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巻頭言

親密な関係研究の先駆者との出会いと別れ

北星学園大学・北星学園大学短期大学部 学長
大坊郁夫(だいぼう いくお)

マサチューセッツ大学に滞在していた津村俊充先生(当時南山大学,故人)のもとに5人の友人と出かけたのは1986年のことです。ボストン空港から車で約2時間のアマーストにある大学は驚くことばかりでした。24時間開館の図書館,常駐する大学警察,建物からの距離に応じて駐車場の料金が異なること,心理学部の巨大なビル等々。ここで,対人魅力,親密な対人関係の研究者であるジョージ・レヴィンジャー先生をご紹介いただく機会を得ました。先生の理論を直接に解説していただいたばかりか,広い敷地にあるお宅にもお招きいただきました。遊泳できる大きさの池もあり,日米の大学教員の生活ぶりの格差に驚いたものです。その折り,先生は16歳でコロンビア大学に入学後,1945年には米軍に入隊して金沢に赴任したこと,日本の風情を懐かしまれ,アン夫人に日本の様子を穏やかにお話しされていたことを思い出します。2003年には,50年に及ぶ夫妻の関係を事例とした研究論文も発表されました

大阪にいた2008年に先生からご連絡がありました。日本に夫妻で旅行したい,ついては会いたいというものでした。長らく音信不通であった私のことを思い出されたことに感激し,早速,津村先生にも連絡し,京都でお会いしました。翌日には研究室の院生たちと京都市内を案内し,会食し,楽しんでいただきました。先生の他人に配慮した穏やかな物腰で,20年の時の流れを一気に飛び越えたあたたかい時間を過ごせました。

その後は,毎年クリスマス・カードを交換していましたが,先生から連絡のない年がありました。案じていたところ息子さんからカードが届き,そこにはニュース誌に掲載された訃報が同封されていました。その見出しは,ご夫妻二人の訃報を伝えるものでした。なんと,アン夫人が亡くなった12日後(2017年7月3日)に“追いかけ”てジョージ先生も亡くなられたのです。始まりには終わりがあります。先生の対人関係モデルにありますが,魅力を感じて関係を構築しようとし(A),やがて親密な関係が成立し(B),それが順調に持続する(C)とは限らず,多くは崩壊(D)に至るものです。順調に親密さが増す関係もまた,死によって終わります(E)。ご夫妻の死はその典型だと考えています。お二人とも非暴力の信念に基づいた対人関係の軋轢解決にも力を注がれ,社会正義,市民の権利擁護の社会活動にも熱心でした。

最後の時まで互いを大切にされたお二人の思いを偲び,実践された「親密な関係」を考え続けたいものです。

  • Levinger, G., & Levinger, A. C. (2003) Winds of time and place: How context has affected a 50–year marriage. Personal Relationships, 10, 285–306.
大坊郁夫

Profile─大坊郁夫
1973年北海道大学大学院文学研究科博士課程中途退学。文学修士。北星学園大学文学部教授,社会福祉学部教授などを経て,2000年大阪大学大学院人間科学研究科教授,2012年定年退職(同年,名誉教授),2012年東京未来大学学長(2018年退職,名誉教授),2018年から現職。専門は対人社会心理学。日本社会心理学会会長,日本グループ・ダイナミックス学会会長などを歴任。著書に『対人社会心理学の研究レシピ』(監修,北大路書房),『人を結ぶコミュニケーション』(単著,福村出版)など。

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