公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

Psychology for U-18 高校生に伝えたい

バイアスの心理学─自己・他者編

高比良美詠子
立正大学心理学部対人・社会心理学科 教授

高比良美詠子(たかひら みえこ)

Profile─高比良美詠子
博士(人文科学)(お茶の水女子大学)。専門は社会心理学。著書に『ネガティブ思考と抑うつ:絶望感の臨床社会心理学』(単著,学文社),共同監修に『バイアス大図鑑』(ニュートンプレス)など。

周囲の他者と上手に付き合うためには,相手がどんな人で,何を考えているのかを正しく理解する必要があります。しかし,人のこころを目で見ることはできないため,私たちは手に入る情報から,「たぶん,こうだろう」と推測しなければなりません。そして,このような推測はいつも正しいとは限らず,気づかないうちに偏りが生じることがあります。これを「認知バイアス」と呼びます。認知バイアスは,対人関係のすれ違いや誤解の原因にもなります。

お互いの推測におけるバイアス

『心理学ワールド』では「バイアスの心理学」と題して,テーマ別にさまざまな認知バイアスを紹介してきました(106号は知覚・認知編[1],110号は意思決定・信念編[2])。今回は,「自己・他者編」として,お互いのこころを推測するときに生じるバイアスをいくつか取り上げ,その特徴について考えていきます。

透明性の錯覚:私たちは,他者とうまく付き合うために,「相手の目に映る自分の姿」をいつも気にかけて,その推測内容に一喜一憂しています。たとえば,発表のときにとても緊張していると,「きっと聞いている相手にも私の緊張が伝わっているに違いない」と感じて,不安になることがあります。しかし,本人が心配しているほど,発表中の緊張は,相手には伝わっていないことが実験で確かめられています[3]。このように,本来は外側からは知ることができないはずの自分の内面が,実際以上に他者から見透かされていると推測するバイアスは「透明性の錯覚」と呼ばれます。

なお,相手に伝わっていると錯覚する自分の内面は,相手に隠しておきたいものだけに限りません。自分の性格,好み,意図など,もともと隠そうと思っていないものや,積極的に相手に伝えたいと思っているものも含まれます。このタイプの透明性の錯覚は,「相手はわかっているはずなのに,無視された」という誤解につながります。

透明性の錯覚は,自分しか知ることができない情報をもとに他人の考えを推測することで起こります。先ほどの発表の例で言えば,発表中に感じる体の感覚などは,自分にしかわからない主観的な経験です。そのため,「相手があなたのことをどう見ているのか」を正確に知りたい場合は,自分だけが知る情報に基づく推測結果を,結論を出す前に調整する必要があります。しかし,この調整が不十分だと,自分の視点寄りの結論になってしまうのです。

このように,自分自身の知識や経験などが推測の手がかりとして優先的に用いられることによって生じる,自己の視点に偏った推測は,まとめて「自己中心性バイアス」と呼ばれます。自己中心性バイアスの他の例としては,「スポットライト効果」が挙げられます。これは,自分の外見や行動など,外から観察できる部分に他者が注目していると実際以上に考えるバイアスです。

前髪のカットに失敗したときや,場違いな行動をしたときなどは,周りの人の注目を一身に集めているように思えるかもしれませんが,本人が気にしているほど,周りの人はそのことに気づいていないようです。

ナイーブ・リアリズム:自己中心性バイアス以外にも,他者の内面について推測するときに陥りやすいバイアスは数多く存在します。しかし,私たちは,自分の推測がこのような認知バイアスに影響されていることに,なかなか気づくことができません。

ある実験[4]では,大学生に,「ルームメイトが本人の性格をどう思っているか」を推測させて,その推測の正確さを調べました。その結果,正答率は約3割でしたが,学生たちは自分の推測が実際の2倍以上当たっていると予想していました。

このように,自分は他者が考えていることを正しく推測できていると実際以上に思うことの背後には,「自分は現実の出来事を偏りなくあるがままに認識しており,自分の考えは,得られた情報を客観的で偏見のない目から検討した結果である」と素朴に信じる「ナイーブ・リアリズム」が関わっていると考えられます。

なお,ナイーブ・リアリズムには,自分が現実をどのように見ているかだけでなく,他者が現実をどのように捉えているかに関する信念も含まれています。私たちは基本的に「自分は現実をありのままに捉えている」と信じているため,他者に対しては,同じく偏りなく現実を捉えているなら,自分と同じ意見になるはずだと考えます。

そのため,異なる意見に出会うと,相手が偏っていることを前提にして,「違う情報を見たのだろう」,「合理的に考える能力や,考えようとする気がないのだろう」,「主義主張や利益のために,偏った考え方をしているのだろう」などと解釈します。

