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【特集】

行動としての言葉の臨床応用─言葉 “と” 行動? 言葉 “も” 行動!

嶋 大樹
追手門学院大学心理学部 准教授

嶋 大樹(しま たいき)

Profile─嶋 大樹
早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。同志社大学心理学部助教,追手門学院大学心理学部講師を経て2026年より現職。専門は臨床心理学・臨床行動分析。著書に『すいすい学べる認知行動療法:行動療法の基本と認知療法,マインドフルネス』(共著,ナカニシヤ出版)など。

言葉を使うことで起きること

ある研究会で発表した帰り道,参加していた友人から「話すのうまいね」と言われた。それを字義通りに受け取って素直に喜んだのだが,後に地域特有のコミュニケーションに関するジョークを読んで,「皮肉だったのかも?!」と頭を抱えた。その可能性に思い至った途端,関西に越してきてからの会話の記憶が雪崩のように頭に流れ込んできた。たとえば,めずらしくスーツを着たとき,とある先生から「普段とは違う感じで良いですね」と言われて,「えー,似合ってますか?」なんて無邪気に返事した場面が蘇った。そしてその瞬間に,スキー場でコブを攻めていたとき,予想以上に溝が深くて衝撃を吸収しきれず,内蔵が揺さぶられたときと似た感覚が生じた。もちろんその先生は皮肉のつもりで言ったわけではない(と信じている)のだが,それ以来,稀に褒められたりポジティブなコメントをもらったりしたときは自虐も含めて返すようになった。

以上は少し脚色した個人的経験だが,多くの人にも,「考える」ことで,何らかの感情や感覚が生じたり,おなじみの場面での振る舞いが急に変わってしまったりした経験があるはずだ。本稿では,こうした日常的によく出会う場面に関連して,以下の点を取り上げる。それは,①言葉を使うことによる「今,ここ」の体験の変容,②言葉が後続する行動に及ぼす影響,③言葉を使うことを行動として扱う意義である。そして,そうした現象の臨床心理学的支援場面での活用について紹介する。

なお,本稿ではタイトルの通り,言葉を行動として捉える立場をとる。とくに,行動分析学的な立場での言語と認知の基礎理論である,関係フレーム理論(Relational Frame Theory[1]: RFT)とその臨床応用の視点から,上記事項について述べていく。

「今,ここ」での体験を変える言葉の理解

普段は気にかけることすらないかもしれないが,言葉の使用によって「今,ここ」での体験が変容する。たとえば,「新しいカフェAがおしゃれで,フルーツタルトがおいしいらしいよ」と教えてもらうと,おしゃれなカフェのフルーツに彩られたタルトが思い浮かび,その場の雰囲気やタルトの味すらも想像できるかもしれない(まさにそうした情景が見えている読者もいるだろう)。だけれども,「今,ここ」には,カフェもタルトもない(はずだ)。ただ言葉を使っただけで,その場でタルトを口にしているような体験が,“非現実な現実”として現れる。

以上のような現象を,RFTでは「関係反応」という「行動」の観点から分析・理解する。関係反応とは,物事(刺激や出来事)同士を関係づけたり,関係性に基づいて反応したりすることである。ヒトの場合,さまざまな物事を一定の制約内で恣意的(自由気まま)に関係づけ,その関係性に基づいて反応できる。こうした行動は「恣意的に適用可能な関係反応」と呼ばれており(以降,関係づけと表記する),もっともシンプルな例は命名である。タルトの例では,少なくとも3つの物事の関係づけが指摘できる。それは,タルトという「物」,“タルト”という「文字」,/taruto/という「音」である。ここでは,3種の物事は「等位(同じ)」関係にあり,/taruto/と聞けばその物や“タルト”という文字が思い浮かび,“タルト”を見ると/taruto/が頭の中で聞こえる。なお,物事同士の関係は等位に限定されない。「パフェとは違う」という相違,「カフェBよりおいしい」などの比較,「人気ならば混む」といった因果などがあり,これらの関係性を組み合わせて,私たちは自由自在に考えることができる。

こうした関係づけは容易に拡大し,さらに関係づけられた物事の機能(影響力)を変える。上記の話に「前に行ったカフェBよりAの方がおいしくて,カフェCのタルトはAよりもおいしいらしいよ」という情報が加えられたとしよう。すると,図1のような関係づけが成立し,それぞれのカフェへの印象が言語的に形成される。

図1 カフェ情報の関係づけと刺激機能の派生・変換
図1 カフェ情報の関係づけと刺激機能の派生・変換

ここで生じているのは大きく分けて2つの現象だ。ひとつは関係づけの派生(拡大)であり,点線で示された部分が相当する。提示された情報はB<A,C>Aのみだが,ここからA>BとA<C(上記の反対),さらにB<CとC>Bが派生的に生じる。もうひとつは刺激機能の変換と呼ばれるもので,物事が有する影響力の変化を指す。図1中の吹き出しに示すように,カフェBという言葉には,タルトを食べた直接経験による,快感情を生起させる機能がある。そこに上述の関係が確立することで,まだ経験していないカフェA・Cに対して,より大きな快感情が生起する機能が付与される[2]

