刊行物のご案内
心理学研究 第94巻 第1号(2023年4月)
種類 | 原著論文 |
---|---|
タイトル | 性犯罪被害者の被害時の心的反応に関する分析 |
著者 | 横田 賀英子・渡邉 和美・和智 妙子・大塚 祐輔・平間 一樹・島田 貴仁 |
要約 | 本研究の目的は,性犯罪被害者の被害時の心的反応について,生命もしくは身体保全の危機に直面したときに身体を動かすことができなくなる現象である強直性不動状態 (TI: Tonic Immobility) を中心に検討することである。本研究では,143人の性犯罪被害者が調査の参加に同意し,質問票に回答した。探索的カテゴリカル因子分析の結果,性的暴行時の被害者の心的反応において,TI反応と恐怖反応の2因子が抽出された。構造方程式モデリングの結果,被害者の恐怖反応は,TI反応を促進させていた。また,暴力の多様性は,被害者と加害者間の事前面識に影響を受けており,さらに,恐怖反応およびTI反応を促進させていた。 |
キーワード | 被害者,性犯罪,強制性交等,強直性不動状態,周トラウマ期解離 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-1#20087 |
種類 | 原著論文 |
---|---|
タイトル | 中学生のソーシャルスキルと学校適応との関連――自己評定と教師評定による検討―― |
著者 | 藤原 和政・西村 多久磨・村上 達也・福住 紀明 |
要約 | 本研究の目的は,中学生を対象にソーシャルスキルと学校適応との関連を検討することであった。学校適応に関する指標として学校生活満足度,自尊感情,抑うつ,学業成績に着目し,ソーシャルスキルの測定は自己評定と教師評定によって行われた。公立中学校3校の33学級,1年生から3年生の1,042名(男子513名,女子529名,平均年齢13.63歳,範囲12―15)を対象に質問紙調査が実施された。マルチレベル相関分析によって相関係数を推定し,それらの相関係数の大きさを比較した結果,相手のことを気遣ったり,集団のルールを守ったりすることなどを表す配慮のスキルは学業成績と正の関連を,一方で,仲間との積極的な交流や自己主張などを表すかかわりのスキルは,学校生活満足度の下位尺度である承認感および自尊感情と正の関連を特に示すことが明らかにされた。さらに,共通して配慮のスキルおよびかかわりのスキルともに学校生活満足度の下位尺度である被侵害感および抑うつとは負の関連を示した。これらの結果から,それぞれのソーシャルスキルが広範囲にわたる学校適応に対して弁別的な教育効果を期待できることが示唆された。 |
キーワード | ソーシャルスキル,学校適応,中学生,マルチレベルモデリング,クロスインフォーマントアセスメント |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-1#21035 |
種類 | 原著論文 |
---|---|
タイトル | コロナ禍の職務ストレッサーおよびコーピング方略――全国インターネット調査の第2報―― |
著者 | 市倉 加奈子・日野 亜弥子・田上 明日香・井村 里穂・石田 陽菜・深瀬 裕子・村山 憲男・村瀬 華子・島津 明人・平井 啓・田ヶ谷 浩邦 |
要約 | COVID-19感染拡大に伴い生じたリモートワークや過重労働などの職務上の変化は,就労者に深刻な精神的苦痛をもたらしている。本研究では,緊急事態宣言下で日本の就労者が抱える職務ストレッサーおよびコーピング方略について明らかにすることを目的とする。本研究は日本在住の就労者を対象に2020年5月に実施されたオンライン調査の結果に基づく質的研究である。調査では,職務ストレッサーおよびコーピング方略について自由記述による回答を求め,内容分析を用いてそれぞれカテゴリ化した。研究対象者919名のうち,544名(59.2%)がCOVID-19感染拡大に伴う就労変化をストレッサーであると認識していた。内容分析の結果から,職務ストレッサーは生活領域および職務領域を合わせて11カテゴリ,コーピング方略は情動焦点型,問題焦点型,コロナ禍の行動拡大,コロナ禍の認知転換,対処なしを合わせて16カテゴリに分類された。職務ストレッサーとしては,「ワークライフ調整」,「コミュニケーション不全」,「業務過多」,「仕事制限」などが挙げられた。そのうち最も活用頻度が高いコーピング方略には,情動焦点型の1つである「気分転換による自己コントロール」が挙げられた。また,「業務内容・業務量の調整や工夫」,「コミュニケーション円滑化のための工夫」,「在宅環境の調整」などの問題焦点型,「プライベート・コミュニケーション」などのコロナ禍の行動拡大,「あきらめ」などのコロナ禍の認知転換も比較的多く用いられていた。本研究は日本の就労者を対象とし,COVID-19感染拡大に伴う職務ストレッサーとコーピング方略に焦点を当てた初めての研究である。結果から,緊急事態宣言下において日本の就労者に深刻な負荷がかかっている中で,新しいコーピング方略も獲得しながら個々が対処しようとしていたことが分かる。将来的には,これらのコーピング方略が精神的苦痛の緩和に寄与するかどうかを検証していく必要がある。 |
