味嗅覚の科学
人の受容体遺伝子から製品設計まで
斉藤幸子
世界的な和食のブームや,国家的プロジェクトである味覚教育(食育),香りで快適性を高めるという新商品の開発,悪臭を検知する臭気判定士の活躍,嗅覚同定能力と認知症との関係など,人の味嗅覚に関する社会的関心は高い。一方,私たちは個人生活においても,味やにおいの感じ方の違いに日常的に遭遇し,「個人の食品やにおいの嗜好は,いつ頃どのように形成されるのだろうか」という素朴な疑問を抱かされる。
本書の特徴は,このような関心に応えるべく,物質化学,分子生物学・脳生理学・心理学の専門家が,「味・におい物質が口や鼻に取り込まれ,味細胞・嗅覚細胞に受容され,神経に伝達されて,脳に伝わり認知される過程」を,また,新生児・子供や高齢者を対象にした発達的側面の研究を,さらに環境分野,医療分野,製品設計で行なわれている応用研究を広く紹介している点である。
この一冊で,現在の人の味嗅覚研究の全貌を知ることができる便利な書でもある。味嗅覚について関心のある学生,大学人,社会人にぜひ手にとっていただきたい。
生理心理学と精神生理学
第Ⅰ巻 基礎
坂田省吾
『生理心理学と精神生理学』全3巻が刊行されました。第Ⅰ巻の編集者として全巻の内容も紹介させていただきます。本書は基礎から応用・展開まで生理心理学研究の現時点の到達点を示すものとして,日本生理心理学会会員から多くの執筆協力を得て刊行されました。第Ⅰ巻基礎では生理心理学誕生の歴史的経緯から研究法の基礎的内容までを重点的に解説しています。基礎的知見を体系的に整理し,最新の研究成果を幅広く紹介してあります。第Ⅱ巻応用では感情・情動,認知,社会・健康,睡眠,犯罪,スポーツ領域における最新の成果を示しつつ,必要に応じて動物実験を含めた基礎的知見にも言及しています。生理心理学的測定技術および解析についても詳述しています。第Ⅲ巻展開ではワーキングメモリやデフォルトモードネットワークを中心に脳と心の関係の最新の成果を紹介しています。発達・教育・臨床等の他分野への展開もめざしました。国家資格試験の受験対策としても活用してください。脳と心に関心をもつ若い人達に広く読んでいただけると幸いです。
心理言語学を語る
ことばへの科学的アプローチ
川﨑惠里子
本書は,Trevor Harleyによる Talking the Talk: Language, Psychology and Science. Second Edition(Routledge, 2017)の全訳である。著者のHarleyはすでに言語心理学の定評あるテキストを執筆しているが,本書はそれよりも親しみやすい内容を目指している。言語の心理学は近年ますます複雑で難解なテーマとなっている。テキストは分厚くなり,その上「まだわからない」という結論に至ることが多い。そこで,本書はより簡潔に,厳選した内容を,できるだけ偏りがないよう議論を整理して紹介するとの意図で書かれた。
言語の心理学を語るうえで,著者は,副題にもあるように,心理学は科学であることと,コネクショニスト・モデルの重要性を強調する。
このような立場から,本書では言語の心理学における主要な論点,動物のコミュニケーション,子どもの言語獲得と第二言語の学習法,思考と言語,意味,単語認知と失読症,文章理解,発話と失語症など,広範なテーマをカバーしている。読者には肩の力を抜いて,随筆のように読んでいただきたい。
ガードナー臨床スポーツ 心理学ハンドブック
佐藤 寛
2020年の東京オリンピックが目前に迫る中,スポーツ分野における心理学の応用が注目されています。日本におけるスポーツ心理学の草創期は1964年の東京オリンピックが契機となったことが知られていますが,2度目の東京オリンピックを迎える現代もまた,スポーツと心理学のかかわりが改めて見直される時代と言えます。
臨床スポーツ心理学は臨床心理学,スポーツ心理学,スポーツ精神医学といった多分野にまたがる学問領域であり,アスレチックパフォーマンスの向上,アスリートの心理的問題の改善,競技からの引退に伴う支援などを含む幅広い課題に対し,エビデンスに基づく心理学的技法を応用して成果を挙げることを目指します。本書はセルフトークやイメージ技法といった従来型の技法から,マインドフルネスやアクセプタンスといった新しい技法に至るまで,スポーツ分野で活用する方法について体系的に解説された,臨床スポーツ心理学における標準的なテキストの一つです。スポーツと心理学のかかわりに関心を持つ多くの方に手に取っていただけることを願っています。