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心理学研究 第90巻 第1号(2019年4月)

ページ 1-10
種類 原著論文
タイトル 課題への取り組みの持続性に及ぼす諦め行動と介入のタイミングの影響
著者 市村 賢士郎・楠見 孝
要約 本研究の目的は,学習者の課題への取り組みの持続性を低下させる原因とその対策を検討することであった。実験1では,48名の参加者を2つの群に割り当て,解決不可能なアナグラムによって参加者の諦め行動の回数を実験操作した (実験群・統制群)。その結果,諦め行動の回数を増やした実験群において,課題に対する持続性と自己効力感が低下することが示された。実験2では,72名の参加者を3つの群に割り当て,解決方略を教示する介入を行うタイミングを実験操作した (課題前介入群・途中介入群・統制群)。その結果,途中介入群において,実験1で示された課題に対する持続性や自己効力感の低下を防ぐ効果が確認された。以上の結果から,第1に,学習者の自発的な諦めが課題の取り組みの持続性を低下させる一因となること,第2にその対策として,自己効力感を高める介入を行うタイミングの重要性が示唆された。
キーワード 課題への取り組みの持続性,諦め,介入,自己効力感
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#17037
ページ 11-20
種類 原著論文
タイトル 児童・思春期の親子関係と外在化型問題行動の関連に対する親友関係の調整効果
著者 酒井 厚・江川 伊織・菅原 ますみ・松本 聡子・相澤 仁
要約 本研究では,児童・思春期の子どもの良好な親子関係が,直接的あるいは自尊感情を媒介して間接的に外在化型問題行動を抑制するように関わる効果について,親友との葛藤関係がどのように調整するか,またその調整効果が子どもの年齢により異なるかを検討した。小学校高学年生および中学生926名に,親に抱く信頼感,自尊感情,特定の親友との葛藤関係,および外在化型問題行動からなる質問紙調査を実施した。媒介分析の結果,親に抱く信頼感の高さが自尊感情の高さを媒介して,外在化型問題行動を抑制する有意なパスが見られた。しかし,親友との葛藤関係と年齢を調整要因として投入した調整媒介分析からは,親友との葛藤関係が高い場合には,親に抱く信頼感から外在化型問題行動への直接的および自尊感情を介した間接的な抑制効果が低減されることが示された。これらの結果について,親友との葛藤関係と子どもによる自我脅威の知覚の観点から論じた。
キーワード 児童・思春期,親子関係,親友,自尊感情,外在化型問題行動
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#17053
ページ 21-31
種類 原著論文
タイトル 絵画鑑賞はどのように表現への触発を促進するのか?
著者 石黒 千晶・岡田 猛
要約 芸術鑑賞することで鑑賞者自身も何らかの表現や行動が動機づけられることがある。このような現象は触発と呼ばれ,芸術学習を促進する重要な要素と考えられている。本研究の目的は,芸術を専門としない人が絵画鑑賞をしたとき,美術活動経験や表現への自己評価といった特性要因は鑑賞過程を媒介して触発を促進するという仮説1,および,鑑賞する作品タイプによっても鑑賞による表現の触発が影響を受けるという仮説2を検討することであった。仮説モデルを検証するため,20代から60代の男女400名を対象にインターネット調査を実施し,古典・抽象絵画4枚を鑑賞するアンケート調査を行った。その結果をもとに構造方程式モデリング分析をした結果,仮説モデルは概ね支持された。美術活動経験や表現への自己評価は鑑賞過程を媒介して触発に影響することがわかった。ただし,美術活動経験は触発に対して有意な直接効果は見られなかった。また,鑑賞する作品タイプが古典絵画のときに表現の触発が促進されることがわかった。
キーワード 触発(インスピレーション),美術,鑑賞,表現
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#17056
ページ 32-41
種類 研究資料
タイトル 日本語版ソーシャル・エモーショナル・ヘルス・サーベイの作成
著者 飯田 順子・伊藤 亜矢子・青山 郁子・杉本 希映・遠藤 寛子・ファーロング,マイケル J.
