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心理学研究 第90巻 第2号(2019年6月)

ページ 115-125
種類 原著論文
タイトル 住宅対象窃盗再犯者の犯行対象選択行動に関する分析
著者 横田 賀英子・和智 妙子・大塚 祐輔・平間 一樹・渡邉 和美
要約 本研究の目的は,住宅対象窃盗再犯者の犯行対象選択行動を検討することである。本研究で用いたデータは,104人の連続住宅対象窃盗再犯者の犯行対象選択に関わる行動変数および当該窃盗犯の意思決定に関わる変数より構成された。多重対応分析の結果,住宅対象窃盗犯の犯行対象選択行動は,空き巣的な犯行スタイル,忍込み的な犯行スタイル,混合犯行スタイルの3つに識別できることが示された。また,住宅対象窃盗犯における犯行の意思決定に関する14変数を探索的因子分析により分析した結果,リスク低減・報酬因子,侵入痕跡低因子,低労力エリア選択因子の3因子が確認された。被疑者の取調べ官が評定した侵入窃盗犯としての熟練度は,リスク低減・報酬因子の因子得点と正の相関関係を有していたが(ρ = .20, p < .05),低労力エリア選択因子の因子得点との間には負の相関関係(ρ = -.24, p < .05)を有していた。これらの結果は,住宅対象窃盗再犯者が,合理的な意思決定者であると同時に,どのように合理的かについては当該窃盗犯によって異なることを示すものであると考えられた。
キーワード 住宅対象窃盗,対象選択,合理的選択の観点,犯罪スクリプト
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#17039
ページ 126-136
種類 原著論文
タイトル 上司の男らしさ要求による男性の職場感情と精神的不健康への影響
著者 渡邊 寛
要約 2010年代,報道や評論において,男性が仕事で男らしさに縛られていることが,相次いで報告されている。本研究では,どのような組織において,上司から男らしさを求められるのか,その要求によって,男性の職場感情や精神的不健康にどのような影響があるのかを検討した。その結果,マッチョイズムや男性優位が強く,意見の表明や意思決定に関与できない(包摂性の弱い)職場で働く男性が,上司から男らしさを求められやすかった。そして,男性の男性役割態度によらず,上司から男らしさを求められると,男性は,職務肯定感を低下させ,上司への不信感や職場での居心地悪さを高め,精神的健康を悪化させていた。本研究の知見は,ジェンダー・ハラスメント研究と組織研究の統合的な理解を促進するものとして位置づけられ,今後の展望が議論された。
キーワード 男性役割,ジェンダー・ハラスメント,職場,上司との関係,精神的不健康
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#17061
ページ 137-146
種類 原著論文
タイトル 完全主義と選択的注意における定位バイアス・解放困難バイアスとの関連
著者 坪田 祐基・石井 秀宗
要約 本研究では,完全主義と成功関連語・失敗関連語に対する選択的注意の定位バイアス・解放困難バイアスとの関連を検討することを目的とした。75名の大学生(男性33名,女性42名)に,修正ドット・プローブ課題を実施した後,多次元自己志向的完全主義尺度に回答させた。修正ドット・プローブ課題では,成功関連語,失敗関連語,中性語,無意味つづりの4種類の刺激語を用い,成功関連語・失敗関連語に対する定位バイアス・解放困難バイアスを測定した。選択的注意バイアスと完全主義の尺度得点との相関係数を算出し,関連を検討した。その結果,男性でのみ,完全主義と選択的注意バイアスの間に相関が見られた。具体的には,高目標設定と失敗関連語に対する解放困難バイアスとの間に正の相関が,失敗懸念と失敗関連語に対する定位バイアスとの間に正の相関が,行動疑念と成功関連語に対する定位バイアスとの間に正の相関が見られた。これらの結果から,男性の完全主義者は成功・失敗に対して定位バイアス・解放困難バイアスを持つこと,完全主義の各側面によって,異なる形で定位バイアス・解放困難バイアスと関連していることが示唆された。
キーワード 完全主義,注意バイアス,定位,解放,修正ドット・プローブ課題
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#17064
ページ 147-155
種類 研究資料
タイトル 「心理学研究」の新心理尺度作成論文に記載された尺度作成の必要性
著者 仲嶺 真・上條 菜美子
要約 本論文では,心理尺度を作成した「心理学研究」誌の論文をレビューし,これらの論文に新しく心理尺度を作成する必要性が記載されているかを検討した。15年程の間に,「心理学研究」誌において新しい心理尺度を作成した論文は計112本あった。そのうち,新しい心理尺度の独自性に関わる必要性について記載している論文は約3割(38本)にすぎず,構成概念の定義の記載がない論文は約4割(48本)にのぼった。これらの結果に基づき,新しく心理尺度を作成する際には定義を明記すること,および,新しい心理尺度が既存の心理尺度とどのような類似点あるいは相違点があるかを明記することが提案された。
