公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

  1. HOME
  2. 学会賞
  3. 2021年度 日本心理学会賞 特設ページ
  4. 学術大会特別優秀発表賞(2020)

表彰

学術大会特別優秀発表賞(2020)

データの一括収集機能を持つ心理学実験用タブレットアプリケーションの開発

発表者:〇徳田 直也,岡本 真彦,小島 篤博#




Speed-accuracy tradeoffにおける社会情報処理の認知過程

発表者:〇黒田 起吏,伊藤 真利子#,大槻 久#,亀田 達也




生活困窮状態にある単身男性高齢者における被援助志向性の特徴

発表者:〇村山 陽,山崎 幸子,長谷部 雅美#,高橋 知也,小林 江里香

※クリックで詳細表示できます。

受賞者のコメント

このたびは、学術大会特別優秀発表賞をいただくことになり、大変光栄に思っております。この場を借りまして、お世話になった先生方、研究活動の中でお世話になったすべての方々に深く御礼申し上げます。

これまで生活困窮状態にある単身男性高齢者は他者に援助を求めること(以下、援助要請)に消極的であることが報告されている一方で、援助を求めることをどのように認識しているのか明らかにされておりませんでした。

そこで本研究では、生活困窮に陥った単身男性高齢者の被援助志向(援助を求めることの意識や認知)の特徴を明らかにするために、都内の養護老人ホームに措置入所した男性高齢者83名を対象にインタビュー調査を行いました。その内、入所前に単身であった29名(生活困窮経験者)を分析対象者としました。

分析の結果、主に2つの援助要請を抑制する志向が認められました。1つ目は、"困難な状況でも自分で解決したい"という男性性役割的な志向(自立型)で、対象者に共通して認められました。2つ目は、幼少期の困窮した生活経験や過去の援助要請の失敗経験から"他者に援助を求めてもどうせ誰も助けてくれない"という志向(諦め型)で、これまでのライフコースと関連することが示されました。その他、少数ではありますが援助要請に肯定的な志向も認められましたが、"社会から孤立した状態"であるため他者に援助を求められない現状であることが示されました。

これらの結果から、単身男性高齢者の援助要請を促すには、より早い時期から社会関係を構築し、それを通して現状把握や将来展望を進める取組が重要であることが分かりました。

今回いただいた賞には、これからもっと研究に向き合っていきなさいという叱咤激励の意味が込められていると思います。その思いに答えられるように、これからも愚直に・真摯に研究に取り組んでまいりたいと思います。

(文責:村山陽)




ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおける民族及び共通内集団アイデンティティが政治的態度と過激化に与える効果

発表者:〇熊谷 智博,Almir Maljevic#




精神疾患の説明モデルの検討: 日本とカナダ間での文化比較

発表者:〇春原 桃佳,佐々木 淳,向後 響#,鈴木 那納実#,山口 沙樹子#,Andrew Ryder#

※クリックで詳細表示できます。

受賞者のコメント

本研究は大阪大学の佐々木淳先生の研究室、カナダのConcordia大学Culture, Health, and Personality Labとの国際共同研究です。文化と心理学について、特に心理プロセスの普遍性を検討する際、世界の心理学研究におけるサンプリングや引用元のデータベースが欧米のWEIRD(Western Educated Industrialized Rich Democratic)文化圏に偏っているという問題があります。日本とヨーロッパ系カナダ人では文化的価値観が異なるため、人々が心について何をノーマルと捉えるのかが異なると仮定し、精神疾患の原因帰属つまり“説明モデル”(Kleinman, 1980)が文化間でどのように異なるのか検討したのが本研究です。研究法の偏りや文化比較研究を念頭におき、質的・量的データの両方を組み合わせた混合法を採用しました。各文化圏特有の現象を帰納的に抽出かつ、比較分析した結果、日本人とヨーロッパ系カナダ人では、精神疾患の種類(うつ病、ひきこもり、統合失調症、広汎性発達障害、アルコール依存症)に応じた医療化(生物医学的説明)、心理化(ストレスやトラウマなどの心理的な説明)、モラル化(社会道徳的規範で説明)といった説明モデルの文化差が見られました。更に日本のサンプルでは社会や環境など外的帰属に相当する特有のカテゴリーが抽出されました。今後は説明モデルの文化差が心理職や患者などにも見られるか、サンプルを広げて検証していく予定です。




東日本大震災が大学生の生活観・人生観に与えた影響(10)――9回にわたる全国定期調査の分析――

発表者:〇木野 和代,大橋 智樹

※クリックで詳細表示できます。

受賞者のコメント

このたびは,2020年度日本心理学会学術大会特別優秀発表賞にご選定いただき,感謝申し上げます。発表者一同,大変光栄に感じております。

本研究は,発表者が千年に一度といわれる東日本大震災を経験して,何気ない日常や周囲のサポートのありがたさを改めて実感したことがきっかけで始めたものです。学生たちの倍以上の人生経験を有する我々でさえも大きな衝撃を受けたわけですから,これからの生き方を模索している大学生にとっては,人生観や将来の展望にも大きな影響をもつ重大事であったのではないかと考えました。また,当時は連日,震災関連の報道がなされたり,電力不足問題が発生するなど,震災の影響は全国規模だったといえます。

