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英国での研究資金について

石津 智大
ロンドン大学ユニバーシティカレッジ生命科学部 シニアリサーチフェロー

石津 智大(いしづ ともひろ)

Profile─石津 智大
2009年,慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻後期博士課程修了。博士(心理学)。同年10月に渡英し,ロンドン大学ユニバーシティ校とオーストリアのウィーン大学で研究教育を行う。2018年より現職。専門は認知神経科学。論文は「神経美学の功績:神経美学はニューロトラッシュか」など。

私は今年で欧州滞在10年目となります。英国のロンドン大学ユニバーシティ校(UCL)とオーストリアのウィーン大学で研究教育を行ってきました。今回は英国で研究するためのファンディングについて書こうと思います。

ロンドン大学は19校からなる名目カレッジ制で,UCLはその中で1826年に最初にできた大学です。海馬研究でノーベル賞を受賞したJohn O'Keefeらが所属し,生命科学や脳科学に強みのある大学です。UCLは,設立当初より「全てのひとに開かれた大学を」という高等教育の大衆化を掲げています。当時,大学といえばケンブリッジとオックスフォードで,保守的な入学要件がありました。それに対しUCLは,自由主義・平等主義にもとづき,人種や宗教にかかわらず入学を許しました。明治政府の設立に深くかかわった伊藤博文らもUCLで議会政治や工学などを学んでいます。

英国では,初等中等教育の管轄は教育省ですが,高等教育は,ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)という科学イノベーションや産業振興を所管する省の管轄です。つまり,高等教育は,英国の将来を担う産業や技術革新につながる布石として明確に位置づけられているのです。一方で,伝統的に大幅な自治が認められており,各大学で特色のある文化・研究が醸成され,それが英国の科学を下支えしているといえるでしょう。

例えばUCLはヒト脳研究に特色があり,Wellcome Trust Centre for Neuroimaging(FIL)は,認知神経科学の欧州中心地の一つです。四つのMRI,脳波・脳磁計,多数の心理実験室と,充実した実験施設を備えています。毎週著名研究者を招いてセミナーがあり,最新の研究動向に触れることができます。

英国にはいろいろな研究費があります。基礎研究への主な助成機関は,生物科学,芸術人文学など,領域別で構成される7つの研究会議です。国の包括的目標にどのように投資するか計画を提出し,BEISから予算の配分を受けます。政府系以外にも王立協会や英国学士院などが,研究者への資金配分を行っています。このようなグラントは,基本的にはPIが代表となり申請することが必要です。ところが,例えばオーストリアでは,非PIでもグラントの代表になれます。海外で研究を考える若手ポスドクの方は,その国のグラントの仕組みを考慮して計画に組み込むとよいでしょう。

慈善団体による研究開発への支援も,英国の科学の特徴の一つです。慈善団体は,公的資金とは異なり,各団体の特徴に沿った方針でファンドできます。FILを支援しているウェルカム財団は,製薬実業家Sir Henry Wellcomeの遺産をもとに,生命医学分野で先端的な研究へ助成を行っています。ユニリーバを母体とするリバヒューム財団は,領域横断型の研究支援に重点をおいています。そのお陰で,私も去年から当財団から大型グラントを受け,感性と芸術がどのように社会で共有されるかの脳科学研究を進めています。

若手の方が海外で研究を開始するのに,手始めとなるのがフェローシップです。国内のもの以外に,直接欧州のスキーマに応募する手もあります。欧州研究会議のMarie Skłodowskaa-Curie actions,オーストリアのLise Meitner Programmeなどは,外国人研究者が欧州へ移動し研究によって技術移転するという条件がついたスキーマです。人的資源の流動性を図り,欧州の科学力向上を意図するものです。欧州域外からの申請は多様性の担保にアピールでき,日本からの応募もそうした点が勘案される場合があります。Human Frontier Science Programでは,生物学系への転向が条件です。特殊な要件ですが,逆に自分の方向性が合っていれば,それだけ有利になります。このように,それぞれ独自の特徴があり,英国,欧州で研究したい方はまず自分の状況に沿うものがないかみてみるとよいでしょう。

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