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【特集】

拡大する心理学─心理学は宗教とどのように関わるか

藤井 修平
國學院大學研究開発推進機構 助教

藤井 修平(ふじい しゅうへい)

Profile─藤井 修平
博士(文学)。専門は宗教学理論研究,宗教認知科学。単著に『科学で宗教が解明できるか』(勁草書房),共編著に『宗教認知科学(CSR)』(新曜社),共訳書に『宗教認知科学入門』(勁草書房)など。単著論文に「宗教心理学の展望」『宗教/スピリチュアリティ心理学研究』1(1), 18–32, 2023など。

宗教の研究は「怪しい」?

心理学は,宗教という領域をあまり扱ってこなかったと言われる。それはなぜだろうか。宗教というのは,神や仏,天国や奇跡など何かこの世ならざるものの存在を信じることであって,厳密な実証的手法を旨とする心理学がそれと関わってしまうと,まさに疑似科学となってしまうのでは,そんな懸念があったからかもしれない。

その懸念は単なる杞憂ではない。近代心理学が興った19世紀,西洋では霊との交流を試みるスピリチュアリズム(心霊主義)や現在では催眠術とみなされているメスメリズムが盛んであり,一部の心理学者はそうした現象の解明に関心をもっていた。しかし霊や超能力の存在を証明しようとする試みは,常に悲劇に終わった。とりわけ象徴的なのが,東京帝国大学で心理学の助教授であった福来友吉の事件である。彼は透視能力をもつというある女性の主張の真正性を検証する実験を行ったが,その実験手法に疑いがもたれ,誹謗中傷が相次いだことで超能力者とされる女性が自殺し,彼自身も大学を追放されてしまった[1]

こうした研究は超心理学(parapsychology)と呼ばれ,その後もJ・B・ラインらが発展させたが,主流の心理学からはほとんどタブー視されている。そして超心理学は宗教とも無関係ではない。日本では1980年代に「ニューサイエンス」の名称の下で人体を離れて働く「気」の実証が試みられたが,その背景には欧米で西洋宗教のオルタナティブとして人気を集めたニューエイジ運動があった[2]

現在でも,アメリカ心理学会(APA)第36部門「宗教とスピリチュアリティの心理学会」の一部では,「とりなしの祈り(intercessory prayer)」研究が行われている。これは,他者の健康の改善を願って祈ることによって,自分が祈られていることを知らされていない患者の健康状態が改善するかどうかを検証するという研究である。この場合プラシーボ効果は働かないので,効果があったとすればそれは,神が人々の祈りに応えて奇跡を起こすといった超自然的な介入のためかもしれない。しかしこのような神の介入を実証しようとする研究は,その結果の信憑性に対してだけでなく,研究の枠組み自体についても多くの批判が寄せられている[3]

こうした事例は,心理学と宗教の接点のうちでも最も用心すべきものだといえる。しかし両者の接点はそれだけではない。筆者はこれまで宗教と心理学の関係を探究してきて,両者が交わる意外な点に出会ったので,それらを次に紹介しよう。

宗教的身体技法への注目

ニューエイジ運動がもたらしたのは,超能力的なものへの関心だけではなかった。そこには多くの心理学者が参加しており,臨床心理学のC・R・ロジャーズや,人間性心理学のA・マズローもこの運動の影響を受けていた。マズローは,人が目指す最終目標として自己実現を提唱したことで知られるが,後に自己実現の先に「自己超越」を設けた。自己超越とは,自分がなりたい存在になるだけでなく,他者や社会に対しても貢献することを指す[4]。これは,現在「スピリチュアリティ」と呼ばれているものに近い。

スピリチュアリティとは,人生の意味の探究,利他心,共感といった非宗教的でもある側面と,超越の感覚や信仰心といった宗教的な側面が存在する概念である。そうした心性に到達するために,大いなるものや大自然など超越的存在との繋がりや体験を求める人は,「スピリチュアル」と呼ばれる。

