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実験をしない在外研究でも よかった
野内 類(のうち るい)
Profile─野内 類
2008年,中央大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(心理学)。日本学術振興会特別研究員PD,東北大学災害科学国際研究所助教,同大学学際フロンティア科学研究所助教などを経て現職。専門は認知健康科学。著書は『Q&A心理学入門』『認知心理学の冒険』(いずれも共編,ナカニシヤ出版)など。
東北大学の若手リーダー研究者海外派遣プログラム(以下,派遣プログラム)を利用して,2016年7月から2017年2月までイギリスのレディング大学で在外研究をしてきました。当初の計画では,イギリスで栄養介入や認知介入をすることによる認知機能の改善のメカニズムを調べるというテーマで研究をする予定でした。この研究を実施するために,レディング大学の学生をResearch Assistantとして雇用しようと計画していました。ところが,渡英直前に,大学の事務より,イギリス滞在期間中には,私個人の科研費などの研究費がまったく使えないことが分かり,出鼻をくじかれました。
幸いにして,私がサポートを受けた派遣プログラムは,将来的な共同研究を見据えて,海外研究者と積極的に交流することも望んでいました。そこで,レディング大学の先生方にお願いして,様々な実験を見学させてもらい,細かい実験の注意点などじっくりと教えてもらうことができました。丁度,次年度の科研費の申請シーズンでもありましたので,ちゃっかり申請計画にアドバイスをもらったりしました。帰国後の4月にその計画が採択されていることが分かり,やはり在外研究に行くことができてよかったなと思いました。
また,欧州間で時差がほとんどないメリットを生かして,気になっていた欧州の研究者に連絡して,情報収集に努めました。その結果,イギリス滞在期間中にスペインとイタリアとロシアの3 ヵ国の研究者と共同研究をスタートできました。さらに,新しく知り合った研究者から推薦をもらい,国際シンポジウムで講演する機会を得られました。ただ,会場はシドニーでしたので,イギリスのヒースロー空港から日本を経由してオーストラリアのシドニー空港まで丸1日以上かけて移動することとなりました。でもこのシンポジウムを通じて,オーストラリアの研究者との共同研究もスタートできたので,非常に幸運でした。
レディングでの日常生活を振り返ってみると,家族と一緒に過ごす時間が多くあり,海外生活を楽しめました。例えば,ロンドンの大英博物館や自然史博物館に行ったり,寒い冬には暖かさを求めて,ポルトガルに行ったりと,家族での思い出もたくさんできました。2歳半で渡英した息子は,両親の心配をものともせず,海外生活に適応してくれました。特に,BBCの子ども向けのテレビ放送を見ながらあっという間にイギリス式の発音を身に着けてしまったのには,びっくりしました。息子は,日本に帰国後もイギリスで購入したDVDを見て,今でも英語の勉強に余念がありません。この点も家族で一緒に在外研究に行って良かったなと思っています。
日常生活で大変だった点は,ありがちな話ですが,ボイラーや洗濯機などの家電などがよく壊れた点です。イギリスのアパートは,家具付きで貸し出していることが多く,修理するのは大家さんや不動産屋の仕事です。そのため,修理代を私が負担することはなかったのですが,物が壊れる度に不動産屋に電話をして,修理の手続きをお願いしなければなりませんでした。不思議だったのは,家電でも家具でも何が壊れても同じ修 理工のおじさんが来る点でした。おじさんのスマートフォンには,ひっきりなしに修理の依頼が入っていたので,商売は繁盛しているようでした。さすがに,帰国する数日前に,水道管が破裂していることが分かった時には,水道局の方が来ましたけれど。
このように在外研究期間中に滞在先で実験はしませんでしたが,溜まっていたデータを投稿・論文化することもできましたので,最低限の研究活動はできたと思っています。今回の在外研究のホスト役になっていただいたレディング大学の榊美知子先生と村山航先生には,研究面だけでなく,日常生活面でも非常にきめ細かくサポートいただき,非常に実りの多い在外研究となりました。本当にありがとうございました。
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