言葉による後続する行動への影響

関係づけの自由度は高く,基本的にはどのような物事同士でも関係づけ可能なため,さまざまな物事が種々の関係を持つようになる(RFTでは,こうした行動を考えることの基盤と見做す)。それに伴い関係づけられた物事の機能は変わるが,そうした現象によって私たちの行動は一定の影響を受ける[3]

最初の皮肉の例で考えると,褒められたときに「字義通りの反応に注意」と考え,行動を調整することが相当する。考えを手がかりとする自虐を交えた返答は,関係づけの派生と刺激機能の変換の観点から,次のように理解できる(図2)。

図2 自虐的返答の手がかりとなる考えのRFTによる分析例
図2 自虐的返答の手がかりとなる考えのRFTによる分析例

①「皮肉に対して字義通りに反応すると笑いものにされるかもしれない」という因果関係の確立。

②「笑いものにされる」と「恥ずかしい」の等位関係の確立。

③「恥ずかしい」と「顔や胸が熱くなる(感覚)」の等位関係の確立。

④上記の組み合わせによる,「字義通りの反応は恥ずかしい」という因果関係の派生と,「字義通りに反応する自分を考えるだけで恥の感覚が生じる」という刺激機能の変換の生起。

ここでは,考えただけで感覚が生起しており,“非現実な現実”が現れていることがポイントになる。

こうした“非現実な現実”が「今,ここ」で体験されることで,それをきっかけとする行動選択の可能性が開かれる。たとえば上記の状況では,言語的に想定された恥の感覚を避ける行動(自虐)が生じやすくなる。これらの関係づけ行動は予測や問題解決などを可能にする。一方,“非現実な現実”に基づく行動調整は,不安や心配による行動の抑制や過剰などにもつながり,心理行動的問題の発生・維持要因にもなりうる。言葉は諸刃の剣といえるだろう。

以上のように,関係づけが後続する他の行動に影響を与えることを踏まえると,関係づけ(考え)の「内容」を変えて後続する行動を調整しようとするのが常識的な発想だろう。しかし,これまでのRFT研究からは異なる戦略が浮かび上がってくる。

言葉を使うことを行動として扱う意義

RFTでは言葉を行動として,随伴性の枠組みから捉える。言葉の使用やその機能は先行事象や結果事象の影響を受けて変化するため,従属変数であると見做される[4]。さまざまな実験により,関係づけ自体やその機能が環境の影響を受けるという見方を支持する証拠が蓄積されており[5],その知見は臨床実践に活用されている[6]

関係づけの「内容」を変えるという発想に話を戻そう。この発想はありふれており,採用されやすい。うまくいく分には問題ないが,支援場面ではそうはいかない現実に直面することも多い。たとえば,「誰からも好かれない」という考えを反復し続けてきたクライエントは,当該思考パターンからの脱却が困難なことがある。別の考えを案出しづらかったり,「好かれない」思考と一致しない情報も,一貫しそうな理由を作り出して,そのパターンに回収して解釈したりすることもある。

行動としての「考え」は,環境との相互作用とその履歴によって,その消長や機能が変わる。したがって,非柔軟な思考や従来パターンの反復は,本人の“意志”ではなく,そうならざるを得ない環境要因や履歴があるから生じると捉えられる。であれば,「今,ここ」の環境に介入し,新しい学習を積み重ねることで,その状況から抜け出すことが可能になる。このように,従属変数である行動として言葉を捉えることで,困難状況の責任を個人内(能力,やる気,性格など)に帰属することを避け,具体的で建設的な支援を組み立てる道が開かれる。

「考える」という行動を理解し,影響を与えるにあたり,RFTのアップデート[7, 8]は考えの変わりづらさに関する理論的説明を提供する。それらは,関係づけられた物事の数や複雑さなどに注目し,その変容しづらさや影響力の理解を試みる。それらの理論では,特定の条件では考え方の変容以外のアプローチを推奨する。そうした方略は考えの機能変容を試みるものであり,行動分析学に基づく臨床実践である臨床行動分析において,とくに用いられる。

代表は脱フュージョンと呼ばれるもので,刺激機能の変換の一時的な停止をおもな目的とする。その手続きにはバリエーションがあるが,よく用いられるのは「~と考えている」と考えの後につけるものや,好みのキャラクターの声で考えを再生する方法だ。これらは,考えの内容ではなく「考える」行動自体に注意を向ける文脈を導入する。それにより,考えに飛びついて反応するのではなく,その有効性を検討する距離を置くことができる。つまり,考えというメガネを通してではなく,メガネ自体も含めて世界を見る機会を提供し,その機能変容を狙う。考えと後続行動の関係性を変えることで,考え方は変わらないまま新しい行動が生じたり,別の考えを案出する余地を創り出したりするということだ。