キーワード | 新型コロナウイルス,感染症パンデミック,職務ストレス,ストレッサー,コーピング方略 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-1#21046 |
種類 | 原著論文 |
---|---|
タイトル | ストーキング事案に関する深刻度評価に影響を与える要因 |
著者 | 鈴木 拓朗 |
要約 | 本研究では,加害者と被害者の関係性,および両者の性別がストーキング事案の深刻度評価に与える影響について検証することを目的とした。本研究では仮想のシナリオを使用した3 × 2 × 2 × 2(関係性 × 加害者の性別 × 被害者の性別 × 評定者の性別)の実験デザインを採用した。参加者は1200名であり,12種類のうち1つのシナリオを読み,その内容に関する質問に回答した。その結果,加害者が非面識者であるよりも元交際関係である方が,または,被害者が女性であるよりも男性である方が,深刻度を低く見積もる傾向があることが示された。さらに,女性被害者事案においては,加害者が男性であるよりも女性である方が,深刻度が低く見積もられる傾向があった。ストーキング事案に早期に対応していくために,これらの認知バイアスを低減させる一次予防や警察官教育が求められる。 |
キーワード | ストーキング,認識,加害者と被害者の関係性,性別,仮想シナリオ |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-1#21060 |
種類 | 研究資料 |
---|---|
タイトル | 日本語版勇気尺度の作成――項目反応理論を用いた尺度構成―― |
著者 | 下司 忠大・吉野 伸哉・小塩 真司 |
要約 | 本研究の目的はCourage Measure (CM) を邦訳し,日本語版CM (CM-J) の妥当性を検討することであった。研究1 (N = 1,000) では,CM-Jが先行研究と同様の1因子構造を有することや,項目反応理論に基づいて十分な測定精度と良好な信頼性を有することが示された。研究2 (N = 366) では,楽観主義,悲観主義,主観的幸福感,Big Fiveパーソナリティ特性,行動指標との関係からCM-Jの収束的妥当性および基準関連妥当性が確認された。研究3 (N = 200) では,レジリエンス,勇敢さ,本来感,グリットとの関連からCM-Jの収束的妥当性が確認された。CM-Jは勇気の個人差の研究に有用であり,将来的には,エクスポージャー法でドロップアウトする可能性のあるクライエントのスクリーニングに役立つと考えられる。 |
キーワード | 勇気,尺度開発,ポジティブ心理学,項目反応理論 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-1#21234 |
種類 | 研究資料 |
---|---|
タイトル | LGBアイデンティティ尺度(LGBIS)日本語版の作成 |
著者 | 佐藤 洋輔・宇野 カオリ・沢宮 容子 |
要約 | 本研究では,レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルアイデンティティ尺度(LGBIS)の日本語版作成を行った。原尺度は,LGBとしてのアイデンティティの受容度を評価することを目的として作成された。日本語に翻訳された尺度の信頼性や妥当性について,703名のデータから検討した。探索的因子分析および確認的因子分析の結果,8因子構造の原尺度とは異なり,LGBIS日本語版は4つの因子から構成された(LGBに対するネガティブなイメージや感情,アイデンティティの中心性,アイデンティティの肯定,アイデンティティの不確実性)。さらに,内的一貫性および再検査間の相関は尺度の高い信頼性を示した。4つの下位尺度はアイデンティティに関わる様々な指標と関連し,LGBアイデンティティに対するネガティブな感情やアイデンティティの肯定と精神的健康の指標との間における関連は,マイノリティ・ストレスに関わる先行理論とほとんど一致しており,LGBIS日本語版の高い妥当性が示された。したがって,LGBISの日本語版は,日本人のLGB集団におけるアイデンティティ受容の評価に適していると言える。 |
