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心理学研究 第89巻 第3号(2018年8月)
ページ | 221-228 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 父親・母親の養育スタイルに関する大学生の回想とアイデンティティ形成 |
著者 | 平田 裕美 |
要約 | 本研究は,定位家族に関する大学生の回想より,そのアイデンティティの統合を促し,混乱を防ぐ父親,母親の養育スタイルを見出すことを目的とした。さらに,父親,母親の養育行動がどのような条件時に,より表出されるのかも検討するため,父親,母親の養育における連携との関連も分析した。父親,母親別に,大学生の自己申告による性別間と権威スタイル,権威主義スタイル,許容スタイル,そして放任スタイル間における養育連携,アイデンティティ統合と混乱の差異を明らかにするため,二元配置分散分析を施した。結果,権威スタイルの父親,母親に育てられた大学生は,男女共に,他の養育スタイルの親に育てられた大学生よりも,連携して私を育ててくれていたと回想していた。アイデンティティの統合では,権威スタイルの親が権威主義,放任スタイルの親よりも有意に高く,混乱では,逆に権威主義,放任スタイルの親が権威スタイルの親よりも有意に高かった。青年期のアイデンティティが統合される過程には,子どもへの応答を重視し,適切な基準をもって子どもに成熟の要求をする,すなわち,しつけができる親の養育が不可欠であることが認められた。だが,先行研究と異なり,本稿では,許容的スタイルに関する差異が認められなかった。この点には議論の余地がある。 |
キーワード | アイデンティティ,統合,混乱,養育スタイル,養育連携 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#16071 |
ページ | 229-239 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 精神的健康における適応的諦観の意義と機能 |
著者 | 菅沼 慎一郎・中野 美奈・下山 晴彦 |
要約 | 近年,マインドフルネスやアクセプタンスの観点から精神的健康に対する諦観の適応的機能に注目が集まっている。本研究では,ストレスへのモニタリング志向と適応的諦観を測定する尺度を開発し,ストレスへのモニタリング志向と精神的健康の関連について,適応的な諦観の役割を踏まえ検討を行ったものである。20歳―49歳の会社員600名(平均年齢35.37歳(SD=7.66))を対象に,質問紙調査を実施した。その結果,尺度については一定の妥当性と信頼性が確認された。媒介分析を用いた分析の結果,ストレスへのモニタリング志向は適応的諦観を介して精神的健康と関連していた。本研究の結果からは,ストレスのモニタリング志向は精神的健康に対して正負の機能の2面性を有していること,適応的諦観がネガティブな関連を弱め,ポジティブな関連を強めるという適応上重要な役割を果たしていることが示唆された。認知行動療法の観点から適応的諦観の意義と産業領域でのストレス教育への応用可能性について論じた。 |
キーワード | 諦観,諦める,精神的健康,認知行動療法,ストレス |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#16075 |
ページ | 240-250 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 高校初年次生と大学生の説明文理解に及ぼす標識化効果の境界条件 |
著者 | 山本 博樹・織田 涼・島田 英昭 |
要約 | 本研究では,高校初年次生でも大学生でも,説明文理解に及ぼす標識化効果は構造方略の産出欠如の状態に限り発現するという仮説を導出し,検証した。参加者は高校初年次生 (平均16.0歳) が120人と,大学生 (平均20.8歳) が120人であった。どちらの参加者にも,構造方略の使用傾向を評定させ,年齢ごとに中央値(高校初年次生で23点,大学生で25点)で下位群と上位群を構成した。参加者に,標識化の有無が異なる説明文からなる文配列課題と再生課題ならびに再構成課題を遂行させた。その結果,a) 標識化が高校初年次生の上位群では体制化過程を通じて構造同定を促し,これを活用して説明文理解を高めたが,下位群では効果がなかった。b) 大学生の下位群では高校初年次生の上位群と同様に効果が生じたが,上位群では生じなかった。以上の結果から本研究の仮説は支持され,構造方略の産出欠如の観点から標識化効果の境界条件が検討された。 |
キーワード | 標識化効果,説明文理解,構造方略,高校初年次生,境界条件 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#17015 |
ページ | 251-261 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 潜在ランク理論によるHRQOL(健康関連QOL)の解釈可能性の検討 |
著者 | 白神 敬介・川野 健治 |
