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【特集】

心理学と統計学を用いて犯人に迫る犯罪者プロファイリング─実務と学術研究の狭間で

平間 一樹
科学警察研究所犯罪行動科学部捜査支援研究室 主任研究官

平間 一樹(ひらま かずき)

Profile─平間 一樹
2023 年,東京都立大学都市環境科学研究科地理環境学域博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。専門は犯罪心理学,人文地理学。2014 年より科学警察研究所犯罪行動科学部捜査支援研究室研究員,2024 年より現職。寄稿論文に「居住地推定による捜査支援」『警察学論集77(5), 24–61, 2024。

警察ドラマの世界に限った話と感じる方も多いかもしれないが,犯罪者プロファイリングとは犯罪捜査のためのれっきとした技術である。しかし,華やかなドラマの描写とは異なり,現実には犯人検挙に有用な情報を提供するための地道な捜査支援業務である。学術的には捜査心理学の中に位置し,犯罪者の特性を総合的に理解するための研究の側面も併せ持つ。捜査心理学とは,捜査による発見を心理学的な立場から「理論」として体系化し捜査に応用する学問であり[1],現実問題への解を探求する。

日本における犯罪者プロファイリングは,警察庁の定義[2]では「犯行現場の状況,犯行の手段,被害者等に関する情報や資料を,統計データや心理学的手法等を用い,また情報分析支援システム等を活用して分析・評価することにより,犯行の連続性の推定,犯人の年齢層,生活様式,職業,前歴,居住地等の推定や次回の犯行の予測を行うもの」とされている。要約すると「統計データ」や「心理学的手法」を駆使して未解決事件の犯人に迫る情報を提供する技術である(図1)。2011年から2012年において296の解決事件の犯罪者プロファイリングを担当した156名への調査の結果,131(46%)事件において,犯罪者の特定につながったと自己報告しており[3],捜査への貢献が積極的に行われている。

図1 日本における犯罪者プロファイリング
図1 日本における犯罪者プロファイリング

このように,犯罪者プロファイリングとは実学的な要素の強い学問であり,日本においては,心理学的な観点からの事例分析と,統計学に基づくデータ分析の融合のもとで今日まで発展している。本稿では,犯罪者プロファイリングの手法を概観して,心理学と統計学がどのように融合されているかを記述し,筆者がこれまでの経験において感じた,実学と学術研究の狭間で感じたことを列記する。なお,犯罪者プロファイリングは大きく分けて,事件リンク分析,犯人像推定,地理的プロファイリングがあるため,以降はそれぞれの下位分析に分けて論じる。

事件リンク分析

事件リンク分析とは,注目している分析エリアにおいて発生した種々の未解決事件から,犯行現場に残された痕跡や犯行特徴を用いて,同一犯が敢行したとされる事件群を抽出する手続きである。その後の推定の土台となるため,どれが同一犯による事件群であるかを見極めることは非常に重要である。事件リンク分析で推論の基盤となるのは,同じ犯人であれば状況が変わっても一貫した犯行特徴を有するという「一貫性」と,同一犯とそれ以外の犯人の犯行特徴の違いを示す「識別性」と言われる[4],パーソナリティ心理学の枠組みにおいて論じられてきた理論である。推論の際には,心理学的な事例分析や統計分析を使ってリンクの根拠となる,一貫性と識別性の高い犯行特徴を探索していく。統計分析を用いた研究例として,過去に解決したデータを用いて,同じ犯人が起こした一連事件のうち,いずれか2件をリンクペア,一連事件のいずれか1件と別の犯人が起こした事件を非リンクペアとして,両者を判別するロジスティック回帰分析を行う[5]ことがある。問題設定を回帰モデルに落とし込むことで,リンクに有用な一貫性と識別性の高い説明変数を探索的に検討できる。説明変数として,経験に基づいて生じた心理学的な仮説や,理論上リンク事件の判別に有効だと考えられる変数を投入する。説明変数が,目的変数の説明に有意に寄与すれば,IF(〇〇の特徴が一致すれば)‐THEN(同一犯だと言える)ルールとして蓄積され,学術的発展・実務への有用な知見の一つとなる。

例えば,侵入窃盗において「風呂場の窓ガラスを割って侵入」する犯行特徴について,一貫性と識別性が高いと分かれば,実務において「風呂場の窓ガラスを割って侵入」する侵入窃盗事件が散発したとき,それら一連犯行は同一犯によるものと推定できるだろう。

一方で,上述した研究には限界もある。第一に,犯人未検挙の段階で判明する特徴のみからリンクを考える必要があるため,過去の解決事件を使った統計モデルを構築する際には,捜査段階において確実に判明する特徴のみを説明変数に投入する必要がある。また,実務においては,未解決事件のある事件(群)に対して,同一犯による残りの全事件をどれだけ正確にリンクができるかが重要であるが,上述した回帰分析では,2つの事件ペアがリンクできるかどうかを判別しているに過ぎない。つまり,研究結果が実務にどれほど般化できるか問題が残る。

