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心理学研究 第89巻 第5号(2018年12月)

ページ 449-458
種類 原著論文
タイトル 介護職におけるセルフ・コンパッション,コーピング,バーンアウトの関連
著者 今北 哲平・仲嶺 実甫子・佐藤 寛
要約 セルフ・コンパッションとコーピングがストレス反応の抑制または悪化に重要な役割を果たすことが示唆されている。しかし対人援助職に特有のストレス反応であるバーンアウトに対しては,セルフ・コンパッションとコーピングがどのように関連しているか明らかとなっていない。本研究では介護職員124名,訪問介護員132名におけるセルフ・コンパッション,適応的および不適応的コーピング,バーンアウトの関連を,職務ストレッサ―からバーンアウトへの影響を統制した上で検討した。構造方程式モデリングの結果,介護職員,訪問介護員いずれのモデルにおいてもセルフ・コンパッションとバーンアウトの関係をコーピングが媒介していた。モデルの適合度を表すRMSEAは介護職員のモデルで.056,訪問介護員のモデルで.053と良好な値を示した。最後に,介護職のバーンアウト予防を目的としたストレスマネジメントにセルフ・コンパッションを取り入れることの意義について議論がなされた。
キーワード セルフ・コンパッション,コーピング,バーンアウト,ストレスマネジメント,介護職
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-5#17040
ページ 459-468
種類 原著論文
タイトル 単語を手がかりとした単文産出における知覚的シミュレーション
著者 西口 美穂・楠見 孝
要約 知覚的シンボルシステム理論は言語と知覚の密接な関係性について検討を進めてきた。特に,私たちが文を理解するときに知覚的シミュレーションが生じることが,これまで多くの研究で示されてきた。その一方で,文の産出に関わる先行研究では,参加者は画像,つまり自動的に知覚的処理が促されるような材料を手がかりとして文を産出していたため,文を産出する過程で知覚的シミュレーションが重要な役割を果たしているのかはいまだ明らかではない。そこで本研究では,画像ではなく単語を手がかりとして文を産出させたときに,知覚的シミュレーションが生じるのかを検討した。参加者にはまず3つの単語(例:卵/冷蔵庫/フライパン)を提示し,2つの単語対(例: 卵/冷蔵庫,あるいは卵/フライパン)から単文を産出するように求めた。そして単文産出の後,参加者にはその対象となるアイテムの画像(例: 殻付きの卵,あるいは割れた卵)を提示し,画像として表示された物体が単文産出時に提示された3つの単語の中にあったかを判断するように求めた。その結果,画像判断における反応は参加者が産出した文における形状と画像として表示された対象の形状が一致している方が,一致していないよりも速かった。この結果から,アイテムそのものに対する知覚的シミュレーションが文の産出において重要な働きをしていることが示唆された。
キーワード 言語産出,文産出,知覚的シンボルシステム,心的シミュレーション,知覚表象
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-5#17042
ページ 469-478
種類 原著論文
タイトル 警察の事情聴取における被害児童の供述と関連する要因
著者 宮寺 貴之・渡邉 和美・久原 恵理子・小林 寿一
要約 本研究は,警察の事情聴取における児童の供述の量と質に関連する要因について,事件状況,被害児童の特徴,聴取者の特徴,聴取状況に焦点を当てて探索的に検討した。被害児童の聴取を担当した全国の警察官を対象とした質問紙調査を実施し,犯罪の被害者として事情聴取を受けた児童137事例を収集した。児童の供述に対する警察官の印象についてカテゴリカル主成分分析を実施した結果,供述の量と質,捜査における有用性という児童の供述に関する二側面が得られた。変数選択を伴う重回帰分析を実施した結果,これら二側面と関連する諸変数が明らかとなった。供述の量と質は,事件状況のほか,聴取者の捜査経験,共感性,トレーニングの受講歴と関連した。一方,捜査における有用性は,児童の特徴のほか,聴取者が自身の子供以外の児童と話をする業務外の機会の有無と関連した。聴取のタイミングもまた,児童の供述の二側面と関連することが示唆された。今後の研究に向けて,本研究の限界が議論された。
キーワード 児童の供述,捜査面接,被害児童
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-5#17048
ページ 479-489
種類 原著論文
タイトル ポジティブ感情概念の構造――日本人大学生・大学院生を対象として――
著者 菅原 大地・武藤 世良・杉江 征