マズローの見方を受けて自己超越を目指すものとして生まれたのが,トランスパーソナル心理学である。そこではさまざまな実践が開発されたが,それらは日本の禅やヒンドゥー教由来の超越瞑想(TM: Transcendental Meditation)に大きな影響を受けていた。同様の関心から仏教に着目していた医学者に,J・カバットジンがいる。彼は,上座仏教のヴィパッサナー瞑想をアレンジしたインサイト・メディテーションの手法を医療に応用して,「マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR: Mindfulness-Based Stress Reduction)」を開発した[5]

このように現在では心理学界でも大きな注目を集め,多数の研究が行われているマインドフルネスは,元来仏教が由来なのである。開発者のカバットジンは明確に仏教を実践していたが,広めやすくするためにあえて宗教性を秘匿して,MBSRを作り上げたのだ。その他,第三世代の認知行動療法と言われる「マインドフルネス認知療法(MBCT: Mindfulness-Based Cognitive Therapy」,ACT(Acceptance and Commitment Therapy)やDBT(Dialectical Behavior Therapy)も,仏教の思想と実践の影響が色濃い(図1)。

図1 宗教的心理学および心理療法の発展過程
図1 宗教的心理学および心理療法の発展過程

ここからわかるのは,心理学や関連領域において,とりわけ健康改善のための手法として,宗教の身体技法が取り入れられているということである。それらは元来の宗教性が秘匿されているために,医療やビジネスの現場でも用いることができるものとなっている。筆者は,ある心理系の学会で,マインドフルネスの効果を実感するためにその場で瞑想をやってみましょうと参加者に呼びかける発表を目にしたことがある。これが,壇上に立っているのが「教祖」で,何々の祈りをやってみなさいということだったら大きな問題となるだろうが,マインドフルネスだとそれが許されているのである。

もう一つ重要な点は,このような形であれば,宗教は科学の規範から外れずに研究できるということである。近年の神経科学などの発展によって,宗教的実践がいかに実践者の健康などに影響を及ぼすかという研究はますます盛んになっている。

何かを信じる認知メカニズムの研究

また別の接点は,「信じること」の研究である。何かを信じている状態は信念またはビリーフと呼ばれるが,近年では陰謀論や疑似科学など,社会的に問題となる「実証的根拠を欠いた信念(ESB: Empirically Suspect Beliefs)」の研究の重要性が増しており,認知心理学などの観点からそうした信念を信じやすくなる認知メカニズムが解明されつつある。他方で,宗教においても信じることは中心的要素なので,宗教を実証的に研究する分野である宗教認知科学(CSR: Cognitive Science of Religion)では,超自然的存在やおまじない・呪術などを信じやすくなる傾向性について明らかにしている[6]

そして重要なことに,宗教のESBの側面と,陰謀論や疑似科学のそれとが類似しているために,両者を信じる心の背景にある認知メカニズムはしばしば重なり合う。有名な例を挙げると,社会心理学者L・フェスティンガーは,UFOに乗った宇宙人からのお告げで,間もなく世界に大洪水が起こり,従わない人は滅ぶと信じる人々の集団を研究した[7]。大洪水は起きなかったが,予言が成就しなかった際にどうなるかに彼は着目した。一部の人は集団を離れたが,より熱心な人々は予言の解釈を変更して信奉を続けた。

この状況に対して彼が提唱したのが,認知的不協和の理論である。それは矛盾する認知を同時に抱えている状態を指し,そのような場合にはしばしば一方の認知を歪曲して不協和を取り除くことが行われる。この場合では,自分たちは予言を信じたにもかかわらず,その予言が間違っていたという状態が認知的不協和を起こしているため,信奉者は予言が間違っていたという認知の方を否定したのである。

