日本心理学会について
日本心理学会は,心理学の進歩普及を図ることを目的として1927年(昭和2年)4月7日に創立された,全国規模の心理学の総合学会では最も歴史のある学会です。基礎領域から応用領域まで広い専門領域にわたった会員を擁し,一貫して日本の心理学の発展に貢献してきました。任意団体でしたが1994年(平成6年)9月20日には,文部省から社団法人認可を受けました。2011年(平成23年)4月1日からは,内閣府の認定を受け,公益社団法人となりました。2019年3月末現在の会員数は,7,882名となっています。
公益社団法人日本心理学会の事業としては創立当時から学術研究大会の開催,「心理学研究」の刊行,会員名簿の刊行を行っています。現在では,英文機関誌の「Japanese Psychological Research」の刊行,心理学の啓蒙・情報誌の「心理学ワールド」の刊行,認定心理士の資格認定,研究及び調査の実施,その他公開講演会,公開シンポジウムの開催,認定心理士研修会の開催等の事業を行っています。また,刊行誌掲載の優秀な論文に対する表彰制度,国際的な優れた業績を挙げた研究者などに対する表彰制度もあります。
国際交流としては,1951年の第13回国際心理学会議の際に国際心理科学連合(International Union of Psychological Science)に加盟が認められました。1972年には,第20回国際心理学会議を東京で開催し,1990年には第22回国際応用心理学会議を京都で開催しました。いずれも大成功であり,国際心理科学連合の理事にも選出されています。また,2016年には第31回国際心理学会議(ICP2016)を横浜で開催しました(会場:横浜パシフィコ,会期:2016年7月24日―29日)。
国内の心理学関連の学会とは日本心理学諸学会連合を通じ,心理学の教育カリキュラムの問題,資格間題等の情報交換を行っています。
前期の3月29日の臨時理事会によって理事長を拝命しましたが,その後の選挙,並びに6月24日の総会・理事会の審議に基づき,引き続き理事長を拝命いたしました。改めてのご挨拶が遅れましたが,どうぞよろしくお願い申し上げます。
今回の代議員選挙では,初のweb投票が行われました。これにより,前回選挙と比べて,投票率が5%程度上昇したこと,並びに,女性代議員比率が6%増えたことは,喜ばしいことです。会員の女性比率が49%だということを踏まえると,まだ十分とは言えませんが,2017年の選挙では18%,2019年度23%,2021年度29%,今回2023年度35%と,少しずつ増えてきていますので,適正化の道筋が整いつつあるといえるのではないでしょうか。なお,常務理事は過半数が女性となりました(7名中4名)。
また,2020年度大会から2年続いたweb大会を,2022年度は,webを交えながらも,じかに会うことを重視した大会運営へとシフトさせ,2023年神戸大会は,この対面シフトをさらに進めました。コロナの状況が好転したのを受けて,欧米・オセアニア・アジアの各国から心理学会の重鎮をお招きし,国際シンポジウムを開催いたしました。
但し,コロナで図らずも浮かび上がってきたwebのよさもありますので,webも併用しました。例えば,2022年度から,海外の先生の英語講演に,日本語字幕を付けてオンデマンドで配信させていただいています。より幅広い方にご覧いただけたものと思います。
以上にお示ししたことは,ジェンダーの多様性,地域(国)の多様性,交流方法の多様性など,いずれも「多様性」をキーワードとしているように思います。多様性の確保は,それ自体が目的というよりも,それを通じた「独り勝ち/独り負け」の排除,あるいは内集団に引きこもりの殻を破ること,情報入手/発信のバリエーション拡大など,様々な意義があると感じています。
2年の任期の間は,日本心理学会の活動を支えるための「公共財」になった覚悟で務めさせていただきますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。
2023年9月19日
公益社団法人日本心理学会
理事長 阿部 恒之
(東北大学大学院 文学研究科 教授)
