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私のワークライフバランス

あせらず,あわてず,あきらめず

日本学術振興会特別研究員RPD(関西学院大学)

橋本 京子(はしもと きょうこ)

Profile─橋本 京子
2011年,京都大学大学院教育学研究科教育科学専攻博士後期課程単位取得後退学。博士(教育学)。専門はポジティブ心理学。著書に『ポジティブ志向と幸福感の心理学』(単著,ナカニシヤ出版)など。

研究と家庭とご自身のご病気と,予測のつかない日々の中で,決断を繰り返してこられた橋本京子先生。これまでの生活の中で感じられた心身の大事さと他に助けてもらうことの大切さを語っていただきました。

私は,生協に勤務している3歳年上の夫,絵を描くことが大好きな小学3年の息子と暮らしています。現在の身分は日本学術振興会特別研究員RPDです。RPDは,出産・育児による研究中断後に円滑に研究現場に復帰できるように支援する制度です。

大学院生の頃は,自分には能力がないから博士号取得も研究職への就職も無理だろうけれど,大好きな研究を続けたいというだけで過ごしていました。博士課程在学中に体調を崩して休学。その間に夫と知り合い,結婚しました。夫はワークライフバランスへの意識が高く,家事も好きで,私が研究を続けるのを全面的に支えたいと言ってくれました。結婚して安心できて体調も回復し,復学して研究活動を再開しました。

子どもを望んだのですが,なかなか授からずに悩みました。博士号取得後,出身研究室に任期付き研究員として在籍しているときに,妊娠が判明。やっと授かったのだから絶対にこの子を守らねばというプレッシャーから,再び心身の調子を崩しました。非常勤講師の仕事もやめ,研究活動もできず家に引きこもりました。

妊娠経過自体は順調で元気な息子を授かりました。しかし自分の調子は戻らず,日々生活するのがやっと。産後4か月時に,2年後の4月から任期付きの嘱託講師につくことが決まり,それを支えに育児中心の日々を過ごしました。

息子が1歳6か月時に就職し,夫が育児時短をとって(息子の就学1年前まで9時~15時勤務),保育所の送迎を含む家事育児を主に担うことになりました。研究と教育に専念できる毎日は楽しく張り合いがありました。しかし無理がたたって再度体調を崩し,1年半で退職することに。研究を続ける道と収入が絶たれた絶望で,自信をなくし自暴自棄にもなりました。

あきらめかけたときに,RPDの応募条件に該当することがわかり,応募したところ採択されましたが,最初の1年は中断し,療養に専念しました。1年後に再開したものの,なかなか本格的に研究活動をできないまま現在に至ります。

現在は,自宅で体調を第一にしながらできる範囲で研究を進めています。コロナでオンライン化が進み,自宅にいても学会大会やセミナーに参加できることはありがたいです。息子は学校の後は学童保育ですが,夕方以降は私と一緒に過ごします(友達と遊ぶことも)。今も家事育児の多くは夫の担当です。「できる人がすればいい。僕がやりたくてやっている」と夫。感謝していますが,母・妻として不十分だと思い,家族に申し訳なく思うこともあります。

子どもをもつ女性研究者は,苦労を乗り越えて,育児も研究も両立してどちらの世界でも活躍して輝いていなければならないというイメージがあり,それには程遠い自分を情けなく思うこともあります。他方,子どもをもてない人生も考えた経験から,結婚しない,子どもをもたない生き方もあることは心にとめておきたいです。それぞれの年代や立場で,仕事も人生も異なった大変さがあると思います。自分と違う生き方も尊重しながら,職場や家庭や地域で,苦労を分け合い,幸せを増やせる社会であるよう願います。

研究を何度も中断し,今後も続けられるかどうか不透明な私の事例は後進のお手本にはならないと思いますが,自分の心身を大事にすることと,困ったときは周りに助けてもらうことを恐れずにということは伝えたいと思います。家族,研究者の先輩や後輩,息子の保育所や学校の先生,児童相談所,ママ友達,地域の方,自分自身の心身を支えてくれる主治医や看護師,病気を経験した仲間,様々な人に私は支えられています。対面で,メールで,電話で,SNSで話を聞いてくれます。育児と病気がなければ出会わなかった方々です。

私の研究上の関心は幸福感や楽観性ですが,今までの経験の中で発達や教育,福祉や障害にも関心をもつようになり,視野が広がりました。いつか研究として深め,社会に還元するためにも,いつも私に元気をくれる夫と息子のためにも,笑顔で長生きしたいです。

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