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心理学史諸国探訪【第4回】


立命館大学総合心理学部教授。Chumsai教授の写真が見つからないので,タイ語の氏名表記で検索。当然ながらタイ語で書かれていて全く分からなかったが,グーグル翻訳をかけたら,日本語に翻訳されたタイ語のページの情報が,Chumsai教授の情報に一致していることが分かったので,無事,写真をゲット! ありがたいことです。

タイ

M. L. Tui Chumsai(1909-1996)
M. L. Tui Chumsai(1909-1996)
M. L. Tui Chumsai(1909-1996)

東南アジアに位置しているタイランド。立憲君主制をとり,首都はバンコク。人口は6,700万人で,タイ族が人口の90パーセントを占め,また,同じく90パーセントほどが仏教に帰依している。 タイは「国王を元首とする民主主義」体制をとっていて,最近(2019年5月)ワチラロンコン国王(66)の戴冠式が3日間にわたり行われていたことも記憶に新しい。年の数え方は仏滅紀元を採用しており,釈迦が入滅した翌年(紀元前543年)を仏滅紀元元年としている(タイ・カンボジア・ラオス)。具体的には,西暦2019年=令和元年=仏暦2562年となる。少しややこしいことに,ミャンマーやスリランカは仏滅の年を仏暦1年としており,近隣で年の数え方が1年ずれている。面倒じゃないか?と気をもむのは余計なお世話であろう。日本では最近,元号は面倒なので西暦にという意見もあったように記憶しているが,西洋の紀年法の精神的植民地化になっていないかどうか,視野を広く持つべきであろう。

インドや日本と同じく,仏教の教えの中に精神の探究に関するものがあり,千年以上そうした活動は行われているものの,学問体系としての心理学が始まったのは,これまたインドや日本と同じく西洋の近代心理学の影響を受けてからのこととなる。

タイで心理学が最初に紹介されたのは教師養成の分野である。1930年,Nakorn Pathomの教員養成校や,Chulalongkorn大学の教育学部に心理学のコースが設けられた。

1944年には初めての心理学のテキストがChumsaiによって刊行された。彼はアメリカ・ミシガン大学で博士号を得た人物である。1961年,タイで初めての心理学会(タイ心理学会)が設立された時には初代会長に就任した。

さて,タイは有数の親日国であり第二次世界大戦においても友好国であったが,戦争終結前に親英米派(抗日派)が政権を握って戦勝国となった。1946年にはユネスコの支援の元,バンコクに児童心理学の研究機関が設立された。この機関の名称は「国際・児童心理学研究機構」であったが,1975年には行動科学研究機構と改称され,発達心理学,教育心理学,社会心理学,そして実験心理学の総合的研究センターとなった。

さて,本格的に臨床心理学に関連する心理学の学士号を与えるカリキュラムを作ったのはタイ北部のChiang Mai(チェンマイ)大学であり,1965年のことであった。この大学における心理学プログラムの創設に尽力したのが前述のChumsaiである。

チェンマイ大学のロゴ
チェンマイ大学のロゴ

この時のカリキュラムには,地方の精神病院における実習や首都バンコクの精神病院におけるインターンシップも組み込まれていたが,心理学専攻者の職務は心理検査および非常に限定的な心理療法に制限されていた。使用された検査はWAISやWISC,ベンダー・ゲシュタルト検査などであった。タイにおいて臨床心理学者の協会が設置されたのは1969年である。臨床心理学の修士課程が設置されたのは1979年(バンコクのMahidol大学)であり,最初の博士課程が設置されたのはChulalongkorn大学であり,カウンセリング心理学,社会心理学,そして発達心理学の領域であった(2001)。

タイにおいてPsychologistという名称は,心理学を研究する人(心理学者)という意味のほか,臨床心理学の実践者(心理士)という意味をもつが,それもアメリカなどと同じである。近年では,2004年のスマトラ沖地震後の大津波の被害者への対応,HIV(ヒト免疫不全ウィルス)感染者へのケア,などにおいて,医療関係者と協働する機会が多く,その評価も高まっているという。

文献

  • Baker, D. B.(Ed.)(2012)The Oxford handbook of the history of psychology: Global perspectives. Oxford University Press. pp.672.

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