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この人をたずねて

月浦 崇 氏

月浦 崇 氏
京都大学大学院人間・環境学研究科 教授

月浦 崇 氏(つきうら たかし)

Profile─月浦 崇 氏
2001年,東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。博士(障害科学)。専門は認知神経科学・神経心理学。2001年に産業技術総合研究所脳神経情報研究部門研究員,2006年にデューク大学認知神経科学センター客員研究員,2008年に東北大学加齢医学研究所准教授,2011年に京都大学大学院人間・環境学研究科准教授を経て,2017年より現職。日本心理学会国際賞奨励賞,文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。著書に『みんなのための生涯学:人生を楽しむ科学への招待』(共編著,ナカニシヤ出版)など。

月浦 崇氏へのインタビュー

聞き手:上田皐介

─これまでのご研究についてお聞かせください。

東北大学教育学部の学部生だった時に,脳損傷患者さんを対象とした心理学的研究を始めました。その後,脳やその障害の研究をしたいという思いから,医学系研究科に進学しました。修士課程では,てんかんの脳外科手術の後に,人の名前を思い出しにくくなるという症状を呈した患者さんの研究などを行っていました。

この頃は,非侵襲的な脳機能画像計測はまだ研究にいまほど広く利用されていませんでしたが,博士課程に進むあたり,日本でも高磁場の機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を使えるようになってきて,東北大学でも取り組もうということになりました。「機械の使い方を習うついでに研究してこい」と言われ,博士課程1年の時に現在の産業技術総合研究所(産総研)に派遣されました。そして,fMRIの研究と脳損傷患者さんを対象とした研究で博士号を取得しました。

─実験心理学と神経科学の手法を併用するメリットを教えてください。

実験心理学では,条件を設定した実験を行い,どのようなアウトプットが出るのかを検討します。私たちが検討したいのは,インプットとアウトプットの間にある心の過程ですが,実験心理学的な手法では心の過程は十分に可視化されません。

神経科学的手法の利点は,心の過程が脳のはたらきに表れると仮定し,それを可視化することだと思います。たとえば行動指標では条件間に差がなくても,心の過程は条件間で異なっており,脳を調べることでその違いを捉えられるような場合もあります。

─博士号取得後についてお聞かせください。

再び,産総研で研究員をすることになりました。その間に産総研の制度で,アメリカに行きました。エピソード記憶やそのエイジングの研究をしているデューク大学のロベルト・カベサ(Roberto Cabeza)先生の研究室です。帰国後は東北大学加齢医学研究所を経て,京都大学に移り現在に至ります。

─ここでエイジングという新たなテーマが出てきました。どのような問題意識から,エイジング研究に取り組むようになったのでしょうか。

一つには,エイジングを研究することで,因果関係に迫れるのではないかと考えていたからです。脳機能画像研究は若者を対象とすることが多く,この場合,基本的に脳と心の過程の間の相関関係の検討にとどまります。何かの課題を行ってもらっている時の脳活動をみても,ある領域の活動があったから課題ができたのか,課題をやったからある領域の活動があったのかを区別できません。

これまで私が取り組んできた脳損傷患者さんを対象とした研究の重要な点は,「ここの脳の領域を損傷したから,○○ができなくなる」という明確な因果関係を特定できる点です。ただし,患者さんをたくさん集めることは難しいものです。

そこで,若者と高齢者を比較し,課題成績の違いと関連する脳の変化を調べることで因果関係に迫ることを考えました。加齢の効果の検討はそれ自体大きなテーマの一つで,これを「目的としてのエイジング研究」と呼ぶとすると,いま述べたのは因果関係に迫るための「手段としてのエイジング研究」といえると思います。

もちろん「目的としてのエイジング研究」にも関心があり,これまで対象としてきた脳損傷患者さんは高齢者が多いため,正常な加齢にも興味をもつようになっていました。目的と手段の両方の観点で,加齢の研究をやりたいと考え,東北大学の加齢医学研究所で本格的に取り組み始めました。

