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もしも「距離を保つ」ことを求められたなら:あなた自身の安全のために
(Keeping Your Distance to Stay Safe)


この記事は,アメリカ心理学会(American Psychological Association: APA)公式Webサイトに掲載された記事 "Keeping Your Distance to Stay Safe" を,アメリカ心理学会の許諾を得て,日本心理学会広報委員会が日本語に翻訳したものであり,翻訳の質や正確さの責任は日本心理学会広報委員会にあります。アメリカ市民向けの具体的な情報提供の部分は,適宜日本向けのものに差し替えています。なお,この記事をAPAの許諾なく複製・再配布することを禁止します。ご紹介くださる際は,必ずこのページを引用して下さい。


This material originally appeared in English as [American Psychological Association (n.d.). Keeping Your Distance to Stay Safe. https://www.apa.org/practice/programs/dmhi/research-information/social-distancing]. Copyright 2020 by the American Psychological Association. Translated and Adapted with permission. The American Psychological Association is not responsible for the quality or accuracy of this translation. This translation cannot be reprinted or distributed further without prior written permission from the APA.



もしも「距離を保つ」ことを求められたなら:あなた自身の安全のために

新型コロナウイルス感染者が日々増加する現在,あなた自身が「他者と距離を取る」必要が出てくる場合があります。その時に,必要な社会的支援を受けつつ,より良い形で「距離を取る」ために役立つ考え方を,心理学から提案します。


Keeping Your Distance to Stay Safe

世界中の政府が,新型コロナウイルス感染者,または感染者と接触した人々に,感染の拡大を遅らせるために,社会的距離の確保(social distancing)検疫,あるいは隔離措置の実施を求めています。

社会的距離の確保とは,他者と接触する際に安全な距離(約1.8メートル)をとり,学校,教会,コンサートホール,公共交通機関など人が集まる場所を避けることです。

訳者注)安全な距離について,WHOは1メートル(3フィート)としています(参考)


検疫には,新型コロナウイルスにさらされた人が感染しているかどうかを確認するために,他者との接触を避けることを含みます。

隔離とは,新型コロナウイルスに感染した人を他者から引き離して,感染させないようにすることです。

資源,刺激,社会的接触が限られた中で,数日から数週間にわたって在宅のまま日々を過ごすことは,メンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があります。検疫や隔離による心理的リスクを低減するにはどうすればよいでしょうか。きちんと統制された介入研究は多くありませんが,こうした困難な状況に対処するための心理学的な最善の方法はわかっています。

ここでは,こうした状況に関する研究の概要と,こうした対策を求められた場合にお勧めの対処法をご紹介します。

訳者注)以下では,必要に応じて,感染防止のために他者と距離を取って生活すること全般を「隔離」と呼んでいます。

何が起きるか

新型コロナウイルスに感染したり,感染者に接触したり,集団感染が広がっている地域であるなどの事情で在宅を求められた人々は,ウイルスの潜伏期間と推定される少なくとも2週間は,通常の生活から切り離される可能性が高いです。

こうした時期によく見られるストレスの原因には,意味のある活動・感覚的な刺激・社会的な関わりなどの低下,働けないことによる経済的負担,普段ならできるストレス対処方略(ジムに行く,宗教的行事に参加するなど)がとれないこと,などがあります。

これまでの心理学研究によると,こうした隔離状況下では,次のようなことが起こります。


恐怖と不安

自分自身や家族が新型コロナウイルスに感染したり,他者に感染を広げたりすることに,不安を感じ,心配になるでしょう。また,食料や身の回りのものが入手できるだろうか,仕事を休むとどうなるだろうか,家族をきちんと世話できるだろうか,と懸念するのも当たり前のことです。よく眠れなくなったり,日々やるべきことをきちんとできなくなる人も出てきます。


抑うつと倦怠

仕事などの,あなたにとって意味のある活動が中断すると,あなたの日常のルーティンが妨害され,悲しみや気分の落ち込みを感じることがあります。家で過ごす時間が長くなると,倦怠や孤独を感じることもあります。


怒り,フラストレーションやイライラ

隔離によって主体性や自由が失われると,人はしばしばフラストレーションを感じます。また,検疫や隔離命令を出した人々に怒りや憤りを感じることもあります。あなたをウイルスにさらすことになった無神経な誰かに対して,怒りや憤りを感じるかもしれません。


スティグマ化

あなたが新型コロナウイルスに感染していたり,感染者と接触したことがあれば,接触感染を恐れる他の人たちから,自分が汚いもののように扱われていると感じるかもしれません。


社会的弱者

特に,もともとメンタルヘルスの問題を抱えている人や,新型コロナウイルスへの対応に関わっている医療従事者は,隔離状況から精神的苦痛を受けやすいでしょう。

特別な食事,医薬品,介護者の支援,その他のサポートを必要とする障がい者も,必要なケアを受けることがより困難になるため,パンデミックの際に心理的な問題に直面するリスクがあります。