犯人像推定

犯人像推定は,犯行現場から得られたさまざまな情報から,犯人像(プロフィール)を推定する手続きである。先の事件リンク分析において,対象事件が連続事件だと推定できれば,この一連事件を引き起こした犯人像を推論していく。犯人像推定では,類似性の高い犯行行動を実行する犯人同士は,類似した特性を有するという相同仮説[6]に基づき,IF(〇〇の犯行特徴を有する者は)‐THEN(△△の犯人特徴を有する)ルールを抽出していく。ルールの関係性が強ければ,より精度の高い犯人特徴を推定できると考えられる。例えば,対面犯罪において,犯人が犯行時に覆面をしていたとする。心理学に基づく事例分析で考察すると,犯人が被害者と面識があり顔割れを防ぐため,覆面したと考えられるかもしれない。そして,過去の解決データを統計的に分析すると,犯行時に覆面していた犯人が被害者と面識を有していた割合が100%であれば,IF(覆面していれば)‐THEN(被害者と面識がある)ルールが成立する可能性が高まるだろう。

ただし,IFの部分は捜査段階で得られた情報のみから抽出する必要がある。先の対面犯罪の例において,被害者は完全に顔を覆った犯人ではなく,帽子を深く被った犯人を目撃したとする。これを,顔割れを防ぐ覆面行為と捉えてよいかは,検挙後に犯人に尋ねてみないと分からない。捜査段階では帽子を深く被っていたことしか判明しないので,それをIFとして推論せざるを得ず,制約が付いた状態でIF‐THENルールを考える必要がある。それでもルールが成立する蓋然性が心理学的に了解可能であれば,精度の高い推論が可能と考えられるが,IFを過大解釈し(i.e. 帽子を被る≒覆面する),心理学的な考察がないまま統計分析を行うと,間違った推論に陥る可能性がある。過去の統計データにおいて犯行時に覆面していた犯人が被害者と面識を有していた割合が100%だからといって,その結果をそのまま未解決事件に適合するにはリスクがある。

犯人像推定の研究では,解決事件のデータを元に意味のあるIF‐THENルールを見いだすことを主眼とする。その際,やみくもに変数を設定するのではなく,捜査段階で把握可能な犯行特徴(IF)に着目し,かつ心理学的な観点からIF‐THENルールが成立しそうな犯行特徴に焦点を当てて犯人特徴との関連を検討する。研究によって方法論や用いた変数は異なるため,一概に比較はできないが,相同仮説を支持すると主張するものや[7],そうでないものがある[6]。ただし,総合的に言えるのは,犯行特徴から犯人特徴を推定するIF‐THENルールが適用され得る効果量は,小から中程度ということである。分野によって意味のある効果量の大きさは異なるかもしれないが,われわれは制約付きのルールを適用した分析手続きを採らざるを得ないことから,その点を差し引いて,得られた効果量の高低を判断する必要がある。

地理的プロファイリング

地理的プロファイリングは,未解決事件において犯罪者の居住地が存在する可能性の高い領域を推定する手法[8](居住地推定)である。広義には,次回の犯行予測(いつ,どこに犯人が現れるかの予測)も地理的プロファイリングに含まれる[2]が,本稿では先行研究の蓄積が多い居住地推定を論じていく。

図2 距離減衰関数を用いた居住地推定(a,b)と環境要因を取り入れた推定(c,d)
図2 距離減衰関数を用いた居住地推定(a,b)と環境要因を取り入れた推定(c,d)

居住地推定の前提として,犯罪者は自身の拠点近傍において犯行し,拠点から遠ざかるにつれて犯行頻度が減少するという,距離減衰の考えがある[9]。その考え方に基づき,基本的に犯行地点の近傍から順番に犯人の拠点を探索していく。一人の犯人が連続で複数事件を行う場合は,犯行地点の地理的な分布をもとに,判明している各犯行地点に最も効率よく移動可能な地点を求めて推定居住地とする。最適化計算で推定居住地点を求めることもあれば[10],各犯行地点に距離減衰を数理的にモデル化した関数を想定して(図2a),関数の重なりが大きいエリアを推定居住エリアとする方法もあり,後者は距離減衰関数モデリングと呼ばれる[10](図2b)。

一方,これらの手法は,判明している犯行地点分布から求めた推定拠点に過ぎず,現実には実際の拠点との推定誤差が生じる。誤差を低減するために思いつくのは,犯人の属性情報をヒントにすることだろう。例えば,犯人の移動手段や年齢層は,犯人の地理空間上での行動や犯行地選択と密接に関わることが知られている[11]。徒歩による犯行だと分かれば,より犯行現場の近傍を重視して探す必要があるし,自動車であれば,より遠くまで捜査する必要が生じるだろう。このように,さまざまな犯人の情報を付与することで,誤差の低減に寄与する可能性がある。しかし,確度の高い目撃情報が得られない限り,捜査段階において犯人の属性情報を考慮することは難しい。つまり,犯行現場から得られる位置情報や犯行順序といった犯人の痕跡から,犯罪捜査にとって有用な情報を推定するという難解な問題設定は,地理的プロファイリングにも存在する。