あとは,先ほど神経科学的手法のメリットをお話しした際に,何らかの従属変数に条件間差がみられなかったとしても,脳のはたらきには差異がありうることを検討できる点について述べました。これと同じく,若者と高齢者では成績が同じであっても,脳の使い方が異なることがあります。若者と異なる脳の使い方をしているからこそ,若者と同じような成績を実現しているのです。若者と同じような成績を維持している高齢者では,脳がどのように使われているかも調べています。

─関連して,領域代表をされていた「学術変革領域研究(A) 生涯学の創出:超高齢社会における発達・加齢観の刷新」はどのようなプロジェクトでしょうか。

年をとるということに対して,多くの人はネガティブな印象をもっています。たとえば,目が見えにくくなるとかウェルビーイングが下がるとか世間から邪険にされるというようにいろいろあると思います。日本は超高齢社会で,2040年頃には3人に1人以上が高齢者という時代がきます。年をとることをネガティブに捉えていると,日本の将来は真っ暗だと思います。

このプロジェクトは,「年をとることには,良いこともあるんじゃないの?」ということを投げかけ,生物・心理・社会モデルに沿ってさまざまな領域からの科学的なエビデンスに基づいて,新しい価値観を提唱しようというものです。

一例ですが,文化人類学の研究者は,アフリカやオセアニアでは,高齢者に対する価値観が日本とは大きく異なることを明らかにしており,面白く感じました。領域の違いから,当初は意思疎通に苦労しましたが,互いの理解が深まるにつれ,新しい世界が大きく広がっていくのを体感できました。私は領域代表というより一人の研究者として一緒に楽しんでいましたので,領域会議の時はいつも「レッツ・エンジョイ・サイエンス!」と言っていました。

─話が遡りますが,海外に行ったことで得られたことはありますか?

いろいろありますが,研究者としての友人がたくさんできたことは私の財産です。当時同じ研究室にいた同じ世代の人たちは,いま世界中の各地で研究室を主宰しています。彼ら彼女らの活躍をよく見ますし,どういう考えで研究をしているかがわかります。そうすると,論文の読み方も変わり,研究の流れを捉えやすくなります。また,国際学会で再会できるのも楽しみです。世界中に知己ができるのは,研究の面白さでもあると思います。

─最後に,若手研究者や学生に向けたメッセージをお願いします。

先ほどもお話しした「レッツ・エンジョイ・サイエンス!」です。研究を楽しむことを諦めないでほしいです。もちろん苦しいこともありますが,そこを乗り越えた先に楽しいことや見えてくることが多いと思います。諦めないで楽しむ,いや,「楽しむことを諦めない」って言ったほうがいいのかもしれません。

聞き手はこの人

インタビュアー:うえだ さすけ

インタビューを行った感想

大変贅沢で刺激的な時間でした。実験心理学や神経科学といったアプローチの多様さや,成人,高齢者,脳損傷のある方々といった対象の広さ,そして領域を越境した大型プロジェクト研究というように,月浦先生ご自身とご研究のスケールの大きさを実感しました。オンライン越しにも伝わるほど和やかな空気を作ってくださいました。私も「レッツ・エンジョイ・サイエンス!」の気持ちで,研究人生を楽しみたいと思います。

現在の研究関心

他者に特定の印象を与えようとする自己呈示によって,その人の自己認識や行動が,自己呈示した方向に変化する現象である「自己呈示の内在化」について検討してきました(例:外向性の自己呈示により,自分を外向的な人だと思うようになる)。私の研究では,社会的に望ましい特性の自己呈示に伴い,呈示していない特性の自己認識までも望ましい方向に変化する可能性が示されました(例:外向性の自己呈示により,勤勉性などの自己評定も高くなる)。現在は,この現象が生じることのメカニズムや性格の変化との接点について考えています。

Profile─うえだ さすけ
東京大学大学院教育学研究科特任研究員(日本学術振興会特別研究員PD)。博士(心理学)。専門は実験社会心理学,パーソナリティ心理学。筆頭論文にSelf-presentation of extraversion shifts all the Big Five personality traits in a socially desirable direction. International Journal of Personality Psychology, 11, 86–90, 2025など。

うえだ さすけ

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