どう対処するか

幸いなことに心理学は,こうした困難な状況への対処法も示しています。社会的な距離の確保,検疫,隔離が実施される前に,前もって計画を立てることをお勧めします。もしあなたが隔離されることになったとしたら,どのように時間を過ごすか,誰に心理社会的支援を求めることができるか,自分自身や家族の身体的・精神的健康上のニーズにどのように対処できるか,予め考えておきましょう。


信頼できる情報を獲得しよう

新型コロナウイルスに関する正確で最新の公衆衛生情報を入手することは重要です。しかし、ウイルスに関するメディア報道にあまりにも多く接すると、恐怖感や不安感が増大してしまいます。ニュースやソーシャルメディアに費やす時間と、隔離と無関係な活動とのバランスを取りましょう。例えば読書、音楽鑑賞、新しい言語の学習なども良いでしょう。ウィルスについての情報源としては、信頼できる機関―例えばWHO(世界保健機関)厚生労働省など―が理想的です。


日々のルーティンを作り,それを守ろう

慣れない隔離状況でも,普段のルーティンを維持することは,大人にとっても子供にとっても,生活における秩序・目的意識を維持するのに役立ちます。職場や学校に行くことができないとしても,仕事,運動,学習などの日常的な活動を定期的に行うようにしましょう。必要に応じて健康的な娯楽も取り入れましょう。


他者とのヴァーチャルなつながりを保とう

会って話をする機会は限られてしまいますが,電話,テキストメッセージ,ビデオチャット,ソーシャルメディアなどを使って,あなたを支えてくれる人たちとやりとりすることはできます。悲しみや不安を感じている場合は,こうした方法で自分が経験したことや自分の気持ちについて話し合ってみて下さい。そして,似たような状況にある知り合いにも手を差し伸べましょう。SNSで,同じような隔離状況に置かれた人々同士で話し合い,互いに助け合うためのグループを作るのもよいでしょう。

心の支えとしてペットに頼ることも,「つながり」を保つ方法の1つです。米国疾病予防管理センター(CDC)は,新型コロナウイルスがペット等へ感染する可能性について明らかでないため,感染した場合にはペットとの接触を避けることを推奨しています。ただし,日本の厚生労働省は「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」で,「新型コロナウイルスがペット等動物に感染した事例は見つかっていません。なお,動物を媒介する感染症は他にありますので,普段から動物に接触した後は,手洗いや手指消毒用アルコールで消毒などを行うようにしてください。」としています。


健康的なライフスタイルを維持しよう

十分な睡眠をとり,十分な食事をとり,運動ができるような体調なら,自宅で運動をしましょう。隔離のストレスへの対処方法として,アルコールや薬物を使用するのは避けましょう。必要に応じて,電話やネットによる心理相談も検討しましょう。既に相談している心理カウンセラーがいる場合は,隔離が必要になる前に連絡して,電話やネットでカウンセリングを継続できるかどうかを確認しておきましょう。


ストレスを管理し,前向きでいるために心理的方略を使おう

自分が何を心配しているのかをよく考えましょう。そして,自分の不安と,自分が出来ることについて,現実的になりましょう。過剰に騒ぎ立てず,自分には何ができるかを考え,自分では変えられないことを受け入れましょう。これを実践するための1つの方法は,毎日「感謝の日記」をつけることです。マインドフルネスやリラクゼーションのエクササイズを提供するスマートフォンアプリをダウンロードするのも一案でしょう。たとえば,PTSD Coachは,米国退役軍人局の国立PTSDセンターと米国国防総省のテレヘルス&テクノロジーセンターによって開発された無料アプリケーションです。深い呼吸,ポジティブな想像,筋肉のリラクゼーションのためのエクササイズなど,対処とレジリエンスのリソースが含まれています。

訳者注)上記アプリは英語版のみの提供です。日本語で提供されている同種のスマホアプリはこの記事末尾にあるリストをご覧下さい。

社会的距離の確保や検疫・隔離が,他の人々のためになることを考えると,心理的苦痛も和らぐでしょう。このような措置を取ることで,あなたは新型コロナウイルスを感染させる可能性を減らし,よりリスクの高い人々を保護していることを忘れないでください。

その後に起きること

隔離が終わると,安堵と感謝,あなたにウイルスをうつされるかもしれないと恐れていた人々へのフラストレーションや怒り,さらには個人的な成長や精神性の向上といった,いくつもの入り交じった感情をもつかもしれません。不安を感じることもごく普通にあるでしょう。しかし,睡眠障害が続いたり,日常生活が送れなくなったり,アルコールや薬物の使用が増えたりといった極度のストレス症状が出るようなら,医療機関に相談してください。

ツールと情報源


情報提供者による追加情報

日本語のスマホアプリ

心理学/精神医学の専門家の観点からストレスマネジメントに活用できる日本語のアプリです。科学的なエビデンスについては,各アプリ作成者による情報提供をご確認ください。

協力者

日本語訳

日本心理学会広報委員会

三浦 麻子(大阪大学)・山田 祐樹(九州大学)・平石 界(慶應義塾大学)・蒲池 みゆき(工学院大学)・岡島 義(東京家政大学)

情報提供

竹林 由武(福島県立医科大学)・山本 哲也(徳島大学)・横光 健吾(立命館大学)・宋 龍平(岡山県精神科医療センター/京都大学)