陰謀論についても,反ワクチン,Qアノン,爬虫類型宇宙人の地球征服計画などを信じている層の中には,「スピリチュアル」とみなせる人が多いという指摘があり,両者を同時に信じやすいという意味で「コンスピリチュアリティ」と呼ばれている[8]。現代社会において陰謀論がもつ影響力は大きく,Qアノンが唱える「影の政府」を解体すると公言するドナルド・トランプは2025年に米大統領に就任したし,Qアノン日本支部を名乗る「神真都(やまと)Q」は一時期大規模に拡大し,2022年には複数のワクチン接種会場に乱入し,妨害したことによりメンバーが逮捕されている。

陰謀論はなぜ信じられるか,スピリチュアルな人々はなぜ陰謀論を信じやすいかについては,認知メカニズムの観点から考えることができる。前述の認知的不協和以外にも,陰謀論の信奉に関わる認知メカニズムとして,目的論的思考とパターン認識が挙げられる。目的論的思考は偶然を否定し,あらゆる出来事の背後に何らかの主体の意図を読み取ることを意味する[9]

この傾向を強くもっている人の中で,目的論の考え方が陰謀論として現れると,著名人の死などの出来事に対し,闇の組織がそれを引き起こしているという考えをもちやすくなるし,宗教の文脈では自然災害などを天罰とみなすようになる。一例として,米連邦議会のマージョリー・グリーン共和党議員は2024年4月に,ニューヨークなどで起きた地震と,米国で観測された日食について「神が米国に対して悔い改めよと伝えるための強いサインを送っている」とSNSに投稿している[10]

もう一方のパターン認識はアポフェニアと呼ばれており,ランダムな情報の中に法則性を,出来事の系列に意味を見出すことを指す。その中でも周囲の環境に「顔」を見るといった知覚的なものがパレイドリアである。キリスト教徒の中には,トーストの焼き目や空の雲にイエスの顔を見つけて,奇跡的なものだと解釈する人がいる。トーストがイエスに見える現象はあまりに頻発するため,それをパレイドリアによって説明する研究が行われ,2014年のイグノーベル賞を受賞したほどだ[11]。陰謀論の側にも,「ワクチン接種が不妊症を引き起こしている」といった誤ったパターン認識が多く見られる。

これらはあくまで一例であり,その他にも最小反直観性や行為者を検出する能力,心の理論など宗教的現象の信奉に関わる認知メカニズムは多数見出されている(表1)。ここで重要なのは,それらの認知メカニズムが,宗教とみなされるものとそうでないものの双方に関わっていることだ。たとえば目的論的思考であれば,陰謀論にも神の天罰の考えにも関わっているのであり,一方の解明はもう一方の解明にも役立てることができる。

表1 宗教的現象と陰謀論の信奉に関わる認知メカニズム
表1 宗教的現象と陰謀論の信奉に関わる認知メカニズム

これに加えて,宗教団体の研究からの応用も可能である。陰謀論や疑似科学の信奉者は正しい知識を知らないのであり,ファクトチェックなどで事実を伝えれば信奉をやめるという見方は「欠如モデル」と呼ばれているが,確証バイアスなどの強固さにより,この解決策は効果が薄いとされている。そこで,宗教団体からの離脱に関する研究が陰謀論信奉から脱するために役立つかもしれない。たとえばある研究では,宗教団体から自発的に離脱するための条件として,「集団外の社会との結びつきを回復すること」「その集団内で自由に人間関係を築けること」「世界を変革できないということを認識すること」「指導者の行動と理念との間の矛盾に気づくこと」が挙げられている[12]。これは,陰謀論者のグループにも十分当てはまることのように思える。

宗教を構成要素に分解して理解する

本記事のまとめとして,宗教とはどのようなものであり,心理学はそれとどう付き合っていくべきかについて述べたい。宗教は,人々の信念や実践,所属や感覚が組み合わさった複合体とみなすことができる。これまでに触れたものでいえば,神が罰を下すという信念,瞑想のような実践,団体への入会といったものが宗教の一要素である。キリスト教のような一般にいう宗教は,これらの要素である,信念,実践,所属,感覚のすべてを兼ね備えている。