要約 | HRQOL(健康関連Quality of life)は心理臨床のみならず医療・保健・福祉領域等における援助活動に利用されている有用なツールであるが,個人レベルでの適用が課題となっている。本研究では,こうしたHRQOLの課題をクリアするため,代表的なHRQOL尺度であるSF-36を取り上げ,個人への心理的援助活動を行ううえで有用な知見を導くことを目的として潜在ランク理論による検討を行った。分析は住民健康調査で得られた2,952名のデータをもとに行った。分析1では,潜在ランク理論の実施可能性を検討した。分析2では,潜在ランク理論の分析結果を援助者にとって実用的なものとするための解釈的分析を行った。分析1より,潜在ランク理論がSF-36の情報を適切に縮約できたことが示された。分析2より,潜在ランク理論の分析結果は,HRQOLの状態に基づく対象者の分類,介入対象者の選定や介入手段の検討に有用であることが示された。本研究により地域や臨床場面においてHRQOLをより有効に活用するための方法が示された。 |
キーワード | 潜在ランク理論,健康関連QOL,SF-36,アセスメント |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#16212 |
ページ | 262-269 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 日本語版屈辱感尺度(HI-J)の開発 |
著者 | 沼田 真美・Hartling, Linda M.・松井 豊 |
要約 | 本研究の目的は,屈辱感の経験と懸念に関する尺度であるHumiliation Inventory(HI)を邦訳した日本語版屈辱感尺度(HI-J)を開発し,妥当性と信頼性を検討することであった。研究1では,原版と同様の2下位尺度(累積屈辱感,屈辱感の懸念)が得られた。各下位尺度の信頼性を検討するため,α係数を算出したところ,いずれも十分な値が得られた(順にα=.86,.87)。次に,各下位尺度の妥当性を検討するため,関連の予測される変数との相関係数を算出したところ,各下位尺度ともに敵意,状態屈辱感,状態羞恥感,状態罪悪感との有意な正の関連がみられ,概ね仮説に沿った結果が得られた。研究2では,各下位尺度ともに十分な再検査信頼性が確認された(順にrs=.68,.70)。これらの結果を踏まえ,HI-Jは,屈辱感の経験と懸念の測定に関して,原版と同様に,信頼性と妥当性を備えた尺度であることが示された。 |
キーワード | 屈辱感尺度,累積屈辱感,屈辱感の懸念,恥,自己意識的感情 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#16232 |
ページ | 270-280 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 食品等に対する意図的な異物混入事件の類型化 |
著者 | 大上 渉・内山 朋美 |
要約 | 本研究の目的は,食品等に対する意図的な異物混入事件の犯行特徴や犯人特徴を明らかにすることである。1981年から2016年までの間に日本において発生した,犯人が逮捕された食品等に対する意図的な異物混入事件121件がクロス集計分析及び多重対応分析により類型化された。その結果,5類型,すなわち「針類」型,「金属片等」型,「薬品・向精神薬」型,「殺虫剤・農薬」型,「洗剤」型に分類されることが示された。犯行特徴や犯人特徴は類型によって相違しており,これらの違いは,食品や飲み物への混入物に関連していると考えられる。本研究の結果は,食品に対する意図的異物混入事件の体系化に役立ち,食品防御や異物混入事件の捜査に寄与するであろう。 |
キーワード | 食品,食品等への意図的な異物混入,類型化,食品防御,犯罪者プロファイリング |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#17206 |
ページ | 281-291 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 日本語版ケアギビング・システム尺度の作成と妥当性・信頼性の検討 |
著者 | 大久保 圭介 |
要約 | Caregiving System Scale(Shaver, Mikulincer, & Shemesh-Iron, 2010)はケアギビングの内的作業モデルの個人差を測定するために近年開発された尺度である。本研究の目的はCSSの日本語版を作成し, その妥当性・信頼性を検討することである。そこで, この目的を達成するために, 4つの研究を実施した。研究1(n=600)ではCSSを日本語に翻訳し, 確証的因子分析によって2因子モデルを再現した。研究2(n=315)では, 基準関連妥当性のためにCSS-Jと他変数との相関を検討した。研究3(n=229)では, 妥当性の確認のために, 過去の援助成功・失敗経験が現在ケアギビングシステムの過活性傾向, 不活性傾向に影響を与えていることを示した。研究4(n=31)では, 研究3の参加者の一部に対して調査を行い, CSS-Jの再検査信頼性を示した。これらの4つの研究の結果より, CSS-Jの妥当性と信頼性は確認され, それにより, CSS-Jは援助やアタッチメント理論に関する研究において有用な尺度であると結論づけた。 |
キーワード | ケアギビング, アタッチメント, 内的作業モデル, 妥当性, 信頼性 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#17211 |
