,1941年に「心理教育と心理技術研究所」を設立しました。後に1955年に心理学専攻が設立されることになります。
1953年に国立マヨール・デ・サンマルコス大学に心理学の学位を取得できるカリキュラムが導入されました。翌1954年にはペルー心理学会が創立されました。さらに,1980年にペルー心理学者協会(College of Psychologists of Peru)が設立されました。
文献
- Rodríguez, T. C. (2018) Fundamentos do pensamento psicológico de Walter Blumenfeld (1882–1967). In Jacó–Vilela, A. e M. de Marie Oliveira, D. (Eds.) Clio–Psyché: discursos e práticas na história da psicologia Rio de Janeiro, Capítulo 25. DOI:10.7476/9788575114988.0027
- サトウタツヤ (2022) 「心理学史諸国探訪第14回 ペルー(その1)」『心理学ワールド』96,29.
- Stucchi–Portocarrero, S. (2019) Cien años de la Revista de Psiquiatría y Disciplinas Conexas. Revista de Neuro–Psiquiatria, 81(4).
https://revistas.upch.edu.pe/index.php/RNP/article/view/3442
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