刊行物のご案内
心理学研究 第97巻 第2号(2025年6月)
| 種類 | 原著論文 |
|---|---|
| タイトル | 日本版司法取引における意思決定――罪状況・罰の程度・有罪確率および親密性の影響―― |
| 著者 | 廣田 貴也・若林 宏輔 |
| 要約 | 2018年より日本において,日本版司法取引と呼ばれる制度が導入された。当制度は,他者の刑事事件について証言する捜査協力を行うことで,自身が恩恵を得る「捜査協力型」司法取引である。当制度には虚偽供述の危険性が指摘されているものの,実際の適用事例は少なく十分な検討は行われていない。そこで本研究では,日本版司法取引の意思決定に影響を与える変数の検討を目的として二つのヴィネット実験を実施した。実験1では,自身が罪を犯しているか無実であるかとの罪状況の違いによる影響が示され,有罪状況の場合に受諾率が高くなることが明らかとなった。実験2では,罪状況と被供述者との親密性の違いが関連して意思決定に影響をすることが明らかとなった。また実験1と2の双方とも無罪状況での取引受諾が一定数生じた。このことは日本版司法取引における虚偽供述の発生とそれによるえん罪の危険性を示している。 |
| キーワード | 司法取引,虚偽供述,意思決定,えん罪 |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-2#23046 |
| 種類 | 原著論文 |
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| タイトル | ダークトライアドは社会的排斥を媒介して恋人や配偶者への心理的暴力加害を予測する |
| 著者 | 金政 祐司・古村 健太郎・宮川 裕基 |
| 要約 | 本研究は,反社会的行動と関連するダークトライアドの3要素が,将来的な心理的IPV加害を予測するのか,また,それらの関連を関係外の要因である社会的排斥経験が媒介するのかについて検討を行った。恋愛関係ならびに夫婦関係における心理的IPV加害に焦点を当て,2つの6ヵ月間3波縦断調査を実施した。研究1では,現在恋人のいる者1,021名,研究2では,既婚者1,608名を対象とした。相関分析の結果から,研究1と研究2の双方で,第1波のマキャベリアニズム,サイコパシー傾向,自己愛傾向は,第3波の心理的IPV加害とそれぞれ正の相関を,また,第2波の社会的排斥経験は,第3波の心理的IPV加害と正の相関を示した。さらに,潜在的交差遅延効果モデルの結果から,マキャベリアニズムとサイコパシー傾向は,社会的排斥経験の高さを媒介して,恋愛関係と夫婦関係における心理的IPV加害を予測することが示された。 |
| キーワード | 親密な関係における暴力,ダークトライアド,社会的排斥,縦断調査 |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-2#24035 |
| 種類 | 原著論文 |
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| タイトル | 悲しみと切なさの概念的異同 |
| 著者 | 長峯 聖人・白井 真理子 |
| 要約 | 切なさは日本における典型的な感情の1つであり,悲しみを構成する重要な概念でもある。しかし,この2つがどの程度類似した概念であり,切なさが悲しみとは異なる独自の特徴を有しているかについては十分に明らかになっていない。本研究は,悲しみと切なさの概念的異同について3つの調査から検討することを目的とした。具体的には,研究1では悲しみの特性語を用いて,研究2では悲しみの機能語を用いて,悲しみと切なさの間で評定に差がみられるかどうかを検討した。研究3では実際の感情体験に焦点を当て,場面による感情の生じやすさと,他の感情概念や悲しみに関連した状態との関連について検討した。3つの研究の結果から,悲しみと切なさは類似しているものの異なる点が多いことが分かった。また,悲しみはネガティブ感情としての特徴を強く有する一方で,切なさは混合感情としての特徴を有していることが示唆された。今後,切なさを詳細に検討していくことで日本人の感情体験における文化的特徴を明らかにできるかもしれない。 |
| キーワード | 悲しみ,切なさ,混合感情 |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-2#24038 |
| 種類 | 原著論文 [方法・開発] |
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| タイトル | 日本語版オンライン道徳不活性化尺度の信頼性と妥当性 |
