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Over Seas

画面の向こう側へ

柳岡 開地
大阪教育大学総合教育系 准教授

柳岡 開地(やなおか かいち)

Profile─柳岡 開地
京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は発達心理学。日本学術振興会特別研究員,東京大学発達保育実践政策学センター特任研究員を経て,2022年大阪教育大学特任講師,2025年より現職。単著に『子どもが行為を紡ぐとき:ルーティンの獲得と実行機能の発達心理学研究』(ナカニシヤ出版)。

Zoomなどのオンライン会議システムの発展は,国際共同研究のあり方を大きく変えました。私自身もコロナ禍を境に,その変化を強く実感しています。かつては,学会の機会にあわせて海外の共同研究者のラボを訪れ,顔を合わせて議論するのが当たり前でした。しかし今では,パソコンの画面を開けば,国外の研究者とすぐにつながることができます。時間や距離の制約はぐっと小さくなり,研究は以前よりもずっと速く進むようになりました。

そうした便利さのなかで,ふとこんなことを考えるようになりました。「わざわざ海外に行く意味は,まだあるのだろうか」と。正直なところ,コロナ禍以降,海外に行くことへの気持ちはどこか鈍っていました。以前ほど軽やかに飛行機に乗ろうという気になれず,自分でも少し驚くほど出不精になっていました。

そんな折,京都大学の齊藤智教授との共同研究が日本学術振興会の二国間交流事業に採択され,カリフォルニア大学デイビス校のユーコ・ムナカタ(Yuko Munakata)教授の研究室を訪れる機会を得ました。2週間ほどの短い滞在ではありますが,それを2年続けて経験することになりました。ありがたい機会であると同時に,「オンラインでも十分なのではないか」という思いが心のどこかにあったのも事実です。

しかし,実際にデイビスの地に足を踏み入れると,その感覚はすぐに間違いだとわかりました。研究室に身を置き,日々の議論に加わるうちに,気づけば私は,大学院生やポスドクの頃のように研究に没頭していました。普段の生活では,どうしても複数の仕事を同時にやろうとしてしまいますが,デイビスでは「研究をしに来ている」という単純な事実が,自然と自分を研究へと引き戻してくれます。久しぶりに,「研究が楽しい」と素直に感じている自分に気づきました。滞在中には,ムナカタ教授と何度もミーティングを行い,短い期間とは思えないほど濃密な議論を重ねることができました。幼児期の自己制御の個人差を社会文化的要因から捉え直すことについて考えを深めることができました。

また,研究室の大学院生やポスドクとの会話も印象に残っています。研究の話はもちろんのこと,日常生活や将来のキャリアについての何気ないやり取りのなかに,オンラインでは得がたいリアルな手触りがありました。さらに,発達心理学の研究者が集まるセミナーで発表する機会にも恵まれ,多くの視点からコメントをいただいたことは,自身の研究を見つめ直す大きなきっかけとなりました。

そして何より強く感じたのは,米国の研究者たちが研究者同士のつながりを大切にしているということです。デイビスでは,世界中から研究者が訪れ,またそこにいる研究者たちも各地へと出向き,関係を築いています。ムナカタ教授も,そうしたつながりの中で自身の理論を磨き続けていると話されていました。その姿を目の当たりにして,「海外に行く意味」をどこかで疑っていた自分を,大変恥ずかしく思いました。

もちろん,オンライン会議の利便性はこれからも変わらないでしょう。実際,日々の共同研究には欠かせない存在です。ただ,それだけでは触れられないものが,確かにあります。画面の向こう側に広がっている世界に,実際に足を踏み入れてみて初めて見えてくるものがあります。今回の滞在をきっかけに,ムナカタ研究室の大学院生の一人が大阪を訪れ,新たな共同研究も始まりました。画面越しに始まったつながりが,現実の場で広がり,さらに新しい関係へとつながっていく。その循環のなかに,自分も少しずつ関わっていけたらと思っています。

画面の向こう側には,まだ出会っていない世界があります。その一歩を踏み出すことの意味を,今回あらためて教えられました。このような機会を与えてくださったムナカタ教授と研究室の皆様,そして二国間交流事業に心より感謝申し上げます。

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