そこで,我々は全国の大学生を対象に,地理的距離と心理的距離,さらに震災からの時間経過によって,その価値意識がどのように変化するかを捉えることとしました。また,この調査の継続によって,今後予期せぬ大災害が起った場合には,その出来事の前後の価値意識の変化も捉えることが可能になると考えました。

こうした考えから,2011年7月には予備調査を行い,全国定期調査の準備を始めました。その後,2013年から全国定期調査を開始し,2021年9月現在,熊本地震後やコロナ禍のスポット調査を含めるとこれまでの調査は12回を数えます。今後も継続的に定期調査を実施し,分析結果を報告させていただきます。

なお,今回の発表内容の詳細は,ポスター資料(PDFファイル)でご覧いただけましたら幸いです。




傾きの要約統計情報の知覚における群化の影響

発表者:〇竹林 ひかり,齋木 潤

※クリックで詳細表示できます。

受賞者のコメント

この度は、2020年度日本心理学会学術大会特別優秀発表賞という栄誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。今回の賞を励みにして、研究に一層精進していきたいと思います。
発表内容はPDFをご参照頂ければと思います。




Spatial Orientation Testの得点化方法の改善――フォン・ミーゼス分布による角度データのモデリング――

発表者:〇武藤 拓之

受賞者のコメント

この度は、このような栄えある賞を頂き誠にありがとうございます。本研究は、自分とは異なる視点からの見え方を想像する空間的視点取得能力を測定するための既存のテストについて、方向統計学で用いられる確率分布を利用した得点化法を提案し、回答のバイアスと精度を分離することを試みた非常にニッチな研究です。本研究は過去に別の目的で収集したデータを用いた二次分析研究であり、統計モデリングを主軸に置いているという点で、典型的な心理学研究とは言い難いかと思います。にもかかわらずこのようなポジティブな評価を頂けたことは、再現性問題やパンデミックに触発された近年の研究法の見直しに対する機運の高まりと決して無関係ではないように思いますし、心理学における数理・統計モデリングの可能性を追求し広めていきたいと考えている私にとっては非常に嬉しい限りです。この受賞が私個人にとってだけでなく、今後の心理学研究のさらなる発展にも寄与することを心から祈っております。




側坐核における恋人の神経表象――マルチボクセルパターン解析を用いた検討――

発表者:〇上田 竜平,阿部 修士

受賞者のコメント

この度は私たちの研究発表に特別優秀発表賞を授与していただき、大変光栄に感じています。私は「ヒト社会において普遍的に観察される親密な異性間関係の形成と維持が、どのような認知・神経機構によって支えられているか」という問題に対し、脳機能イメージング手法を用いた心理学的検討を行ってきました。今回の発表では脳活動パターンのデータに機械学習を適用し、分類を行う「マルチボクセルパターン解析」と呼ばれる手法を用いることで、顕在的な価値判断を伴わない場面であっても、脳の報酬系領域である側坐核が「恋人」と、恋人ではないが魅力的な異性を識別可能な形で表象していることを示した知見を報告しました。信号値の強度の比較に基づく従来的な解析では、側坐核におけるこのような情報表現までは明らかにされていませんでした。こうした検討を通し、対人関係を扱う人文科学研究に対して新たな視点を提供することが、自身の役割であると考えています。今回の受賞を励みに、今後も研究を続けて参ります。




恐怖条件づけにおけるABA復元効果のベイジアン統計モデリング

発表者:〇二瓶 正登,北條 大樹,澤 幸祐

※クリックで詳細表示できます。

受賞者のコメント

この度は貴重な賞を頂きありがとうございます。この研究では古典的条件づけにおける消去後に反応の再出現をもたらすABA復元効果の実験データが、従来の連合学習モデルで表現可能かを検証したものです。学習心理学において条件づけに関する多様な現象を扱える数理モデルが多く提案されています。しかしこれまでモデルの妥当性は有意性検定の枠組みで評価されることが多く、数理モデルが持つ利点があまり活かされていないように感じていました。そこでモデルが仮定する数理的な表現が学習に伴う時系列的な反応変化を記述できるか、ベイズ的手法を使用し評価を行ないました。その結果、検証した2つのモデル共に多くの参加者のデータの傾向をかなりの精度で表現できることが明らかになりました。この結果は連合学習モデルの妥当性をより精密に評価できたと考えています。

