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【特集】

【教育領域】スクールカウンセラーとして 公認心理師に期待すること

石川 健太
専修大学人文科学研究所 特別研究員

石川 健太(いしかわ けんた)

Profile─石川 健太
2015年,専修大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(心理学)。専修大学心理教育相談室相談室員,東京都公立学校スクールカウンセラーなどを兼任。専門は臨床心理学,認知心理学。

本稿では教育現場,特にスクールカウンセラー(以下SC)において,その養成や研修体制に着目し,私の体験を振り返りながら現状と将来について考えていきたい。

私がSCと初めて接点をもったのは大学院生の頃,支援員として中学校に通うようになってからである。当時,私が支援員として通っていた学校は,非行傾向の子どもが目立ち,教職員は生徒間の問題行動への対応や保護者への対応に追われ,学校全体が疲弊しきっているようであった。このような環境のなかで,SCはいったい何ができるのか。当初はそうした想いを抱かずにはいられなかった。しかし,SCのIさんと関わるにつれて,このような思いは徐々に変わっていった。

Iさんは,常に誠実で公平な方だった。非行傾向がある生徒にも真摯な態度で向き合っていく姿は,子どもだけでなく保護者や教職員からも信頼されていた。Iさんは,私を生徒や保護者との面接への陪席,家庭訪問の同行などに誘い,その時の私の考えや振る舞い,あるいは見立てについて,厳しくも優しさに溢れた言葉をかけてくれた。Iさんとは三年間同じ学校で関わり,SCが果たすべき役割やその意味について,沢山のことを教えていただいた。個人やその人を取り巻く人々だけでなく,学校という組織に対する見立てや支援という観点は,Iさんから教わった大切な視点の一つであると感じている。

Iさんのような経験豊富なSCから指導を受けることができたことは,非常に幸運であった。大学や大学院における臨床心理士,公認心理師のカリキュラムでは,SCの実践的な教育を受ける場は少ないように感じる。特にSCの指導の下,学校で実習経験を積むことができる場は非常に限られているのではないか。なぜなら,SCの多くは非常勤として,週に1日,ないし数日のみ勤務しているため,実習生への指導やその責任をSCが負うことは,現実的に難しいからである。全国の公立・私立学校において,多くのSCが活用されているものの,SCの実習経験を積む場は十分に確保されているとはいえないのが現状である。

心理職において,初の国家資格である公認心理師に期待することの一つが,SCの教育や研修制度の充実による専門性の向上,SCへの支援体制の拡大である。前述したように,現状ではSCに関わる教育は十分に整っているとは言えない。児童,生徒が抱える問題や症状など,個々の事例に対する見立てや介入方法などは,カリキュラムのなかで取り上げることはある。その一方で,学校という集団,あるいはコミュニティに対するアプローチについて学ぶ機会は少ないように感じる。こうした方法を学ぶためには,集団をどのように見立て,支援していくかという集団精神療法的な観点を,講義のなかに取り入れていくことも役立つかもしれない。

研修制度については,現任者向けの全国研修会や各都道府県の教育委員会が実施するものがある。これらの研修会では,情報交換や事例検討を通じてSCとしての悩みを共有し,新たな気づきを得ることができる。その一方で,経験を積み,専門的な訓練を受けてきたSCによるスーパーバイズやマネジメント体制は,十分に整備されているとは言えない。公認心理師の職責のなかには,生涯学習,自己研鑽,相互研鑽が明記されている。SCに対する継続的なスーパーバイズなどの体制を整備していくことは,経験の浅いSCだけでなく,経験豊かなSCにとっても,公認心理師としての職責を果たすことに繋がると考える。国家資格となった今,各都道府県の教育委員会や公認心理師の職能団体などが連携し,こうした研修会など,SCの支援体制の充実を図ることも必要なのではないか。

SCへの支援体制を整えることは,SCの精神的健康を支える上でも重要であろう。SCの多くは非常勤であり,その生活基盤は非常に不安定である。このような立場で仕事を続けていくことの苦しさは,多くのSCが感じていることであろう。こうした状況でも,私がSCを続けることができているのは,これまで関わってきたIさんや教職員の方々,研修などで同じ悩みを共有する仲間がいたからこそだと感じる。こうした体験ができたことはある意味で,幸運なことであったとも思う。今後,公認心理師がSCとして活用されるようになっていくであろう。その時,SCとなった人が,こうした体験を当たり前のように経験できる体制が今後,整っていくことを期待している。

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