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編集委員会が楽しかった
大久保 街亜(おおくぼ まちあ)
Profile─大久保 街亜
専門は認知心理学。博士(心理学)。著書に『伝えるための心理統計』(共著,勁草書房)『認知心理学:知のアーキテクチャを探る』(共著,有斐閣)など。
会議が楽しい。そんなことは滅多にない。たいていの会議は決定事項の伝達や意思決定のアリバイづくりが目的だ。それが楽しい人は変人である(と私は思う)。ただし,心理学ワールドの編集委員会は楽しかった。3か月に一度,本郷にある日本心理学会事務局の会議室に委員が集まり,ざっくばらんに意見を出し合った。特集や小特集については,担当の委員が原案を出し,それを軸に企画会議を進めるのが通例だった。ただ,心理学ワールドの編集委員会では,出された原案にさして意見もなく承認といったよくある会議進行がほとんどなかった。少なくとも私が委員だったときにはなかったと思う。
特集「暴力」(77号,2017年)について議論した委員会を例にあげよう。最初に私が参加した委員会なので印象に残っている。小森政嗣さん(編集委員)が担当委員で,進化と文化という心理学の屋台骨を支える視点を柱に暴力に関する最新の知見を紹介するという企画案だった。進化と文化それぞれについて,霊長類の子殺しをテーマに古市剛史さん,名誉の文化をテーマに石井敬子さんが記事を書いた。名前だけで読みたくなる人選だ。さらに「現代的なのがいいよね」「このテーマならこの人はどうか」などさまざまな提案や意見が他の委員から出された。最終的にTwitterの投稿分析で差別や偏見の問題に取り組んでいた高史明さん,スポーツ指導における体罰について意見発信をしていた世界選手権の陸上競技メダリスト,為末大さんが特集に名を連ねた。こんな感じで,議論を重ね企画は魅力的に肉付けされていった。積極的,生産的に話しあうさまに少し私は驚いた。
意見が活発に出る会議は,荒れたり,紛糾したりすることもある。キツイ言葉が飛び交うこともある。イヤなものだ。だが,心理学ワールドの編集委員会でそういうことはなかった。当時の委員長,川口潤さんや担当常務理事の宮谷真人さんや原田悦子さんの人柄によるものかもしれない。また,歴代の委員の皆さんが引き継いできた空気感もあるかもしれない。ともかく風通しがよく,明るい雰囲気のなか自由闊達にワイワイガヤガヤと話し合いができた。
そんな雰囲気のなか,私が委員だった時期にはじまった企画に「こころの測り方」がある。きっかけは,手塚洋介さん(編集委員)と川口さんが委員会終わりの電車でした世間話だったと聞いている。「新しい統計手法や測定法がたくさん出てきている」という話になり,そういったものをわかりやすく手短に伝えるコーナーを心理学ワールドにも作ろうということになったらしい。そう川口さんから聞いた。
当時の編集委員のなかでは,大久保が統計などに詳しいだろうという話になり,私がこのコーナーの担当となった。ただ,丸投げされたわけではなく,川口さんから「こういうのが知りたいんだよね」とお題のリストを委員会で提示された。他の委員もいろいろ意見を出し,あっという間にしばらくは困らないくらいの企画案が集まった。当初から話に出ていた「ベイズ統計学(87号,2019年)」「サンプルサイズの決め方(85号,2019年)」など新しい統計手法に関わるトピックだけでなく,「コルチゾールからストレスを知る」(86号,2019年)や「ミリ波レーダによる非接触計測」(92号,2021年)など,最先端の薬学的,工学的測定までが取り上げられた。このような多岐にわたるトピックが,一つのコーナーで取り上げられるのは委員会メンバーの力が結集したお陰である。風通しのよい,楽しい雰囲気のなかで行われる生産的議論の産物だと言えるだろう。
雑にまとめると,心理学ワールドの編集委員会はとても楽しかった。その楽しかった雰囲気が,誌面にもよく現れていると思う。読者の皆様には,ウェブサイトのバックナンバーをあさって,ぜひいろいろ読んでいただきたい。
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