キーワード 心理尺度,尺度作成,構成概念,心理学的測定,心理学研究誌
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#17233
ページ 156-166
種類 研究資料
タイトル 日本語版道徳基盤尺度の妥当性の検証――イデオロギーとの関係を通して――
著者 村山 綾・三浦 麻子
要約 本研究の目的は,5つの道徳基盤と個人との関連を測定する道徳基盤尺度(Moral Foundation Questionnaire)の日本語版(金井, 2013)の妥当性の検証を行うことであった。研究1では,855名を対象として,Graham et al. (2011) の手続きを踏まえて妥当性を検討した。その結果,他のモデルよりも,5因子モデルの当てはまりが良かった。また,Ingroup,Authority,Purity 得点の高さは,保守的な政治的立場と弱いながら有意な正の関連をもっていた。続く研究2では,470名を対象に再度MFQに回答を求め,再検査信頼性と,イデオロギーとの関係を通した妥当性の検証を行った。再検査信頼性については Graham et al. (2011) よりも低かった。イデオロギーとの関連を検討した結果,全体としてはHaidt (2012) の理論に沿う結果が得られたが,Purity とリベラル的イデオロギーの主張が正の関連を示すなど,一部一貫しない結果も得られた。日本語版尺度の利用に際して留意すべき点について論じた。
キーワード 道徳基盤理論,道徳基盤尺度,イデオロギー
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#17234
ページ 167-177
種類 研究資料
タイトル 3因子で捉える多面的協調性尺度の作成
著者 登張 真稲・首藤 敏元・大山 智子・名尾 典子
要約 本研究の第1の目的は,青年の協調性を,自分と他者の双方にとってより良い解決策を見出す傾向,他者と協力する傾向,他者に合わせる傾向の3側面で捉えることができるかどうか確認することであった。大学生と高校生を対象とする3調査のデータから,これらの概念を表す3因子が抽出された。この3因子解をもとに,協調的問題解決,協力志向,調和志向の3下位尺度からなる改訂版多面的協調性尺度を作成した。本研究の第2の目的は,2種類のビッグファイブ尺度と創造性尺度を用いて,改訂版多面的協調性下位尺度と積極性および創造性との関係を検討することであった。協調的問題解決は積極性および創造性と正の相関を示し,協力志向は積極性とは正の相関を示すが創造性とは有意な相関を示さない,調和志向は積極性および創造性と負の相関を示すと予想した。この仮説を検証するため,大学生対象に新たな調査を行ったところ,仮説は概ね支持され,改訂版多面的協調性尺度の構成概念妥当性は確認された。調和志向は神経症傾向と関連することも明らかとなった。
キーワード 協調性,3因子解,ビッグファイブ,創造性,大学生と高校生
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#17242
ページ 178-186
種類 研究資料
タイトル 在日外国人留学生のアルバイト職務満足感――自己決定理論に基づく検討――
著者 閻 琳・堀内 孝
要約 本研究の目的は,自己決定理論の下位理論に立脚し,在日外国人留学生のアルバイト活動における職務満足感を高める要因について検討することであった。自己決定理論における有機的統合理論および基本的心理欲求理論に基づいた仮説モデルを生成し,共分散構造分析を用いて検証を行った。主たる結果は以下の通りである。(a) 基本的心理欲求における関係性欲求と有能感欲求の充足が直接的に職務満足感を高める。(b) 3つの心理的欲求を充足させることによって,自律的な動機づけが高まり,より高い職務満足感をもたらす。(c) 関係性欲求の充足から有能感欲求の充足への正のパス,有能感欲求の充足から自律性欲求の充足への正のパスが見られたことから,アルバイト活動において関係性欲求の充足の重要性が示唆される。以上の結果から,在日外国人留学生のアルバイト活動における職務満足感に影響を及ぼす一連の心理プロセスについて議論が行われた。
キーワード 在日外国人留学生,アルバイト活動,基本的心理欲求,動機づけの自己決定性,職務満足感
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#18203
ページ 187-193
種類 研究報告
タイトル 刑罰としての排斥の容認――功利主義的な根拠の正当化効果――
著者 玉井 颯一・五十嵐 祐