ここで大事なのは,それらの要素は必要条件とは限らず,全部揃ってはじめて宗教になるわけではないという点だ。マインドフルネスは「現在の瞬間に注意を払う」という理念的要素と,瞑想やボディースキャンという実践の要素のみがあるが,前述の通りそれは上座仏教の教えや実践をアレンジし,組織や教義の部分を取り除いた結果であった。

同様のことがスピリチュアリティに対しても言える。これは医療の現場におけるスピリチュアルケアや,職場のスピリチュアリティといった形で広まっているが,元来は宗教心ともいえるものであり,そこから具体的な神への言及や組織への所属の要素が取り除かれたために,医療や企業でも受け入れられるようになったのである。

「宗教」はその総体としては,科学的なアプローチを受け付けない,近寄りがたいものかもしれない。ところがその構成要素,天罰の信念や瞑想,人生の意味などは,心理学の十全な研究対象になりうる。それどころか,すでにその研究は行われているのである(図2)。

図2 宗教の構成要素とその研究
図2 宗教の構成要素とその研究

そのことを端的に示すものとして,筆者が編集に関わった『ワードマップ 宗教認知科学(CSR)』の項目を見てみると,アニミズム,畏敬の念,慰霊と追悼,マインド・コントロール,妖怪,超常現象といった,単体では宗教とみなされないものの,宗教と大いに関係のあるテーマが多数並んでいる[13]。これらのテーマの専門家が存在しているという事実は,日本の心理学界においても宗教の構成要素に対する研究はすでに活発に行われているということを意味しているだろう。

同書のタイトルにもなっている宗教認知科学では,こうしたテーマを広い意味での「宗教」とみなして,専門的に扱うことによって相互の研究成果の援用ができるようになっている。たとえば人はなぜ陰謀論や予言を信じるのかという知見は,なぜ神を信じるのかという問いに応用できるし,宗教団体からの離脱の研究は,陰謀論信奉からの離脱に応用できるといったことである。

現代日本では,組織的な宗教が及ぼす社会的影響はそこまで大きくないかもしれないが,一方で予言や陰謀論,疑似科学を信じる人は後を絶たないし,宗教的身体技法の健康への効果に対する関心も高まっている。そのような状況で,広い意味での宗教の研究は,こうした現象を理解し,それらと健全な距離を取るためにも大いに役立つはずである。

文献

  • 1.石川幹人 (2012) 超心理学.紀伊國屋書店
  • 2.藤井修平 (2021) 中央学術研究所紀要, 50, 59-79.
  • 3. Hood, R. W., & Belzen, J. A. (2013) Research methods in the psychology of religion and spirituality. In R. F. Paloutzian, & C. L. Park (Eds.), Handbook of the psychology of religion and spirituality, 2nd ed. (pp.75-93). The Guilford Press.
  • 4. 吉福伸逸 (1987) トランスパーソナルとは何か.春秋社
  • 5. 藤井修平 (2017) 中央学術研究所紀要, 46, 61-81.
  • 6.ホワイト, C./藤井修平他訳 (2025) 宗教認知科学入門.勁草書房
  • 7.フェスティンガー, L. 他/水野博介訳 (2025) 予言がはずれるとき.勁草書
  • 8.横山茂雄他 (2023) コンスピリチュアリティ入門.創元社
  • 9.ハッキネン, J./河合隆史訳 (2024) 陰謀脳.早稲田大学出版部
  • 10.毎日新聞(2024)保守派の米下院議員,日食と地震は「神の悔い改めよとのサイン」.毎日新聞 4月9日(電子版), https://mainichi.jp/articles/20240409/k00/00m/030/063000c
  • 11.Liu, J. et al. (2014) Cortex, 53, 60–77.
  • 12.Wright, S. A. (1984) J Sci Study Relig, 23(2), 172–182.
  • 13.藤井修平他編 (2025) ワードマップ 宗教認知科学(CSR).新曜社
  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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