| 著者 | 久保 尊洋・山岡 明奈 |
| 要約 | 本研究では,オンライン道徳不活性化尺度(J-OMD)の日本語版を作成し,その信頼性と妥当性を検討した。研究1では,15から18歳の学生406名を対象に,構造的妥当性,測定不変性,内的一貫性,および基準関連妥当性を検証した。確認的因子分析の結果,J-OMDは原版と同様に1因子構造を持ち,性別間での測定不変性が確保されていることが示された。また,内的一貫性は十分な水準を示し,道徳不活性化やネット荒らしとの正の相関が確認された。研究2では,157名を対象に1ヵ月間隔での再検査信頼性を評価した。再検査信頼性は中程度の水準であった。以上の結果から,J-OMDはオンライン道徳不活性化を測定するための信頼性と妥当性を備えた尺度であることが示唆された。 |
| キーワード | 道徳不活性化,ネット荒らし,ネットいじめ,社会的認知理論,オンライン |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-2#24235 |
| 種類 | 研究報告 |
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| タイトル | 警察官の性犯罪被害者に対する態度が捜査面接に与える効果 |
| 著者 | 平間 一樹・横田 賀英子・和智 妙子・渡邉 和美・古橋 健悟・大塚 祐輔・島田 貴仁 |
| 要約 | 警察官は,事件解決のために性犯罪被害者から必要な情報を得ることと,被害者の精神的なケアを行うことのバランスを保たねばならない。本研究では,事情聴取時における警察官自身の被害者への態度の認識が,被害者の警察官の態度に対する認識と一致するか否かを検討し,双方の認識が,事件解決のために必要な情報の獲得にどのように影響を及ぼすかを検討した。本研究では,2017年10月から2018年12月までに性犯罪被害に遭った被害者と,その被害者を担当した警察官から成る122ペアのデータを分析した。カテゴリカル探索的因子分析の結果,被害者への配慮を示す「適正態度」因子が両グループから抽出され,因子得点間に中程度の級内相関が認められた。アクター・パートナー相互依存モデルの結果は,警察官から適切な対応を受けたと認識した被害者は,そうでなかった被害者よりも,自身の被害経験の情報をより提供する傾向があり,捜査のために有効な情報を得られたか否かという警察官自身の認識により影響を与えたことを示した。 |
| キーワード | 被害者,性的暴行,手続き的公正,カテゴリカル因子分析,アクター・パートナー相互依存モデル |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-2#23332 |
| 種類 | 展望論文 |
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| タイトル | 吃音のある成人に対する心理的介入の系統的レビューと探索的マルチレベル・メタ・アナリシス |
| 著者 | 灰谷 知純・青木 瑞樹・飯村 大智 |
| 要約 | 吃音症は発話障害であるが,吃音のある成人はしばしば心理的症状を有することがある。吃音のある成人に対して心理療法が応用されているが,そのエビデンスの統合は未だ行われていない。本研究では,吃音のある成人に対する心理的介入に対する系統的レビューと,探索的なマルチレベル・メタ・アナリシスを行った。24の研究がレビューに含まれ,前後比較での標準化平均値差を適切に推定することができた13の研究(total n = 311, 85の効果量)の結果を統合した。統合対象となった研究の多くで,認知行動療法(n = 191, 53個の効果量)やマインドフルネス・アクセプタンスを用いた介入(n = 94, 22個の効果量)が行われていた。心理的介入は,吃音のある成人の心理的症状を緩和するのに有効であった (ĝ = 0.63, 95%CI [0.49, 0.76])。さらに,アウトカムのタイプと介入のタイプとの間で統計的に有意な交互作用効果を認めた。また,本邦で独自に開発されたメンタル・リハーサル法の効果は,介入期間の長さによって説明された。吃音のある成人に対する心理的介入への示唆について議論した。 |
| キーワード | 吃音,系統的レビュー,メタ・アナリシス,認知行動療法,マインドフルネス |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-2#24402 |