ページ | 291-301 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 協同学習における動機づけ調整方略尺度の作成 |
著者 | 梅本 貴豊・田中 健史朗・矢田 尚也 |
要約 | この研究では,協同学習における動機づけ調整方略尺度を作成し,方略と動機づけ要因,エンゲージメントとの関連について検討した。まず,261名の大学生を対象とした自由記述による質問紙調査を行い,動機づけ調整方略尺度の46項目を作成した。次に,284名の大学生を対象とした質問紙調査を行った。因子分析を行った結果,協同学習における5つの動機づけ調整方略が特定された。それらの動機づけ調整方略と自己効力感,内発的価値との偏相関分析の結果から,尺度の構成概念妥当性が確認された。重回帰分析の結果,行動的エンゲージメントに対して,義務感高揚方略,自己効力感,内発的価値が正の関連を示した。感情的エンゲージメントに対しては,積極的交流方略,学習活動構造化方略,内発的価値が正の関連を,義務感高揚方略が負の関連を示した。本研究の結果に基づき,動機づけ調整方略が協同学習に与える影響について議論された。 |
キーワード | 動機づけ調整方略,協同学習,エンゲージメント,自己調整学習 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#17217 |
ページ | 302-308 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | 幼児期から児童期の子どもにおける発話からの感情判断の発達 |
著者 | 池田 慎之介・針生 悦子 |
要約 | 発話において,パラ言語情報と言語内容は同時に異なる感情を表しうる。そのような食い違う発話から話者の感情を推測するとき,大人はパラ言語情報を重視する一方で,子どもは言語内容を重視するとされている。この子どもに見られるような言語内容を重視する傾向は,レキシカルバイアスと呼ばれている。本研究では,日本の年少児から小学3年生を対象として,食い違う発話からの感情判断における発達を検討した。同時に,子どもたちはパラ言語情報から正確に感情が読み取れるようになることで,レキシカルバイアスを乗り越えていくのかどうかも検討した。結果として,学年が上がるごとにパラ言語情報を重視するようになる傾向が見られた。しかし,レキシカルバイアスを乗り越えるためには,パラ言語情報から感情を読み取れるようになるだけでは不十分であることも示唆された。 |
キーワード | 子ども,発話,感情判断,レキシカルバイアス |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#16324 |
ページ | 309-315 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | 地域スポーツに関わる母親のネガティブな体験 |
著者 | 藤後 悦子・三好 真人・井梅 由美子・大橋 恵・川田 裕次郎 |
要約 | 地域スポーツでは,練習の当番や試合の送迎など親の援助が必要となるため,親とチームとの関わりが深い。親は子どものスポーツを通してポジティブな体験とともにネガティブな体験を有しているであろう。本研究では,母親が子の地域スポーツを通してどのようなネガティブな経験を有しているのかを明らかにし,よりよいチーム環境を構築するための条件を質的に検討することを目的とする。そのために,「卒団」まで地域スポーツのチームに所属した子を持つ8名を対象にインタビューを実施した。M-GTAを用いて分析した結果,「子どもの競技活動に関する問題」「コーチに関する問題」「自身の生活と子どもの活動の両立困難」「父親の干渉・期待の問題」「役割や当番関係の問題」「母親同士の関係の問題」の6カテゴリーが抽出された。これらの結果から,親を対象とした教育的な介入の必要性が示され,考察として今後のスポーツ環境への提言を行った。 |
キーワード | M-GTA,地域スポーツ,否定的な体験,人間関係,子育て |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#17302 |
ページ | 316-322 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | 大学生を対象とした「新型うつ」のしろうと理論の検討 |
著者 | 勝谷 紀子・岡 隆・坂本 真士 |
要約 | 本研究では,テキストマイニングを用いて「新型うつ」のしろうと理論を検討した。225名の学生が調査に回答した。調査では,「新型うつ」の特徴と原因について文章を完成させる方法で自由記述を求めた。また,「新型うつ」について知った情報源に関しても回答を求めた。その結果,調査協力者は,「新型うつ」の特徴として,若い人に多いこと,病識の欠如等をあげた。また,「新型うつ」の情報源に関して,調査協力者は主にテレビやインターネットから「新型うつ」の情報を得ていた。 |
キーワード | しろうと理論,「新型うつ」,テキストマイニング |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal89-3#17311 |