要約 本研究は日本人大学生および大学院生を対象として,ポジティブ感情の意味的構造について検討した。100名の調査協力者が,132語のポジティブ感情語を,カードを使って分類した。得られた類似度データについて,階層的クラスター分析を行った。その結果,上位の抽象的なレベルでは,「他者志向的ポジティブ感情」と「自己志向的ポジティブ感情」に大別された。「他者志向的ポジティブ感情」の基本レベルには,「愛情」,「感嘆」,「畏敬/尊敬」が含まれていた。また,「自己志向的ポジティブ感情」には,「和み/喜び」,「意気込み」,「誇り」が含まれていた。さらに基本カテゴリーには,11個の下位カテゴリーが含まれていた。これらの結果から,ポジティブ感情の意味的構造は自己と他者の次元によって大別されること,それぞれの下位概念が異なった特徴をもっていることが示された。
キーワード ポジティブ感情,プロトタイプ・アプローチ,感情語
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-5#17049
ページ 490-499
種類 研究資料
タイトル パッション尺度日本語版の作成および信頼性・妥当性の検討
著者 久保 尊洋・沢宮 容子
要約 パッションは,特定の活動等に対する強い意向と定義される。パッションは,特定の活動等に対して,愛を抱き,価値を見出し,多くの時間やエネルギーを費やし,その活動がアイデンティティの一部に内在化されて生じるという。この定義に基づき,パッションの二元モデル(Vallerand et al., 2003; Vallerand, 2015)によって,適応を示す調和性パッションと不適応を示す強迫性パッションの存在が提唱されている。本研究の目的は,この2つのパッションを測定するためのPassion Scale (Marsh et al., 2013)の日本語版を作成し,信頼性と妥当性を検討することである。研究1では,大学生に対して質問紙調査を行い,パッション尺度日本語版と,フロー,集中,不安,恥,抑うつ,well-being,ポジティブ感情,ネガティブ感情との関連について検討を行った。研究2では,再検査信頼性のための調査を行った。結果,原版と同じ2因子構造と,十分な信頼性・妥当性が示された。以上の結果から,パッション尺度日本語版が実用可能な尺度であると判断した。
キーワード パッション,動機づけ,well-being
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-5#17205
ページ 500-506
種類 研究報告
タイトル 知覚された高校受験勉強の機能――学業成績と抑うつ気分との関連――
著者 西村 多久磨・古村 健太郎・鈴木 雅之
要約 本研究では,高校受験勉強の多様な機能を明らかにし,それらと学業成績および抑うつ気分との関連を検討した。予備調査では,高校受験期の中学3年生93名(男子35名,女子58名)に対して自由記述調査を行い,受験勉強の機能に関する325個の記述を収集した。次に,本調査では高校受験期の中学3年生の311名(男子163名,女子148名)を対象に,受験勉強の機能に関する質問紙調査が行われた。因子分析の結果,知覚された受験勉強の機能として5因子が抽出された。それらは,学習態度の改善機能,競争意識の向上機能,理解状態の診断機能,将来目標の思考機能,時間的制約機能であった。次に重回帰分析を行った結果,理解状態の診断機能と競争意識の向上機能は学業成績と正の関連,将来目標の思考機能は学業成績と負の関連を示すことが明らかにされた。この他に,学習態度の改善機能は抑うつ気分と負の関連,時間的制約機能は抑うつ気分と正の関連がみられた。
キーワード 高校受験,中学生,学業成績,抑うつ気分,重回帰分析
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-5#16350
ページ 507-513
種類 研究報告
タイトル 日本語版感覚ゲート尺度(SGI)の信頼性と妥当性の検討
著者 信吉 真璃奈・金生 由紀子・松田 なつみ・河野 稔明・野中 舞子・藤尾 未由希・下山 晴彦
要約 本研究は,日本語版のSensory Gating Inventory (以下,SGIとする; Hetrick, Erickson, & Smith, 2012) を作成し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とする。SGIは,選択的注意の機能が低下し,雑音など不要な情報を抑制できずに知覚するという感覚情報の中継機能の異常の程度を測定する尺度である。質問紙調査は,515名の大学生・大学院生に実施した。質問紙は,日本語版SGI 35項目,日本語版Highly Sensitive Person Scale (以下,HSPSとする; 船橋, 2011) 27項目,日本語版Cognitive Failures Questionnaire (以下,CFQとする; 山田, 1991) 25項目によって構成された。確認的因子分析の結果,因子モデルの適合性が確認された。信頼性は,Cronbachのα係数の算出により検討し,十分な値を得た。また相関分析により,日本語版SGIは日本語版HSPS,日本語版CFQとそれぞれ中程度の正の相関が確認された。以上のことから,日本語版SGIの信頼性と妥当性が確認され,行動や生理反応を測定する前のスクリーニングとしての有効性が示唆された。
