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ここでも活きてる心理学

モノづくり・チームづくりに 活きる強み

花王株式会社 研究開発部門 感覚科学研究所 グループリーダー

門地里絵(もんち りえ)

Profile─門地里絵
同志社大学大学院文学研究科(心理学専攻)博士課程後期修了。博士(心理学)。専門は感情心理学,精神生理学,健康心理学。著書に『心理学が描くリスクの世界Advanced』(分担執筆,慶應義塾大学出版会)など。

実験準備中の筆者の様子
実験準備中の筆者の様子

私は,毎日の生活を清潔に,健やかに,美しくすることで,人々のQOLの向上を目指す花王で,2004年にキャリアをスタートしました。それ以来,すでに20年以上にわたり,研究開発を通じてモノづくりに携わっています。

感覚科学研究所では,製品に付与する香りの開発とともに,匂い物質や人に関する基盤研究を行っています。香料の揮散や付着の動態,新規香料の創出といった物質科学,受容体応答や菌解析などの生物学,さらに心理学の立場から生活者の意識や行動を探る研究まで広くカバーしています。大学の実習で行うような純粋な心理学実験もあれば,心血を注いで作った新製品についてのマーケティング調査,トレンド解析やニーズ調査など社会学的手法を使うこともあり,対象も手法もさまざまです。

私自身は感情心理学の観点から,香りに限らず五感刺激が心身へ及ぼす影響を検証し,その知見を事業に活かす提案をしています。最近では,愛着のわく美容液,没入感のある入浴剤,ポジティブ感情の誘導を目指すヘアケア製品などに携わりました。心理学の知見で,製品に単なる機能以上の心地よさや心への働きかけを与える試みです。私たちの研究が,使う方に安らぎや前向きさをもたらす可能性を想像すると,大きなやりがいを感じます。

入社当時,心理学を専門とする研究員は私を含めわずか2名でしたが,今ではチームとして仕事を分担できるまでに増え,学生インターンも積極的に受け入れています。モノづくりの現場では,皮膚や細胞の生化学だけでなく,心と生活歴を持つ「人」として生活者を理解したい,という情熱を仲間から感じていて,そのチームの中で役割を持つことができることは喜びです。

心理学を学んで良かったと思うのは,二つの強み「科学性」と「実践性」に支えられているからです。心理学は見たり触れたりできない主観状態を扱うため,信憑性のない素朴な解釈や一過性の流行に陥らないよう,科学的手法を重視します。このアプローチは他分野とも共通性が高く,研究紹介や異分野の話をうかがう際の共通言語になります。

もう一つの強みである実践性は,臨床心理学に象徴されるように,目の前の人と向き合う場で発揮されます。同僚でも実験参加者でも他社の方でも,一人ひとりの個性と想いを尊重する態度を持っていれば,理解と共感,信頼が深まり,助け合う仲間,同じ目標をめざす仲間が増えていきます。長く勤めると,リーダーとして後輩に向き合う時間も増えます。「前の上司には遠慮があって言えなかったのですが」と打ち明けてくれたり,「話してみて考えがすっきりしました」と言ってもらえる瞬間に,傾聴を学んで良かったと感じます。社外講演の機会もありますが,私は繰り返し「心理学は役に立つ。私が実例です」と伝えています。

もし,すでに心理学を学んだ方やこれから学ぶ方が「社会の役に立つのか」と不安になったら,どうか自信を持ってください。科学性と実践性という二つの強みは,さまざまな形で必ず役に立ちます。もちろん,心理学だけでは解けない課題も多くあります。しかし,多彩な仲間を味方にすれば,挑戦できる幅は確実に広がります。仲間と協働するときは,共通言語としての科学性,相手を尊重する実践性を,ぜひ活用してください。

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