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【小特集】

生後早期における感情制御と腸内細菌叢との発達的関連

京都大学大学院教育学研究科 教授

明和政子(みょうわ まさこ)

Profile─明和政子
博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員,京都大学大学院教育学研究科准教授などを経て現職。日本学術会議会員,文部科学省科学技術・学術審議会委員,こども家庭庁幼児期までのこどもの育ち部会委員。

幼少期の感情制御は生涯にわたる心身の健康を予測する

「感情制御(emotion regulation)」の発達は,個人が生涯を通じて心身ともに健康で過ごせるかどうかを予測する重要な指標のひとつであることが知られています。例えば,3~4歳の時点で感情制御の発達にリスクを抱えていた子どもほど,その2~4年後に,内因化問題行動(過度な不安や恐怖,抑うつ,社会的引きこもりなど,本人に不利益をもたらす行動)や,外在化問題行動(攻撃,非行,かんしゃく,多動性など,他個体との葛藤)を示す可能性が高いことがわかっています[1],[2]

さらに,就学期に現れる問題行動は,思春期以降の精神疾患発症リスクと密接に関連しています[3],[4]。欧米圏で実施された大規模かつ長期的なコホート研究によれば,就学期前後の感情制御能力は,思春期における精神疾患リスクだけでなく,将来(成人期)の社会経済的地位や心身の健康をも予測することが明らかになっています[5],[6]

感情制御の発達を「腸内細菌叢-腸-脳」軸でとらえる

就学前から感情制御の発達リスクを検出し,早期に介入・支援を行うことができれば,その後に生じる問題行動や精神疾患のリスクを予防,低減できる。こうしたビジョンのもと,感情制御に関与する生物学的要因の解明に向けた基礎研究がいままさに進展し始めています。

脳は,腸とホルモンやサイトカインなどの液性因子や自律神経系を介して,双方向的に情報をやりとりしています。この関係は「脳腸相関(brain-gut interaction)」と呼ばれています。さらに,腸内に生息する微生物がこの相関に深く関与することが明らかとなり,現在では「腸内細菌叢-腸-脳相関(gut microbiota–gut–brain interactions)」として理解されています[7]

この観点からすれば,感情制御に関与する脳発達も腸内環境の影響を受けている可能性が高いといえます。実際,生後早期の腸内細菌叢は,その後の問題行動と関連することが報告されています。例えば,1歳までの腸内細菌叢においてα多様性が低いことや,短鎖脂肪酸産出菌(例:Prevotella〔プレボテラ〕属)の相対量が少ないことは,その2~3年後に問題行動の臨床診断を受ける割合の高さや,問題行動の頻度と関連しています[8]~[10]

一方で,ヒトの腸内細菌叢は生後3年間で環境の影響を受けながら劇的に変化し続けます。3~5歳には成人レベルに達し,個人が生涯もつことになる菌叢が安定化します[11],[12]。そこで私たちの研究チームは,腸内細菌叢と感情制御がともに著しく発達する幼児期に焦点をあて,「腸内細菌叢-腸-脳」軸の観点から研究を進めてきました。以下に,その成果の一端をご紹介します。

幼児期の感情制御リスクは腸内細菌叢と関連する

図1 幼児期の感情制御の発達リスクは腸内細菌叢と関連する
図1 幼児期の感情制御の発達リスクは腸内細菌叢と関連する

私たちは,3~4歳の日本人幼児257人を対象とした横断的研究を行い,この時期の感情制御リスクが腸内細菌叢と関連することを明らかにしました[13]。次世代シーケンサーによる16S rRNAアンプリコンシーケンス解析を用いて,腸内細菌叢の多様性(種の豊富さや均等度)および各菌が全体の菌の中で占める割合(占有率)を算出しました。その結果,感情制御の発達に困難を抱えるリスク群では,対照群と比較して,身体の炎症と関連する腸内細菌(例:Actinomyces〔アクチノマイセス〕属,Sutterella〔サテレラ〕属)の相対量が高いことがわかりました。これらの菌は,炎症性腸疾患などの身体疾患や血中の炎症指標(サイトカインなど)の上昇と関連することが知られています。

成人を対象とした先行研究によれば,腸内の炎症は脳の炎症と関連し[14],炎症関連菌の豊富さはうつや不安障害などの精神疾患とも関連します[15]。これらの結果は,幼児期の感情制御の発達リスクにも炎症関連菌叢が関与する可能性を示しています。

加えて,感情制御の発達に困難を抱える幼児は,対照群と比べて1週間あたりの緑黄色野菜の摂取頻度が低く,偏食の割合も高いことが明らかとなりました。幼児期の食習慣は,感情制御の発達リスクと関連するのです(図1)。