<前文>
公益社団法人日本心理学会会員は,すべての人間の基本的人権を認め,これを侵さず,人間の自由と幸福追求の営みを尊重し,また,人間以外の動物についても,その福祉と保護に留意し,心理学の専門的職業人としての自らの行為に対する責任を持たなければならない。もし,心理学の専門職としての行為やその結果が倫理的判断を必要とする場合は,本"倫理綱領及び行動規範" 及び別に定める"倫理規程"注1の定めるところに従うこととし,以上の主旨に基づき以下の条項を定める。
本学会の会員は,専門的職業人として,自ら心理学の研究・教育・実践活動が個人や社会に対して影響を及ぼしうることを自覚しなければならない。また,その活動は人間の幸福と福祉の向上をめざすものでなければならない。そのような社会貢献を行うため,本学会会員は常に品位の醸成と自己研鑽につとめ,資質と知識及び技能の向上を図らねばならない。そのためには,最新の専門的知識と技能の獲得,さまざまな関連情報の入手,倫理思想や国内外の関係法令の学習,さらに積極的に後進への教育,一般社会への啓発などに努力すべきものとする。
本学会の会員は,一市民として各種法令を遵守するにとどまらず,専門的職業人として所属する機関・団体等の諸規定に従い,研究及び実践活動の協力者注2の属する集団の規範や習慣・文化・価値観も尊重すべきである。また,個人の尊厳や動物の福祉を軽視してはならない。共同で研究・教育・実践活動を行う同僚や学生,活動に関係する他者に対して不当に権利や利益を侵害しないように配慮しなければならない。また,同僚・学生・関係者の人権や福祉に配慮すべきである。とくに,動物を用いた研究・教育・実践活動に関しては,関係する各種法令に従い,適切な飼養・保管につとめ,虐待防止と動物福祉の向上を心がけるべきである。また,野生動物を対象とするときは,自然保護に留意し,地域住民や生態系への影響を考慮しなければならない。
本学会の会員は,心理学にかかわる活動を行うとき,協力者に対してその活動について十分な説明を行い,原則として文書注3で同意を得なければならない。協力者から研究内容について十分な理解と了解(インフォームド・コンセント)が得ることが困難な場合には,協力者の代理人(近親者等)の判断と同意を得なければならない。また,協力者は,活動の途中であっても,協力(参加)の中断あるいは放棄が自由に可能であることを事前に説明しなければならない。
本学会の会員は,同意なく個人のプライバシーを侵す研究・教育・実践活動は行ってはならない。また,協力者等に心理的・身体的危害を加えてはならない。協力者等に対して権威的立場にある場合,それを私的利益のために用いてはならない。また,研究・教育・実践活動から得られた情報については,他者に漏らさないよう厳重に保管・管理しなければならないと同時に,原則として目的以外に使用してはならない。
本学会会員は,研究・教育・実践活動で得られた情報の公表に際して,あらかじめ協力者等の同意を得なければならないと同時に,了解なしに協力者が特定されることがないよう配慮しなければならない。また共同研究の場合には,公表に際して,共同研究者の同意を得るとともに,その権利と責任に十分配慮しなければならない。
- 注1:公益社団法人日本心理学会倫理規程(平成21年8月26日に施行された社団法人日本心理学会倫理規程を,平成23年4月1日の公益法人化に伴い,公益社団法人日本心理学会倫理規程と改正した。)
- 注2:participant(参加者,関係者あるいは協力者)のことで,従来はsubject(被験者)と称していたが,前文の主旨に従って,ここでは「協力者」と呼ぶことにする。
- 注3:質問紙法による集団調査法,郵送法などによる研究,事前に研究内容を具体的に説明することで研究自体が成立しない研究などの場合も想定して,原則として文書による同意を得るよう工夫・努力することを求めて,ここではこのようにする。なお,事前に説明できない場合は,事後の説明を行い,了承を得るものとする。
- 1 本倫理綱領及び行動規範は,平成23年4月1日より施行する。
- 2 本倫理綱領及び行動規範の改正は,平成24年12月7日より施行する。