要約 集団から特定の個人を追放する排斥は,厳しい社会統制とみなされながらも,制度的制裁として広く是認されている。本研究では,制裁を正当化するための根拠として,(a) 制裁を多くの人々が利益を得るための手段とみなす功利主義,(b) 制裁を過去の罪への罰とみなす応報主義,(c) 制裁を違反者に道徳を教育するための罰とみなす道徳教育論に着目し,シナリオ実験によって,排斥の行使が制度的制度として支持される際の心理的メカニズムを検討した。その結果,功利主義的な根拠による排斥は,他の2つの根拠よりも支持されやすく,功利主義的な根拠による排斥への選好が他者一般の支持度による影響を受けにくいことが明らかとなった。本研究の結果は,排斥によって特定の個人を孤立させることが,逸脱行為に対する罰としてではなく,多数派の利益を増進させるために支持されていることを示唆するものである。
キーワード 排斥,功利主義,応報主義,道徳教育論
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#17338
ページ 194-200
種類 研究報告
タイトル レスポンス・スタイルは文化的等価性を毀損するのか
著者 田崎 勝也・申 知元
要約 本研究の目的は,レスポンス・スタイル(RS)が特異項目機能(DIF)の検証に関与するのかを見定めることにある。RSとは,質問紙の回答に見られる規則的な反応傾向と定義される。Weijters, Schillewaert, & Geuens (2008) によって見出されたRIRSMACSモデルを参考に,田崎・申(2017)は黙従反応(ARS),極端反応(ERS),中間反応(MRS)の3種のRSを測定するモデルを構築し,日本・米国・韓国のRSの多寡を検討した。本研究は同モデルを通常の因子モデルに適用することで心理尺度項目に潜むRSに関連する局外分散が整理され,その結果検出されるDIF項目が変わるのかを検討した。かなしい映画尺度(The Sad-Film Scale (SFS): Oliver, 1993) 10項目へのDIF分析で検出された不均一DIF3項目,均一DIF5項目は,RSモデルを適用したDIF分析では,不均一DIF項目はすべて非DIFに,また均一DIF5項目のうち3項目は非DIFになった。これらはRSにより生じた局外分散がDIFに関与することを示唆するとともに,制御モデルとしてのRIRSMACSモデルの可能性を示した。
キーワード レスポンス・スタイル,特異項目機能(DIF),比較文化研究,RIRSMACS
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#18302
ページ 201-206
種類 研究報告
タイトル 2文字の漢字表記語の意味処理に対する構成漢字の影響と処理順序
著者 水野 りか・松井 孝雄
要約 本研究の目的は日本語の2文字の漢字表記語の意味処理に対する第1文字の意味の影響を検討するとともに,構成漢字の処理順序を明らかにすることである。課題は人間を指す語(人間語)かそうでない語(一般語)かを判断する意味分類課題で,一般語も人間語も半数は第1 文字が人間を指す漢字(人間字)であり半数はそうでなかった。その結果,第1文字の人間字は一般語の意味分類判断を抑制し,人間語の判断を促進することが明らかとなった。加えて,第2文字を操作した水野・松井(2018)では人間字が一般語の判断を抑制したが人間語の判断は促進しなかったことから,第1文字の人間字の処理は単語の処理よりも早く完了するため促進的に影響するのに対し第2文字の人間字の処理は単語処理とほぼ同時に完了するため促進的影響がほとんどないと説明でき,構成漢字の処理は1文字目から2文字目へと進むと結論された。
キーワード 日本語の漢字表記語,構成漢字,意味処理,意味分類課題,処理順序
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#18305
ページ 207-213
種類 研究報告
タイトル 授業中の動機づけ調整方略と動機づけの変動性の関連
著者 梅本 貴豊・稲垣 勉
要約 本研究では,授業中の動機づけ調整方略と動機づけの変動性との関連について検討を行った。2つの大学の82名の学生が参加し,特定の科目の1回の授業時間内で行われた6時点の質問紙に回答した。6時点の状況的動機づけの平均値を「動機づけレベル」,個人内標準偏差を「動機づけの変動性」とした。自己効力感,内発的価値,大学を統制変数とした偏相関分析の結果,動機づけレベルと行動的および感情的エンゲージメントとの間に正の相関が示された。この結果は,本研究の状況的動機づけの測定の妥当性を支持するものである。偏相関分析の結果,価値づけ方略,成績重視方略と動機づけの変動性との間に負の相関が示された。すなわち,この結果は,授業中にそれらの動機づけ調整方略を使用している学生ほど,動機づけの変動性が小さく,状況的動機づけが安定していることを意味する。授業中の動機づけ調整方略が状況的動機づけに与える影響について議論された。
キーワード 動機づけ調整方略,動機づけの変動性,状況的動機づけ,エンゲージメント,自己調整学習
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-2#18312