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心理学ってなんだろう
男女それぞれに向く仕事って?
学校でジェンダーについて学んでいます。私は,差別はいけないことだと思うし,男女はどちらが上,どちらが下ということもなく,平等であるべきだと思います。でも,世の中には,女性に向く仕事と男性に向く仕事があるのではないでしょうか。たとえば,客観的にみても,力仕事は男性のほうが向いていると思うのですが。
A.森永康子
「性差よりも個人差」と言われることがあります。これは,たとえば身長のように,平均値で比べると男女の違い(性差)がみられるけれど,女性の中でも男性の中でも,身長の高い人から低い人までさまざまで,個人の違い(個人差)のほうが大きいということです。力仕事に必要なもの,たとえば筋力や握力も,平均値で比べると性差があるのかもしれませんが,それよりも個人差のほうが大きいのではないでしょうか。
ところで,「男女それぞれに向く仕事がある」の話ですが,いったいだれが「向いている」と判断するのでしょうか。同じような業績や成果をあげても,その人の性別によって評価が異なり,多くの場合,男性に対する評価のほうが高いことが報告されています(Heilman, 1995)。
これは,評価する人たちの「男性のほうが能力がある」という考えが影響するためと考えられます。このように,私たちが他者について判断するときには,私たち自身のもっている考えが判断に対して大きな影響を与えます。しかし,多くの人はそのことに気づいていないようです。もしかしたら,「客観的にみて…」と思うこと自体が,かなりゆがんでいるということなのかもしれません。
さて,「力仕事は男性に向く」という話ですが,確かに,私が引越しをしたとき,「うわあ,重い」と思った荷物を,運送会社の男性は軽々と運んでいきました。でも,その男性は20代前半というところでした。どうやら,「力仕事は男であればだれでもいい」というわけではないようです。
そして,注意してほしいのは,「力仕事は男性に向く」というのが,たとえその通りであっても,すべての男性が力仕事をしているわけでもないし,世の中にある力仕事のすべてを男性が担っているわけでもないということです。力があまり必要ないと思われる大学教員に男性が多く,力の必要な仕事が多い看護職や保育職に女性が多いのはなぜでしょうか。実は,男性の占める割合の高い職業には,社会的評価や収入が比較的高いものが多いのです。それを合わせて考えると,「男女それぞれに向く仕事がある」というのは,もしかしたら,今の社会状況を納得させる言い訳のひとつにすぎないのかも…。さて,あなたは,どう考えますか。
文献
Heilman, M. E. 1995 Sex stereotypes and their effects in the workplace: What we know and what we donユt know. Journal of Social Behavior and Personality, 10, 3-26.
もりなが やすこ
神戸女学院大学人間科学部教授。
専門は,ジェンダー心理学。
主な著書は,『女らしさ・男らしさ』(北大路書房)など。
心理学ワールド第27号掲載
(2004年10月15日刊行)