ある実験[5]では,他者が自分とは異なる判断をした場合,その判断にはバイアスがかかっていると考えやすく,その他者に対してさらに対立を深めるような反応をとりやすいことが明らかになっています。友だちや家族と意見が合わないとき,相手の意見が偏っているように感じられるのは,ナイーブ・リアリズムの影響かもしれません。

非対称な洞察の錯覚:私たちは,自分と他者では,お互いのこころを推測する能力に違いがあると素朴に考えていることがわかっています。そこで,自分と他者に対する認識の違いをより詳しく検討する実験[6]が行われました。

その結果,私たちは一般的に,「私が他者のことを理解しているほど,他者は私のことを理解していない」と考えており,さらに,「私の他者に対する理解は,他者自身による自己理解よりも優れている」と考えていることがわかりました。このような,自分と他者が持っている洞察力に対する偏った認識は,「非対称な洞察の錯覚」と呼ばれます。

なお,この実験において,私の他者に対する理解の方が,他者自身による自己理解より優れているという認識は,「整理整頓が苦手」や「お世辞を好む」といった,あまり望ましくないとされる性格の理解で,よりはっきりと見られました。

このことから,「他者は,自分が望ましくない性格を持っているとは思いたくないため,正しい自己洞察ができないに違いない」と私たちが考えている様子がうかがえます。

日常場面においても,このバイアスの影響で,他者からあなたの評価は不当だと言われたとき,自分の方が正しいように思えるかもしれません。その結果,相手の意見をよく聞くより,あなたの意見を相手に受け入れさせる方がよいと思う可能性があります。

また,あなたに対する他者の理解力を低く見積もっていると,他者からの助言には,あまり敬意を払わなくなる一方で,他者に対する自分の助言には価値があると安易に考えやすくなるかもしれません。

バイアスとうまく付き合うために

ここまで,私たちが他者のこころをどのような方法で推測しているかという点や,自分や他者の推測能力をどのように評価しているかという点に着目しながら,お互いのこころを推測するときに生じるバイアスの特徴について考えてきました。

私たちは日常生活で大量の情報を処理しています。しかし,その処理能力には限界があります。そのため,「バイアスの心理学─知覚・認知編」[1]でも紹介したように,頭の中にある2つの異なるタイプの思考システムのうち,分析的に考えるけれど負荷が大きいシステム2よりも,すばやく直感的に判断できるシステム1に基づく処理の方が多くなります。その結果,認知バイアスも生じやすくなるのです。このような背景を考えると,自分の生活から認知バイアスを完全になくそうとすることは,現実的ではありません。

また,ここで紹介したバイアスは必ずしも対人関係やウェルビーイング(幸福感)を損なうわけではありません。たとえ錯覚であっても,自分が他者から理解されていると思うことで,相手との親密度は高まります。また,自分の洞察力を高く評価することによって,自分への自信や,ウェルビーイングが全般的に向上することも期待できます。

しかし,他者の考えていることを想像して不安になったときや,他者との間で意見の食い違いが生じたときには,自分の考えも相手の考えも,それぞれの視点や信念に強く影響されていることを改めて思い出すことが有効でしょう。これらのバイアスの影響は,他者の視点から見えていることに意識を向けたり,他者の経験を聞いたりすることによって,ある程度弱めることができます。

また,ナイーブ・リアリズムのような信念について学ぶことで,異なる意見をより受け入れやすくなることも明らかになっています。バイアスについてここで学んだことを,人とのすれ違いを減らし,よりよい関係を作る上でのヒントのひとつとして役立ててください。

ブックガイド

  • 『イラストでサクッとわかる!認知バイアス:誰もが陥る思考の落とし穴80』池田まさみ他(監修),プレジデント社,2023年
    本誌「バイアスの心理学」の著者らが,80種類の代表的な認知バイアスを,研究例や実例を交えながら見開き単位で解説。

文献

  • 1. 池田まさみ (2024) 心理学ワールド, 106, 42-43. https://psych.or.jp/publication/world106/pw21/
  • 2. 森津太子 (2025) 心理学ワールド, 110, 42-43. https://psych.or.jp/publication/world110/pw21/
  • 3. 遠藤由美 (2007) 実験社会心理学研究, 46, 53-62.
  • 4. Swann, W. B. & Gill, M. J. (1997) J Pers Soc Psychol, 73, 747-757.
  • 5. Kennedy, K. A., & Pronin, E. (2008) Pers Soc Psychol Bull, 34, 833-848.
  • 6. Pronin, E. et al. (2001) J Pers Soc Psychol, 81, 639-656.

PDFをダウンロード

1