一方,犯行地点が判明していれば,犯人の犯行場所の選択の好みや癖を表すと考えられる周辺の環境特徴を得ることができる。例えば,犯人が多くの被害対象が集まる住宅街を好んで犯行するか,被害対象が閑散とする郊外部を好んで犯行するかは,犯行現場の環境を観察したり,人口分布のデータを用いたりすれば(図2c)推論できる。捜査段階において犯人が意識的に周辺環境を考慮して犯行地選択を行っているかは不明であるが,環境心理学や環境犯罪学では,犯罪者は環境的な要因の影響を少なからず受けて犯行すると考える。実際,犯罪者が犯行地を選択する過程において,自分の拠点からの近さに加えて,被害対象となり得るターゲットの分布といったさまざまな環境要因の影響も受ける[12]。犯罪者が選択した地点周辺の環境要因は,犯人検挙前に得られる,犯人のしっぽを掴む重要な手がかりとなり得る。最近では,そうした環境要因などを取り入れた居住地推定モデルを,筆者らが考案[13]して精度検証を行い,実務への活用を進めている(図2d)。

学術的発展と実務への実践

このように,犯罪者プロファイリングは,人間のさまざまな行動を説明する心理学的な理論に基づいて仮説を生成し,統計学的な手法を駆使して,それら仮説が支持されるか否かを実証してきた。さらに,実務への実践に主眼を置くがゆえの問題が常にある中で,研究が進められてきた。

学問的発展のみを考慮するならば,捜査段階で判明するか否かにかかわらず,推定したい事項に関連する可能性のある要因を試行錯誤的に検討していくことで,より正確なIF‐THENルールを得ることができる。その反面,それを突き詰めてしまうと,実務とは乖離が広がり,実用性の乏しい知見やモデルが生成されてしまう。一方,究極的な実務への実践を目指すならば,捜査段階で判明する全てのIFに対して,心理学的に了解可能なIF‐THENルールが成立するか否かにかかわらず,機械学習モデルに投入し,より精度の高い推定を行うのが良いだろう。しかし,心理学的な根拠が乏しい推定結果を信じて実務を遂行することは,先に挙げた覆面と帽子の例のように,誤った意思決定を招く危険をはらむ。われわれは,実務に有用で,学術的根拠が担保される知見を見いだす研究に,日々苦悩しながら従事している。

まとめにかえて:実学,心理学,統計学の融合

今後,犯罪者プロファイリングが現場に即した実学でありながら,さらなる学術的発展を目指すならば,心理学と統計学のより密接な融合が欠かせない。そのために取り組むべき課題を,筆者の私見を多分に含むが列挙する。第一に,これまで蓄積されてきたさまざまなIF‐THENルールが,心理学的にどれほど了解可能か,また,統計学的に意味のあるIFとTHENの関係性があるのかを整理する必要がある。

第二の課題は,われわれ警察組織で働く心理学者や分析担当者のデータ・サイエンスに関するリテラシーのさらなる向上である。犯罪者プロファイリングの研究は,ここまで概観してきたように,さまざまな制約や方法論的な限界があるため,分析担当者が研究結果を鵜呑みにして実務に落とし込むことは,時に重大なエラーを犯すリスクがある。それはわれわれ研究をする立場の者が方法論を工夫するなどして対処できる側面もあるし,研究レベルでは制御不能な側面もある。そうした種々の限界も含めて研究や推定結果を伝えるのはわれわれの責務である。そのためには,われわれが心理学および統計学のリテラシーを常に持ち,実務支援に取り組む必要があるだろう。究極的な心理学と統計学の融合は,実務に密接して関わっているわれわれ研究者や分析担当者の肩にかかっている。

文献

  • 1.Canter,D.,&Youngs,D.(2009)Investigative psychology:Offender profiling and the analysis of criminal action. Wiley
  • 2.警察庁(2018)https://www.npa.go.jp/hakusyo/h30/honbun/html/u2620000.html
  • 3.Yokota,K.et al.(2017)Int J Police Sci Manag,19,187–194.
  • 4.Bennell,C.,&Canter,D.(2002)Sci Justice,42,153–164.
  • 5.横田賀英子他(2015)心理学研究,86,209–218. 
  • 6.Mokros,A.,&Alison,L.J.(2002)Legal Criminol Psychol,7,25–43.
  • 7.平間一樹他(2019)犯罪心理学研究,56,1–14. 
  • 8.Rossmo,D.K.(2000)Geographic profiling. CRC Press.
  • 9.Brantingham,P.J.,&Brantingham,P.L. (1981)Environmental criminology. Waveland Press.
  • 10.Levine,N. (2014)CrimeStat IV:A spatial statistics program for the analysis of crime incident locations (ver.4.01).
  • 11.Weisburd,D.et al.(2009) Putting crime in its place.Filiquarian Publishing.
  • 12.Bernasco,W.,& Nieuwbeerta,P.(2005)Br J Criminol,45,296–315.
  • 13.Hirama,K.et al.(2023)J Invest Psychol Offend Profil,20,135–150.
  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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