キーワード | LGB,アイデンティティ,測定尺度,マイノリティ・ストレス |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-1#21239 |
種類 | 研究資料 |
---|---|
タイトル | スケジューリングスタイルと日常における目標追求との関連――TSQ日本語版を作成して―― |
著者 | 長峯 聖人・湯 立・三和 秀平・海沼 亮・浅山 慧・外山 美樹 |
要約 | 日常における目標を追求するうえで,スケジュールを立てることは重要である。スケジュールを立てることの個人差をスケジューリングスタイルと呼ぶ。スケジューリングスタイルには時間を基準とする時刻重視スタイルと進捗を基準とする出来事重視スタイルの2つがあり,近年,自己制御に関する個人差の1つとして注目されている。本研究では,特性的なスケジューリングスタイルを測定する Task Scheduling Questionnaire (TSQ) の日本語版を作成したうえで,目標として学業的目標を取り上げ,スケジューリングスタイルと大学生の学業的目標追求との関連を検討することを目的として3つの研究を行った。研究1と研究2では,大学生と高校生を対象として調査を行った。その結果,TSQ日本語版がおおむね良好な信頼性と妥当性を有することが示された。研究3では,TSQ日本語版を用いた検討が行われ,出来事重視スタイルが大学生における学習エンゲージメント,学習行動,学業成績のすべてと正の関連を示すことが明らかになった。一方で,時刻重視スタイルは学業的な指標との関連が一切みられなかった。総合的考察では,時刻重視スタイルと日常における目標追求との関連についての展望へ言及すると共に,本研究の限界と課題について議論された。 |
キーワード | スケジューリングスタイル,目標,エンゲージメント,自己制御 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-1#22205 |
種類 | 研究報告 |
---|---|
タイトル | 物語理解時の共感的反応における視空間作動記憶の役割 |
著者 | 細川 亜佐子・ 太田 直斗・ 北神 慎司 |
要約 | 本研究の目的は,物語理解時の共感的反応は視空間的処理の活性化を介して喚起されるのかを検討することである。具体的には,共感的反応の評定得点に対する視空間記憶課題負荷の効果を検討するため,視覚パターン刺激のドットの配列を記憶しながら,物語刺激を読む二重課題を行った。その結果,視空間作動記憶容量が大きいほど,物語読解の共感的反応得点が低くなることが明らかになった。この結果から,物語理解時の共感的反応は,視空間作動記憶容量の個人差が影響し,特に,容量の大きい読者ほど,視空間的処理の活性化によって心的表象を精緻化することで,共感的反応が生じる可能性が示唆された。 |
キーワード | 物語理解,共感的反応,視空間作動記憶 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-1#22305 |
種類 | 展望論文 |
---|---|
タイトル | 制止学習アプローチに基づいたエクスポージャーの研究動向 |
著者 | 佐藤 友哉・ 田中 恒彦・ 前田 駿太 |
要約 | 本研究の目的は,「制止学習アプローチ」に基づいたエクスポージャーを実施した研究に関するシステマティックレビューを行い,当該アプローチの研究の蓄積状況とその有効性について包括的に整理することであった。PubMed,PsycINFO,Web of Science を用いて文献検索を行った。スクリーニングと適格性の評価の結果,制止学習アプローチに基づくエクスポージャーを行っている文献が59報抽出された。これらの文献を,制止学習アプローチの具体的な方略ごとに分類し,研究数と効果の有無を概観した。概観の結果,各方略における研究の蓄積数は,NMDA受容体の部分作動薬の服薬を除いて,十分とは言えないことが明らかとなった。また,効果が認められた研究は,59報のうち33報であったものの,その内訳には偏りが見受けられた。そのため,制止学習アプローチが十分な有効性を持つとは言い難い状況であり,今後のさらなる研究蓄積と研究方法の工夫が望まれる。 |
キーワード | エクスポージャー,制止学習アプローチ |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-1#21405 |