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性格の心理学

小塩 真司
早稲田大学文学学術院 教授

小塩 真司(おしお あつし)

Profile─小塩 真司
博士(教育心理学)。専門はパーソナリティ心理学,発達心理学。2014年より現職。著書に『性格診断ブームを問う:心理学からの警鐘』(単著,岩波書店)など多数。

「内気な自分の性格を変えたい」と思ったりしていないでしょうか。また「自分の性格を変えることができるのか」と,こんな疑問を抱くことがあるかもしれません。

人間(だけでなく人間以外の動物を対象にすることもあるのですが)の「性格」について研究する心理学の研究領域を,パーソナリティ心理学といいます。そしてこれまでに,「性格を変える」という試みについて検討した研究も,いくつか行われているのです。

性格は変わるし変わらない

では,そもそも「性格は変わる」と言えるのでしょうか。結論を先に言うと,「まったく変わらないわけではないけれども,すぐに大きくコロコロと変わるわけでもない」というのが,実際の現象です。

たとえば,「内気さ」はパーソナリティ心理学では「外向性」という性格特性の逆向きの方向性の一部として考えられます(よく「外交性」と間違えて書かれますが「外向性」ですので注意してください)。外向性が高い人は,人と話すことや新しい経験を楽しみやすく,低い人は一人の時間を好んだり,慎重に行動したりする傾向があります。ただし,これは「良い・悪い」ではなく,「傾向の違い」にすぎません。

そして,人の性格を観察すると,見方によって「少しずつ変わっていく」ようにも見えますし,「安定している部分がある」ようにも見えるのです。これはまさに,「体重のようなもの」だと言えます。たとえば体重は,昨日と今日で急に大きく変わることはありません。しかし,1か月,半年,1年といった長い時間で見てみると,「増えた」「減った」といった変化に気づくようになります。つまり,短い間隔で見ると安定しているように見えるけれども,長い間隔で見ると確かに変わっている,という性質をもっているのです。

また,1kgもないような細かい体重の変化は日々生じますが,10kgを超えるような変化までには時間がかかります。どれくらいの変化を「変わった」とみなすのかによって,結論も変わってしまうのです。

性格も,これとよく似ています。今日と明日で,あなたの「内気さ」が急に消えてしまうことはないでしょう。しかし,数か月や数年という時間の中で,人との関わり方や自分の感じ方が少しずつ変わっていくことは,十分にあり得ます。

重要なことは,「どれくらいの時間間隔で見るか」「どれくらいの変化を『変化』とみなすか」によって,性格の見え方も体重の見え方も変わってくるという点にあります。短い時間で見ればそれほど変わっていないように見えても,長い時間で見れば大きく変わったように見えるのです。このふたつの現象は矛盾しているわけではありません。同時に成立することなのです。

日々の行動の積み重ね

このような性格の変化は,どのようにすると起こりやすくなるのでしょうか。ポイントは,「日々の行動の積み重ね」にあります。性格は,ある1回の出来事で大きく変わるというよりは,日々どのような行動をどれくらい繰りかえしていくかによって,少しずつ変化していくものなのです[1]

この点でも,やはり体重とよく似ています。たとえば,1回だけ運動したり,1日だけ食事に気をつけたりしても,体重はそれほど大きくは変わりません。しかし,毎日少しずつ運動を続けたり,食生活を少しずつ整えたりすると,時間をかけて体重が変わっていきます。

スマートフォンを利用して,日々の行動を少しずつ変えることを通じて,性格を変化させようとする研究も行われています。たとえば,スマートフォンのアプリを使って,「今日は誰かにあいさつをしてみよう」「気分が落ち込んだら外に出てみよう」といった,小さな行動のヒント(きっかけ)を提示する方法です。こうした仕組みは,「今このタイミングでやってみよう」と背中を押してくれる役割を果たします[2]

重要なのは,「思い出すこと」と「タイミング」です。人は,やろうと思っていても,忙しかったり忘れてしまったりして,なかなか行動に移せないものです。スマートフォンはいつも手元にあるため,ちょうどよいタイミングで行動を思い出させてくれる道具として役立ちます。