発表当時は従来提案されてきたモデルを用いた分析を中心に行っていましたが、それを足掛かりとして現在は自分で構築した新たなモデルを使った分析を行なっています。このような取り組みを行えるようになったのも、この発表を始めとして「数理モデルと触れ合い心を通じ合わせる」という体験を継続できたからだと思っています。もし興味を持たれた方がいれば、ぜひ発表内容のファイルをご覧頂ければと思います。また、今年論文化もされましたので(書誌情報をファイル内に追記しています)、そちらもご覧頂ければ幸いです。




ロボットを活用した批判的思考・メタ認知能力の変化

発表者:〇本間 拓人,高橋 英之#,伴 碧,島谷 二郎#,福島 宏器,守谷 順

※クリックで詳細表示できます。

受賞者のコメント

この度は,日本心理学会第84回大会での発表に対し,学術大会特別優秀発表賞を頂くことができ,大変光栄に存じます。本研究は共同研究者である高橋 英之先生,伴 碧先生,島谷 二郎先生によるロボットの提供やメンテナンス, 福島 宏器先生と守谷 順先生からのサポートなしには実現しなかった研究であり, 共同研究者の皆様には心より感謝申し上げます。

本研究は, ロボットを用いた批判的思考に関する議論課題を行い, 批判的思考やメタ認知能力が向上するかについて検討致しました。実験参加者は「お金があれば幸せになれる」などのテーマに対する賛否や理由についてあらかじめ回答し, 回答した内容をロボットが代弁する形で議論が行われ,実験参加者はロボットの立場とは異なる立場から議論に参加します。議論課題を行うことで, 自分自身の考えについて批判的思考を促すような再考をさせ, 批判的思考に関する能力を向上させることが狙いでした。

本実験を行った結果, ロボットを用いた議論課題によって,他者の意見に対する理解や許容の程度, 自身の決断力が変化し,自身の考えをメタ認知的に把握できるようになる可能性が示唆されました。

今回の受賞を励みに, 今後も「ロボット」と「心理学」という学術領域を跨いだ研究を進めていきたいと思います。ありがとうございました。




メタ認知がリスク志向・回避行動の意思決定プロセスに与える影響

発表者:〇石渡 崇晶,室町 祐輔,上市 秀雄

※クリックで詳細表示できます。

受賞者のコメント

この度は学術大会特別優秀発表賞をいただき、大変光栄です。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、オンラインでの大会を運営いただきありがとうございました。

室町・上市(2014)では、メタ認知と後悔の対処法・適応的行動意図との関連性が示唆されました。しかし、2要因間の関連性ではなく、様々な要因を包括的に取り入れた行動意図の意思決定プロセスを分析することで、より詳細にメタ認知と行動意図との関連性が明らかになると考えられます。そこで本研究では、リスク志向・回避行動意図の意思決定プロセスにおいて、メタ認知が与える影響を分析しました。その結果、メタ認知がリスク志向・回避行動意図の意思決定プロセスに与える影響は、リスクの状況ごとに異なることが示唆されました。詳細な内容については、PDFファイルのスライドを参照いただければと思います。

本発表は、連盟発表者である上市秀雄先生、室町祐輔さんが2014年に発表した内容を発展させたものです。お2人を含む筑波大学認知・社会心理学研究室の皆さまには、日ごろの研究に対して丁寧なご指導や多くの刺激をいただきました。この場を借りて、お礼申し上げます。ありがとうございました。




新人看護師の感情制御における情緒的消耗感とワーキングメモリの関係

発表者:〇則武 良英,小林 亮太,湯澤 正通

※クリックで詳細表示できます。

受賞者のコメント

この度は,2020年度の特別優秀発表賞に選出していただき,大変光栄に存じます。本研究は,広島大学の湯澤 正通先生のご指導と福岡県立大学の小林 亮太先生のご助言をいただきながら,土井 康文先生と横田 玲子先生のご尽力を賜り,実施することができました。

過酷な医療現場で働く看護師は,情緒的消耗感を経験することが多い対人援助職です。特にリスクが高いのは,現場に出たばかりの新人看護師で,早期離職者数は現在も高水準を維持しています。離職を防ぐためには,業務中の不快感情をうまく制御することが重要です。しかし,心理的健康度が低い状態では,感情制御の使用困難が生じることが明らかになっています。そこで我々は「情緒的消耗感を多く経験する看護師では,感情制御の使用が困難になるのではないか」と,仮説を立てて調査を行いました。

その結果,(1) 情緒的消耗感が高い新人看護師は,感情制御の実行が困難になる可能性と,(2) そのときにワーキングメモリが,感情制御の使用の予防因子になる可能性が示されました。このことから,情緒的に消耗した新人看護師であっても,ワーキングメモリの能力を保障することで,感情制御の使用困難を回避できることが考えられます。今後は研究を継続し,社会全体を支える医療従事者の支援に寄与することができるよう精進してまいります。

(本研究は,新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の流行前に実施されました)