なお,本研究の成果については縦断的な調査を継続しているところです。現時点で明らかとなっている結果の中でもとくに注目すべきは,3~4歳時点における感情制御発達のリスクと腸内細菌叢の組成という2つの要因が,その子の2年後(5~6歳)における内因化・外因化問題行動のリスクを予測するということです[16]

生後早期の気質も腸内細菌叢と関連する

幼児期にみられる「気質(環境刺激に対する反応およびそれを制御する行動の個人差)」も,腸内細菌叢と密接に関連することがわかってきました。

乳幼児期の気質のうち,不快情動やストレス反応の表出(否定的情動性),それを制御しようとする行動特性(エフォートフル・コントロール)は,後の問題行動や精神疾患リスクと密接に関連することが知られており[17],[18],メンタルヘルス不全を早期に発見しうる指標と考えられています。そこで私たちは,3~4歳の日本人幼児284人を対象に,個人がもつ気質と腸内細菌叢との関連を調べました[19]

その結果,不快情動の表出(否定的情動性)や新奇環境を積極的に探索接近する行動特性(外向性/高潮性)は,腸内細菌叢の構成の違いと密接に関連することがわかりました。さらに,腸内細菌叢の構成の違いに寄与する腸内細菌を解析したところ,炎症の誘発に関連する菌(例:Flavonifractor〔フラボニフラクター〕属,Eggerthella〔エガセラ〕属)や抗炎症作用に関連する菌(例:Faecalibacterium〔フィーカリバクテリウム〕属)が,幼児期の気質と関連していました。具体的には,腸内細菌叢の構成の違い(ディスバイオシスな状態)は,不快情動やストレス反応の多さ,快情動の表出や新奇な環境や刺激に対する探索接近行動の低さと関連していることが明らかとなったのです。

おわりに

乳幼児期は,脳と腸がともに環境の影響を強く受けて変容する「感受性期(sensitive period)」です。このことをふまえると,科学的エビデンスに基づいた生後早期からの介入・支援法の開発は,将来における心身の不全を未然に予防・緩和しうる有効な医療アプローチとなるはずです。

今後は,食生活習慣の改善や腸内細菌叢の操作(例:プロバイオティクス,プレバイオティクスなど)といった介入が,感情制御の発達リスクを実際に改善しうるかどうか,その因果性を長期的に検証していくことが求められます。

ヒト特有の高度な社会性の柱となる感情制御の発達機序を解明し,それを医療応用へと発展させる鍵は,視床下部,脳幹,脊髄を経由して「脳」と「身体」をつなぐ相互作用,すなわち脳身連関にあると考えています。

文献

  • 1.Kim, S. et al. (2013) J Abnorm Child Psychol, 41, 43–56.
  • 2.Lonigan, C. J. et al. (2017) J Abnorm Child Psychol, 45, 1491–1502.
  • 3.Laird, R. D. et al. (2001) Dev Psychopathol, 13, 337–354.
  • 4.Petty, C. R. et al. (2008) J Anxiety Disord, 22, 532–539.
  • 5.Moffitt, T. E. et al. (2011) Proc Natl Acad Sci U S A, 108, 2693–2698.
  • 6.Richmond-Rakerd, L. S. et al. (2021) Proc Natl Acad Sci U S A, 118, e2010211118.
  • 7.Cryan, J. F. et al. (2019) Physiol Rev, 99, 1877–2013.
  • 8.Laue, H. E. et al. (2022) Pediatr Res, 92, 580–591.
  • 9.Loughman, A. et al. (2020) EBioMedicine, 52, 102640.
  • 10.Willemsen, Y. et al. (2024) Dev Psychopathol, 36, 2032–2048.
  • 11.Roswall, J. et al. (2021) Cell Host Microbe, 29, 765–776.e3.
  • 12.Stewart, C. J. et al. (2018) Nature, 562, 583–588.
  • 13.Fujihara, H. et al. (2023) Microorganisms, 11, 2245.
  • 14.Hou, J. et al. (2020) Sci Rep, 10, 2145.
  • 15.Simpson, C. A. et al. (2021) Clin Psychol Rev, 83, 101943.
  • 16.Fujihara, H. et al. (2023) Early childhood gut microbiota: Its association with emotional regulation and cognitive aspects of executive function, 4th edition. 4th International World of Microbiome Conference.
  • 17.Gartstein, M. A. et al. (2012) Infant Ment Health J, 33, 197–211.
  • 18.Kostyrka-Allchorne, K. et al. (2020) J Child Psychol Psychiatry, 61, 401–416.
  • 19.Ueda, E. et al. (2024) Dev Psychobiol, 66, e22542.
  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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