さらに最近では,スマートフォンの位置情報や利用状況などをもとに,「人が多い場所に来たときに声をかけてみるよう促す」など,その人の状況に合わせて働きかける工夫も試みられています[3]。このように,日常の中で自然に行動を少しずつ変えていくことが,性格の変化につながるのではないかと考えられているのです。このような方法は,一度に大きく変わろうとするのではなく,「できそうな小さな一歩」を積み重ねていくという点で,これまで見てきた性格変化の考え方ともよく合っています。スマートフォンは,その積み重ねを支える道具のひとつとして,活用され始めているのです。

そもそも性格を変えたいのか

性格は,「変えよう」と思えば,少しずつ変わる可能性があります。しかし,そもそも「性格そのものを変える必要」はあるのでしょうか。

「内気な性格を変えたい」と思うとき,その背景にはどのような気持ちがあるのでしょうか。人前で発表するときに緊張してしまうことが問題であるのか,友だちに話しかけるのが苦手だから問題なのか,また初対面の人とうまく話せないことが問題なのでしょうか。でも,これらは「性格の問題」だというよりも「その場面で行動できるのかどうか」の問題ではないでしょうか。

そうだとすると,本当に変えたいのは「性格そのもの」ではなく,「特定の場面での行動」や「そのときの感じ方」なのかもしれません。つまり,「内気な自分」を丸ごと変える必要があるのではなく,「この場面ではもう少し話せるようになりたい」といった,より具体的な目標のほうが大切になってくるのです。

また,「内気な性格」というのは常に「悪いこと」なのでしょうか。人間関係の中で慎重に物事を進めたり,人の気持ちに配慮したりすることは「内気な性格」に関連することですが,これは別に「悪いこと」ではありません。むしろ「良いこと」だとすら考えることができます。他者を傷つけることなく,円滑な人間関係にもつながるかもしれません。

ですから,「性格を変える」という大きな目標を掲げるのではなく,「どんな場面で,どんなふうに行動できるようになりたいのか」といった,具体的な目標に目を向けることが重要になります。そのほうが,実際の行動にもつながりやすく,自分にとって無理のない変化を積み重ねていくことができるからです。

求めるのは「楽に」変えること

これは,ダイエットでも性格を変えるということでも,勉強でも同じなのです。多くの人々は「手軽に」「コスパ良く」変わりたいと思っているのです。しかし,そうはうまくいかない,というのが現実です。「これをやればすぐに性格が変わる」といった方法があれば,とても魅力的に感じるかもしれません。しかし実際には,そのような近道はほとんどありません。性格の変化は,日々の行動の積み重ねによって,少しずつ形を現すものだからです。

ただし,「大変なことを無理に続ける必要はない」ということにも,注意を向けてみてはどうでしょうか。むしろ,できるだけ「楽に続けられる形」にすることが重要です。「毎日必ず誰かに話しかける」と決めるのではなく,「できそうな日に,一言だけ話してみる」といったように,自分にとって無理のない形に調整することが,結果的に長く続くことにつながります。人は,負担が大きすぎると続けることが難しくなります。しかし「これくらいならできそうだ」と思える行動は,習慣として定着しやすくなります。その小さな積み重ねが,気づいたときには自分の行動のパターンや感じ方を変え,長い目で見ると性格の変化にもつながっていくのです。

性格を変えるとは,「別人になること」ではありません。今の自分の特徴を活かしながら,「できることを少しずつ増やしていくこと」です。そのためには,「完璧に変わろう」とするのではなく,「少しだけ変わってみる」ことを繰り返していくことが,もっとも現実的で,そして確かな方法だと言えるでしょう。

「この性格のせいでダメなんだ」と自分を否定するのではなく,目の前の小さな出来事を解決するために,行動をほんの少しだけ工夫してみてはどうでしょうか。その結果として,自分に合った心地よい生き方が見つかるのがいちばんです。性格の変化は,後から「副産物」として自然についてくると考えるのがよいかもしれません。

ブックガイド

  • 『性格は変えられるのか:いまの自分を好きになれない人へ』小塩真司(著),ワニブックス,2026年
    「性格」は変わるのでしょうか。無理に変えるべきなのでしょうか。この本では,自分らしく心地よく生きるコツを考えます。

文献

  • 1.Wrzus, C., & Roberts, B. W. (2017) Pers Soc Psychol Bull, 21(3), 253–277.
  • 2.Stieger, M. et al. (2020) Eur J Pers, 34(3), 345–366.
  • 3.Nahum-Shani, I. et al. (2018) Ann Behav Med, 52(6), 446–462.

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