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心理的安全性の可能性を拓く

松原 旭飛(まつばら あさひ)
Profile─松原 旭飛
修士(体育科学)。専門はスポーツ心理学,チーム・ダイナミックス。筆頭論文にUnderstanding psychological safety in competitive sports: A scoping review to guide future research. Jpn J Phys Educ Health Sport Sci (2026). https://doi.org/10.5432/ijshs.202521
チームはいかにして,高い成果と心身の健康を両立できるのか─私は,この問いについて探究している。高い成果を追求するあまりメンバーが疲弊しても,心身の健康を重視するあまり成果が損なわれても,高い生産性を生み出しているとはいえない。この両立は,絶えず高水準の実力発揮を求められる競技スポーツにおいて,切実な課題である。アスリートも一般人と同程度にメンタルヘルス不調を経験することが知られており[1],成果の追求と健康の両立が問われている。こうした中で,近年では,心理的安全性に注目が集まっている。
競技スポーツにおける心理的安全性の“いま”
心理的安全性は,「対人関係においてリスクのある行動をしても,このチームは安全であるというチームメンバーによって共有された信念」と定義される[2]。心理的安全性が高いチームでは,恥をかく,無視されるといった不安なしに,懸念や間違いを率直に共有でき,自分らしくいられる。私は,病院や企業などを中心として蓄積されてきたこの概念を競技スポーツに応用しようと考えた。
まず,競技スポーツにおける心理的安全性研究がどの程度蓄積されているかを整理するため,スコーピング・レビューを行った[3]。その主要な結果の一つとして,心理的安全性は高い成果の追求と健康の最適化を両立しうる可能性があることを示した(図1)。ちなみに,私はこの枠組みを「HOPEモデル」と呼んでいる。
一方,競技スポーツにおける心理的安全性はさまざまに定義され,測定方法に一貫性がないことも明らかになった。つまり,「競技スポーツ“ならでは”の心理的安全性とは何か」という問い自体が十分に検討されていなかったのである。そこで,その問いに答えるべく,尺度開発に取り組み,大学生アスリート版競技スポーツの心理的安全性尺度を開発した[4]。この尺度は5つの側面(メンタルヘルスリテラシー,積極的傾聴,スティグマの低さ,プレイスタイルの相互理解,発言可能性)から競技スポーツ固有の心理的安全性を捉えるものである。
競技スポーツにおける心理的安全性の“これから”
とはいえ,競技スポーツの心理的安全性研究はまだ始まったばかりである。先のHOPEモデルは,異なる定義や測定方法にまたがって報告された知見を整理した探索的な枠組みであり,今後競技スポーツにおける心理的安全性研究が展開されていくにつれて更新する必要がある。心理的安全性への関心が高まる今だからこそ,その本質を問い続けたい。そして,競技スポーツで得られた知見は,人が協働して高い成果を生み出すあらゆる場に活かせると,私は信じている。
文献
- 1.Reardon, C. L. et al. (2026) Br J Sports Med, 60(15), 1083–1130.
- 2.Edmondson, A. (1999) Adm Sci Q, 44, 350–383.
- 3.Matsubara, A. et al. (2026) Jpn J Phys Educ Health Sport Sci. https://doi.org/10.5432/ijshs.202521
- 4.松原旭飛・高井秀明(2024)日本スポーツ心理学会第51回大会研究発表抄録集, 136–137.
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