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キラキラネームは本当に増えていますか?

荻原 祐二
青山学院大学教育人間科学部 准教授

荻原 祐二(おぎはら ゆうじ)

Profile─荻原 祐二
専門は文化心理学・社会心理学。京都大学教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。日本学術振興会特別研究員PD,カリフォルニア大学ロサンゼルス校心理学部研究員,東京理科大学教養教育研究院助教を経て現職。日本心理学会国際賞奨励賞,文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞。

「キラキラネーム」の定義によりますが,「個性的な名前」や「珍しい名前」といった意味で用いるのであれば,答えは「はい(Yes)」となります。本稿では,キラキラネームを,個性的な名前を意味するものとして用いて説明します。

私が名前に関する実証研究を始めた2010年代前半では,キラキラネームという言葉が一般的に使用され始めました。そこでは,個性的な名前が増えていることが前提とされ,その名前の是非や社会的影響などが活発に議論されていました。

しかし,そうした前提や議論には,データに基づくエビデンスが少なく,生産的とは言いにくい状態でした。そこで私は,本当に個性的な名前は増加しているのかを実証的に検討してきました。その過程で,そもそも日本では名前に関するデータを用いた実証的な検討が十分には行われていないように感じましたので,関連する現象や基礎的な知見についても明らかにして報告してきました[1, 2]。そうした研究の一部を,簡潔に紹介します(詳細は,各文献を見てください)。

キラキラネームとは?

そもそも,「キラキラネーム」とは何を意味しているのでしょうか。この点を明らかにするために,まずは代表的な複数の辞典を調べて分析しました。その結果,代表的な辞典でさえ定義はばらついており,一貫していたのは「頻度が低い名前」という要素のみでした[3]

他にも,「伝統から逸脱した名前」や「読むことが難しい名前」といった要素もありましたが,一貫して含まれているわけではなく,定義は曖昧でした。

本当に個性的な名前は増えている?

このような頻度が低い個性的な名前が本当に増えているかについて,まずは日本で新生児の名前ランキングを発表している明治安田生命保険相互会社とベネッセコーポレーションのデータを分析しました。その結果,2004年から2018年において,頻度が低い名前の割合は増加し,頻度の高い人気のある名前の割合は低下していました[4]

さらに,地方自治体が公刊している広報誌における出生欄から名前をできるだけ多く収集し,その変化を分析しました。その結果,1979年から2018年において,分析したすべての自治体で,他の名前と重複しない個性的な名前の割合が増加していました[5]

よって,個性的な名前は本当に増加していることが,異なるデータ,異なる指標で一貫して明らかになりました。

どのように?

では,個性的な名前はどのように生み出されているのでしょうか。日本の名前を個性的にしている理由のひとつが,漢字の読みの自由度が高いことです。人名の多くには,漢字が用いられており,その読み方はひとつではありません。また,漢字辞典に載っているような決まった読み方をしなければいけない訳でもありません。そのため,名前の読みはとても多様です。実際に,2004年から2018年に与えられた新生児の名前を分析したところ,「大翔」で18種類,「結愛」で14種類もの読みが少なくとも存在することが実際のデータからも示されています[6]

そこで,名前の表記と読みを別々に分析してみると,興味深い結果が分かりました。表記はむしろよく名前に用いられる漢字がさらに使われるようになっていました。一方で,読みは頻度の高い人気のある読みが与えられなくなっていました。つまり,よく名前に用いられる漢字に対して,個性的な読みを与えることが増えていました[7]。外国語に由来する読みやイメージに基づく読みを与えるなどの方法で,辞書には書かれていないような,独特な読みが与えられ,個性的な名前が生み出されています[8]

日本だけ?

個性的な名前の増加は,日本だけで見られるのでしょうか。キラキラネームという言葉から,日本に特有の現象と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし,個性的な名前の増加は,日本だけでなく,アメリカやイギリス,ドイツ,フランス,カナダ,中国,インドネシアでも報告されています[2]。日本に特有ではなく,異なる言語圏・文化圏で共通して見られています。

ただし,個性的な名前の増加は世界的な現象である一方で,その表現の仕方は文化によって異なっています。例えば,中国では,漢字とその読みは基本的に対応しているため,日本とは逆に,読みではなく漢字で個性を出すようになっているようです[9]

何を反映しているのか?

日本だけでなく多くの国で見られる個性的な名前の増加は,何を反映しているのでしょうか。さまざまな要因が考えられますが主なものとして,個人主義化があります。個人主義とは,簡潔に言うと,個人の独立性や個性を重視する社会のパターンを意味します。個性的な名前を与えることは,個性を重視し,強調する行動であると言えます。

実際に,個人主義傾向が高い国ほど,名前ランキングに入っているような一般的な名前を与える割合が低いことがわかっています[10]。つまり,個人主義的な国では,個性的な名前が与えられやすいことになります。

興味深いことに,この個性的な名前の増加は,男の子においても女の子においても両方見られますが,その増加は女の子においてより顕著であることが繰り返し示されています[4, 5]。女性の社会進出が進み,親は女の子に個性や独立性をより強く期待するようになったことが一因と考えられます。

最後に

キラキラネームを個性的な名前とするのであれば,増加しているということを,関連するエビデンスも含めて,説明してきました。名前を研究することは,単純に面白いだけでなく,文化の変容や心理の変化の解明にもつながります。

一方で,キラキラネームを,「伝統から逸脱した名前」や「読むことが難しい名前」などとするのであれば,増えているかどうかはまだ分かりません。依然としてわからないことだらけですので,みなさんの問いや疑問にも答えられるように,少しずつ解明してエビデンスを提供していきたいと考えています。

文献

  • 1.荻原祐二 (2023) 日本語学, 42, 142–155.
  • 2.Ogihara, Y. (2025) Humanit Soc Sci Commun, 12, 1826.
  • 3.荻原祐二 (2022) 人間環境学研究, 20, 71–79.
  • 4.Ogihara, Y. (2021) Curr Res Behav Sci, 2, 100056.
  • 5.Ogihara, Y., & Ito, A. (2022) Curr Res Ecol Soc Psychol, 3, 100046.
  • 6.Ogihara, Y. (2021) Humanit Soc Sci Commun, 8, 151. 
  • 7.Ogihara, Y. et al. (2015) Front Psychol, 6, 1490.
  • 8.荻原祐二 (2015) 人間環境学研究, 13, 177–183.
  • 9.Ogihara, Y. (2020) Front Psychol, 11, 2136.
  • 10.Ogihara, Y. (2023) Curr Res Behav Sci, 4, 100094.

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