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【小特集】

刑務所の心理技官の歩み─自分史のトッピングを添えて

福島少年鑑別所 統括専門官(考査担当)

星 秀和(ほし ひでかず)

Profile─星 秀和
2000年に法務省青森少年鑑別所法務技官として拝命。以後,少年鑑別所や刑務所などでの勤務を経て2025年4月より現職。臨床心理士,公認心理師,社会福祉士。

はじめに

私は2000(平成12)年度から矯正施設の心理技官として働き始めました。本稿では,刑務所の心理職の歴史について,自分史を交えながら振り返ってみたいと思います。

なお,意見や感想に係る部分はすべて私見であり,所属する組織の見解ではありません。

心理技官の歴史

そもそも,心理学の専門職が刑務所で働き始めたのは,1929(昭和4)年頃のようです。当時の国際的思潮であった受刑者の科学的個別調査の影響などがあり,刑務所に心理学者が採用され始めました[1]。1933(昭和8)年には司法省(法務省の前身)の省令「行刑累進処遇令」において,個々の受刑者について科学的な調査を行い,それぞれのもつ問題と資質の関係を明らかにするための「分類調査」という言葉が初めて用いられ,精神医学や心理学などの専門家が「分類業務」に従事しています[2]

1948(昭和23)年には「受刑者分類調査要綱」が制定され,分類調査の結果は「分類調査票」としてまとめられて個々の受刑者の処遇に役立てることとなりました。当時,用いられていた主な心理検査は,集団知能検査,クレペリン検査,職業適性検査などだったようです[3]

1960年代後半に入ると,法務省式の文章完成法,人格目録,態度検査などが開発され,分類調査に活用されるようになりました[4]。これらの法務省式の心理検査は改正を重ねるなどして現在も用いられています。私が矯正施設で働き始めて最初に驚いたことが,この法務省式の各種心理検査の存在です。自前で心理検査を開発して全国の施設で統一的に運用できる専門性の高さや組織力があり,自分もその一員になれたことへのワクワクした気分は今でも覚えています。

1972(昭和47)年には従前の「受刑者分類調査要綱」を全面改正した「受刑者分類規定」が施行され,受刑者を分類する基準として「収容分類級」と「処遇分類級」が定められました。「収容分類級」は「犯罪傾向が進んでいるか否か」など,受刑者が収容される施設等を区分するための基準であり,「処遇分類級」は「職業訓練の必要性」や「教科教育の必要性」など,施設内での処遇の重点となる方針を区分するための基準です[4]。この受刑者分類規定は2006(平成18)年の「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(刑事収容施設法)」施行まで用いられてきました。

そして2006(平成18)年の「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(刑事収容施設法)」の施行により「分類調査」は「処遇調査」と名称が変更され,分類調査の結果のまとめである「分類調査票」は「処遇調査票」となりました。同法では,個々の受刑者を処遇するための実施要領である「処遇要領」を適切に策定するため,個々の受刑者ごとに問題点や特徴を把握する調査として処遇調査が位置づけられています。すなわち,「処遇調査」では,「分類調査」に比べて,矯正処遇の実施に役立てるための調査という意味合いが強くなったといえます1。

心理技官としての自分史

前項では,刑務所の心理技官が行ってきた「分類調査」,「処遇調査」について,その歴史を振り返りながら,2006(平成18)年の刑事収容施設法まで紹介しました。また,私にとっての2006(平成18)年は,採用された少年鑑別所から異動し,初めて刑務所での業務に就いた,心理技官のキャリアとして節目の年でもあります。同年から新たに始まったグループワークや認知行動療法を基盤とした改善指導などにも関わることができ,心理技官としてのやりがいを感じていました。

それから10年ほど経った2017(平成29)年には「受刑者用一般リスクアセスメントツール」が運用されました。これは海外での犯罪者処遇の主流である「RNR原則」を取り入れ,法務省矯正局が開発したものです。「RNR原則」は,リスク(Risk)原則,ニーズ(Needs)原則,レスポンシビティ(Responsivity)原則からなり,再犯防止に寄与する処遇をするためには,対象者の再犯リスクの高低に応じて,改善が可能な部分について対象者に合った方法によって実施する必要があるという考え方[5]です。

同ツールの開発には約5年の期間を要し,その間,全国の刑務所でのデータ収集などが行われていました。心理学は科学であり,実証的な研究を重ね,手法を進化させていくものと思うのですが,この「受刑者用一般リスクアセスメントツール」の開発過程はまさにそのプロセスであり,それを間近で見聞きし関与できることをうれしく感じていました。同ツールはその後もさらなる研究開発が進められており,最近では測定項目を充実させた改訂試行版にリニューアルされています[6]

2017(平成29)年には公認心理師法が施行され,私も心理技官としての業務を実務経験として,経過措置により資格取得しました。現任者講習では公認心理師としての多職種連携やチームアプローチなどが取り上げられていましたが,当時,勤務していた刑務所では,障害などにより福祉的支援が必要な受刑者に対し,心理技官,刑務官,福祉専門官などが協働して処遇を行っており,その経験と共通するとも感じました。

また,心理技官は法務省管轄の矯正施設の職員であり,国家公務員です。これまでに心理技官としての研修に加え,国家公務員としての倫理観に係る研修も受けてきました。国家資格である公認心理師にも信用失墜行為の禁止などの定めがあり,そうしたことも,すでに国家公務員として意識していたことでした。

公認心理師として求められる知識や技術は,矯正施設における心理技官が業務を適切に遂行する上で有用とされるものと共通しています[7]。それゆえ,公認心理師資格取得は,私にとって職業アイデンティティと,資格アイデンティティが一致する体験だったと感じています。

拘禁刑下における心理技官

2025(令和7)年6月1日に「刑法等の一部を改正する法律」が施行され,「拘禁刑」が導入されました。これに伴い,刑務所内の処遇や職員の役割なども大きく変わっています。

従来,刑務所の心理技官は「調査専門官」と呼ばれていました。ここまで述べた「分類調査」や「処遇調査」を担当する専門職員という意味なのだと思います。ですが,拘禁刑下では「心理専門官」と名称が変わっています。そして,処遇調査の充実策として「心理専門官を中心に,福祉専門官などを含めた多職種の職員が関与し,複層的な視点で調査」することとなっています[8]。言わば,受刑者に関わるすべての職種が調査の関係者となるのであり,複数のステークホルダーが関わり[9],ケース会議などを経て処遇調査の方向を共有し,個々の受刑者の特性に応じた,効果的な処遇の実施を目指すこととなります。

このように,拘禁刑では,処遇調査は多職種間のチームによって行われるものとなり,心理専門官は心理学の専門的な立場から関与するとともに,処遇調査の中心的な役割を担うことが期待されています。

おわりに

本記事では,個人的な感想も交えながら,刑務所で働く心理技官の歴史を振り返ってみました。もしかすると「刑務所」という言葉からは,固くて変わりにくいといったイメージを持たれることもあるかもしれないと思います。ですが,刑務所での被収容者への処遇は,海外の先進的な研究や国内の時勢などを取り入れながら進歩を続けています。

心理技官の職務についても,エビデンスに基づいたアセスメント・トリートメント,多職種連携による協働など,近年の心理学の専門職を取り巻く潮流が,拘禁刑下でも取り入れられていると思います。

2025(令和7)年に定められた矯正局のミッション・ビジョン・バリュー[10]では,刑務所などの矯正施設は「罪と向き合い,社会とつながる場所」とされています。本稿によって読者の皆様が矯正施設への関心をもっていただき,矯正施設と社会がつながる一助になれば幸いです。

文献

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