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ここでも活きてる心理学

がん経験をとおして伝える命の授業

特定非営利活動法人沖縄がん教育サポートセンター 理事長

徳元 亮太(とくもと りょうた)

Profile─徳元 亮太
沖縄リハビリテーション福祉学院,京都橘大学健康科学部心理学科卒業。専門は理学療法,心理学。沖縄第一病院リハビリテーション科に理学療法士として勤務。認定心理士,日本糖尿病療養指導士など複数の資格をもつ。

実際の学校でのがん教育現場
実際の学校でのがん教育現場

は20年に「がん」の告知を受け,治療に臨んだことをきっかけに「心のケアの重要性」「健康と命の大切さ」について見直すことができました。その経験を活かし,現在はがん教育外部講師として,小・中学校,高校でがん教育授業を行っています。


がん教育とは

文部科学省はがん教育を「健康教育の一環として,がんについての正しい理解と,がん患者や家族などのがんと向き合う人々に対する共感的な理解を深めることを通して,自他の健康と命の大切さについて学び,共に生きる社会づくりに寄与する資質や能力の育成を図る教育である」と定義しています。

2017(平成29)年3月に公示された新中学校学習指導要領(2021(令和3)年度から全面実施)および2018(平成30)年度3月に公示された新高等学校学習指導要領(2022(令和4)年度から年次進行で実施)において,それぞれ新たにがん教育についても取り扱うことが明記されました。国は学校医やがん医療に携わる医師,がん患者・経験者等の外部講師を活用したがん教育を推進しています。

がん患者に対する心のケアの重要性と心理学を活かした対処方法

がんを体験すると,さまざまな種類のストレスを経験することがあります。がんといわれると強い衝撃を受けてしまい,「頭が真っ白になった」「病院でがんと告げられた後に,どうやって帰ったのか覚えていない」という方もいます。

告知後しばらくの間は,不安や落ち込みの強い状態が続き,眠れなかったり,食欲がなかったり,集中力が低下する人も少なくありません。中には,今まで経験したことのないような,つらい状態に陥ってしまう人もいます。さらに,周囲の人と壁ができてしまったような「疎外感」や,自分だけが違うのかといった「孤立感」を感じます。

私は,自分自身の状態を知る「セルフマネジメント」とストレスに対して具体的に対処する「ストレスコーピング」を実践することで,必要に応じて周囲のサポートを得たり相談相手を探したりすることができ,「つらいけれども何とか治療を受けていこう」「がんになったのは仕方ない,これからするべきことを考えてみよう」など,見通しを立てて前向きな気持ちになっていくことができました。

経験者だからこそ語れること

私にとってのがん治療の経験はつらいだけではなく,「健康と命の大切さ」「私にとっての幸せとはなにか」について学ぶことができたかけがえのないものとなっています。そのためたくさんの人たちに「がんになったことは不運だが不幸ではない」ということを伝えていきたいと思っています。

そこで私は仲間に声をかけ,医療関係者やがん経験者・家族の賛同者を募り,2023年11月にNPO法人沖縄がん教育サポートセンターを設立しました。活動の柱は2つあり,一つめはがん教育外部講師を育成することです。質の高いがん教育を実施できるように外部講師の育成研修会とフォローアップ研修会を実施しています。二つめは外部講師をリスト化し,学校の要望に応じて外部講師の派遣を行うことです。

今後はさらに心理学で培った知識を活かして,がん教育を深めていきたいと思っています。

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