要約 本研究の目的は,子どもの複数の肯定的要素を包括的にとらえる尺度であるソーシャル・エモーショナル・ヘルス・サーベイの日本語版(SEHS-J)を作成し,信頼性・妥当性を検討することであった。研究1では,4つの高校に通う高校生3,044名を対象に質問紙調査を実施した。確認的因子分析を実施した結果,12の測定指標と,それらから構成される4領域(自己信頼,他者信頼,感情コンピテンス,生活の充実),さらにそれらを束ねるメタ概念“Covitality”という理論的モデルが支持された。また,SEHS-Jの合成得点が高い方が,学校への親和性が高く,生活満足度が高く,心理的ディストレスが低いことが示され,本尺度が一定の妥当性を有することが示された。研究2では,別の高校に通う106名を対象に質問紙調査を実施し,SEHS-Jの再テスト信頼性と日本の既存の尺度との併存的妥当性を検討した。その結果,Covitality合成得点,4領域及び12の下位領域ともに,一定の継次的安定性を示した。また,妥当性についても一部の下位領域を除いて,想定された関係が日本の既存の尺度との間に示され,一定の妥当性を有していることが示された。
キーワード ソーシャル・エモーショナル・ヘルス・サーベイ,尺度作成,高校生,学校心理学
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#17222
ページ 42-52
種類 研究資料
タイトル 大学生のうつ病に対する認知およびファーストエイド方略
著者 河合 輝久
要約 本研究では,大学生のうつ病に対する認知およびファーストエイド方略の実態と両者の関連性を検討した。大学生1,500名を対象にうつ病罹患者が描かれた想定場面を提示し,その人物に対する状態や実際のファーストエイド方略あるいはその意図を尋ねた。その結果,調査協力者の26.14%しかうつ病を正しく認知できていなかった。また,実際に実行あるいは意図されていたファーストエイド方略の多くが傾聴に関する方略であった一方,専門家の利用勧奨に関するファーストエイド方略を実行あるいは意図していた者は少なかった。総じて自分自身の心身の健康を尊重しながら推奨されているファーストエイド方略を網羅的に実行しようとする者は少なかった。さらに,「判断,批判せずに友人の話を聴く」,「友人自身でできる対処法を勧める」という方略を除き,うつ病を認知できる者ほど,推奨されているファーストエイド方略を実行しようと意図していた一方,推奨されていないファーストエイド方略を実行しようと意図としていなかった。以上から,日本人大学生のうつ病に対する認知とファーストエイド方略は改善の余地があることが示唆された。
キーワード ファーストエイド方略,症状認知,うつ病,友人,大学生
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#17235
ページ 53-62
種類 研究資料
タイトル 比喩研究のための直喩刺激-解釈セット作成および妥当性の検討
著者 岡 隆之介・大島 裕明・楠見 孝
要約 本研究の目的は,比喩研究のための直喩表現の刺激-解釈セットを作成しその妥当性を評価することである。私たちは3つの課題を行った。解釈生成課題では,中本・楠見 (2004)で収集された120個の直喩表現に対して,50名の大学生参加者が最大3つまで解釈を生成した。喩辞の慣習性評価課題では,24名の大学生参加者が,解釈生成課題で産出された最も典型的な解釈をもとに,喩辞の慣習性を評価した。隠喩に対する選好性課題では,24名の参加者が隠喩表現の好ましさを評価した。実験の結果,先行研究で報告された主題と喩辞の類似性の評定値は解釈数と正の相関関係を示した。加えて,重回帰分析の結果,喩辞の慣習性,主題と喩辞の類似性,そしてエントロピーがそれぞれ隠喩の選好性の評定値を正に予測した。これらの結果は先行研究から予測される結果を頑健に追試し,本研究で得られた刺激-解釈セットの妥当性を確認した。本研究で収集された直喩表現の解釈が将来の比喩研究において有効であることを議論した。
キーワード 隠喩,直喩,解釈,主題と喩辞の類似性,隠喩に対する選好性
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#17236
ページ 63-71
種類 研究資料
タイトル メンタルヘルスケアに関する行動特徴とそれに対応する受療促進コンテンツ開発の試み
著者 平井 啓・谷向 仁・中村 菜々子・山村 麻予・佐々木 淳・足立 浩祥
要約 メンタルヘルスの問題を抱えた者が適切な専門機関を早期に受療するなどの,メンタルヘルスケアの利用適正化のためのコミュニケーション方法の作成が求められる。本研究では,メンタルヘルスケアに関する受療行動の特徴について,特に早期受療者と遅延受療者の違いを記述的に明らかにし,結果に基づいてソーシャルマーケティング・アプローチによりWebサイトやリーフレット等で使用するメッセージ等の基盤となるコアコンテンツを開発することを目的とした。適格基準を満たすメンタルヘルスケアを初めて利用した者を対象としたメンタルヘルスケア・リテラシーに関するインターネット調査を行い819名の回答を解析した。その結果,メンタルヘルスケア受療行動の特徴として,未治療期間(DUI)の分布とDUIが6ヵ月未満(早期受療者)と6ヵ月以上(遅延受療者)で主観的改善感と現在のメンタルヘルス状態に違いがあること,受療前の症状・問題,受療に至る理由などの記述的特徴が明らかとなった。また,早期受療者と遅延受療者では,受療前に疲労感の増加と行動力の低下などの症状,受療前の問題が性格の弱さのためであり,そのため治らないと思っているかどうか等のリテラシーにおいて違いがあることが明らかとなった。これらの結果を用いたソーシャルマーケティングのフレームワークを用いた形成的調査によって,遅延受領者の特徴(WHO)・伝えるべきメッセージやコンテンツの内容(WHAT)・メッセージとコンテンツの伝え方・提示の仕方(HOW)からなるコアコンテンツが作成された。
キーワード メンタルヘルス,メンタルヘルスケア,ストレスメンタルヘルスリテラシー,DUI