キーワード 感覚ゲート,信頼性,妥当性
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-5#17314
ページ 514-519
種類 研究報告
タイトル 日本人成人におけるレジリエンスと年齢の関連
著者 上野 雄己・平野 真理・小塩 真司
要約 本研究では,日本人成人における年齢とレジリエンスの関連を検討することを目的とした。分析対象は5,143名(男性3,078名,女性2,065名,49.62歳,SD = 10.76,20―69歳)が回答した二次元レジリエンス要因尺度(資質的/獲得的要因)であった。階層的重回帰分析の結果,「性格」と関連が強い獲得的レジリエンス要因では年齢に伴って直線的な上昇傾向が認められた。一方で,「気質」と関連が強い資質的レジリエンス要因についても年齢と伴に上昇する傾向が見られたが,年齢の2乗項も有意であり,曲線的な上昇傾向も示された。以上のことから,本邦においても国外先行研究における知見と同様にレジリエンスは年齢と伴に上昇するが,資質的・獲得的レジリエンス要因によってその上昇の様相がやや異なる可能性が示唆された。
キーワード レジリエンス,年齢,大規模横断調査,日本人成人
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-5#17323
ページ 520-526
種類 研究報告
タイトル 医療従事者が「新型うつ」事例に対して抱くイメージの実態把握
著者 樫原 潤・亀山 晶子・山川 樹・村中 昌紀・松浦 隆信・坂本 真士
要約 うつ病には多様なサブタイプ(下位分類)が存在すると考えられており,近年の日本では,うつ病の典型から外れる症状を伴う「新型うつ」というサブタイプが提唱されている。本研究は,「新型うつ」に対して適切な治療を展開するための議論に貢献するべく,医療従事者が「新型うつ」事例に対して抱くイメージを検討した。調査回答者は,総合病院に勤務する看護師86名と介護士60名であった。回答者は,真面目な性格を特徴とする従来型うつ病と「新型うつ」に関する架空の事例を描写した2種類の文章(ビネット)を読み,それぞれの事例に対してどのようなイメージを抱いたか,リッカート式の質問項目群に基づいて回答した。対応のあるt検定を実施した結果,「新型うつ」ビネットに関する以下のような認知的バイアスの存在が確認された。 (a) 「うつ病と診断される可能性」,「重症度」,「心理療法の有効性」がそれぞれ低く見積もられる。 (b) 「援助行動の意図」が弱まり,「拒絶的感情」が強まる。 (c) 発症の原因が内的統制可能要因に帰属されやすくなる。考察においては,医療従事者が抱くこれらの認知的バイアスが,「新型うつ」の医療の質に悪影響を及ぼす可能性があるという点を中心に議論を行った。
キーワード うつ病,「新型うつ」,医療従事者,社会的認知,ビネット研究
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-5#17334
ページ 527-532
種類 研究報告
タイトル 視覚的注意の時空間的維持による変化検出の促進
著者 中島 亮一・横澤 一彦
要約 視覚的注意の時空間的維持が変化検出に及ぼす影響を調べるために,Nakashima & Yokosawa (2018)は,変化前後のブランク時間と変化前後のオブジェクトの位置を操作した,単独オブジェクトの変化検出実験を行った。この研究では,短いブランク時間中にのみ視覚的注意が局所領域に集中し,維持された注意は変化生起の検出のみを促進することが示された。本研究では,この主張のさらなる検討を行った。視覚的注意が,焦点を当てた領域から自発的に解放されるのではなく,観察者が長いブランク時間中に戦略的に注意を動かした可能性を調べるために,オブジェクトの位置条件をブロック間で操作した(同位置条件ブロックでは、ブランク時間によらず注意を移動させる必要がない)。また,先行研究では,変化あり試行の数が変化なし試行よりも多かったが,それが変化生起の検出に特化した効果をもたらした可能性を検討するために,変化あり試行と変化なし試行の数を等しくした。この実験でも,変化あり試行でのみ,同位置条件における変化検出成績は短ブランク条件で高かった。したがって,視覚的注意が確かに,ある局所領域に短時間のみ維持され,変化生起の検出を促進すると主張できる。
キーワード 注意の時空間的維持,変化検出,注意の構え,反応バイアス,変化の見落とし
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal89-5#17334