刊行物のご案内
心理学研究 第96巻 第5号(2025年12月)
種類 | 原著論文 [方法・開発] |
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タイトル | 日本語版Mentalization Questionnaire(MZQ-J)の開発 |
著者 | 柴田 康順 |
要約 | 本研究の目的は,メンタライジングの欠損を測定できるMentalization Questionnaire (MZQ) を邦訳した日本語版MZQ (MZQ-J) を開発し,その妥当性と信頼性を検証することであった。インターネット調査を行い,成人250名分のデータが回収された。確認的因子分析の結果,MZQ-Jは性別で共通した1因子構造であり,十分な内的一貫性と再検査信頼性が確認された。相関分析の結果,MZQ-Jは,自己に関するメンタライジングと関連が深く,マインドフルネス,共感性,Big Fiveパーソナリティ,愛着,自尊感情とも関連していた。また,MZQ-Jは,精神病理的指標として,境界性パーソナリティ特性,抑うつ・不安とも強い関連を示した。以上のことから,MZQ-Jの妥当性,信頼性は一定の水準で確認されたといえる。また,MZQ-Jによって,メンタライジング能力に合わせた適切な臨床心理学的心理援助が可能となり,メンタライジングに関する実証研究の知見を国際的に比較することが可能となる。 |
キーワード | メンタライジング,境界性パーソナリティ障害,抑うつ,マインドフルネス,自尊感情 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-5#24206 |
種類 | 原著論文 [方法・開発] |
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タイトル | 対人援助職版やりがい尺度の作成 |
著者 | 近藤 孝司 |
要約 | 本研究の目的は,医療,福祉,教育領域の対人援助職の仕事上の「やりがい」を測定する尺度を作成し,信頼性と妥当性を検証することであった。研究1では,対人援助職759名を対象に自由記述式アンケートで質問項目を収集し39項目の暫定版を作成した。研究2では,対人援助職1,999名を対象に質問紙を用いたWeb調査を行い,因子構造と信頼性,妥当性を検討した。因子分析の結果,「対象者の成長・肯定的変化」,「感謝・信頼されること」,「円滑な協働」,「専門家としての成長」,「職場の肯定的評価」の5因子28項目の因子構造が確認され,再検査信頼性も有意な相関が得られた。また,ワーク・エンゲイジメントと仕事への意味づけ,仕事の活用度や適性等,離職意図との相関関係が確認された。以上の結果から,本尺度は一定の信頼性と妥当性を有すると考えられた。 |
キーワード | やりがい,対人援助職のメンタルヘルス,仕事への意味づけ,ワーク・エンゲイジメント |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-5#24212 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | 日本における言語発達の年上きょうだい効果 |
著者 | 佐藤 栞・樋口 大樹・篠原 亜佐美・小林 哲生・西村 倫子・岩渕 俊樹・土屋 賢治 |
要約 | 言語発達における年上きょうだい効果とは,年上きょうだいがいる第二子は,年上きょうだいがいない第一子と比べ言語スキルが低い傾向にあることを指し,フランスやシンガポールなどの限られた文化で報告されてきたが,文化普遍的な現象であるかは明確でない。本研究では,言語発達における年上きょうだい効果が日本でも見られるかを,浜松母と子の出生コホートの4―5歳時点のデータ (N = 755) を用いて検討した。Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence (WPPSI) の言語性IQを言語スキルの指標として検討したところ,第二子の言語性IQは第一子より有意に低く,言語発達における年上きょうだい効果が日本でも見られることが示された。また,年上きょうだいとの年齢差が小さいほど第二子の言語性IQが高くなるという結果も先行研究と一貫していた。これらの結果から,言語発達における年上きょうだい効果は日本でも見られ,頑健な現象であることが示唆された。 |
キーワード | 言語発達,年上きょうだい効果,出生順 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-5#24301 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | スマートフォンによる回答形式の違いが心理尺度の回答に及ぼす影響 |
著者 | 永井 智・太幡 直也・下司 忠大・田村 英恵・八木 善彦・吉田 加代子・佐藤 秀行・髙橋 尚也・笠置 遊 |
要約 | 本研究の目的は,大学生を対象に,Google Forms上の複数の回答形式を用い,スマートフォンを用いたオンラインでの回答と,従来の紙による質問紙での回答の比較を通して,群間の回答の差を検討することであった。調査参加者は,グリッド,ラジオボタン,均等目盛のいずれかの形式にオンラインで回答する群と,紙で回答する群とにランダムに割り振られた。いずれの群においても,回答者は複数の心理尺度と,調査フォームの見やすさの評価に回答した。加えて,回答時間と不注意な回答の比率を得た。有効回答者数は1,108名であった。分析の結果,グリッドでは,尺度得点の平均値の一部や,変数間の相関係数の一部が紙での回答と異なっていた。加えて,不注意な回答が多く,回答が時間長く,フォームの見やすさも低く評価されていた。均等目盛においても,一部の尺度の平均値で紙での回答との差が見られた。一方,ラジオボタンは紙での回答と最も差が見られなかった。 |
キーワード | オンライン調査,スマートフォン,回答形式,Google Forms,不注意な回答 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-5#24304 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | 対極性と共存性を考慮に入れた心理学的タイプの両義性に関する構成概念妥当性の検討 |
著者 | 佐藤 淳一 |
要約 | 本研究の目的は,共存性を考慮に入れたJungの心理学的タイプ測定尺度 (JPTS-C) を用いて外向と内向の間,思考と感情の間,感覚と直観の間における対極性と共存性を含む,両義性の構成概念を検討することである。JPTS-Cは,タイプ論の対極性を想定しながらも,外向と内向の間,思考と感情の間,感覚と直観の間の共存性を測定するため,回答形式を単極形式からなる7段階評定尺度の項目対とした。本結果は次の通りである。(a) JPTS-Cの両義性指標は二面性尺度の両義性指標と相関関係が得られた。(b) 外向と内向の両義性指標は曖昧さの態度における不安と負の相関が示され,感覚と直観の両義性指標は曖昧さの態度における享受および受容との間に正の相関,また二分法的信念との間に負の相関が示されたのに対し,思考と感情の両義性指標は曖昧さの態度における享受および統制との間に正の相関が示された。こうした結果から,JPTS-Cの下位尺度の両義性指標に関する構成概念妥当性が確認されたほか,両義性指標の性質は下位尺度によって異なることが示唆された。 |
キーワード | 心理学的タイプ,対極性,共存性,両義性,妥当性 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-5#24314 |