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#17239
ページ 72-79
種類 研究資料
タイトル 心理学実験実習のメニューはどう決まるか――シラバスに基づく分析――
著者 井関 龍太
要約 心理学実験実習は心理学の課程において一般的な教育手法である。この実習のメニューは大学生のスキルやその後の心理学についての理解に影響すると考えられるが,どのようなテーマがメニューに含められやすいのかについての系統的な研究は見られない。本研究では,日本の大学における心理学実験実習のシラバスを収集し,実習に採用されるテーマの類似性構造を分析した。その結果,テーマを採用する際の方針について4つのクラスターが見出された。古典的な定番のテーマを好むもの,より新しく柔軟に扱えるテーマを好むもの,臨床的な必要性を重視するもの,研究法の大枠にしたがおうとするものであった。それぞれのテーマの関係性について,類似度空間によって解釈を行った。認知要求がテーマ選択の決定因のひとつであることが示唆された。
キーワード 心理学実験実習,シラバス,類似性,カリキュラム,テキストマイニング
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#18202
ページ 80-86
種類 研究報告
タイトル 特性自尊心と自己評価への脅威が親友に対する評価に及ぼす影響
著者 下田 俊介・大久保 暢俊
要約 先行研究では,特性自尊心の低い人が自己評価への脅威を経験した場合,恋愛パートナーに対する評価を高めることで,間接的に自己高揚を行うことが示されている。本研究では,こうした間接的な自己高揚が親密な友人に対する評価を通じても示されるかどうかを検討した。大学生201名を対象に,最初に特性自尊心を測定した後,想起法を用いて自己評価への脅威を操作した。その後,親密な友人と知人の特性に対する評価を求めた。その結果,特性自尊心の低い実験参加者は,自己評価への脅威を経験しなかった場合と比べ,脅威を経験した場合に,親密な友人,知人にかかわらず他者の特性を全般的に高く評価した。一方,特性自尊心の高い実験参加者は,自己評価への脅威を経験しなかった場合と比べ,脅威を経験した場合に,親密な友人の特性のみを低く評価した。この結果は,特性自尊心の高い実験参加者が,自己評価への脅威を経験した際に,親密な友人の評価を低めることで,間接的な自己高揚を行ったことを示している。今後は,親密な友人と恋愛パートナーとの関係性の違いや,自己高揚の仕方の文化差の観点から詳細な検討を行う必要がある。
キーワード 自尊心,自己評価への脅威,親友,自己高揚
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#17309
ページ 87-92
種類 研究報告
タイトル 野球チームのファンの内集団協力に関する場面想定法実験
著者 中川 裕美・横田 晋大・中西 大輔
要約 本研究の目的は,現実に実在する集団を対象として社会的アイデンティティ理論(Social Identity Theory: SIT)と閉ざされた一般互酬仮説(Bounded Generalized Reciprocity Hypothesis: BGR)の記述する心理過程それぞれの働きにより内集団協力が生じるかを検討することである。これまでSITとBGRは,対立理論としてそれぞれの妥当性が検証されてきたが,近年では両理論は相互背反ではなく,それぞれの理論の心理過程が独立して働き内集団協力を引き起こすという主張がなされている (中川・横田・中西,2015; Stroebe, Lodewijkx, & Spears, 2005; 横田・結城,2009)。中川他 (2015)は両理論の心理過程が独立して働くとの立場から,野球チームのファンを対象とした場面想定法実験にて内集団協力を検討した。その結果,両理論の心理過程それぞれの働きにより内集団協力が生じた。本研究では中川他(2015)の結果を踏まえ,協力行動のコストを強調した追試を行うため,一般人の野球チームのファン1,635名を対象にコストを明示したシナリオで場面想定法実験を行った。コストを明示した状況では,BGRの心理過程が相対的にSITよりも強く働き内集団協力が生じた。
キーワード 内集団協力,社会的アイデンティティ理論,閉ざされた一般互酬仮説,実在する集団
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#17335
ページ 93-99
種類 研究報告
タイトル 加齢ステレオタイプへの行動的同化における認知的フュージョンの調整効果
著者 橋本 光平・武藤 崇
要約 本研究の目的は,加齢ステレオタイプへの行動的同化(Behavioral assimilation to age stereotype: BAAS)の効果を調整する操作可能な変数を同定することである。文脈的行動科学の視点からは,自己に関する言語的内容との認知的フュージョンの傾向が強い個人は,加齢ステレオタイプの影響をより強く受けることが予想される。高齢者100人は,2つの条件に割り当てられた。2つの条件とは,加齢ステレオタイプ条件と中性的情報条件(統制条件)であった。「自己に関する言語的内容との認知的フュージョン」,「全般的認知的フュージョン」,「マインドフルネス」,「視点取り」,「アクティブかつ柔軟な環境への働きかけ」における個人差が,それぞれ調整変数として検討された。結果は,「自己に関する言語的内容との認知的フュージョン」がBAASの効果を有意に調整することを示した。すなわち,自己に関する言語的内容との認知的フュージョンの傾向が強い個人において加齢ステレオタイプの影響をより強く受けることが示された。一方で,その他の4つの変数においては有意な調整効果は見られなかった。本研究で得られた知見は,自己に関する言語的内容との認知的フュージョンを変容することでBAASの効果を緩和する可能性を示唆する。
キーワード 認知的フュージョン,加齢,ステレオタイプ,自己
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal90-1#17337