行動としての言葉を使いこなす

臨床場面では,言葉の影響力を弱めるだけでなく,その影響力を最大限活用する[9]。その一例がメタファーの使用だ。もちろん臨床行動分析以外の学派でも使用される方法ではあるが,臨床行動分析ではRFTの分析に基づいてそれらを活用する。

たとえば,科学実験経験の豊富なクライエントに新しい行動を促すため,「何が起きるか“実験”してみましょう」と伝えることはメタファー使用と見做せる。この例は,図3のように分析できる。「新しい行動の試行(図3のA’)」は関係づけがなされていないとすると,上記発言により「新しい行動の試行」と「実験」が等位に置かれる(図3のB)。「実験」は「試行錯誤……」と等位関係(図3のA)にあり,高揚感や不安を引き出す機能を有している。その状態で図3のBの等位関係が成立すると,関係づけの派生(図3のC)と刺激機能の変換(図3のD)が生じる。つまり,「新しい行動の試行」にも「試行錯誤……」との派生的等位関係が成立し,高揚感や不安が生じるようになる。クライエントは科学実験経験が豊富なため,不安による行動抑制より動機づけ機能が上回ることが期待され,新しい行動に取り組む確率が高くなると予想される。

図3 実験メタファーのRFTによる分析例
図3 実験メタファーのRFTによる分析例

ここで支援者は,“非現実な現実”の活用を目指す。言葉は,関係づけの派生と刺激機能の変換を通して「今,ここ」に体験を呼び起こし,後続する行動に影響を与えることが期待される。外来臨床では,クライエントの普段の随伴性の直接観察や介入は困難だが,言葉によって間接的な行動変容が実現可能になる。たとえば,生活上の困りごとの語りは面接室の「今,ここ」に“非現実な日常生活”を持ち込み,それを用いた体験的介入を先取り的に可能にする。理想とする自分はどう振る舞うかを言語化し,その振る舞いの効果を面接室の「今,ここ」で言語的に体験することで,日常生活でのそれと一致した行動の生起確率を高めることが可能になる。

もちろん,“非現実な現実”の活用は,脱フュージョンなどの言葉の機能変容を目指す介入と並行することが有用である。メガネは常に掛けている必要はなく,外したほうが良い場面もある。同様に,言葉の影響の活用が有用な場面もあれば,抜け出すことが望ましいときもある。臨床行動分析的な支援では,クライエントとともに言葉との上手な付き合い方を探し,それが実行可能な文脈を創る。言葉を用いた介入,言葉自体への介入に通底する行動的な原理を知ることは,その柔軟な運用を可能にする。

ところで,本稿にはメタファーが散りばめられていることに気づかれただろうか。ひと目で分かるものから,注意しないと気づけないものまである。中には読者によっては機能しないものが混在している。たとえば,冒頭の皮肉エピソード中の「雪崩のよう」は明瞭で,比較的想像しやすいはずだ。他方,「蘇る」はやや気づきづらく,「コブ」メタファーに至っては聞き手・読み手を選ぶ。とくに後者は,スキー経験があり,コブに入ったことがないと伝わらない。つまり,刺激機能の変換が生じない確率の高い,スベりやすい(!)メタファーである。

ここからわかるように,単に「使用が推奨されている」という理由で,書籍に載っているメタファーを投げつけていては,蓄積された知識・技術を適用する臨床行動分析的な支援にはならない。適切な支援のためには,クライエントの背景・知識・経験・好みといった文脈を理解し,個々に合わせた介入をクライエントとともに創り出す必要がある。柔軟に支援を立案・運用できるようになるには,言葉を行動として捉え,行動の原理に基づいて分析し,影響を与えられるようになることが役立つはずだ。

文献

  • 1.Hayes, S. C. et al. (2001) Relational frame theory. Kluwer Academic/Plenum Publishers.
  • 2.代表的な実験としてDougher, M. J. et al. (1994) J Exp Anal Behav, 62(3), 331–351.
  • 3.Zettle, R. D., & Hayes, S. C. (1982) Rule-governed behavior. In P. C. Kendall (Ed.), Advances in cognitive-behavioral research and therapy (Vol.1, pp.73–118). Academic.
  • 4.日本行動分析学会(編) (2023) ことばと行動.金剛出版.
  • 5.Hughes, S., & Barnes-Holms, D. (2016) Relational frame theory. In R. D. Zettle et al. (Eds.), The Wiley handbook of contextual behavioral science (pp. 129–178). Wiley Blackwell.
  • 6.Hayes et al. (2012) Acceptance and commitment therapy. Guilford Press.
  • 7.Barnes-Holmes, Y., & McEnteggart, C. (2024) Psychol Rec, 74, 573–580.
  • 8.Belisle, J., & Dixon, M. R. (2020) Perspect Behav Sci, 43, 259–283.
  • 9.トールネケ,N. (2025) 臨床行動分析を実践する(武藤崇他訳).星和書店.
  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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